出生時育児休業(産後パパ育休)と育児休業の違いとは? 制度や併用も解説

出生後育児休業(産後パパ育休)と育児休業は、どちらも育児のための休みには違いありませんが、制度の目的や期間、取得条件、そして就労の可否など多くの違いがあります。似たような名前のため「両方の給付金がもらえるか」と疑問に感じられている方もいるでしょう。
本記事では、出生時育児休業と育児休業の違いを制度面と実務面から解説します。 併用のパターンも整理していますので、企業の人事労務担当者は、制度理解や実務にお役立てください。
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目次

出生時育児休業と育児休業は別々の制度
出生時育児休業と育児休業は、名前が似ているものの、まったく異なる休業制度です。どちらも育児を支援するための制度という点では共通していますが、目的や対象者、取得時期、働き方のルールに大きな違いがあります。
育児休業は「1歳までの子どもを育てる人」が対象なのに対し、出生時育児休業は「出生直後の子どもに寄り添うこと」を目的とした制度です。
呼び名が似ているため混同されやすいですが、制度の中身は区別されています。まずは、その代表的な違いを確認していきましょう。

出生時育児休業と育児休業の違い
出生時育児休業と育児休業は、対象者や対象期間など、制度内容に違いがあります。違いを理解することで、従業員に対して制度の案内や取得サポートがしやすくなります。
出生時育児休業と育児休業の主な違いを一つずつ整理して確認していきましょう。
出生時育児休業(産後パパ育休) | 育児休業 | |
---|---|---|
対象者 | 主に男性(出産しない人) | 男女問わず育児する親 |
取得時期 | 子の出生後8週間以内 | 原則、子が1歳になる前日まで(最大2歳まで延長可) |
取得可能日数 | 最長4週間(分割2回まで) | 最長1年間(条件付きで延長可) |
申請期限 | 原則、休業開始の2週間前まで | 原則、休業開始の1か月前まで |
就労の可否 | 一部就労可(条件あり) | 原則就労不可 |
制度の趣旨 | 出産直後のサポート | 長期的な育児への対応 |
就労における扱いの違い
出生時育児休業と育児休業の違いは、休業中における就労の扱いです。出生時育児休業は、就労することを認めている一方、育児休業では、原則就労を認めていません。
出生時育児休業は、労使協定を締結のうえ、従業員側の合意があれば就労を認めています。企業が出生時育児休業期間中の従業員を就労させるときは、以下の点に注意しなければなりません。
- 休業期間中における総所定労働日数、総所定労働時間の半分までにすること
- 休業開始日と終了日は、フルタイムではなく一部就労にすること
- 所定労働時間を超えないこと
休業取得中の従業員が、通常と変わらない就労をしていては、休業を取得する意味がありません。企業が、休業中の従業員を就労させるときは、出生時育児休業における就労のルールを厳守しましょう。
申請期限の違い
出生時育児休業と育児休業は、取得するための申請期限にも違いがあります。
出生時育児休業の申請期限は、原則として休業開始2週間前までです。育児休業の申請期限は、休業開始1か月前までとしています。
どちらも従業員本人からの申し出が必要です。
対象期間の違い
出生時育児休業と育児休業は、休業対象期間も異なります。出生時育児休業が子どもの出生後8週間以内であるのに対して、育児休業の対象期間は子どもが1歳になる前日までです。
出生時育児休業は、まさに「生まれた直後」に集中して育児にかかわるための制度です。母親が産後休業中であることが多い期間は、父親のサポートの重要性が高まります。男性が配偶者の出産直後をサポートしながら育児をする制度といえるでしょう。
対象者の違い
出生時育児休業と育児休業は、制度の設計上、対象者も異なります。出生時育児休業は、子どもの出生後において主に男性が取得できる制度です。女性は産前産後休業を取得するため、原則として出生後育児休業は取得できません。ただし、養子縁組などで出産しない女性が親になる場合などは、出生時育児休業を取得できるケースもあります。
育児休業は、1歳になるまでの子どもを育てる親が対象であるため、性別を問わず取得できる点に違いがあります。
出生時育児休業(産後パパ育休)とは
違いの全体像を把握したところで、それぞれの制度について、もう少し詳しく見ていきましょう。
まずは、出産直後のサポートを目的とした「出生時育児休業(産後パパ育休)」から解説します。
出生時育児休業とは、子どもの出生後8週間以内に、最長4週間(28日間)の休業を取得できる制度です。出生時育児休業は、従業員の希望により2回に分けた取得もできます。分割取得は、従業員が原則まとめて申し出をしなければなりません。従業員から出生時育児休業の申し出があったときは、取得回数も忘れずに確認するようにしましょう。
出生時育児休業は、通称として「産後パパ育休」とも呼ばれています。産後パパ育休という名前にもあるように、出生時育児休業は主に男性を対象とした制度です。
参照:『令和3(2021)年法改正のポイント|育児休業特設サイト』厚生労働省
育児休業とは
続いて、より長期的な育児を支援する制度である「育児休業」についても確認しましょう。
育児休業は、子どもが1歳になる前日までの子どもを育てる男女が取得できる制度です。2022年10月1日以降は、2回の分割取得もできるようになりました。
育児休業は、対象期間を最長1年間としています。しかし、仕事に復帰できない特別な事情があれば、最長で子どもが2歳になるまで延長できる点も特徴です。
仕事に復帰できない特別な事情には、以下の例が挙げられます。
- 子どもが保育園に入所できない
- 子どもを養育する予定の配偶者が、健康上の問題などで養育できない
育児休業を延長するためには、従業員からの申し出を受けた企業が申請を行わなければなりません。
参照:『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行』厚生労働省
出生時育児休業と育児休業の取得要件
出生時育児休業と育児休業の制度を理解したあとは、実際に「誰が」「どのような条件で」取得できるのかが気になる方もいるでしょう。取得条件の違いは、とくに混同しやすい部分です。以下では、それぞれの取得要件を整理していきます。
出生時育児休業(産後パパ育休)の取得条件
出生時育児休業(産後パパ育休)を取得できるのは、次の条件を満たす人です。
- 産後休業を取得しない出生後8週間以内の子を養育する男女であること
- 有期雇用契約を結ぶ従業員は、出生後8週間経過後から6か月以内に労働契約期間が終了し、契約更新されないことが明らかでないこと
- 日雇い労働者でないこと
- 労使協定に定められた除外要件に該当しないこと
出生時育児休業の対象期間は、法律上の「産後休業」と重なる制度です。出産によって産前産後休業を取得する女性は、原則として出生時育児休業の対象外とされています。
有期雇用契約を結んでいる従業員については、取得に制限があります。具体的には、出生後8週間が経過したあとから6か月以内に雇用契約が終了し、契約が更新されないことがわかっている場合は、出生時育児休業を取得できません。
また、以下のいずれかに当てはまる場合、会社の労使協定によって制度の対象から除外されることがあります。
- 企業に雇用されて1年未満である
- 申し出の日から8週間以内に雇用契約の終了が明らかである
- 1週間の所定労働日数が2日以下である
企業が、以上のような除外要件を労使協定に定めていると、基本条件を満たしていても出生時育児休業は取得できません。
育児休業の取得条件
出生時育児休業と同様に、育児休業にも取得条件があります。育児休業は性別を問わず多くの従業員が対象となる一方で、雇用形態や在籍期間によっては利用できないケースもあります。
育児休業の取得要件は、以下のとおりです。
- 1歳に満たない子どもを育てる男女であること
- 有期雇用契約者は、子どもが1歳6か月になるまでに労働契約期間が終了し、契約更新されないことが明らかでないこと
- 日雇い労働者でないこと
- 労使協定に定められた除外要件に該当しないこと
育児休業における労使協定に定められた除外要件は、以下のとおりです。
- 企業に雇用されて1年未満である
- 育児休業取得の申し出から1年以内に雇用契約の終了がわかっている
- 1週間の所定労働日数が2日以下である
育児休業は、出生時育児休業よりも取得要件が厳しく定められている点に注意しましょう。

出生時育児休業と育児休業の併用
出生時育児休業と育児休業は異なる制度であり、条件を満たせば併用も可能です。ただし取得時の対応は、性別や家庭状況によって異なる点に注意しなければなりません。男性と女性のパターンに分けて、併用の可否や注意点を解説していきます。
男性は併用できる
男性は、出生時育児休業と育児休業のどちらも取得できます。併用の仕方には、次のようなパターンがあります。
- 出生時育児休業(最大28日間)を取得したあと、続けて育児休業に入る
- 出生時育児休業を取得後、育児休業の開始を少し遅らせて取得する
状況や希望に応じて、育休の時期や分割を柔軟に組み立てられるのが制度のメリットです。
女性は基本的に併用できない
女性は、原則として出生時育児休業と育児休業を併用できません。女性は出産と同時に産前産後休業を取得するため、その期間が出生時育児休業と重複するためです。出産する女性は、すでに別の制度で保護されているため、併用の必要がないのです。
ただし例外として、養子縁組など出産せずに親になる女性は、出生時育児休業の対象となります。養子縁組で母親となる女性は、産前産後休業を取得していないため、出生時育児休業と育児休業の併用が可能なのです。
参照:『育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説』厚生労働省
出生時育児休業と育児休業の取得パターン
出生時育児休業と育児休業、どちらをいつどのように取得すればよいか、迷う従業員もいるのではないでしょうか。状況に応じた3つの取得パターンを紹介します。
- 出生時育児休業がおすすめな従業員
- 育児休業がおすすめな従業員
- 出生時育児休業と育児休業の併用がおすすめな従業員
制度の仕組みだけでなく、従業員の事情や希望に応じて柔軟に対応できるようにすることが、人事担当者にとっても重要です。従業員一人ひとりに合った選択肢を提示できるよう、お役立てください。
出生時育児休業がおすすめな従業員
次のようなケースでは、出生時育児休業の活用が向いています。
- 出産日の近くになってから申請したい
- 休業中も就労したい
出生時育児休業は、申請期限が開始の2週間前までと短く設定されており、育児休業よりも柔軟に取得が可能です。条件を満たせば一部就労も可能なため、完全に仕事を離れたくないという従業員にも適しています。
育児休業の取得がおすすめな従業員
次のようなニーズがある場合は、育児休業の利用がおすすめです。
- 4週間(28日間)を超えて長期的に休業したい
- 就労中に仕事をするつもりがない
育児休業は、最長で1歳まで取得できるため、長期的な育児に備えたい従業員に適しています。就労は原則できないため、業務から完全に離れて育児に集中したい場合にも安心して利用できます。
出生時育児休業と育児休業の併用がおすすめな従業員
出生時育児休業と育児休業の併用がおすすめなのは、休業を取得する期間について迷っているケースです。次のような従業員は、出生時育児休業を取得してから、育児休業の取得を検討するという選択肢もあります。
- いつ、どのくらい休むかまだ決めかねている
- とりあえず出産直後に育児にかかわり、その後の予定を様子を見ながら考えたい
- 可能であれば育休を分けて取得したい
出生時育児休業は、取得後すぐに育児休業へ移行することも可能です。たとえば、子どもが生まれてすぐに出生時育児休業を28日間取得し、そのまま連続して育児休業に入るといった柔軟な利用も認められています。出生時育児休業の対象8週間の経過を待たずに、育児休業へ切り替えることもできるのです。
出生時育児休業と育児休業では申請期限が異なるため、併用を希望する従業員には、事前に十分説明しておきましょう。
出生時育児休業と育児休業の注意点
出生時育児休業と育児休業は異なる制度であり、休業取得について情報の行き違いや対応漏れがないよう、注意しなければなりません。最後に企業が注意したい3つのポイントを解説します。
- 従業員へ情報を正しく周知する
- 休業中の体制整備を計画的に実施する
- 休業取得者に適切に対応する
従業員へ情報を正しく周知する
企業は、出生時育児休業や育児休業の制度について正しく理解し、従業員に周知しなければなりません。従業員が自分の取得できる休業制度を理解し、迷いなく申し出ができるようにしましょう。
企業は、日頃から育児休業に関する制度の情報を提供することが大切です。育児関連の休業を取得することに不安がある従業員もいるかもしれません。子どもを育てる従業員が安心して育児休業を取得できるよう、組織の理解促進や環境整備にも努めましょう。
休業中の体制整備を計画的に実施する
従業員が出生時育児休業や育児休業を取得する際、社内体制を迅速に整備しましょう。従業員の休業が一時的であったとしても、チームや部署に欠員が生じます。休業する従業員の同僚などに過度な負担がかからないよう、人員補充や業務の引き継ぎなどを計画的に実施しましょう。準備が足りず混乱したという事態を防ぐため、取得希望が出た時点から早めの調整を進めることが重要です。
休業取得者に適切に対応する
出生時育児休業や育児休業の取得は、法律で認められた従業員の権利です。企業は、休業取得の申し出をした従業員に対して、適切に対応しなければなりません。企業は、申し出を行った従業員に不利益な取り扱いをすることのないよう、組織全体として理解を深める必要があります。
「育休を取ると職場に迷惑」「復帰後の立場が不安」と感じている従業員も少なくありません。制度利用を後押しするためにも、企業全体の理解と配慮の姿勢が求められます。
休業から復帰する従業員に対しても、育児と仕事を両立して働けるようにサポートしましょう。

まとめ
出生時育児休業と育児休業は、名称が似ていますが、目的や取得条件、働き方のルールが異なる制度です。
企業の担当者は、単に制度を理解するだけでなく、従業員への案内や休業中・復帰後の体制整備を計画的に進めることで、安心して休業制度を活用できる環境を整えましょう。
