研修に使える助成金について|種類と概要、活用する際の注意点を徹底解説
働き手不足が年々深刻化するなか、社員研修は、社員の定着率やエンゲージメントの向上のために重要な役割を持ちます。研修を実施するうえで活用したいのが、助成金制度です。
本記事では、企業が研修で活用できる助成金の種類や概要について詳しくご紹介します。記事の後半では、助成金を活用するメリットやデメリット、注意点も解説するので、ぜひ参考にしてください。
社員研修で助成金は活用できる?
企業における社員研修では、助成金を活用できます。
厚生労働省によって、さまざまな助成金制度が設定・運用されています。助成金には複数の種類が存在しますが、本記事では社員のキャリア開発やスキルアップを目的とする助成金を紹介します。
助成金の活用によって研修にかかるコストが軽減され、社員や従業員をより効果的に教育、育成できるでしょう。
社員研修で活用できる助成金は2種類
社員研修で活用できる助成金には、主に次の2種類があります。
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
それぞれの助成金の概要を詳しくご紹介します。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、 非正規労働者の企業でのキャリアアップを促進するための助成金制度です。対象となる非正規雇用者には、契約社員やパート、アルバイトも含まれます。
なお、令和6年度からは短時間労働者労働時間延長コースに代わって、社会保険適用時処遇改善コースが導入されます。
キャリアアップ助成金の6つのコース |
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1.正社員化コース 2.障害者正社員化コース 3.賃金規定等共通化コース 4.賃金規定等改定コース 5.賞与・退職金制度導入コース 6.社会保険適用時処遇改善コース |
さまざまな雇用形態の従業員がいる企業をはじめ、資金やリソースに限りがある中小企業や従業員のキャリアパスについて考えている企業におすすめです。従業員のスキルアップやキャリア開発を促進できるでしょう。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、労働者の職業能力開発支援の実施が対象となる助成金制度です。人材開発支援助成金には、次の7つのコースが用意されています。
人材開発支援助成金の7つのコース |
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1.人材育成支援コース 2.教育訓練休暇等付与コース 3.人への投資促進コース 4.事業展開等リスキリング支援コース 5.建設労働者認定訓練コース 6.建設労働者技能実習コース 7.障害者職業能力開発コース |
助成金の上限額はコースなどによって異なり、研修にかかる費用の一部を助成する制度です。基本は座学の研修ですが、研修内容によってはOJTも助成金の対象です。助成金を受給するためには、研修計画書の提出や研修内容を報告する必要があります。
キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金の違いは対象者と目的
キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金は、一見同じような助成金制度に思われがちですが、対象者や目的が異なります。
対象者と目的 | |
---|---|
キャリアアップ助成金 | 非正規労働者の待遇改善 |
人材開発支援助成金 | 労働者の職業能力開発の促進 |
キャリアアップ助成金は、非正規労働者を正規雇用に引き上げることが目的です。
一方で、人材開発支援助成金は、労働者の業務に関連する職業訓練の助成を目的としています。
キャリアアップ助成金のコース
2023年4月現在のキャリアアップ助成金のコースを詳しく見ていきましょう。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長コース ※令和5年度で廃止
正社員化コース
正社員化コースとは、非正規雇用から正社員への転換や直接雇用した際に支給される助成金です。非正規社員を正社員にするための研修や教育、採用にかかる費用が助成されます。中小企業と大企業において、補助金の支給額が異なるため確認しておきましょう。
中小企業の場合 | 大企業の場合 | |
---|---|---|
有期雇用→正規雇用 | 57万円 | 42万7,500円 |
無期雇用→正規雇用 | 28万5,000円 | 21万3,750円 |
そのほか、一定の条件を満たすことで助成額が加算されるのも特徴です。
障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、障害者を正社員として採用するための助成金制度です。43.5人以上の労働者を雇用する企業は、1人以上の障害者雇用が義務づけられています。
障害者正社員化コースでは、障害者に必要な研修や支援にかかる費用を補助するだけでなく、就労支援にも取り組むことを目的としています。()内は大企業の場合の支給額です。
支給対象者 | 条件 | 支給金額 |
---|---|---|
・重度身体障害者 ・重度知的障害者 ・精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 (90万円) |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 (45万円) | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 (45万円) | |
・重度以外の身体障害者 ・重度以外の知的障害者 ・発達障害者 ・難病患者 ・高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 (67.5万円) |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 (33万円) | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 (33万円) |
参照: 『キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内』厚生労働省(令和6年)
賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースとは、有期雇用労働者などに対して、正規雇用労働者と共通する職務などに応じた賃金規定を新たに導入することで支給される助成金です。
1事業所あたり1回のみ支給され、助成額は次のとおりです。
企業規模 | 支給額 |
---|---|
中小企業 | 60万円 |
大企業 | 45万円 |
賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、企業内の賃金や労働条件の均一化を支援する助成金制度です。事業者が非正規労働者などの賃金を改定し、3%以上増額させた場合に助成金が支給されます。
1人あたりの助成額は次のとおりです。
賃金改定率3%以上5%未満 | 賃金改定率5%以上 | |
---|---|---|
中小企業 | 5万円 | 6万5,000円 |
大企業 | 3万3,000円 | 4万3,000円 |
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースは、賞与や退職金などの福利厚生制度の導入を支援する助成金制度です。有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進することを目的としています。賞与や退職金制度を設けて、支給、または積み立てを実施することで助成金が交付されます。
賞与または退職金制度の導入 | 賞与及び退職金制度を同時に導入 | |
---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 56万8,000円 |
大企業 | 30万円 | 42万6,000円 |
短時間労働者労働時間延長コース ※令和5年度で廃止
短時間労働者労働時間延長コースでは、有期雇用労働者などの週所定労働時間を延長し、社会保険の被保険者とした場合に助成金が支給されます。
1人あたりの助成金は次のとおりです。
- 週所定労働時間を3時間以上延長し、新たに社会保険を適用した場合
3時間以上延長 | |
---|---|
中小企業 | 23万7,000円 |
大企業 | 17万8,000円 |
- 従業員の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合
1時間以上2時間未満延長 | 2時間以上3時間未満延長 | |
---|---|---|
中小企業 | 5万8,000円 | 11万7,000円 |
大企業 | 4万3,000円 | 8万8,000円 |
※令和5年度で廃止。令和6年度からは社会保険適用時処遇改善コースが導入。
参考:『キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)厚生労働省
人材開発支援助成金のコース
2023年4月現在の人材開発支援助成金コースの概要をご紹介します。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
人材育成支援コース
人材育成支援コースとは、職務に関連した知識・技能を習得させるための研修などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
人材育成支援コースには、主に次の3つの訓練があります。
コースの内容 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
人材育成訓練 | 職務に関連する10時間以上の訓練 | 職務に関連した知識・技能を習得させるため |
認定実習併用職業訓練 | OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練 | 中核人材を育てるため |
有期実習型訓練 | 有期契約労働者などに対する訓練 | 有期契約労働者などを正規雇用に転換させるため |
参考:『人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(詳細版)』厚生労働省
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースとは、導入経費と教育訓練休暇中の賃金の一部を助成する制度です。企業や組織が、従業員に対して教育や訓練を目的とした休暇や休業を付与した場合に助成されます。
支給対象となる制度として「教育訓練休暇制度」と「長期教育訓練休暇制度」の2種類があります。
支給対象となる制度 | 賃金助成(1人1日当たり) | 経費助成 |
---|---|---|
教育訓練休暇制度 | – | 30万円(36万円) |
長期教育訓練休暇制度 | 6,000円(7,200円) | 20万円(24万円) |
※()内は生産性要件を満たした場合の支給額
参考:『人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース)のご案内(詳細版)』厚生労働省
人への投資促進コース
人への投資促進コースとは、従業員の職務に関する専門的な知識と技術の向上・資格取得を目的に、訓練中の賃金や経費の一部を助成する制度です。国民からの声を反映し、5つの分野の助成が新設されました。
人への投資促進コースの対象訓練 |
---|
1.高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練 2.情報技術分野認定実習併用職業訓練 3.定額制訓練 4.自発的職業能力開発訓練 5.長期教育訓練休暇等制度 |
これまでは対面による訓練が原則でしたが、eラーニングや通信制講座も対象となりました。教育や研修の時間が割けなかった企業をはじめ、コストが課題となって研修を実施できなかった企業におすすめの助成金制度です。1事業所が1年度あたりに受給できる限度額は、1,500万円です。
また、経費助成などの限度額はそれぞれの対象訓練によって異なるため、厚生労働省の『人材開発支援助成金 人への投資促進コースのご案内』を確認してみましょう。
参考:『人材開発支援助成金 人への投資促進コースのご案内(詳細版)』厚生労働省
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースとは、新規事業の立ち上げなどの事業展開にともない、必要となる知識や技能を習得させる際に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
1人1訓練あたりのOFF-JTにかかる経費の助成限度額は、次のとおりです。
企業規模 | 10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 |
---|---|---|---|
中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
参考:『人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)』厚生労働省
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースとは、中小建設事業主や中小建設事業主団体に対して、訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。訓練経費の補助や労働者に支払う予定だった給料の一部が助成されます。
助成対象 |
---|
・認定職業訓練の経費 ・指導員訓練のうち建設関連の訓練経費 ・建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の賃金助成 |
助成金の支給額や支給条件に関しては、厚生労働省の『建設事業主等に対する助成金のご案内』をご確認ください。
参考:『建設事業主等に対する助成金 パンフレット』厚生労働省
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースとは、建設労働者の雇用の改善、技能の向上を目的とし、技能講習や特別教育の機会を設けた中小建設事業主や中小建設事業主団体に対し、経費や賃金の一部を助成する制度です。
助成金の支給額や支給条件に関しては、厚生労働省の『建設事業主等に対する助成金のご案内』をご確認ください。
参考:『建設事業主等に対する助成金 パンフレット』厚生労働省
障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースとは、障害者職業能力開発訓練施設などの設置にかかる費用、そして障害者職業能力開発訓練運営の人件費、教材費などが助成対象となる制度です。助成金の支給額や支給条件に関しては、厚生労働省の『VII 障害者職業能力開発コース』をご確認ください。
参考:『人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)のご案内』厚生労働省
研修で助成金を使用するメリット・デメリット
研修に関する助成金を利用するメリット・デメリットをご紹介します。
助成金を利用するメリット
研修で助成金を利用するメリットは、次のとおりです。
- 経済的負担の軽減
- 研修の質の向上
- 従業員のモチベーション向上
助成金の活用によって研修にかかる費用の一部が補助されるため、低コストの研修を実現可能です。これまでコストがネックとなって研修や教育を思うように実施できていなかった企業も、経済的負担を軽減でき、研修を実施しやすくなるでしょう。
従業員のスキルアップをはかることで、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上が期待でき、結果として企業の業績向上へとつながります。
助成金を利用するデメリット
研修で助成金を利用するデメリットは、次のとおりです。
- 助成金の条件や申請が複雑でわかりづらい
- 助成金の返還を要求される可能性がある
- 助成金を利用する際には慎重に判断する必要がある
助成金の条件や申請方法はとても複雑です。年度ごとに内容が異なる場合もあるため、申請時には要件などを確認しなければなりません。
新規雇用者の早期離職や制度を実行できなかった場合などには、助成金の返還を求められるケースもあるため注意が必要です。助成金を申請する際は、助成金の条件に合わせて柔軟に対応しましょう。
研修で助成金を活用する際の注意点
研修で助成金を活用する際に注意すべきポイントをご紹介します。
- 助成金によって対象者が異なる
- 手続きの手順が煩雑
- 募集期間が設けられている
- 書類漏れで受理されない場合がある
助成金によって対象者が異なる
研修で助成金を利用する際には、助成金の種類によって対象者が異なるため注意が必要です。助成金を活用する前に、対象者の条件や制度の詳細をよく確認し、自社や参加者が対象者に該当するかをチェックしましょう。
手続きの手順が煩雑
助成金を利用する際の手続きはとても複雑で、用意すべき申請書類や必要書類の数も多くなりがちです。万が一、書類の不備や提出期限の超過などがあると、助成金の支給が遅れたり、不支給になったりする可能性もあります。
募集期間が設けられている
助成金の申請には期限が設けられています。期間外の申請はできないため、事前に対象期間を確認しておきましょう。申請するタイミングによっては受給までに時間がかかる場合もありますので、なるべく早めに申請手続きを行うとよいでしょう。
書類不備で受理されない場合がある
万が一、申請書類に漏れなどがある場合、助成金申請が受理されないケースも考えられます。
まずは必要な書類をしっかりと確認し、申請書類に不備がないよう細心の注意を払わなければなりません。申請期間内に書類を提出するスケジュール管理も重要です。申請に向けて計画的に準備をしましょう。
効果的な研修を実現するためには助成金の活用が必須
研修には多くの助成金制度があります。助成金制度を上手に活用することで、経費の削減や質の高い教育体制の整備など、従業員や企業はさまざまなメリットを得られるでしょう。
ただし、助成金の対象者や受給条件は常に変化しているため、最新の情報を確認し、正確に申請手続きを行うことが必要です。助成金の概要を詳しく確認し、自社の研修計画に合致しているかを慎重に検討しましょう。
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