75歳以上の従業員は雇用保険に加入できる? 条件や手続きの方法を解説
2021年に施行された『改正高年齢者雇用安定法』によって、高年齢者の雇用が活性化しています。
75歳以上の高年齢者を雇い入れる企業は、高年齢者の雇用保険や社会保険の加入条件と手続きについて、的確に把握しておくことが重要です。
そこで本記事では「75歳以上の高年齢者は、雇用保険や社会保険の加入が可能なのか?」「どのような手続きが必要なのか?」といった疑問にお答えします。雇用中に従業員の年齢区分が変わった際の対応についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
「改正高年齢者雇用安定法」について
まずは高年齢者雇用安定法について、改正後の内容を詳しくご紹介します。
2021年4月1日から「高年齢者雇用安定法」が改正された
2021年4月1日、高年齢者の雇用促進を目的として『高年齢者雇用安定法』が改正されました。この法改正により、企業には以下の努力義務が示されています。
- 70歳までの定年の引上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託や出資(資金提供)などをする団体が行う社会貢献事業
今後も各企業には、上記の内容を踏まえた積極的な高年齢者の人材活用が求められていくでしょう。
高年齢者雇用安定法が改正された背景
日本では少子高齢化の深刻化により、労働人口の減少が危惧されています。総務省の試算によると、2021年から2050年にかけて日本の労働人口は29.2%減少すると見込まれています。労働者不足の対策は、国や企業にとって大きな課題といえるでしょう。
参照:『令和4年版 情報通信白書│生産年齢人口の減少』総務省
高年齢者雇用安定法の改正は、そんな労働人口の減少に対する措置の一環として実施されたものです。労働意欲のある高年齢者を企業が有効活用できるよう、年齢を重ねた人が働きやすくなるような制度が整備されました。
また、人生経験豊富な高年齢者の雇用には、企業にとっても多くのメリットがあります。高年齢者ならではの経験やノウハウ、人脈は、会社の成長を大きく助けてくれるでしょう。
高年齢者雇用安定法は70歳までの定年引き上げを義務づけるものではない
現行の高年齢者雇用安定法は、70歳まで定年を引き上げることを義務づけるものではありません。「70歳までの定年の引上げ」はあくまで努力義務の一部であり、実際の判断はそれぞれの会社に委ねられています。
新規で70歳以上の高年齢者を雇用した場合の対応方法
人手不足の解消や職場の活性化のために高年齢者を積極的に採用する企業は、今後ますます増えていくでしょう。では、70歳以上の高年齢者を新たに雇い入れる場合、なにか特別な手続きは必要なのでしょうか。
「70歳以上被用者該当届」の提出が必要
70歳以上の従業員を雇用する場合は『70歳以上被用者該当届』の提出が必要です。厚生年金の受給者の場合、給与にあわせて老齢厚生年金を減額する必要性が生じます。70歳以上被用者該当届は、該当者の老齢厚生年金をいくら減額すればよいのか確認するために用いられます。
75歳未満の場合には「健康保険被保険者資格取得届」も必要
75歳未満の従業員を雇い入れる際は『健康保険被保険者資格取得届』も提出しましょう。なぜなら、健康保険は75歳から『後期高年齢者医療制度』に移行するためです。従業員が75歳に達するまでは健康保険の範囲内であり、若者や中高年と同様に、健康保険被保険者資格取得届が必要とされます。
「70歳以上被用者該当届」の提出が必要になる条件
以下の条件を満たす従業員は『70歳以上被用者該当届』の提出が必要です。
- 70歳以上である
- 過去に厚生年金の被保険者だった
- 厚生年金の適用事業所に勤務し、適用除外に該当していない
適用除外とは、以下の条件に当てはまる人を指します。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満
- 雇用期間が2か月以上見込まれていない
- 賃金月額が88,000円未満
- 学生である
上記のいずれかに当てはまる場合には、70歳以上被用者該当届の提出は不要です。
「70歳以上被用者該当届」の提出期限
70歳以上被用者該当届は、従業員を雇用した日から5日以内に提出する必要があります。老齢厚生年金の減額にかかわる書類であるため、提出先は管轄の年金事務所です。年金事務所の窓口へ直接持参するほか、郵送や電子申請などの手続き方法も用意されています。
継続雇用している従業員が70歳以上になった場合の対応方法
最近は働く意欲が高い高年齢者が増えているため、70歳以降も継続雇用を希望する従業員も多いでしょう。70歳以上も引き続き働く従業員に対して、企業がとるべき対応を解説します。
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」の提出
厚生年金の資格を喪失するのは、雇用している従業員の年齢が70歳に達する日の前日です。
企業は、従業員の70歳の誕生日から起算して5日以内に『健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届』『厚生年金保険70歳以上被用者該当届』を提出する必要があります。
条件を満たせば届出の省略が可能
2019年4月より、以下の条件を満たすことで、従業員が70歳になった際の届出を省略できるようになりました。
- 70歳到達日以前から適用事業所に使用されており、70歳到達日以降も引き続き同一の適用事業所に使用される被保険者
- 70歳到達日時点の標準報酬月額相当額が、70歳到達日の前日における標準報酬月額と同額である被保険者
要するに「70歳を超えても特別に報酬や待遇に変化がない場合には、届出の省略が可能」ということです。
雇用保険は「65歳以上」の労働者も加入対象
雇用保険も含め、社会保険制度は定期的に見直しが行われています。たとえば、2017年には雇用保険の適用範囲が拡大されました。
雇用保険の対象は拡大している
2017年1月1日、雇用保険の対象範囲が65歳以上に拡大されました。65歳以上の従業員は高年齢被保険者として、雇用保険の適用対象とみなされます。
なお、年齢上限はないため、従業員の年齢にかかわらず雇用保険への加入が必要です。
65歳以上の雇用保険の適用条件
65歳以上の雇用保険の加入条件は、そのほかの年代と変わりありません。以下の2つの条件を満たす従業員は、65歳以上でも雇用保険に加入できます。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上
65歳以上の従業員における雇用保険の加入手続き
従来は、もともと雇用保険に加入していた従業員のみ、65歳以降も雇用保険の加入資格を得ることができました。
しかし、2017年以降は、65歳以降に新たに雇用される従業員にも雇用保険が適用されます。では、65歳以上の従業員を新たに雇い入れる場合、企業が特別な対応をとる必要はあるのでしょうか。
「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する
雇用保険の加入においては、65歳以上・未満で手続き方法の違いはありません。以下の2つの条件を満たした65歳以上の従業員については、65歳未満の従業員の場合と同様に雇用保険の加入手続きを行います。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上
従業員を雇用した日の翌月10日までに、『雇用保険被保険者資格届』を提出してください。
高年齢者を雇用する際の手続きにおける注意点
高年齢者の雇用における手続きでは、以下の点に注意しましょう。
提出書類と提出期限の間違いに注意
高年齢者を雇用する場合は、提出書類と提出期限を的確に把握することが大切です。雇用保険や厚生年金など制度の種類によって、提出する書類やタイミングは異なります。
本記事の内容を参考に、手続きの詳細を事前に確認しておきましょう。
雇用保険は75歳以上でも加入可能
雇用保険の加入条件には年齢制限がなく、75歳以上でも条件を満たしさえすれば問題なく加入できます。また、2017年に雇用保険の適用範囲が拡大されてからは、新たに雇用される65歳以上の人も雇用保険に加入できるようになりました。
ただし、高年齢者を雇用する場合、保険の制度によっては特別な手続きが必要になることもあります。雇用保険や厚生年金など、制度ごとに必要な書類や提出期限を事前に把握し、スムーズな手続きを実現しましょう。
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