健康保険から国民健康保険への切り替え|手続きや空白期間についても解説
健康保険から国民健康保険へ切り替える際は、本人が退職後14日以内に手続きを行わなければなりません。
日本では国民全員がいずれかの健康保険に加入する義務があるため、切り替え手続きの期限を過ぎてしまったり、切り替えを行わずに放置していたりすると10万円の過料や過去2年分の保険料を請求される場合があります。
本記事では、健康保険から国民健康保険への切り替えについて、タイミングや手順、注意点などを紹介します。企業の人事労務担当者や、従業員として働く方もぜひ参考にしてください。
健康保険を切り替えるケース
従業員が会社を退職した際、健康保険から切り替えて、国民健康保険に加入する場合があります。
企業の健康保険は会社員が加入する保険制度であり、国民健康保険は市区町村が運営する医療保険制度です。企業に勤めていない人や健康保険に加入していない人が対象です。
健康保険と国民健康保険の違い
健康保険と国民健康保険にはどのような違いがあるのでしょうか。2つの制度は、両方とも社会保険の一部として、日本の公的医療保険を支える役割を果たしています。
公的医療保険は、大きく分けると以下の3つに分類できます。
- 健康保険(被用者保険)
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療制度
健康保険(被用者保険)とは
健康保険とは、企業に加入義務がある公的な医療保険制度です。
健康保険に加入している企業に勤める会社員や一定の条件を満たす非正規雇用社員を「被保険者」と呼び、健康保険のさまざまな制度を利用できます。
健康保険では、病気・ケガや出産などに対して、医療費負担の軽減や手当金、出産手当金や出産育児一時金などを支給しており、被保険者の生活を手厚く保障しています。
また、健康保険の組合には複数の種類があり、勤務先によって加入先が異なります。
健康保険組合 | 大企業などが組織する |
---|---|
全国健康保険協会 (協会けんぽ) | 全国健康保険協会(公法人)が管轄し、多くの中小企業が加入する |
共済組合 | 公務員や私立の教職員などが加入する |
国民健康保険とは
国民健康保険は、都道府県や市区町村が運営する医療保険制度です。国民健康保険の加入対象には、健康保険に加入していない自営業や無職の方が該当します。
国民健康保険では、加入者本人が保険料を負担します。国民健康保険でも、手当や給付のほか、医療費の負担を軽減してくれる保障があります。
健康保険から国民健康保険への切り替えのタイミング
健康保険から国民健康保険へ切り替えを行うタイミングについて解説します。
退職したらすぐ切り替え手続きをする
健康保険から国民健康保険へ切り替えるタイミングは、退職した際にすぐに行うのが一般的です。
健康保険では、企業を退職すると「資格喪失」の手続きが行われます。そのため、企業を退職したまま切り替え手続きをしないで放置していると、医療保険に未加入となってしまいます。
医療保険に加入していない状態では、医療機関を受診した際に全額自己負担となってしまうため、早めに国民健康保険へ切り替えましょう。企業側は退職する従業員に対して、国民健康保険への加入について声かけすることが大切です。
切り替えの手続き期限は14日
健康保険から国民健康保険への切り替え手続きの期限は、退職日の翌日から14日以内です。そのため、速やかに手続きを行わなければなりません。
健康保険から国民健康保険へ切り替え手続きの手順
健康保険から国民健康保険へ切り替えを行う際の手順を紹介します。
健康保険からの切り替えにおける必要書類
健康保険から国民健康保険へ切り替える際に申請に必要な書類は以下の通りです。
- 国民健康保険資格取得届
- 健康保険資格喪失証明書
- 本人確認書類(顔写真つき)
- マイナンバー確認書類
国民健康保険資格取得届の書類は、市区町村の役所窓口かホームページでダウンロードできます。また、本人のみの手続きの場合、退職証明書や離職票でも対応可能な場合があります。
何らかの事情で、顔がわかる身分証明書が用意できなければ、氏名・生年月日・住所がわかる証明書を2種類用意します。具体的には年金手帳や保険証などです。
健康保険から切り替える際の届け出方法
健康保険の資格を喪失したら、市区町村の役所窓口で届け出ましょう。届出期限は会社を退職した日の翌日から14日以内です。
健康保険から国民健康保険への切り替えにおける注意点
健康保険から国民健康保険へ切り替えを行う際、注意すべき点を紹介します。
- すでに国民健康保険に加入している世帯
- 切り替え後に医療機関を初めて受診する際
- 14日以内の手続き期限を過ぎた場合
- 健康保険の切り替えを行わなかった場合
- 退職時は従業員に健康保険証を返却してもらう
すでに国民健康保険に加入している世帯
すでに世帯主が国民健康保険に加入しているなら、追加で加入することになります。世帯主の国民健康保険証が必要な場合もあるため、忘れずに持参しましょう。
切り替え後に医療機関を初めて受診する際
健康保険から国民健康保険へ切り替えた場合は、健康保険の種類が変わるため、医療機関などを受診する際に注意が必要です。切り替え後に初めて受診する医療機関では、念のため、受付で国民健康保険への変更を伝えましょう。
14日以内の手続き期限を過ぎた場合
企業を退職した人が、健康保険から国民健康保険への切り替えを行わずに14日の期限を過ぎると、医療費をすべて自己負担でまかなわなければなりません。国民健康保険は、70歳までは3割負担であるため、医療費に大きな違いがあります。
一般的には、国民健康保険の手続きを行うと、役所窓口ですぐに保険証を発行してもらえます。切り替え期限を過ぎてしまったとしても、速やかに切り替え手続きをしましょう。
健康保険の切り替えを行わなかった場合
企業を退職した人が、国民健康保険への切り替え手続きを行わなかった場合、さまざまなデメリットがあります。日本では「国民皆保険」としているため、いずれかの健康保険に加入しなければなりません。
国民健康保険の加入要件を満たす人が、未加入のまま放置していると、医療費の全額自己負担はもちろんのこと、10万円の過料や保険料2年分をさかのぼって請求される可能性があります。
退職時は従業員に健康保険証を返却してもらう
従業員は退職する際に、企業が加入する健康保険へ健康保険証を返却しなければなりません。
企業の担当者は、健康保険や厚生年金保険の資格喪失手続きにおいて、退職者の健康保険証を書類に添付する必要があります。本人と本人の扶養家族のものも含めて忘れずに回収しましょう。
退職者は、企業を退職した翌日に健康保険の資格を喪失するため、当然健康保険証も使用できません。万が一健康保険証を使用してしまった場合、健康保険組合や医療機関から退職者本人に医療費の支払いを請求されるため、注意しましょう。
このように、退職者とのトラブルにもつながる恐れがあるため、退職者の健康保険証は速やかに回収する必要があります。
健康保険の切り替えで空白期間をつくらない方法
従業員が退職する場合、健康保険の切り替えにおいて空白期間をつくってはいけません。空白期間は、従業員が医療費全額を自己負担で支払わなければならないためです。
空白期間は、1日であっても10日であっても変わりません。健康保険の切り替えにおける空白期間をつくらない方法として、国民健康保険への切り替え以外に以下の方法があります。
- 任意継続する
- 健康保険の扶養家族になる
それぞれの内容について、解説します。
任意継続する
退職後も健康保険に加入し続ける方法の1つめは「任意継続」を行うことです。
健康保険に魅力を感じている場合は、できるだけ加入していたいと感じる人も少なくありません。任意継続をすると、企業で加入していた健康保険に退職後も継続して加入できます。任意継続できる期間は、最長2年ほどです。
任意継続が適用できる条件は以下の通りです。
- 退職前に2か月以上連続して被保険者期間がある
- 退職日翌日から20日以内に手続きを完了させる
また、任意継続の手続きで申請に必要な書類は以下の通りです。
- 任意継続被保険者資格取得申請書
- 扶養家族がいる場合は、扶養事実を確認できる書類(非課税証明書や源泉徴収票の写しなど)
扶養家族になる
健康保険に継続して加入したい場合は、生計を同一にする家族の健康保険に扶養家族として入る方法もあります。
扶養家族になる場合は、家族本人の企業経由で手続きを行います。扶養家族になるためには、収入条件として「年間106万円」までなどの条件があるため、注意しましょう。
まとめ
日本では「国民皆保険」として、国民全員がいずれかの健康保険に加入しなければなりません。企業を退職した場合は、健康保険から国民健康保険への切り替え手続きが必要です。
退職後における健康保険の切り替え手続きでは、さまざまな注意点がありますが、退職者は特に以下の点に注意しましょう。
- 14日以内に切り替え手続きを行う
- 健康保険の切り替えを行わなかった場合は、過料や2年分の保険料をさかのぼって請求される
- 退職時は企業に健康保険証を返却する
退職者が手続き期限を厳守し、トラブルを防止するためにも、企業側は退職者に健康保険の切り替えについて、ていねいに説明しましょう。