キャリアデザインとは? 意味がない? 必要な理由や企業にできる施策例、設計方法を紹介
キャリアデザインとは、仕事内容や働き方の理想を実現するために、自分の職業人生を設計することです。
本記事では、キャリアデザインの概要や必要とされる背景、企業として知っておきたい支援施策について解説します。人材育成や事業の成長において課題を抱える経営層や人事担当者は、お役立てください。
キャリアデザインとは?
キャリアデザインとは、将来なりたい姿や理想の働き方を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計することです。
個人のキャリアは、家族や余暇などプライベートと切り離せないため、単に仕事や職業選択にとどまらず、人生設計そのものを意味する場合もあります。
具体的には、自分と職業、そして労働市場に関する理解を深めたうえで目標を設定し、行動計画を立てます。一度行ったら終わりではなく、必要なタイミングで見直し、調整が必要です。
キャリアデザインによって、理想に到達するまでの行動が明確になり、計画的に実現を目指せるでしょう。本人の意欲の向上や成長にもつながります。
キャリアプランやキャリアパス、キャリア形成との違い
キャリアデザインと似た言葉に、キャリアプランやキャリアパス、キャリア形成があります。それぞれの意味と違いは以下の通りです。
言葉 | 意味 |
---|---|
キャリアデザイン | 将来なりたい姿や働き方などを自分自身で主体的に設計すること(仕事・プライベートも含める) |
キャリアプラン | 自分が最終的にどうなりたいかを考えて作成した、人生全体の職歴や働き方に関する計画(プライベートは含まない) |
キャリアパス | 特定の企業において目標達成するために必要なステップ |
キャリア形成 | 仕事の目標達成に必要な資格やスキルを習得するための行動 |
キャリアデザインは、ほかの用語より広い視点に立ち「設計すること」に重きを置いた概念です。
キャリアプランは、キャリアデザインに基づく目標設定や行動計画であり、プライベートは考慮されません。
キャリアパスは、キャリアデザインに沿った昇進などのステップ、キャリア形成は、実際にキャリアを構築していくことを指します。
キャリアデザインは意味がない? 必要とされる理由
キャリアデザインが必要とされる3つの理由を解説します。
社会環境が変化しているから
キャリアデザインが必要とされている理由の一つに、社会情勢や社会構造の変化が挙げられます。将来の見通しを予測しにくいVUCAの時代に突入したことに加え、コロナウイルスの感染拡大や少子高齢化など状況は目まぐるしく変化を続けています。
変化する社会環境において、従来の常識が通用しなくなっているからこそ、個人にキャリアデザインが必要とされているのです。
企業のあり方が変化しているから
社会情勢が変化したことで、企業のあり方にも大きく変化が生じています。年功序列や終身雇用が崩壊し、転職する従業員が増え、成果主義への転換が迫られるようになりました。
これまでのような新卒一括採用だけでなく、即戦力を求める中途採用が一般化し、どの業界においても人材の流動性が高まっています。貴重な人材を確保するためにも、キャリアデザインの支援を通して、従業員のモチベーションやエンゲージメント向上に力を入れる必要があるのです。
従業員の価値観や働き方が変化しているから
終身雇用制度の衰退によって転職や独立が当たり前になり、さらにワークライフバランスの重要性が認識されたことで、従業員の価値観や働き方も大きく変化しています。
企業に依存せずに自分のなりたい姿を体現し、主体的にキャリアについて考えて行動を起こすために、キャリアデザインが必要とされているのです。
キャリアデザインにおける4ステップ
キャリアデザインの具体的な手順を4つのステップに分けて解説します。
1.自分の過去を振り返る
キャリアデザインの第一ステップとして、自分を理解するために、現在持っているスキルや資格、経験を整理しましょう。得意なことだけでなく、苦手なことも一緒に洗い出すのがポイントです。
適性検査や性格診断を活用したり、第三者の意見を聞いたりしながら、多角的な視点でこれまでの経験を振り返ってみてください。働くうえで大切にしていることや価値観が明らかになり、イメージを構築しやすくなります。
2.自分の理想像を想像してみる
キャリアデザインの第二ステップとして、将来やってみたいことや実現したいことを想像してください。仕事や理想とする働き方をはじめ、家族構成やプライベート時間の過ごし方など、自分の人生に関することを書き出してみましょう。
理想像が思いつかない場合は、次の4点について考えてみるのがおすすめです。
- やりたいこと/興味のあること
- したくないこと
- 過去に興味があったこと
- 現在抱えている悩み
やりたいことが具体的に思いつかない場合は、したくないことから逆算して考えてみるとよいでしょう。
3.現在と理想の自分を比較する
キャリアデザインの第三ステップとして、理想とする姿を思い描いたうえで、現状の自分の状況と照らし合わせます。そうすることで、理想と現実のギャップや足りないものを整理できるはずです。
自分の理想を実現するために必要なスキルや資格、経験などを洗い出せると、不足しているものへの対応策について考えられるでしょう。
4.目標を段階的に設定する
理想の自分になるための最終的な目標を設定したら、少しずつ理想へ近づくために、小さな目標を段階的に設定します。いきなり大きな目標を設定すると計画倒れや、放棄につながる恐れがあります。着実に達成できる目標設定がポイントです。
キャリアデザインの第四ステップは、漠然とやることを書き出すのではなく、「いつまでに資格を取る」など目標達成までの期限を設定しましょう。
企業がキャリアデザインを支援するメリット
変化が激しい時代に重要なキャリアデザインを、なぜ企業が支援する必要があるのでしょうか。個人のキャリアデザインを支援すると企業側にも得られるメリットがあります。
従業員のモチベーションが向上する
キャリアデザインを行っている従業員は、日々の業務に対しても主体的に行動し、モチベーションが高い傾向にあります。やるべきことが明確で、自分が目指す働き方ができていると実感できるためです。他人から強制されるのではなく、主体的に動くことで、モチベーションが高い状態を維持できます。
従業員が意欲的に働けて生産性が向上し、業績への好影響が期待できるのはメリットです。
早期離職を防止できる
企業が個別のキャリアデザインを支援すると、従業員の帰属意識が高まり、離職防止につながります。
定期面談やコーチングなどにより、従業員は自身の強みや目指す方向性、そのために何が必要かを理解します。そのため、企業が自分を尊重してくれていると感じられ、現在の業務に対する意味を見つけるきっかけをつくれるでしょう。
このような企業のサポートで、今の会社で経験を積みたいと思ってもらえると、定着率の維持が期待できます。
企業がキャリアデザインを支援するデメリット
企業がキャリアデザインを支援するデメリットは、次の2つです。
転職のきっかけになる恐れがある
企業がキャリアデザインを支援すると、従業員が力をつけると、待遇のよい仕事やハイレベルな仕事を求めて転職してしまうリスクが高まります。また、自社では「やりたい仕事や理想をかなえる経験ができない」と気づいた場合も、転職のきっかけになるでしょう。
昇進や昇給が目的になる恐れがある
間違ったキャリアデザイン支援は、目的をはき違えたキャリア形成を助長してしまいます。
キャリアデザインは、個人が達成したい目標や理想像を描くものです。企業側が理想的な人材イメージを示して、方向性を押しつけてしまってはなりません。そうすると昇進や昇給だけを追求する従業員があらわれてしまうでしょう。
キャリアデザイン支援に役立つ施策5選
従業員のキャリアデザイン支援に役立つ具体的な施策を5つ紹介します。
- キャリア面談
- キャリアデザイン研修
- キャリアコンサルタントの活用
- 目標管理制度
- 人事制度の充実
キャリア面談
キャリア面談を通して従業員の抱えている悩みや課題を引き出し、キャリアデザインをサポートします。現状と理想とのギャップを把握することで、目標達成までの道筋がつけやすくなるでしょう。
企業と従業員のコミュニケーション強化にも有効な手段といえます。
キャリアデザイン研修
研修や勉強会などの集団研修を充実させるのもよいでしょう。外部の講師に委託して、キャリアデザイン設計の研修を行うのが一般的です。
集団研修を設ける最大のメリットは、意見交換ができる点です。ほかのメンバーから気づきを得て視野が広がったり、理解を深めたりすることが期待できます。
若手社員向けや管理職向けなど、各階層に合わせた研修を実施すると、より具体的な知識やノウハウを習得できるでしょう。
キャリアコンサルタントの活用
キャリアコンサルタントを活用すると、より専門性の高いアドバイスを得られます。仕事に関する悩みや今後のキャリアプランについて気軽に相談できるように、企業内にキャリア相談室を設置するのもおすすめです。
目標管理制度(MBO)
目標管理制度(MBO)とは、従業員が設定した目標の進捗状況や達成度合いによって人事評価を決めるマネジメント方法です。
従業員が自分のキャリアデザインに基づいた目標を設定し、それが評価に反映すると理解できると、やる気や意欲が高まるでしょう。
人事制度の充実
従業員が社内で活躍できる機会を設けることも、企業がキャリアデザインを支援するうえで重要なポイントです。
キャリアデザインを支援につながる人事制度 |
---|
・異動自己申告制度 ・社内FA制度 ・社内公募制度 ・社内インターンシップ制度 ・ジョブリターン制度 |
従業員が掲げるキャリアデザインによって、希望する部署が変わるケースも考えられます。選択制の人事制度を設けると、従業員はみずから掲げた計画に沿った働き方を実現しやすくなるでしょう。
キャリアデザイン支援の企業事例
キャリアデザイン支援に取り組む企業の事例を2つ紹介します。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループは、厚生労働省が実施する『キャリア支援企業表彰2014』に選出された企業の一つです。
株式会社みずほフィナンシャルグループでは、以下の3つのステップを通して、企業と従業員の双方が納得できるキャリア形成に取り組んでいます。
- 社員の挑戦を支える
- 社員の貢献が報われる
- 社員が働きやすさを感じる
世代別キャリア研修の実施やグループ内外における兼業公募、自分磨き休職など独自の施策を取り入れて、キャリアデザインをサポートしています。
参照:『自分らしいキャリアの実現』株式会社みずほフィナンシャルグループ
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社では、従業員のレベルアップに注力するためのキャリアデザインに取り組んでいます。
今後のキャリアや能力開発のために自己観察面談を設けたり、定期的にセカンドライフを見据えたキャリアガイダンス研修を開催したりと、幅広い年齢層の従業員を対象にサポートしています。
キャリアデザインで企業力と人材力を高めましょう
キャリアデザインとは、企業内の昇進や昇給だけにとどまらず、より広い視野で働き方や人生について考えることを意味します。企業は、従業員のキャリアデザインをサポートすることを通して人材力を高められるでしょう。
従業員の成長を促し、生産性や競争力を強化するためにも、本記事の内容を参考にしながらキャリアデザイン支援を実践してください。