裁量労働制でも残業代は支給する? 支払いが必要なケースや計算方法を解説

裁量労働制でも残業代は支給する? 支払いが必要なケースや計算方法を解説

裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ定めた労働時間で給与を計算する制度です。「裁量労働制は残業代を支給しなくてよい」と勘違いされがちですが、じつは残業代を支給すべきケースもあります。

裁量労働制においては「残業代を支給しなくてよい」と勘違いされることがありますが、じつは支払いが必要なケースもあります。

本記事では、裁量労働制における残業代の考え方を詳しく解説します。残業代が発生するケースの具体例や発生した場合の計算方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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    裁量労働制の仕組みと種類

    裁量労働制とは、従業員が実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間を労働時間として扱う制度です。たとえば、1日の労働時間を7時間と定めている場合、従業員が実際に働いた時間が6時間でも、労働時間は7時間として扱われます。

    裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類に分けられます。

    裁量労働制の2つの種類

    専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、やり方や時間の使い方などを、労働者自身の裁量に委ねるのが適切とされる職種に適用される制度です。弁護士や税理士などの士業やデザイン関係の仕事を中心に、計20の職業が該当します。

    専門業務型裁量労働制の例
    ・弁護士
    ・公認会計士
    ・税理士
    ・中小企業診断士
    ・建築士
    ・不動産鑑定士
    ・情報処理システムの分析・設計
    ・システムコンサルタント
    ・インテリアコーディネーター
    ・デザイナー
    ・記事の取材・編集
    ・コピーライター
    ・テレビ番組や映画などのプロデューサーやディレクター
    ・ゲームソフトの開発
    ・金融商品の開発
    ・証券アナリスト
    ・新しい商品や技術の研究開発
    ・大学での教授研究
    ・M&Aアドバイザーの業務

    一方、企画業務型裁量労働制とは、本社や支社・支店などの事業場で、事業の運営における重要事項の企画・立案・調査・分析業務などに従事する人に対して適用される制度です。

    企業活動において重要なことを決める役割を担っており、業務の遂行上、やり方を労働者の裁量に任せたほうがよい場合に用いられます。適用された労働者は、労働時間も自分の裁量で決定できます。

    企画業務型裁量労働制は、対象業務に厳しい要件が設けられており、労使委員会の設置や労働基準監督署長への届け出も必要です。

    みなし残業制、フレックスタイム制との違い

    みなし残業制とは、従業員の給与に、あらかじめ定めた残業代を含めて支給する制度です。裁量労働制が労働時間全体に対する制度である一方、みなし残業制は残業時間に対してのみ適用されます。

    また、フレックスタイム制とは、労働者が一定期間、定められた労働時間内における出退勤を、ある程度自由に決められる制度です。

    裁量労働制と似ているように思えますが、労働時間が固定化されるわけではなく、実際の労働時間から給与を計算する点に違いがあります。

    フレックスタイム制は、1か月から3か月の間で設定された清算期間内において、上限を超えた労働時間分については割増賃金を支払わなければなりません。

    裁量労働制における残業代の取り扱い

    裁量労働制では、そのほかの働き方とは異なり、1日単位や一定期間ごとの残業代の計算は行われません。そのため、裁量労働制は「従業員が何時間働いたとしても、みなし労働時間分の給与しか発生しない」と誤解されやすいです。

    しかし、裁量労働制でも、残業代を支給しなければならないケースもあります。

    裁量労働制で残業代が発生する3つのケース

    裁量労働制で残業代が発生するのは、以下の3つのケースです。

    1. みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
    2. 休日出勤がある場合
    3. 深夜労働がある場合

    それぞれのケースにおける残業代の取り扱いについて、以下で詳しく解説します。

    みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

    裁量労働制のみなし労働時間が、法定労働時間を超えた分については、当然ながら残業代を支給しなければなりません。法定労働時間とは、労働基準法に基づく労働時間の上限のことで「1日8時間・週40時間まで」と定められています。

    裁量労働制では、給与計算のもとになる労働時間(みなし労働時間)をあらかじめ定めます。

    みなし労働時間が、法定労働時間を超えて設定されるのであれば、契約の時点で、残業代を含めた給与を計算しなければなりません。たとえば、みなし労働時間が1日9時間の場合は、法定労働時間を超過した1時間分については残業代を含めて計算します。

    休日出勤がある場合

    裁量労働制で働く従業員に対しても、休日出勤には割増賃金が適用されます。休日出勤とは、労働基準法で定められた休日(法定休日)に働くことです。

    労働基準法では、企業は従業員に対して少なくとも「週1日または4週に4日」の休日を与えなければならないと定められており、法定休日における労働には割増賃金が発生します。

    法定休日に曜日に関する規定はなく、どの曜日が法定休日に設定されているかは、会社の就業規則によって異なります。

    深夜労働がある場合

    裁量労働制であっても、深夜労働に対しては割増賃金を支給しなければなりません。

    22時から翌5時までの労働に対しては、割増賃金が適用されます。たとえば、従業員が22時から24時まで働いた場合は、2時間分の割増賃金を上乗せして支給する必要があります。

    【実践】裁量労働制における残業の考え方

    ここからは、裁量労働制において残業代が発生するケースと、発生しないケースの具体例を紹介します。

    残業代が発生するケース

    裁量労働制のみなし労働時間が7時間、週休2日、法定休日を土曜日に設定している企業において、次のように勤務した場合、残業代が発生します。

    月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日土曜日
    6時間7時間7時間6時間7時間4時間

    上記の例では、みなし労働時間は法定労働時間内におさまっています。しかし、土曜日は法定休日に設定されているため、土曜日に働いた4時間分の労働については割増賃金を支給しなければなりません。

    残業代が発生しないケース

    裁量労働制のみなし労働時間が7時間の企業において、次のように働いた場合、残業代は発生しません。

    月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日土曜日
    8時間9時間8時間8時間10時間休み

    いずれの曜日も法定労働時間(1日8時間)をオーバーしていますが、みなし労働時間を7時間に設定しているため、労働時間はすべて7時間として計算します。深夜労働や休日出勤もないため、残業代は発生しません。

    裁量労働制における残業代の計算方法

    従業員に支給する残業代は「1時間あたりの賃金×残業時間×割増率」という式で計算します。割増率は残業の種類(時間外労働や深夜労働など)によって変わるため、それぞれ把握しておきましょう。

    裁量労働制で残業代が発生する4つのケースについて、具体例を交えながら計算方法を解説します。

    ※計算に用いている割増率は、労働基準法によって定められた最低限度の割増率です。実際の割増率は、企業によって異なる場合があります。

    ケース1.みなし労働時間が8時間を超える場合

    労働基準法で定められた労働時間の上限は「1日8時間/週40時間」です。

    裁量労働制において、8時間を超えるみなし労働時間を設定した場合は、超過分について25%以上の割増賃金を上乗せする必要があります。

    たとえば、1時間あたりの賃金が2,500円、みなし労働時間が9時間の場合、残業代の計算方法は以下の通りです。

    2,500円×1時間×1.25=3,125(円)

    このケースでは、8時間分の賃金(2500円×8=20,000円)に残業代を合わせて、23,125円を支給する必要があります。

    ケース2.法定休日に出勤した場合

    法定休日の労働に対しては、35%以上の割増率を適用します。

    たとえば、1時間あたりの賃金が3,000円で、法定休日に6時間働いた場合、残業代の計算方法は以下の通りです。

    3,000円×6時間×1.35=24,300(円)

    ケース3.法定外休日に出勤した場合

    法定外休日とは、法定休日とは別に、企業が独自に設定した休日のことです。土日休みの企業であれば、土日のうちどちらか一方が法定休日、もう一方が法定外休日に設定されている場合が多いでしょう。

    法定外休日の労働については、休日出勤の割増率は適用されません。ただし、平日と法定外休日の労働時間の合計が法定労働時間(週40時間)を超えると、超過した分について25%以上の割増賃金を支給する必要があります。

    たとえば、法定外休日に6時間働いたことで、その週の労働時間が計46時間になった場合を考えてみましょう。

    1時間あたりの賃金を4,000円とすると、残業代の計算方法は以下の通りです。

    4,000円×(46-40)時間×1.25=30,000(円)

    ケース4.労働日に深夜まで働いた場合

    22〜5時の労働に対しては、25%以上の割増率を適用します。

    たとえば、1時間あたりの賃金が2,500円で、従業員が22時~翌1時まで働いた場合、残業代の計算方法は以下の通りです。

    2,500円×3時間×1.25=9,375(円)

    裁量労働制の問題点と解決策

    裁量労働制では、深夜労働や休日出勤がなければ、基本的に残業代は発生しません。

    そのため、労使ともに仕事とプライベートの境が曖昧(あいまい)になりやすく、長時間労働が常態化しやすい傾向があります。残業代に対する意識も低下しやすいため、誤った管理をしてしまうリスクも高いでしょう。

    裁量労働制を導入する場合は、従業員のワークライフバランスや心身の健康に配慮した働き方を目指すことが大切です。まずは制度の仕組みをきちんと理解し、実労働時間とかけ離れることのないよう、みなし労働時間を慎重に設定する必要があります。

    また、勤怠管理システムの導入により、労務管理の方法を見直すことをおすすめします。

    裁量労働制の仕組みを理解し、残業代を正しく計算

    裁量労働制とは、実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ契約したみなし労働時間で給与を計算する制度です。

    ただし、裁量労働制であっても、みなし労働時間が法定労働時間を超過する場合や深夜労働、休日出勤に対しては残業代を支給する必要があります。

    裁量労働制にはいくつかの課題もありますが、適切に導入すれば労使双方にとってメリットのある制度です。まずは仕組みを正しく理解し、従業員の健康に配慮したうえで制度を運用しましょう。

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