解雇で退職金は必要? 不支給や減額、手続きも解説
解雇した場合、退職金は支払うべきなのでしょうか。解雇の種類によって退職金の扱いも異なります。
本記事では、解雇と退職金の関係について解説します。企業の経営層や人事担当者はぜひ参考にしてください。
解雇と退職金
解雇と退職金にはどのような関係があるのでしょうか。企業が従業員を解雇した際でも、退職金の支払いをするのが一般的です。
解雇とは
解雇とは、企業が従業員と結んだ雇用契約の解消を意味します。労働契約法では、客観的かつ合理的な理由や社会通念上相当とする理由がない限り、企業は労働者を解雇できないと定めています。そのため、企業は軽微な理由から従業員を解雇できません。しかし、逆をいえば正当な理由があれば解雇を認められるということです。
解雇予告が必要
解雇予告とは、企業が従業員を解雇する際に、30日前までに対象者に告知することを指します。企業が解雇することは、従業員に大きな不利益を与えるためです。このように、解雇予告は、従業員側が突然解雇された場合に被る不利益が大きいことに配慮して、企業に義務付けられています。しかし、解雇予告手当を支払うことで解雇予告しなくても解雇できるとしています。
解雇予告手当とは
解雇予告手当とは、企業が事前の予告をせずに従業員を解雇する際に、手当として支払うお金のことです。解雇予告手当は、解雇を通知する日から解雇日までの長さに応じて支払わなければならず、最大30日分の平均賃金を支払う必要があります。そのため、解雇を伝えた日から解雇日までの期間が短いほど、解雇予告手当の金額も大きくなります。
参照:『労働契約法 第16条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法 第20条、119条』e-Gov法令検索
参照:『しっかりマスター労働基準法ー解雇編ー』厚生労働省東京労働局
退職金とは
退職金とは、企業が退職者に支払うお金です。退職金は、通常の給与や賞与とは別で支給されます。退職金は、これまでの労務提供を労う意味合いがあります。退職金の金額は企業が自由に設定できますが、勤続年数や在職期間の業績などを考慮して支給されるのが一般的です。
会社都合か自己都合かは解雇理由による
解雇における退職金は、会社都合退職か自己都合退職かによって金額が異なる場合があります。退職が、会社都合と自己都合のどちらに該当するかは、解雇理由や状況によって異なります。解雇における退職金において金額差がある場合、会社都合退職のほうが退職金も多くなることが一般的です。
不当解雇の場合でも退職金は支払われる
企業が実施する解雇が不当解雇とされる場合でも、退職金の金額は基本的に変わりません。しかし、企業と従業員の話し合いや争いの中で、退職に応じることで、解決金を支払うこともあります。企業が解決金を支払う場合、相場としては賃金の最大6か月分程度と考えられています。
解雇における退職金の法的根拠はない
解雇における退職金の法的根拠はありません。法律上、退職金の支給については規定されておらず、企業の判断で自由に実施することができるからです。そのため、仮に企業が退職者に退職金を支払わなくても、法律違反にはなりません。
就業規則の規定が重要
法律には退職金に関する規定はありません。しかし、企業が就業規則に退職金規定を設けている場合は、内容に従って退職金を支払う義務があります。就業規則による退職金規定は、勤続年数などの条件をつけて定めるのが一般的です。
また、退職金は従業員の退職を理由として支給するお金であるため、基本的には解雇による退職であっても支払います。しかし、懲戒解雇は、従業員の問題行動に対する制裁であるため、退職金の減額や不支給を定めるケースもあります。
解雇種類別の退職金
解雇によって退職金の扱いは異なるのでしょうか。
普通解雇
普通解雇とは、企業が従業員との雇用契約を解消することを意味します。普通解雇は、会社都合による退職として扱われるのが一般的で、退職金も就業規則の規定に従います。従業員とトラブルが起きた場合は、状況に応じて退職金の支給について判断します。
懲戒解雇
懲戒解雇とは企業の懲戒処分でもっとも重い処分です。懲戒解雇における退職金も就業規則の内容に従います。しかし、懲戒解雇は従業員の問題行動に対する制裁であるため、退職金の不支給や減額など、別途内容を定めている企業も少なくありません。そのため、懲戒解雇の場合、退職金が通常通り支払われることは多くありません。
整理解雇
整理解雇は、企業の経営悪化などにより人員削減を目的とした解雇です。整理解雇であっても就業規則に従い、規定通り退職金を支払わなければなりません。整理解雇は、企業側の都合で一方的に解雇するため、従業員に大きな迷惑がかかります。
そのため、通常の退職金よりも多く支払うことになる場合もあります。また、整理解雇では、あらかじめ退職希望者を募ることがあります。このとき申し出てくれた退職希望者を対象に、通常の退職金とは別に「特別退職金」を支払うこともあります。
退職金の相場
退職金は、就業規則の規定によって支払われるお金です。そのため、退職金の金額は企業によって異なるため、明確な相場はありません。退職金の金額についてはできるだけ根拠を明確にし、混乱が起こらないようにしておくことが大切です。
不当解雇における退職金
不当解雇とは、企業が実施する解雇に対して、合理性が認められない解雇を指します。不当解雇と判断されると、企業にリスクがあります。とくに、慰謝料や解雇日以降の賃金を支払う必要が出てくることは大きなリスクとなるでしょう。そこで、不当解雇になる例やリスクを紹介します。
不当解雇に該当するケース
企業の解雇が不当解雇に該当する可能性があるケースをご紹介します。
- 理由に相当性がない解雇
- 解雇予告を行わない解雇
- 解雇予告手当を支払わない即時解雇
- 解雇理由に相当性がない解雇
- 従業員が企業の法律違反を指摘したことを理由とした解雇
- 労働組合への加入を理由とした解雇
- 性別を理由をする解雇
- 解雇できない期間(業務上の疾病などによる療養期間や産前産後休暇期間のその後30日間)の解雇など
本来、企業は従業員を簡単には解雇できません。解雇する際は、正当な理由や適切な手順で実施することを徹底しましょう。
参照:『労働契約法第16条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法第19条』e-Gov法令検索
不当解雇における退職金のリスク
企業の解雇が不当解雇に該当する可能性もゼロではありません。不当解雇に該当する場合には、トラブルを悪化させないために、退職金のほかに解決金や和解金を支払うケースもあります。解決金や和解金を支払う主なケースは以下の通りです。
- 企業と従業員による争い
- 従業員側が申し立てた労働審判
- 従業員が起こした裁判
上記のトラブルが起こると、退職金だけでなく解決金や和解金も支払わなければならない可能性が生じるため、注意が必要です。
解雇で退職金を支払う際の注意点や手続き
解雇した際も企業は退職金を支払う必要があります。そこで、退職金を支払う際の注意点や手続きをご紹介します。
就業規則の退職金規定を確認
解雇による退職金も、就業規則に従います。企業は、退職金規定を確認し、正しい対応を実施しましょう。解雇の種類によって、特別なルールなどが設けられている場合は、そちらを優先して手続きを進めます。
退職金の計算
就業規則の退職金規定における計算方法に従い、退職金を算出します。解雇の種類や、退職勧奨などによる会社都合退職と自己都合退職によっても異なるルールを規定している場合もあるので、注意しましょう。退職金の金額は、従業員とのトラブルにつながる可能性もあるため、正しく算出しなければなりません。
退職金支払いの手続き
退職金を支払う際は、さまざまな書類を扱うことになります。具体的には以下のような書類です。
- 退職所得の受給に関する申告書(従業員から受理)
- 特別徴収(給与所得者)異動届出書の提出(市区町村)
- 特別徴収した住民税の納付
- 源泉所得税の支払い
- 法定調書合計表を作成
- 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を作成
このように、さまざまな手順を踏んで支払うことになります。書類の扱いや適切な手順を理解し、トラブルのない退職金支払いに努めましょう。
まとめ
解雇をする場合でも、原則退職金は支払う必要があります。法律では退職金に関する規定がなく、企業に義務付けているわけではありません。しかし、就業規則で退職金規定を設けている企業が多いでしょう。企業は、就業規則の退職金規定に従い、トラブルのない退職金の対応に努めましょう。