契約社員向け雇用契約書の作成ルールとは【5つのチェックポイント】正社員登用についても解説
契約社員の採用において、重要な役割を果たすのが雇用契約書です。法的なリスクを避け、契約社員が安心して働ける環境を整えるためにも、雇用契約書の作成時には特に注意すべき点があります。
本記事では、契約社員向けの雇用契約書を作成するうえで押さえておきたい5つのチェックポイントをご紹介します。契約期間や更新の有無、正社員登用の留意点なども解説するので、お役立てください。
契約社員の定義とは
契約社員の定義とは一般的に契約社員は、雇用期間の定めがある「有期労働契約」を締結した労働者を指します。ただし「契約社員」という雇用形態は法的に定義されていません。
契約社員という呼び方は通称であり、法律上は「有期契約労働者」の一つとして扱われることが多いです。契約社員の仕事内容や労働時間、給与体系、責任範囲などの労働条件は企業のルールに沿って決められます。
契約社員の雇用期間は、労働基準法において原則として最長3年、特定の条件がある場合は最長5年です。半年間や1年間の労働契約を締結し、都度更新・終了する企業が多くあります。
※2012年の労働契約法の改正により適用された「無期転換ルール」により、期間の定めのない「無期雇用契約社員」も実際には存在します。一般的な解釈を考慮して、本記事ではこれ以降、契約社員が有期雇用である前提で解説を進めます。
参照:『労働基準法』e-Gov法令検索
参照:『さまざまな雇用形態』厚生労働省
参照:『無期転換ルールについて』厚生労働省
正社員やパートタイムとの違い
契約社員と正社員、パートタイム労働者との違いは、以下の通りです。
区分 | 雇用形態 | 雇用期間 | 勤務時間 | ||
---|---|---|---|---|---|
正規雇用 | 直接雇用 | 正社員 | 無期 | フルタイム | |
非正規雇用 | 契約社員 | 有期 | フルタイムが多い | ||
嘱託社員 | |||||
パート・ アルバイト | 有期・ 無期 | フルタイムもしくはパートタイム |
正社員とは、雇用期間を定めずに企業と労働契約を締結して働く人を指します。
正社員も契約社員と同様に法律上の定義はありません。労働基準法においては、契約社員やパートタイム、アルバイトもすべて同じ「労働者」として扱われています。
企業は労働者を区分するために、それぞれ独自の基準を設けています。その中で、多くの企業が一般的に「フルタイムで働く無期雇用の労働者」を正社員と呼んでいます。
ただし、近年では従業員のワークライフバランスを重視する働き方が注目されている影響で、画一的な雇用区分は変化してきました。、短時間労働やフレックスタイム制が適用されている正社員を設けている場合もあり、細かな就業規則は組織によって異なります。
パート・アルバイトは、正社員と比べて短時間で働く非正規雇用で、日数や就業期間が限定されていることが一般的です。個人の希望に合わせて、期間や月間の勤務日数、勤務時間などの労働条件を柔軟に調整できます。
アルバイトとパートはどちらも法律上「パートタイム労働者」として区分されており、両者に明確な違いはありません。
契約社員の雇用契約書は必ず必要?
雇用契約書は、企業と労働者とで交わされる雇用契約の内容を明示するための書類です。
雇用期間や業務内容、就業時間など労働条件にまつわる項目が記載されており、企業と労働者双方の署名・捺印によって合意を証明できます。雇用契約書を交わした時点で、労働者には労働に従事する義務が、企業側には労働者に対して賃金を支払う義務が発生します。
民法第623条により、雇用契約は当事者の合意のみで効力を発揮します。つまり、口頭であっても企業と労働者の間で合意があれば、契約が成立するのです。これは、正社員に限らず、すべての雇用形態において共通する点です。
ただし、口頭での伝達や確認、契約のみではトラブルに発展する可能性もあるため、雇用契約書を作成するのが望ましいでしょう。
なお、雇用契約書と似た書類に労働条件通知書があります。労働条件通知書とは、企業が労働者と雇用契約を締結する際、労働者に対して通知義務のある事項を記載した書類です。作成義務がある雇用契約書とは異なり、労働条件通知書は作成して労働者へ書面で交付することが義務づけられています。
雇用契約書と労働条件通知書は、1つの書類に必要項目をまとめて作成し、交付することができます。両者をまとめる場合は「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成しましょう。
契約社員向け雇用契約書で注意したい5つのチェックポイント
契約社員向けの雇用契約書を作成する際に注意すべきポイントを紹介します。
- 契約期間は最長3年
- 通算5年で無期転換
- 所定労働時間は原則として1日8時間以内・週40時間以内
- 同一労働同一賃金
- 正社員登用基準の明確化
契約期間は最長3年
契約社員の契約期間は、労働基準法第14条において最長3年と定められています。ただし、専門的で高度な技術・知識が必要な職種や満60歳以上の労働者と契約を締結する場合などは、最長5年とすることが可能です。
雇用契約書には、契約期間をはじめ、契約更新の有無や契約更新をする際の判断基準についても明示する必要があります。
原則として契約期間を過ぎると自動的に労働契約は終了します。しかし、3回以上契約が更新されていたり、1年を超えて継続的に勤務していたりするケースでは、契約を更新しないのであれば、30日前までに予告しなければなりません。
- 3回以上契約が更新されている
- 1年を超えて継続勤務している
また、雇用契約書において契約期間を定めた以上、その期間中はやむを得ない事情がない限り解雇できないと理解しておきましょう。
参照:『労働基準法 第14条』e-Gov法令検索
参照:『さまざまな雇用形態』厚生労働省
参照:『無期転換ルールについて』厚生労働省
参照:『労働契約の終了に関するルール』厚生労働省
通算5年で無期転換
労働契約法第18条に基づいて、契約社員が契約更新を繰り返し、通算で雇用期間が5年を経過した場合は無期雇用へ転換できます。契約社員に限らず、有期雇用契約を締結しているアルバイトやパートタイムなども対象です。
たとえば、雇用期間を3年に設定している契約社員を、契約終了時に再び雇用期間を3年として更新した場合、通算5年を超える雇用とみなされます。
契約社員を雇用する際は、契約期間が通算5年を超えないように管理するか、無期雇用に転換する可能性があることを踏まえて、労働条件を設定しておくとよいでしょう。
参照:『労働契約法 第18条』e-Gov法令検索
参照:『さまざまな雇用形態』厚生労働省
参照:『無期転換ルールについて』厚生労働省
所定労働時間は原則として1日8時間以内・週40時間以内
所定労働時間は、原則として1日8時間以内かつ週40時間以内に収める必要があります。「勤務時間8時30分から19時30分/休憩2時間」といった所定労働時間は、1日の労働時間が9時間となってしまうため、基本的に設定できません。
所定労働時間とは、企業ごとに定められた従業員の労働時間のことです。就業規則や雇用契約書などに記載された始業時刻から終業時刻までの時間(休憩時間を除く)を指し、各企業が法律の範囲内で独自に設定できます。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金の考えに基づき、正社員と契約社員で、同じ職務で同様の仕事量をこなしている場合、待遇差をつけるのは禁止されています。
同一労働同一賃金とは「同じ労働をしていれば、同じ賃金が発生する」という考え方です。職務内容が異なる場合は待遇差をつけても問題ありませんが、雇用形態が異なるという不合理な理由だけで差をつけてはなりません。
待遇差について合理的に説明できなければ、格差をなくすための施策を検討する必要があります。賃金だけでなく休暇や福利厚生制度、教育制度も改善すべき待遇に含まれます。
正社員登用基準の明確化
契約社員として働く従業員の中には、正社員登用を目指している方もいるでしょう。
労働基準法第15条により、雇用主は従業員に対して、雇用契約締結時に労働条件を明示しなければならないと定められています。
現状の法律では、正社員登用基準を明示する義務はなく、記載しなくても違法性はありません。しかし、雇用契約書に正社員登用の条件を記載しておくと、トラブルを未然に防いだり、従業員の仕事への意欲を高めたりする効果が期待できるでしょう。
契約社員向け雇用契約書で押さえておきたい明示事項
ここからは、契約社員向けの雇用契約書を作成する際に押さえておきたい明示事項を解説します。
絶対的明示事項
絶対的明示事項とは、労働条件通知書に記載しなければならない項目です。以下の事項の中で、昇給に関する事項を除いて、書面の交付により明示しなければなりません。
- 労働契約の期間
- 就業場所
- 従事する業務の内容
- 始業時刻・終業時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 賃金の決定・計算方法
- 賃金の支払い方法
- 賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項 (解雇事由を含む)
- 昇給に関する事項
- 契約更新の有無、契約更新ありの場合は更新するか否かの判断基準
2024年4月1日以降は、法改正により「就業場所・業務の変更の範囲」も追加されています。
また、契約社員を含む有期雇用の労働者に対しては、以下の項目も明示が必要です。
- 更新上限の有無と内容
- 無期転換の申込機会(無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと)
- 無期転換後の労働条件
相対的明示事項
相対的明示事項とは、会社独自の定めがある場合に、書面または口頭で明示しなければならない項目であり、以下が該当します。
- 休職に関する事項
- 労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 退職金に関する事項
- 臨時に支払われる賃金に関する事項
契約社員の雇用契約書作成における注意点
雇用契約書は任意で作成・交付する文書であり、記載すべき項目に明確な規定はありせん。ただし、雇用契約書を作成する際には、以下のポイントに注意する必要があります。
- 雇用形態ごとに雛形・テンプレートを用意する
- 正社員登用に際して新たな契約書を交わす
- 更新の有無、判断基準、雇用終了措置を明確にする
雇用形態ごとに雛形・テンプレートを用意する
雇用契約書の雛形を準備しておくと、急な作成にも対応できます。それぞれの企業で必要な項目をあらかじめ精査しておくことはもちろん、正社員や契約社員などの雇用形態別にテンプレートを用意しておくと迅速に作成を進められます。
契約社員の雇用契約書に記載すべき以下の項目例を参考にテンプレートを準備しましょう。
- 目的
- 期間
- 就業場所および従事する業務
- 就業時間および休憩時間・休日および休暇
- 賃金・賃金の支払い日
- 契約更新に関する事項
- 退職および解雇に関する事項
- 雇用管理の改善などに関する相談窓口
正社員登用に際して新たな契約書を交わす
契約社員を含む有期雇用労働者を、正社員として登用する可能性もあるでしょう。
正社員になると、対象となる従業員の労働条件は大きく変わります。正社員登用に際しては、新たな雇用契約書や労働条件通知書を作成し、具体的な労働条件を告知することが大切です。
更新の有無、判断基準、雇用終了措置を明確にする
契約社員を雇用する際は、以下のポイントを明確にしましょう。
明確にすべきポイント | 具体的な記載例 |
---|---|
契約更新の有無 | ・自動的に更新する ・更新する場合がある ・契約更新はない |
契約更新する際の判断基準 | ・契約期間満了時の業務量により判断する ・労働者の勤務成績や態度により判断する ・労働者の能力により判断する ・会社の経営状況により判断する ・従事している業務の進捗状況により判断する |
雇用終了措置 | ・雇用期間が終了したとき ・会社が中途解約を申し出て労働者が承認したとき ・労働者が退職を申し出て会社が承認したとき ・欠勤が20日以上続いたとき |
無期雇用の正社員とは大きく異なるポイントなので、端的かつ具体的に記載してください。
契約社員向け雇用契約書のサイン後に辞退されたら?
雇用契約書にサインしたあとに、労働者が辞退を申し出ることもあるかもしれません。基本的には、雇用契約書を交わすことによって雇用契約は成立します。
契約社員のような有期雇用契約の場合には、原則としてやむを得ない事由がなければ、期間中の契約解除は労使双方ともにできません。しかし、契約期間の初日から1年を経過したあとであれば、労働基準法附則第137条の定めにより、契約社員はいつでも自由に契約を解除できます。立場の弱い労働者を保護するためです。
なお、やむを得ない事由は明文化されていないため、必要があれば法律の専門家へ相談しましょう。
無期雇用の正社員の場合は法律上明文規定はなく、いつでも契約を解除できます。一般的には解約の申し入れ後2週間で雇用契約を終了(退職)したと扱われるため、注意しましょう。
参照:『民法 第628条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法附則 第137条』e-Gov法令検索
契約社員向け雇用契約書は5つのポイントに配慮(まとめ)
契約社員に限らず、すべての雇用形態において、雇用契約書の作成と交付は義務づけられていません。ただし、口頭のみでの伝達や確認、契約はのちに従業員とのトラブルにつながる恐れがあるため、雇用契約書を作成するのが望ましいといえます。
本記事で紹介した5つのチェックポイントを参考にしながら、自社の実態に即した契約社員向け雇用契約書のテンプレートを作成していきましょう。
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