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助成金を不正受給したらどんな罰則がある? 罪名や罰金、逮捕後の流れについて解説

新型コロナウイルス感染拡大の影響を鑑み、政府は事業者救済のためのさまざまな助成金制度を整備しました。助成金は適切に支給されるべきですが、なかには不正受給に当たるケースもあります。本記事では、助成金の不正受給に対する罰則や、誤って不正受給をしてしまった場合の対応について解説します。

※本記事は一般的なイメージや認識を考慮して、助成金という表現を用いて補助金の不正受給についても言及する箇所があります。厳密には助成金と補助金は共通点も多いですが、異なる制度であることをご留意ください。
※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

助成金を不正受給したらどんな罰則がある? 罪名や罰金、逮捕後の流れについて解説
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    助成金の不正受給とはどういう行為か

    不正受給とは、虚偽の申告を行い、本来は対象外である助成金の給付を受けることです。たとえ受給の申請が通らなくとも、不正な書類で申請行為を行った場合は不正受給とみなされます。新型コロナウイルスに関連する助成金は、ステイホームによる売上減少に苦しむ事業者を救うため、可能な限り迅速に給付される必要がありました。しかし、政府がスピード感を重視した結果、厳しい審査が行われないことを利用した不正受給が続発してしまったのです。

    助成金の不正受給と罰則の状況

    厚生労働省の集計によると、雇用調整助成金の不正受給額は、2022年9月末までに合計135億円に達しています。

    参考:『雇調金、不正受給135億円=9月末、厚労省集計』時事通信社

    しかし、実際の不正受給額は、さらに多いと考えられています。また、なかには不正受給に関与した高校生ら16名が検挙された事案や、税理士ら関係者30名が検挙された事案も存在します。

    参考:『高校生ら少年16人勧誘、男2人が「給付金」詐取指南…手数料6割取る』読売新聞オンライン
    参考:『給付金不正受給の手口は 国税OBの元税理士を追送検』朝日新聞デジタル

    助成金の不正受給と罰則の事例

    新型コロナウイルス関連の助成金には、「持続化給付金」と「雇用調整助成金」の2種類があります。

    持続化給付金新型コロナウイルス感染拡大により大きな影響を受けている事業者に対し、
    事業全般に広く使える給付金を支給する制度
    雇用調整助成金新型コロナウイルス感染拡大にともなう雇用調整(休業)を実施する事業主に対し、
    休業手当などの一部を助成する制度

    持続化給付金の不正受給の事例

    本来、持続化給付金を受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。

    持続化給付金の主な要件

    • 新型コロナウイルス感染症の影響により、ひと月の売り上げが昨年より50%以上減少している事業者
    • 2019年以前より事業による売り上げを得ているかつ、この先も事業を継続する意思がある事業者
    • 法人の場合「資本金または出資の総額が10億円未満」または「常時使用する従業員が2,000人以下」

    参考:『持続化給付金』国土交通省

    持続化給付金においては、売上の減少率や事業実態について虚偽の申請を行い、給付金を不正に受給しようとするケースが多く見られました。

    持続化給付金の不正受給の例

    • ひと月の売り上げを過少に申請することで、50%以上の減収があったかのように見せかける
    • 事業継続の意思がないにもかかわらず、今後も継続する意思があると偽って申請する
    • 家族の職業を偽って給付金を受給しようとする
    • 事業実態のない学生や主婦が、個人事業主を装って確定申告書を偽造する

    参考:『コロナ給付金、不正受給は9億円超 返還拒めば名前や所在地の公表も』朝日新聞デジタル

    雇用調整助成金の不正受給の事例

    本来、雇用調整助成金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

    雇用調整助成金の要件

    項目受給要件
    1.対象者雇用保険の事業主
    2.売上高や生産量など直近3か月間の生産指標が昨年より10%以上減少
    3.雇用量を示す指標直近3か月間の雇用保険被保険者および派遣労働者が、
    以下の範囲を超えて昨年より増加していない
    中小企業10%を超えてかつ4人以上増加していない
    中小企業以外5%を超えてかつ6人以上増加していない
    4.雇用調整1.休業労使間の協定により、所定労働日の全1日にわたって実施される
    ※1時間以上の実施でも可能
    2.教育訓練労使間の協定により、所定労働日の全1日にわたって実施される
    ※1時間以上の実施でも可能
    職業に関する知識や技能、技術の習得や向上を目的とする
    教育訓練の内容である
    ※受講者によるレポートなどの提出が必要
    3.出向対象の期間内に開始され、3か月〜1年以内に出向元事業所に復帰する
    5.支給期間の注意点・過去に雇用調整助成金の支給を受けている場合、
     直前の期間満了日の翌日から1年を超えている
    ・新型コロナウイルス感染症の影響で特例として
     『雇用調整助成金(コロナ特例)』の支給を受けた場合は、
     最後の判定基礎期間末日の翌日から1年を超えている

    参考:『雇用調整助成金』厚生労働省

    雇用調整助成金の不正受給の例

    雇用調整助成金においては、休業していないのに休業中であると偽るなどのケースが見られました。

    • 休業として申請したが、実際には出勤(テレワーク含む)している社員がいる
    • 出勤日にタイムカードを打刻しないよう従業員に指示するなど、法定帳簿を改ざん・偽造して申請する
    • 退職した従業員を現在も雇用している、あるいは架空の人物を雇用しているように装う
    • 従業員に休業手当を支払っていないにもかかわらず、支払ったように装い申請する

    参考:『雇用調整助成金等の不正受給への対応を強化します』厚生労働省

    助成金の不正受給に対する刑事罰

    助成金の不正受給には刑法上の罪が成立する場合があり、厳しい罰則が科せられる可能性もあります。不正受給によって成立する罪名と罰則をご紹介します。

    不正受給にて成立する罪名

    本来は不正であると認識しながら虚偽の申請を行った場合、詐欺罪(刑法246条)が成立する恐れがあります。

    参考:『刑法』e-Gov法令検索

    不正受給における罰則

    不正受給によって詐欺罪が成立すると、10年以下の懲役が科せられるかもしれません。もしも複数の詐欺で起訴された場合は「併合罪」が適用され、懲役刑は最長15年です。また、支給された金額を返還できない場合には、不正受給の主導者に対して実刑判決が下ることもあるでしょう。なお、申請者本人だけでなく、不正受給を補助した人や仲介役となった人も詐欺の共犯として逮捕・起訴されるおそれがあるため、注意が必要です。特に、組織的な詐欺グループの主犯に対しては「組織犯罪処罰法」が適用され、より重い刑が科せられる可能性があります。

    参考:『刑法』e-Gov法令検索

    助成金の不正受給に対する処分

    助成金の不正受給に対しては、刑事罰だけでなく、次のような処分が行われる場合があります。

    支給の取り消し

    不正受給が発覚した場合、まずは支給取り消し決定が行われ、申請者に通知書が送付されます。もしも支給取り消しの通知書が届いた場合は、速やかに調査・対応しましょう。

    返還命令

    すでに助成金を受給している場合には、返還を求められます。持続化給付金の場合は、原則として年3%の延滞金が科せられるほか、支給額と延滞金の合計額の20%を加えた額が請求されます。たとえば、100万円を不正受給し、不正受給の日の翌日から返還日までがちょうど1年間だった場合、返還額の合計は以下の通りです。

    (支給額 100万円+延滞金100万円×3%)×120%=123万6,000円

    このように、不正受給と判断されると助成金の総額だけでなく、ペナルティとしてより多くの金額を納付しなければなりません。

    参考:『不正受給及び自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金・一時支援金・月次支援金・事業復活支援金)』経済産業省

    不正支給措置

    不正受給を行った事業者は、支給取り消し決定の日から5年間、助成金の支給を受けられなくなります。たとえば、雇用調整助成金を不正受給した場合は、当該助成金のみならず、ほかの雇用関係助成金も支給を受けられません。各種助成金を利用できなくなることで、組織や従業員に深刻な影響が及んでしまうでしょう。

    公表

    不正受給防止の取り組みとして、助成金を不正に受給した事業者などは、事業者名を公表される可能性があります。厚生労働省の規則には「不正受給が特に重大または悪質なものであると認められる場合」に事業者名を公表するとあり、すべての事業者が公表されるわけではありません。しかし、労働局は、自主申告ではない雇用調整助成金の不正受給事案(支給決定取り消しなどを行った額が100万円未満である場合を除く)については例外なく事業主名を公表するとしています。

    参考:『雇用調整助成金 不正・不適正に受給していませんか』厚生労働省

    なお、支給決定取り消しなどを行った額が100万円未満でも、返還命令に応じない場合は公表のリスクが高まるでしょう。経済産業省は、不正受給者のなかでも中小企業庁が請求した額の完納をしていない受給者名と受給金額、所在地を公表しています。2021年3月15日以降、不正受給者の数は1,907人にのぼり、誰もがインターネット上で自由に閲覧できる状態です。(2023年5月18日時点)

    参考:『持続化給付金の不正受給者の認定及び公表について』経済産業省

    不正受給が発覚してから罰則が科されるまでの流れ

    助成金の不正受給が発覚し、罰則が科せられるまでの流れはおおむね以下の通りです。

    1. 発覚
    2. 逮捕
    3. 勾留
    4. 起訴
    5. 処罰

    1.発覚

    助成金の不正受給は、おもに以下のようなきっかけで発覚します。

    • 労働局の抜き打ち訪問
    • 従業員へのアンケート調査
    • 不当な扱いを受けた従業員の内部告発
    • 不正受給のコンサルティング会社への調査
    • 主導者の別件逮捕
    • そのほかの助成金の提出書類との差異

    不正受給が発覚し、役所が告発すると刑事事件に発展します。

    2.逮捕

    警察による捜査が行われ、詐欺の疑いがある場合は逮捕される可能性があります。捜査では「不正受給であることを認識していたのか」「主犯や共犯は誰なのか」といったポイントを調べます。不正受給による逮捕は全国で相次いでおり、2022年6月には給付金10億円分の不正受給を主導したとして、グループの指南役だった男性が逮捕されています。

    参考:『インドネシアから移送の男を逮捕 給付金10億円不正受給を主導か』朝日新聞デジタル

    3.勾留

    警察が告発した刑事事件は、検察へと送致されます。さらに「身柄を拘束する必要あり」と判断されれば、警察署や拘置所に勾留されることになります。勾留期間は最長20日間と定められていますが、起訴後の勾留には期間制限がないため、そのまま起訴されればすぐには釈放されません。

    4.起訴

    勾留の満期、つまり勾留から20日間後までに、検察は起訴の必要性を判断します。起訴になる否かは「被害額の多さ」や「被害弁償の有無」「反省の態度の程度」「前科前歴の有無」などを総合的に判断して決定されます。たとえば、仲介人として複数の不正受給に加担した場合は被害総額が多くなり、申請者本人よりも起訴される可能性が高まるでしょう。検察が起訴した場合は、裁判へと進みます。

    5.処罰

    裁判によって判決が言い渡され、処罰が決定します。詐欺罪が成立した場合の法定刑は、10年以下の懲役です。詐欺はその重大さから罰金刑がなく、実刑判決が下れば懲役を免れません。ただし、詐欺で起訴されて有罪になった場合でも、初犯であれば執行猶予がつくケースが大半です。

    不正受給による罰則を回避するための注意点

    不正受給の事例のなかには「コンサルタントに勧められた」「人に任せきりにしてしまっていた」というケースもあるでしょう。世の中には、不正受給をそそのかしてくる悪質な業者が一定数います。また、代理人や従業員に任せきりにしていたせいで、知らないうちに不正受給に加担してしまう可能性もゼロではありません。

    助成金の申請は、あくまで自身の判断で行うものです。「不正に気づかなかった」「自分は何も知らなかった」という弁解は通らない可能性が高いため、助成金の支給要件や自社の休業実態についてきちんと把握しておくことが大切です。

    助成金を不正受給してしまった場合の対応

    万が一、助成金を不正受給してしまった場合は、以下の対応をとりましょう。

    労働局への対応

    不正受給をしてしまったら、速やかに窓口に連絡をとり、自主返還を申し出ましょう。自主的に申告・返還することで、事業者名の公表や刑事事件化を免れる可能性があります。続化給付金の自主返還の受付・相談は、下記の『各種給付金コールセンター』で受け付けています。

    各種給付金コールセンター
    電話番号0120-002-678
    受付時間9:00~17:00(土日祝日および年末年始を除く、月~金曜日)

    なお、雇用調整助成金の自主返還は、申請した都道府県労働局が窓口です。

    刑事事件への対応

    助成金を不正に受給してしまった場合に、もっとも避けたいのが刑事事件化です。信頼できる弁護士のサポートを受けながら、刑事処分を回避するための対応を行いましょう。その際、警察の捜査には進んで協力してください。また、心から反省したうえで、具体的な再発防止策を講じている姿勢を見せることも重要です。

    コンプライアンス体制の見直し

    再発防止と信頼回復をはかるべく、社内のコンプライアンス体制を見直しましょう。状況次第では、当事者や関係者の処分を検討することも必要です。また、社内全体で事件について情報共有し、社内倫理の向上に努めましょう。

    助成金の不正受給は、速やかな自主返還を(まとめ)

    助成金の不正受給は詐欺罪に該当する可能性があり、場合によっては10年以下の懲役が科せられます。

    また、不正に受給した助成金の返還はもとより、延滞金などのペナルティも発生します。なかには、知らないうちに不正受給に加担してしまうケースもあるため、今一度、自社の休業実態や申請内容などを調査することが大切です。

    万が一不正受給を行ってしまっていた場合は、速やかに自主返還するとともに、再発防止策を講じましょう。

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