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変形労働時間制における残業代はどうする? 扱いや計算方法を紹介

変形労働時間制は、労働時間を適切に配分することで、業務効率の向上につながります。ただし、変形労働時間制の運用には、細かな仕組みや煩雑な残業時間の算出方法を理解しておかなければなりません。

本記事では、変形労働時間制についてわかりやすく解説しながら、残業の扱いや残業時間の計算方法にも注目して紹介します。柔軟な働き方の一つとして、変形労働時間制に興味のある経営層や人事担当者は、ぜひ参考にしてください。

変形労働時間制における残業代はどうする? 扱いや計算方法を紹介
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    変形労働時間制とは

    変形労働時間制とは、業務の繁閑や性質に応じて労働時間を決められる制度です。

    業種によっては繁忙期と閑散期の差が激しい場合があるでしょう。変形労働時間制を取り入れて労働時間を配分することで、最終的に労働時間を短縮させたり不要な残業や人件費を抑えたりする目的があります。

    本来、法定労働時間は「1日8時間、週40時間」とされています。

    変形労働時間制を導入する場合は、一定期間の労働時間が法定労働時間内であれば問題ありません。

    参照:『変形労働時間制』厚生労働省 徳島労働局

    1か月単位の変形労働時間制

    1か月単位で労働時間を配分する変形労働時間制は、1か月以内の一定期間で、週の平均労働時間が40時間に収まるように労働時間を調整する制度です。

    1か月を4週とする場合、法定労働時間の上限は160時間です。

    第1週と第2週が50時間ずつの労働、第3週と第4週は30時間ずつの労働が必要な職場の場合、通常は第1週と第2週それぞれで40時間を超えた10時間ずつが残業扱いです。

    しかし、1か月単位の変形労働時間制では、月換算すれば合計160時間になるため、法定労働時間内に収まると考えます。

    1年単位の変形労働時間制

    1年単位で労働時間を配分する変形労働時間制もあります。この制度では、1か月を超え1年以内の一定期間で、週の平均労働時間が40時間を超えないように労働時間を調整します。

    たとえば、季節ごとに繁忙期と閑散期を繰り返すような場合に適しており、繁忙期は週6日勤務、閑散期は週4日勤務などと配分します。

    通常(うるう年ではない年)、1年の法定労働時間は2085.7時間であるため、この時間内に収まれば問題ありません。ただし、年単位で変形労働時間制を導入する場合は、休日の扱いや労働時間の限度(上限)に注意する必要があります。

    変形労働時間制によって柔軟に労働時間を配分できるからといって、繁忙期は毎日出勤、閑散期はすべて休日とすることはできません。

    以下のように一定のルールが規定されています。

    • 1年あたりの労働日数上限280日(年間休日85日)
    • 1日あたりの労働時間上限10時間
    • 1週間あたりの労働時間上限52時間
    • 対象期間の連続勤務の限度は6日
    • 特定期間の連続勤務は最大12日

    参照:『1年単位の変形労働時間制導入の手引』厚生労働省

    1週間単位の非定型的変形労働時間制

    1週間単位で労働時間を調整する変形労働時間制の場合、1週間の労働時間が40時間を超えないようにすれば、1日の所定労働時間を最大10時間にできます。

    1週間単位の非定型的労働時間制は、事業規模が従業員30人未満の小売業や旅館業など一部業種にのみ認められています。

    変形労働時間制以外の多様な働き方

    変形労働時間制は多様な働き方の一つですが、労働時間を調整できる制度はほかにもあります。

    フレックスタイム制

    フレックスタイム制は、労使協定で定められた時間の中で、始業時間と終業時間を従業員が決められる制度です。自由な働き方の一つとして、導入する企業も少なくありません。

    裁量労働制

    裁量労働制とは、時間配分や業務のやり方を従業員が決められる制度です。裁量が従業員に与えられ、みなし労働が適用されるため、自由度の高い働き方ができます。

    変形労働時間制の導入基準

    変形労働時間制における残業代はどうする? 扱いや計算方法を紹介

    変形労働時間制を導入するにはどうすればよいのでしょうか。1か月単位と1年単位では導入のしやすさも異なります。具体的な条件や基準について確認してみましょう。

    1か月単位の変形労働時間制

    1か月単位の変形労働時間制は比較的導入しやすく、1か月単位の労働時間が法定労働時間内に収まるように所定労働時間を設定します。労働基準監督署長への届け出は必須ではありませんが、就業規則には明記しなければなりません。

    また、就業規則には、変形労働時間制を導入する期間中の始業時間と終業時間、期間の開始日を明記する必要があります。

    1年単位の変形労働時間制

    1年単位の変形労働時間制の導入には、1年の労働時間が法定労働時間内に収まるように所定労働時間を定めたうえで、労使協定を締結し、さらに労働基準監督署長へ提出しなければなりません。

    また、就業規則への明記も行う必要があります。

    変形労働時間制における残業時間の計算

    変形労働時間制における残業時間の計算は、日ごと・週ごと・対象期間ごとで時間外労働時間を算出し、合算する必要があります。

    たとえば、1か月単位変形労働時間制(暦日数28日)で平日5日間勤務した場合を例に計算してみましょう。

    1.日ごとの残業時間

    まずは変形労働時間制で設定している所定労働時間を超えた分のうち、1日8時間を超えた時間のみを1日ごとの時間外労働と数えます。

    所定労働時間881077
    実労働時間8101078
    時間外労働時間02000

    この例では、日ごとの時間外労働は2時間です。

    2.週ごとの残業時間

    次に週ごとの残業時間を計算します。

    変形労働時間制における週ごとの残業時間について、所定労働時間が週40時間以上の場合と週40時間以下の場合の例を紹介します。

    週の所定労働時間が合計40時間以上の場合は、合計所定労働時間を超えた合計実労働時間が時間外労働に該当します。

    合計
    所定労働時間88107740
    実労働時間810107843
    時間外労働時間020001(3−2=1)

    ただし、最後に「日ごとの時間外労働」の時間数を引いて、最終的な週ごとの時間外労働の時間数を算出します。この例では、日ごとの時間外労働が2時間であるため、週ごとの時間外労働から2時間を差し引きます。

    変形労働時間制による週の所定労働時間が合計40時間以下の場合は、実労働時間のうち、所定労働時間である40時間を超える部分のみが、週ごとの時間外労働となります。

    ただし、最後に「日ごとの時間外労働」の時間数を差し引いて、最終的な週ごとの時間外労働時間を算出します。

    3.変形期間ごとの残業時間

    次に変形期間(1か月ごと)の残業時間を以下の計算式で算出します。

    暦日数÷7×40時間

    実労働時間について、所定労働時間および法定労働時間を超えた分を時間外労働として算出します。そのあと、すでに算出している日ごと・週ごとの時間外労働時間を差し引きます。

    1週目2週目3週目4週目合計
    所定労働時間40404040160
    実労働時間43434343172
    時間外労働時間日ごと2時間
    週ごと1時間
    日ごと2時間
    週ごと1時間
    日ごと2時間
    週ごと1時間
    日ごと2時間
    週ごと1時間
    12−8−4
    =0

    暦日数が28日であるこの例では、期間における労働時間の総枠は160時間です。実労働時間が172時間であるため、変形期間の時間外労働は12時間と計算できます。

    そして、すでに算出した日ごと・週ごとの時間外労働の分を差し引きます。最終的な変形期間ごとの時間外労働時間は0時間となります。

    4.残業時間の合計を算出

    それぞれの残業時間を算出したら、日ごと・週ごと・期間ごとの時間外労働をすべて合算します。

    この例では、日ごとが8時間、週ごとが4時間、期間ごとが0時間です。「8+4+0=12」より、合算した12時間分の残業代の支払いが必要ということになります。

    5.残業代の計算

    変形期間で残業が発生した場合、4で算出した法定外残業時間をもとに残業代を計算します。

    (日ごと・週ごとの合計残業時間+変形期間の残業時間)×1時間あたりの基礎賃金×1.25

    この例では12時間の残業が発生しているため、以下の計算式で算出します。仮に1時間あたりの基礎賃金は1,000円とします。

    (12+0)×1000×1.25=15,000円

    変形労働時間制における残業時間のポイント

    変形労働時間制では、残業時間の計算が複雑なため、ポイントを理解したうえで正しく算出しなければなりません。変形労働時間制における残業時間の注意点について紹介します。

    • 変形労働時間制は労使協定や就業規則に定める
    • 労働時間を残業で相殺や繰り越しはできない
    • 残業時間の上限規制がある
    • 所定労働時間は明確に規定する

    変形労働時間制は労使協定や就業規則に定める

    変形労働時間制を導入するためには、労使協定の締結・届け出や就業規則へ明記しなければなりません。特に就業規則については、不明点が出てきたらすぐに確認できるように、わかりやすく記載しましょう。

    労働時間を残業で相殺や繰り越しはできない

    変形労働時間制では、定めた所定労働時間に対して実労働時間が足りていない日があったとしても、相殺や繰り越しはできません。仮に1週目は残業が2時間、2週目は実労働時間が1時間不足しても、1週目の残業時間を2週目の実労働時間に充てられません。

    残業時間の上限規制がある

    変形労働時間制も残業時間の上限規制が適用されます。そのため、長時間労働が連続している場合は残業時間の多さに注意し、上限を超えないようにしなければなりません。

    所定労働時間は明確に規定する

    変形労働時間制では長時間労働や連勤もめずらしくありません。所定労働時間について明確に記載されていないと、残業代の未払いにつながる可能性があります。

    変形労働時間における残業代の計算は、就業規則に明記されたルールをもとに行います。

    変形労働時間制を導入する企業は、所定労働時間を就業規則にわかりやすく記載し、不正やごまかしなどを未然に防ぎましょう。

    まとめ

    変形労働時間制とは、一定期間において労働時間を自由に配分できる制度です。

    最終的に法定労働時間内に収まれば労働時間を効率よく配分できるため、無駄な残業時間の抑制や全体的な労働時間の縮小にもつながります。

    ただし、変形労働時間制は細かい条件があったり、残業時間の計算が煩雑になったりする側面もあるため、よく理解したうえで導入しなければなりません。

    繁忙期や閑散期の差が大きく、労働時間のバランスを調整したいという企業は、本記事を参考に導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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