有給休暇を取らないとどうなる? 義務化や罰則について徹底解説
有給休暇の取得が義務化されている今、有給休暇を取らないとどうなるのでしょうか。労働基準法では、有給休暇の一部取得が義務化されたことにより、罰則規定も定められています。
企業では、確実な有給休暇の取得促進とともに、適切な管理も求められるようになりました。しかし、有給休暇の取得や義務化について詳しく理解できていないと不安を感じる経営層や有給休暇管理担当者もいるでしょう。
そこで本記事では、有給休暇を取らないとどうなるのかを中心に、義務化や罰則規定、対策についてもご紹介します。とくに企業の経営層や有給休暇の管理担当者はぜひ参考にしてください。
有給休暇の義務化とは
有給休暇の取得について、2019年4月より年5日を取得義務とする法改正が行われました。これにより、年10日以上有給休暇が付与される労働者は、基準日から1年以内に5日を消化する必要があります。
義務化に基づき、年5日の有給休暇の取得ができなかった場合は労働基準法違反とされ、罰則を科せられる可能性があるため、企業は確実に取得させなければなりません。
有給休暇が義務化された背景
有給休暇が義務化された背景には、どのような点が挙げられるのでしょうか。有給休暇の取得率や具体的な背景について、確認してみましょう。
背景
有給消化が義務化された背景には、有給休暇そのものの取得率向上による働きやすさの向上、労働生産性の向上などが挙げられます。
もともと義務化される前にも有給という仕組みはあったものの、長時間労働を是とする風潮などにより、有給休暇を消化しにくいケースも少なくありませんでした。
しかし、近年IT化やデジタル化が進んだことで、業務効率化が進むようになりました。むしろ長時間労働などによって働き過ぎると、労働生産性が低下しかねません。
こうした背景を踏まえ、労働者がより働きやすく心身の健康を保ったうえで、労働生産性の向上を目指すために有給消化が義務化されたといえるでしょう。
取得率
有給休暇の取得率については、有給休暇の義務化に関する法改正の実施前後から、有給取得率が向上しており、義務化によって多くの企業が有給休暇の取得促進を行っているといえそうです。
しかし、エクスペディア社が行った『有給休暇の国際比較調査』のデータでは、日本の有給休暇取得率は60%として、世界的に見ると今なお低い水準にあるため、今後さらなる取得促進を目指す必要があるでしょう。
参照:『年次有給休暇の現状について』厚生労働省
参照:『日本、有給休暇の取得率 世界ワースト 2 位』エクスペディア
有給休暇義務化の対象
有給休暇義務化の対象は、一定の条件を満たしたすべての労働者を対象としており、正社員かアルバイトかなど、雇用形態の区分による違いはありません。
ただし、通常労働者(フルタイム)と短時間勤務の労働者の場合には、付与日数が異なるため注意が必要です。
有給休暇の発生要件と付与日数
有給休暇を付与する条件とタイミングについては以下の通りです。
- 雇い入れから6か月を経過した日(6か月経過日以降は1年ごと)
- 全労働日の8割以上出勤
この条件を踏まえると、仮に雇い入れの日から6か月が経過したとしても、出勤率が8割未満の場合は、有給休暇を付与する必要はありません。
また、最初の有給付与日(基準日)から1年が経過した以降、勤続年数によって付与される有給日数が増えていきます。
勤続年数 | 6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年 6か月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
有休付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
パートやアルバイト労働者も有給休暇義務化の対象になる
有給休暇は、雇用形態にかかわらずアルバイトでもパートタイマーでも対象とされます。ただし、短時間勤務などの場合は、所定労働時間や所定労働日数に応じて付与する日数が異なる「比例付与」とされます。
比例付与とは、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の場合は以下の日数が付与されることです。
そのため、短時間勤務などの場合は有給休暇の付与日数の仕組みが異なるものの、有給休暇の付与日数が10日以上になると、フルタイムの労働者同様に年5日の有給休暇を取得させなければなりません。
週所定労働日数 | 年間労働日数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4日 | 169~ 216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~ 168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~ 120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~ 72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
このように、所定労働時間と勤続年数によって、付与される日数が異なるということです。ただし有給休暇の取得が義務化される対象は、年10日以上付与される労働者に限定されます。
短時間労働者の場合、入社後3年半以上経過していて週4日(または年間169日〜216日)勤務している場合と入社後5年半以上経過していて週3日(または年間121日〜168日)勤務している場合のみが、10日付与されることになる点を理解しておきましょう。
参照:『有給休暇の付与日数は法律で決まっています』厚生労働省
有給休暇を取らないとどうなる?
有給休暇を取らないとどうなるのでしょうか。労働基準法に定められ、義務化されたことで、罰則を受ける可能性もあります。具体的な内容を確認してみましょう。
違反した場合30万円以下の罰金
有給休暇を取得させなかった場合には、労働基準法第39条違反により労働基準法違反として罰金30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
ほかにも、従業員が希望する時季に有給休暇を取得させなかった場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる可能性があるため、注意しなければなりません。
罰則規定 | 違反内容 | 罰則内容 |
---|---|---|
労働基準法120条 | 条件を満たす労働者に年5日の有給休暇を取得させなかった場合 | 30万円以下の罰金 |
労働基準法120条 | 時季指定を行う際、就業規則に記載していない場合 | 30万円以下の罰金 |
労働基準法119条 | 労働者の希望する時季に有給休暇を与えなかった場合 | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
このように有給休暇を取得させないことだけでなく、希望時季に取得させないなどについても罰則規定が設けられているため、理解を深め、徹底した管理を行いましょう。
参照:『労働基準法 第39条、第120条』e-GOV法令検索
参照:『年5日の有給休暇の確実な取得わかりやすい解説』厚生労働省
罰金は従業員1人あたりの違反で計算される
有給休暇を取らなかった場合、違反した労働者1人につき30万円の罰金を科せられる可能性があります。
仮に、企業内で条件を満たしているにもかかわらず、義務化された分の有給休暇を取らなかった従業員が10人いた場合は、300万円を支払わなければなりません。法令違反とならないよう、企業は有給休暇の確実な取得に努めましょう。
有給休暇に関するルール
有給休暇の確実な取得について、厚生労働省では『年5日の有給休暇の確実な取得』の中でルールとして遵守すべき事項を紹介しています。重要であるため、各事項について確認してみましょう。
有給休暇を与えるタイミング
有給休暇は基本的に労働者が希望する時季に取得させることとしています。正当な理由(事業の正常な運営を妨げるような状況)がない限り、有給休暇の取得日を変更してもらうことはできないため注意しましょう。
有給休暇の繰り越し
付与される有給休暇の期限は2年とされています。前年度に付与された有給休暇を取得しなかった場合は翌年度に繰り越せるという点を理解しておきましょう。
不利益取り扱いの禁止
有給休暇の取得について、企業側は労働者に対する不利益な扱いをしてはいけません。賃金の減額や嫌がらせ行為などは、パワーハラスメントに該当する場合があるため注意しましょう。
その他の有給休暇について
有給休暇について、以下のような対応を取ることも可能です。企業は有給休暇の取得促進に向けて工夫しながら取り組みましょう。
計画年休 | 労働者の自由な意思による取得できる5日を除き、それ以外の部分を計画的に付与する(労使協定の締結が必要) |
---|---|
半日単位年休 | 労使間の合意があれば、半日単位で有給休暇を取得できる |
時間単位年休 | 労働者が時間単位での有給休暇取得を希望する場合、年に5日を限度に時間単位で取得できるものの、義務化された部分のカウント対象にはならない(労使協定の締結が必要) |
有給休暇を取らせる方法
有給休暇を取らせる方法にはどのような方法があるのでしょうか。有給休暇の取得促進にはさまざまな方法があります。具体的な方法についてご紹介します。
有給休暇の計画的付与
有給休暇の計画的付与とは、労働者が付与される有給休暇日数の5日を除いた分について、取得する日にちをあらかじめ決める制度です。
計画的付与では、交替制付与や一斉付与、個人別付与などの方式がありますが、あらかじめ対象の労働者が有給休暇取得日を決めることで、取得がスムーズに進むでしょう。
また、有給休暇取得の申し出をしにくいと感じる労働者の場合も、計画的付与の実施により抵抗感を和らげることで、確実な取得を促進できるでしょう。
有給休暇の取得計画表を作成と活用
有給休暇の取得を促進するためには、取得計画表を活用するのも効果的です。取得計画表を社内で共有することで、部署間やメンバーの取得予定を確認でき、スケジュール調整もしやすくなるでしょう。
また、ほかの労働者も有給休暇を取得する予定がわかれば、抵抗感なく有給休暇を取得できるはずです。
有給休暇管理簿の徹底管理
年次有給管理簿とは、労働者の有給休暇の取得状況を正しく把握するための管理簿です。罰則規定は設けられてないものの、管理簿の対象者がいる場合、作成と保管が義務付けられています。
管理簿を作成することで、対象労働者の取得状況の把握や確認に役立つため、有給休暇の取得促進にも効果があるでしょう。
有給休暇管理を徹底するポイント
有給休暇を取らないと、企業として労働基準法違反となり罰則を科せられる可能性があるため、徹底した管理が必要とされています。管理の徹底に努めるために抑えておきたいポイントをご紹介します。
基準日を統一する
有給休暇の付与日は、労働者によって異なるため管理が必要です。しかし、基準日を統一することで管理の煩雑さを解消できます。たとえば、基準日を毎年4月1日で統一するなどが挙げられます。
ただし、基準日を統一する場合は労働者の不利益にならないよう、入社日に一律で10日分の有給休暇を前倒しで付与するなどの対策を行わなければなりません。
とくに新卒採用だけでなく経験者採用などを行うため、それぞれ異なる雇用日の労働者を抱える企業の場合、有給休暇の管理に手間も労力もかかるでしょう。こうした管理の煩雑さを避けるためにも、基準日の統一を行うことで効率化や管理徹底に役立つはずです。
システムを活用する
有給休暇の管理や確実な取得のために、システムを活用するのも効果があるでしょう。
有給休暇の管理は、勤怠管理システムや年次有給管理システムなどを活用することで大幅な効率化が見込めます。入力データから有給休暇管理簿を簡単に作成できたり、有給休暇を取得できていない労働者にアラートを出したりできる機能もあります。
管理の徹底と効率化を進めながら、有給休暇の取得促進にも役立つでしょう。
有給休暇を取得しやすい環境を整えましょう
有給休暇を取らせないと労働基準法違反になってしまう可能性があるため、企業では確実な取得と徹底した管理が求められています。そのために、企業は労働者が有給休暇を取りやすい環境を整えることが大切です。
たとえば計画的付与を導入したり、計画表を作成したりするなど工夫した対策が重要でしょう。また、有給休暇の取得状況を正確に把握したり、すぐに確認したりできるシステムの活用も有給休暇の管理に効果的です。
労使ともに有給休暇に関する理解を深めたうえで、気持ちのよい取得を目指しましょう。
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