労働協約と労使協定の違いとは【わかりやすく】どちらを優先? 就業規則との関係も解説

労働協約とは、使用者(企業)と労働組合が合意した労働条件などの労使関係に関連する取り決めを、労働組合法にのっとって締結したものです。一方で、労使協定とは、使用者(企業)と過半数労組または労働者の過半数を代表する者が締結する協定を指します。
労働協約と労使協定は混同されやすい用語ですが、意味は異なるため、注意が必要です。
本記事では、労働協約と労使協定の違いを詳しく解説します。労働協約と労使協定の決まりに矛盾が生じた場合どちらが優先されるのか、労働協約や労使協定に違反した場合の罰則についても紹介するので、人事労務の担当者は参考にしてください。


労働協約と労使協定について
まずは労使協約と労使協定の概要について、詳しく解説します。
労働協約とは
労働協約とは、使用者である企業と労働組合によって締結される労働条件に関連する契約です。労働組合とは、労働組合法によって労働者保護のための強い権利を認められた団体であり、労働者の権利保護のために活動しています。
労働協約の目的は、労働組合が労働者と企業との間に立って、交渉力の格差を解消し、組合員にとってよりよい労働条件を獲得することです。労働協約では、主に賃金体系や労働時間や休日、雇用保護、労働安全衛生規定のような賃金以外の労働条件についての取り決めが締結されます。
労働協約は、労働条件を規定する強い効力を持ちます。しかし、その適用には注意すべき制限があります。
労働協約の効力は法律の範囲内に限定されます。つまり、労働基準法などの労働関連法規で定められた労働者の権利や雇用主の義務は、労働協約によって無効にすることはできません。法律で定められた最低限の労働条件は、労働協約の内容に優先します。
労働協約と就業規則との関係にも注意が必要です。就業規則の内容が労働協約と矛盾する場合、その部分は無効となります。これは、労働協約が就業規則よりも法的に優先されるためです。
労使協定とは
労使協定とは、使用者である企業と過半数労組または労働者の過半数を代表する者が締結する協定のことです。
実務上、労働基準法や育児介護休業法の労働条件を適用するのが難しかったり、適用することで何かしら不都合が生じたりするケースもあるでしょう。労使協定を締結する目的は、法律で掲げた原則から外れた労働条件を定めたい場合に、労使間でルールを設けることにあります。
労働時間や有給休暇などの重要な労働条件について、法律上の例外を定める場合は、労使協定を締結することが義務付けられていると覚えておきましょう。

労働協約と労使協定の5つの違い
労働協約と労使協定の違いについて、5つの観点から解説します。
労働協約 | 労使協定 | |
---|---|---|
締結の当事者 | 労働組合・連合団体 | 過半数労組または労働者の過半数を代表する者 |
目的・役割 | 労働条件の維持・改善 | 規制の修正、違法行為の免罰化 |
有効期間 | 定める場合は3年が上限 | 原則として、定めなし |
有効範囲・対象 | 原則として、労働組合員 | 適用事業所の労働者 |
締結形式・届出の要否 | 書面に作成し、当事者の双方が署名、または記名押印することで効力発生 | 書面に作成し、当事者の双方が署名、または記名押印することが必要※内容により、労働基準監督署長への届け出が効力要件となっている場合もあり |
1.締結の当事者
労働協約と労使協定は、締結する当事者が次のように異なります。
労働協約 | 労働組合・連合団体 |
労使協定 | 過半数労組または労働者の過半数を代表する者 |
労働協約は、労働組合だけでなく、労働組合を構成員とする連合団体も当事者の対象です。
一方で労使協定は、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と定められています。
2.目的・役割
労働協約と労使協定の目的は、次のとおりです。
労働協約 | 組合員である労働者の労働条件の維持・改善、地位向上 |
労使協定 | 法律が定める特定の労働条件について、法令の範囲内で労使間の合意に基づいて調整 |
労働協約と労使協定では、それぞれ掲げる目的や役割が大きく異なります。
3.有効期間
労働協約の有効期間を定める場合は、労働組合法に沿って、締結日から上限3年とされています。締結時に有効期間を定めなかった場合は、有効期限のない労働協約として扱われます。
たとえ、期間を定めていない労働協約の場合も、解約日の90日前までに署名、もしくは記名押印した文書を使って予告すれば、解約することも可能です。
労使協定の有効期限は、原則として定められていません。ただし、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を従業員に命じるために必要な「36協定」のように、有効期限が決まっている労使協定も存在します。
4.有効範囲・対象
労働協約の有効範囲は、原則として労働組合の組合員のみに限定されるのが大きな特徴です。そのため、組合員として加入していない労働者は、労働協約の対象外となるため注意しましょう。
ただし、労働組合法第17条・第18条に定める次の条件を満たす場合は、組合員以外の労働者にも協約の内容が適用されます。
事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受ける場合一部のエリアにおいて従事する同業種の労働者の大部分が、労働協約の適用を受け、かつ厚生労働大臣や都道府県知事から承認される場合 |
一方で、労使協定の場合は、労使協定を締結した事業場の労働者全体が適用対象です。労使協定を締結する際に、協定内容に反対していた労働者であっても、適用されると覚えておきましょう。
5.締結形式・届出の要否
労働協約は、企業と労働組合(連合団体)両者が文書に署名、または記名押印することで効力が発生します。また、法律上では「労働協約」と定められていますが、文書の形式的な名称は自由に設定可能です。「覚書」「合意書」「確認書」などの文書名でも締結できます。
一方で労使協定は、協定を締結することで効力が発生します。ただし、以下の労使協定は労働基準監督署への届け出をして初めて効力が発生するため、注意して理解しておきましょう。
- 任意貯金
- 36協定
労働協約と労使協定はどちらを優先?
労働協約と労使協定それぞれで定めるルールが重なった場合、優先順位が高いのは「労働協約」です。
労働協約が労使協定よりも優遇されるのは、労働協約に「規範的効力」と「債務的効力」が認められているためです。
規範的効力とは、労働協約において労働条件を定められた基準がそれぞれの労働者の労働契約に及ぼす効力のことです。債務的効力とは協約の当事者を拘束する効力のことで、協定を締結した当事者に対して履行する義務が発生します。
一方で、労使協定は「労働条件の例外」として位置づけられている取り決めのため、労働基準法に基づいて締結される労働協約の方が優先されるのです。

労働協約と就業規則の関係
労働協約では、就業規則とは異なる労働条件を定められます。よって労働協約は、就業規則や労働契約よりも強い効力を持つといえるでしょう。
労働協約と就業規則の内容が重複したり、場合によっては内容が矛盾したりするケースがあるかもしれません。両者の内容に整合性がない場合は、労働協約が優先されます。
ただし、労働協約の有効期限を明示しないまま、実情と合っていない協約の内容となっている場合は、内容を見直したうえで、あらためて労働協約を締結しましょう。
労働関連規則の優先順位について
労働協約には強い効力がありますが、より強い効力を持つのが、労働基準法などの労働関連規則(法令)です。
労働関連規則と労働協約、就業規則、労働契約それぞれの規定が優先される順位は、以下のとおりです。
- 労働関連規則(法令)
- 労働協約
- 就業規則
- 労働契約
適用順位の例
東京都の時給を例に挙げて、労働協約や就業規則の適用順位について確認してみましょう。最低賃金法により、2024年9月現在東京都の最低時給は1113円です(2024年10月より1,163円 に引き上げ予定)。
以下の例では、各規則の整合性がとれていません。
労働関連規則(法令) | 労働協約 | 就業規則 | 労働契約 | |
---|---|---|---|---|
時給 | 1,113円 | 1,500円 | 1,400円 | 1,300円 |
適用される時給と対象者 | 労働組合員 | 労働組合員でない人 |
労働協約は原則として労働組合員に適用されるため、組合員である労働者の時給は1500円です。一方、労働組合に所属していなければ、就業規則のルールが適用されて時給は1,400円となります。
なお、労働契約の方が労働協約より有利な条件であっても、組合員は労働協約のルールにしたがう必要があります。
労働協約や労使協定に違反した場合の罰則
労働協約にはとても強い効力がありますが、法律に違反する行為は許されません。また、労使協定も、法律に定められている範囲で例外を定め、労働協約と同様に法律に違反できません。
万が一、労働協約が定めるルールを守らない場合は、労働基準法違反となり「30万円以下の罰金」を科される恐れがあります。さらに、労働組合法により権利侵害行為である「不当労働行為」に該当する場合には、損害賠償請求に発展する可能性もあるでしょう。
また、労使協定に違反した場合は、労働基準監督署による行政指導の対象となり、さらに悪質性が高いと刑事罰の対象となる恐れもあるため、注意が必要です。
労働協約を締結する際のポイント
続いて労働協約を締結する際に気をつけたい3つのポイントを詳しく解説します。
- 段階的に締結する
- 事前協議事項は慎重に検討する
- 規定は明確にする
段階的に締結する
労働協約を締結する際、場合によっては労働組合から複数の労働条件の改善を求められることも考えられます。しかし、改善要求があったとしても、一つずつ段階的に締結することが大切です。
たとえ複数の要求があったとしても、すべてを受け入れなければならないわけではありません。合意に達しない場合は、交渉を続け、合意した部分を順次締結していけば問題ないでしょう。
事前協議事項は慎重に検討する
事前協議事項とは、懲戒処分や人事異動などを企業が決定する前に、労働組合と事前協議するよう義務付けている事項のことです。
会社の合併・分割、事業譲渡など、企業全体に大きな影響を与えるような決定事項については、事前協議事項として労働協約に定めても問題ありません。ただし、従業員の懲戒処分や人事異動などの細かな内容を事前協議事項として定めてしまうと、企業の運営に大きな支障をきたす可能性があります。
事前に協議事項を定める際は、発生頻度を考慮したうえで慎重に検討しましょう。
規定は明確にする
労働協約を作成する際は、規定を明確にし、複数の解釈を避けることが大切です。あいまいな表現や複数の意味にとれるような表現、漠然とした内容は、のちに大きなトラブルに発展しかねません。
とくに、労働条件や給与、勤務時間、休暇制度については、具体的な数字や期間を用いて示しましょう。
労働協約と労使協定の違いを理解したうえで締結しましょう
労働協約は、企業が労働組合と締結する労働条件に関する取り決めのことです。労働条件の改善を目的に締結されます。労働協約は、原則として労働組合員のみに適用されると覚えておきましょう。
労働協約は、労使協定や就業規則よりも優先される点も理解しなければなりません。労働協約は、労使協定や就業規則との違いを理解したうえで締結することが大切です。また、合意できる内容であるかを十分に確認しましょう。
