育休中の社会保険料免除|期間や要件、手続きを解説

育児休業中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が、条件を満たせば企業・従業員ともに免除されます。では月の途中から育児休業に入った場合も、対象になるのでしょうか。
免除措置は、企業側の申請により適用されるため、人事労務担当者は正しく理解したうえで対応しなければなりません。
本記事では、育児休業中の社会保険料免除について制度の基本から、開始・終了時期別の判断、途中就労時の扱いまでわかりやすく解説します。免除になるケースや手続きの進め方も紹介しているので、ぜひお役立てください。
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目次

育休中に社会保険料を免除する制度
育児休業の間(以下、育休中)は、社会保険料が免除されます。本来、社会保険料は、企業側と従業員側の折半によって支払わなければなりません。
社会保険料の免除を受けるには、企業が所定の申請手続きを行うことが前提です。申請漏れがあると、免除は適用されず、従業員・企業ともに保険料負担が発生してしまいます。
育休中の社会保険料免除はいつからいつまでか
育休中における社会保険料の免除期間は、育休開始日の属する月から終了日翌日が属する月の前月までです。
たとえば、育児休業期間が8月10日から3月20日である例において、社会保険料の免除期間は8月から2月までです。育休開始日である8月10日の属する月は8月、終了日翌日が属する月の前月は2月と判断します。
育児休業開始日 | 育児休業終了日 | 育児休業終了日の翌日 | 育児休業終了日翌日が属する月の前月 |
---|---|---|---|
8月10日 | 3月20日 | 3月21日 | 2月 |
社会保険料は月単位で発生するため、日数に応じた日割り計算はしません。数日間の取得であっても、対象要件を満たせば、月まるごと免除の対象となります。
社会保険料免除期間のポイント
社会保険料の免除期間で重要なのは、「育休終了日の翌日が属する月の前月」という部分です。
たとえば、育児休業期間が8月10日から3月31日までである例において、社会保険料の免除期間は8月から3月までです。育休終了日が3月31日(末日)であり、翌日(4月1日)の属する月の前月が3月と考えます。
育休開始日 | 育休終了日 | 育休終了日の翌日 | 育休終了日翌日が属する月の前月 | 社会保険料免除期間 |
---|---|---|---|---|
8月10日 | 3月20日 | 3月21日 | 2月 | 8月から2月 |
8月10日 | 3月31日 | 4月1日 | 3月 | 8月から3月 |
従業員が月末に育休を終了した場合と、月の途中で終了した場合では、社会保険料の免除対象期間が1か月分変わることがあります。担当者は復職日に注意しましょう。
育休を開始した月と終了した月が同じであるときの対応
育休開始日と終了日が同じ月である場合、14日以上の育休を取得した月は社会保険料が免除されます。
たとえば、育児休業の開始日が8月10日、終了日が8月25日である例において、育休取得日数は14日以上あります。
育児休業開始日 | 育児休業終了日 | 育休取得期間 | 社会保険料免除期間 |
---|---|---|---|
8月10日 | 8月25日 | 16日間 | 8月 |
8月10日 | 8月20日 | 11日間 | なし |
「14日」という日数は、1か月未満の育休であっても保険料が免除されるかどうかを判断する基準として設けられています。
企業の人事・労務担当者は、育休期間の開始日・終了日だけでなく、日数によって異なる扱いに注意しましょう。
賞与における社会保険料免除の扱い
育休中に賞与を支払った月が含まれていれば、賞与における社会保険料も免除されます。
ただし、「賞与支給月の末日時点で、1か月を超えて育休を取得している場合」に限られます。短期間の育休取得では免除対象にならない可能性があるため、注意が必要です。
育休中に就労した際の扱い
育休中に従業員が就労した際は、社会保険料免除について異なる対応をすることがあります。
育児休業は、就労を前提としない制度です。しかし、労使間の合意があれば、従業員は一時的に就労できます。
このような一時的な就労であれば、育休が継続しているとみなされ、保険料免除も引き続き適用されます。
一方で、定期的・継続的に出勤していると判断される場合には、育児休業が終了したとみなされ、保険料免除の対象外となる可能性があります。
就労の頻度・期間・目的などを確認し、継続的な就労とみなされるのか、必要に応じて年金事務所に相談しておくと安心です。

社会保険料とは
育休中の社会保険料免除制度を正しく理解するために、「社会保険料」についても簡単に整理しておきましょう。
社会保険とは、各種保険の加入者が、万が一の事態に陥った際に、生活の安定を支えるための制度です。加入者は、各種社会保険料の納付を行い、万が一の際に備えます。
会社に勤める人が納める社会保険料には、以下の5種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険(40歳以上)
- 労災保険
- 雇用保険
社会保険料のうち、育休中に保険料が免除されるのは「健康保険」と「厚生年金保険」の2つです。いずれも「企業と従業員で折半する保険料」のため、免除が適用されれば、従業員だけでなく、企業もコスト削減というメリットがあります。
なお、社会保険料は以下のように分類されることもあります。
広義の社会保険 | ・健康保険 ・厚生年金保険 ・介護保険 ・労災保険 ・雇用保険 |
---|---|
狭義の社会保険 | ・健康保険 ・厚生年金保険 ・介護保険 |
人事担当者としては、「どの保険料が免除対象か」を明確に理解し、給与計算や免除申請を進めることが大切です。
育休中の社会保険料免除に関連した法改正
育休中における社会保険料の免除は、2022年10月の『育児・介護休業法』の改正によって期間や条件が見直されています。
以前は、月末時点で育児休業を取得していれば、該当月の社会保険料が免除という条件でした。しかし、月途中で復職したケースでは免除の対象にならないことが不公平であるという問題点から、現在の制度に変更されています。
改正後の社会保険料免除に関するポイントは以下のとおりです。
改正後 | 改正のポイント |
---|---|
育休開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月までの社会保険料を免除 | →月末でなくても免除されるように |
育休開始日と終了日が同月に属する場合、14日以上の育休を取得すれば当該月の社会保険料を免除 | →条件を満たせば短期取得でも免除されるように |
賞与支給月の末日を含む、連続した1か月を超える育児休業を取得していれば社会保険料を免除 | →条件を満たさなければ賞与が免除されないように |
企業の担当者は、社会保険料免除に関する以前のルールとの違いや、法改正の背景を理解しておくことで、申請手続きを円滑に進められます。
男性の育休や分割取得が増えるなか、従業員からの問い合わせに備えて、最新情報を定期的に確認し、実務に活かしていきましょう。
参照:『令和4年10月から育児休業等期間中の社会保険料免除要件が見直されます』厚生労働省

育休中の社会保険料はいくら免除されるか
育休中に社会保険料が免除されることで、従業員1人あたり年間で数10万円の負担が軽減されることもあります。免除額の仕組みと計算の流れについて、具体例を交えて確認しておきましょう。
社会保険料は、標準報酬月額や標準賞与額に保険料率をかけて算出されます。
「標準報酬月額」は、実際に支払われた給与をもとに一定の等級に分けて決定されるため、給与そのものとはやや異なる点に注意が必要です。
「標準賞与額」は、税引き前の賞与の支給額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額です。
社会保険料を算出する基本の計算式は以下のとおりです。
給与 | 賞与 | |
---|---|---|
健康保険 | 標準報酬月額×保険料率÷2 | 標準賞与額×保険料率÷2 |
厚生年金保険 | 標準報酬月額×18.3%÷2 | 標準賞与額×18.3%÷2 |
健康保険の料率は、都道府県や保険組合ごとに異なり、おおよそ年単位で見直されています。企業の担当者は、加入する保険組合の情報を必ず確認しましょう。
一方で厚生年金保険の保険料率は一律18.3%です。
参照:『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』全国健康保険協会
参照:『厚生年金保険料額表』日本年金機構
社会保険料免除額の計算例
育休中の社会保険料免除について、千葉県の保険料率をもとに具体例を紹介します。
都道府県 | 千葉県 | 健康保険料率9.79%(厚生年金保険料率18.3%) |
---|---|---|
育休期間 | 2月1日から翌年1月31日 | 社会保険料免除期間は12か月(2月から翌年1月まで) |
給与額 | 30万円 | 標準報酬月額30万円 |
賞与額 | 1回につき30万円(6月と12月) | 標準賞与額30万円 |
健康保険料と厚生年金保険料の免除額(従業員分)の計算式と免除額は以下のとおりです。
健康保険料 | 厚生年金保険 | |
---|---|---|
給与分 | 30万円×9.79%÷2=14,685円 | 30万円×18.3%÷2=27,450円 |
6月賞与分 | 30万円×9.79%÷2=14,685円 | 30万円×18.3%÷2=27,450円 |
12月賞与分 | 30万円×9.79%÷2=14,685円 | 30万円×18.3%÷2=27,450円 |
免除総額 | 176,220円(14,685円×12)+14,685円+14,685円=192,370円 | 329,400円(27,450×12)+27,450円+27,450円=384,300円 |
育休中に社会保険料が免除される月数は、育休の開始日・終了日によって変動します。
とくに育休を月末で終了したか、月途中で復職したかによって免除される月が1か月違うこともあるため、復職日を正確に把握しておきましょう。
参照:『令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表』全国健康保険協会
育休中における社会保険料免除の手続き方法
育休中に社会保険料を免除するための手続きは、企業側の申請により適用されます。申請のタイミングや書類の不備によっては、免除が受けられない可能性もあるため、人事担当者が流れを把握しておくことが重要です。
以下、基本的な手続きの流れを5つのステップで整理します。
従業員が育休取得を事業主に申し出る
従業員は、会社に対して「育児休業等取得申出書(社内用)」を必要事項を記入したうえで提出します。これは育休を取得する意思を正式に示すものです。企業側は書類を受理・保管したうえで、社内の休業手続きや申請の準備に入ります。
事業主が申出書を年金事務所へ提出
従業員からの申し出を受けて、企業は社会保険料免除のための「育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届」を作成し、日本年金機構(事務センターもしくは管轄の年金事務所)へ提出します。
公的機関への書類は、企業が作成・提出するものです。従業員が社内向けに提出するものとは異なります。
提出期限は、育児休業期間中または終了から1か月以内です。
期限以内に提出できなかった場合、理由書と一緒に従業員の休業をする証明書類を提出しなければなりません。企業の担当者は、従業員の育児休業が始まったら、できるだけ早く手続きに取り掛かりましょう。
参照:『育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届』日本年金機構
確認通知書が届く
申請後、日本年金機構から確認通知書が企業に届きます。記載された内容を確認したら、従業員へ受理された旨を伝えましょう。なお、社会保険料免除の申請は原則として年金事務所で一本化されているため、多くの場合、健康保険組合への申請は不要です。
保険料の免除が開始される
申請が受理されると、育休開始月から終了日の翌日が属する月の前月までの社会保険料が免除されます。社会保険料は、月単位で計算されるため、育休開始日や終了日が月途中であっても加味されません。企業側も従業員側も、免除される対象期間の仕組みを理解しておきましょう。
育休が予定より早く終了した場合は届け出る
従業員が予定より早く育休が終了した場合は、すみやかに「育児休業等取得者終了届」を日本年金機構(事務センターもしくは管轄の年金事務所)に提出しなければなりません。あらかじめ、従業員にも復職が早まる場合は必ず事前に申告するよう伝えておくと安心です。
参照:『従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が育児休業等を取得・延長したときの手続き』日本年金機構

育休中の社会保険料免除に関する注意点
育休中における社会保険料免除について、企業が正しく手続きや給与計算を行うため、実務上注意したい点があります。企業の担当者は、あらかじめ注意点を把握し、ミスのないよう対応しましょう。
免除期間と徴収月は1か月ずれる
育休中における社会保険料免除では、一般的に免除期間の対象月と復帰後の給与から徴収する時期に相違が生じる点に注意しましょう。
社会保険料は、一般的に企業が当月支給する給与から前月分を徴収する仕組みです。育休対象期間において、育休開始時は、「休業を開始した日が属する月の翌月」に支給する給与から保険料の支払いが免除されます。
育休終了時は、「休業を終了する日の翌日が属する月」までを免除し、翌月から保険料が徴収されます。企業側は、とくに復帰後における社会保険料の徴収でミスが起こらないよう、気をつけましょう。
勤怠管理システムや給与計算ソフトを使っている場合、育休終了日や復職日を誤って登録していると、免除期間と徴収期間がずれてしまうことがあります。復職月の給与明細や保険料徴収額は、念のため確認しておくと安心です。
担当者は手続き内容を正しく理解する
育休中における社会保険料免除は、従業員の生活にもかかわるため、手続きの不備なくすみやかに進めることが重要です。書類の記入漏れやミスがあると、当然ながら修正や書き直しの手間がかかります。
申請の期限が過ぎてしまうと、企業は書類を追加して提出しなければなりません。企業側は、事前に手続きの流れを整理しておくことで、不備や遅れを防ぐようにしましょう。
育休中の社会保険料免除による年金への影響
年金は、原則として社会保険料の納付額に応じて支給されます。育休中の社会保険料免除を申請することにより、将来受け取れる年金受給額が減ってしまうのではないかと不安を抱く従業員もいるのではないでしょうか。
育休中に社会保険料の免除を申請しても、本人の将来受け取れる年金受給額は減りません。社会保険料の免除期間は、支払ったものとして扱われ、被保険者資格も維持できます。
企業の担当者は、育休を取得する従業員に対して、年金受給額に影響しないことを説明するとよいでしょう。
参照:『厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)』日本年金機構
育休に関連した社会保険料の特例
育休中の社会保険料免除について理解が深まったところで、育休後の働き方に関連する社会保険の特例措置を紹介します。
育休が終了した従業員は一般的に復職後、時短勤務を選ぶケースが少なくありません。しかし、短縮した時間に応じて給与額も減ってしまうため、社会保険料や将来の年金額に影響が出てしまいます。
不利益を軽減するために、一定の条件を満たすと、保険料の減額や年金計算の優遇が認められる制度が設けられています。具体的には以下の2つの特例です。
- 育休終了後における社会保険料を減額する措置
- 子どもが3歳になるまでの養育期間中は、養育期間前の標準報酬月額による社会保険料を納付したとみなす措置
いずれも何も手続きしなければ、高い保険料を払い続けたり、将来の年金額が減ってしまったり負担が重くなってしまうため、忘れずに申請が必要です。2つの特例制度について、概要や手続きを解説します。
社会保険料の減額措置
社会保険料の減額措置は、育休復帰後の社会保険料を、時短勤務によって減額された給与額をもとに改定できる制度です。
本来、育休復帰後は、休業前の標準報酬月額によって社会保険料が決まります。しかし、特例を適用すれば、育休復帰後4か月目以降から対象従業員の社会保険料を減額できます。
減額措置を適用するには、従業員から申し出を受けた企業が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出しなければなりません。
対象となる従業員が時短勤務やパートタイム勤務を希望している場合は、復職前に制度を説明し、希望の有無を早めに確認しておくとよいでしょう。
養育期間における社会保険料のみなし措置
社会保険料のみなし措置は、3歳になるまでの子どもを育てる養育期間中の標準月額報酬を、養育前の標準月額報酬としてみなす制度です。
将来受け取る年金額は、標準月額報酬をもとに決まり、養育期間中に給与額が減ると、金額も少なくなってしまいます。
みなし措置の特例を適用することで、従業員の養育期間における標準報酬月額が低下した際に、養育前の標準報酬月額に基づいて年金を受給できます。
みなし措置を適用するためには、従業員から申し出を受けた企業が「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出しなければなりません。
将来の年金額に影響するため、対象となる従業員に制度を説明し、必要があれば提出を促すなどのフォローを心がけましょう。
参照:『養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置』日本年金機構

まとめ
育休中における社会保険料の免除は、育休を取得する従業員だけでなく、企業にとっても負担を軽減できるメリットがあります。
2025年4月からは、社会保険料の免除や育休関連の給付金によって、従業員の手取りを10割にできる制度が開始されました。
育休関連の制度は年々充実していますが、制度は企業側の申請があってはじめて適用されるものです。手続きに遅れがあれば、従業員の不利益となってしまいます。
人事労務担当者として正しい知識を持ち、状況に応じた適切な対応を心がけ、信頼感のある労務管理につなげましょう。
