所得金額調整控除とは?対象者や計算方法をわかりやすく解説

所得金額調整控除は比較的新しい制度で、適用対象が限られるため、あまり処理したことがないという担当者もいるでしょう。
本記事では、所得金額調整控除についてわかりやすく解説します。適用要件や控除額の計算方法、担当者が注意したいポイントなどもまとめているので、ぜひ参考にしてください。

目次
所得金額調整控除とは?わかりやすく解説
所得金額調整控除とは、子育て世帯や年金受給者の税負担を調整し、一定の条件で所得税を軽減できる制度です。
詳しい要件は後述しますが、大きく分けると「年収850万円超の給与所得者」と「年金を受け取りながら給与所得を得ている人」のいずれかに適用されます。
所得金額調整控除が創設された背景
所得金額調整控除は、2020年の税制改正をきっかけとして創設された制度です。
2020年の税制改正では、給与収入が850万円を超える場合の給与所得控除が引き下げられました。年収850万円は一般的には高収入とされますが、すべての家庭で経済的に余裕があるとは限りません。
そこで、子どもや特別障害者を養育する人については、給与所得控除の引き下げにより手取りが激減しないよう、税負担を調整するための控除が導入されました。
また、年金を受給しながら給与収入のある人についても同様です。
税制改正により給与所得控除や公的年金等控除が引き下げられたことで、税負担が増すのを防ぐため、特別な控除が適用されることとなりました。
所得金額調整控除の種類と適用要件
所得金額調整控除には、創設の背景からもわかるとおり、2つの適用パターンがあります。
1.子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
年収850万超の給与所得者のうち、子どもや特別障害者などを養育する人に適用される控除です。具体的には、給与収入が年間850万円を超え、以下のいずれかを満たす人が対象となります。
- 給与所得者自身が特別障害者に該当する場合
- 年齢が23歳未満の扶養親族を有する場合
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する場合
特別障害者とは、障害者のなかでもとくに障害の程度が重い人です。具体的には、以下のような人が当てはまります。
- 身体障害者手帳に記載されている身体障害の程度が「1級」または「2級」
- 療育手帳に記載されている障害の程度が重度として「A」(「マルA」「A2」など)
- 精神障害者保健福祉手帳に記載されている障害等級が「1級」
- 重度の知的障害者と判定されている
- 寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする など
参照:『特別障害者』国税庁
2.給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
年金を受け取りながら給与所得を得ている人のうち、一定要件を満たす人に適用される控除です。
具体的には、会社からの給与所得と雑所得となる公的年金の両方の収入があり、給与所得控除後の給与等の金額と雑所得の金額の合計額が10万円を超える人が対象となります。

所得金額調整控除の計算方法
所得金額調整控除の計算方法を、具体例を挙げながら解説します。
ケース1. 年収950万円で子ども(20歳)を扶養している場合
子ども・特別障害者等を養育する者の所得金額調整控除の計算式は、以下のとおりです。
| (給与収入金額-850万円)×10% |
年収950万円で20歳の子どもを扶養している人の場合、控除額は以下のように計算します。
| (950万円-850万円)×10%=10万円 |
ケース2. 年収1,200万円で子ども(18歳)を扶養している場合
控除を受ける人の年収が1,000万円を超える場合は、給与収入金額を一律1,000万円として計算します。つまり、年収1,200万円で18歳の子どもを扶養している人の場合、控除額の計算結果は以下のとおりです。
| (1,000万円-850万円)×10%=15万円 |
ケース3. 給与収入120万円と年金収入80万円がある場合
年金を受け取りながら給与所得を得ている人に対する所得金額調整控除を適用する場合、控除額の計算式は以下のとおりです。
| (給与所得控除後の給与金額+公的年金にかかる雑所得の金額)-10万円 |
ただし、「給与所得控除後の給与金額」と「公的年金にかかる雑所得の金額」はいずれも10万円を上限とします。つまり、控除額は「(10万円+10万円)-10万円」で最大10万円となる計算です。
給与収入が162万5,000円までの場合、給与所得控除の金額は65万円と定められています。そのため、給与収入120万円と年金収入80万円がある場合、所得金額調整控除は上限の10万円です。
所得金額調整控除の手続き方法
子どもや特別障害者などを養育する場合は、年末調整または確定申告で手続きできます。一方、給与収入と年金収入がある場合は、確定申告でのみ手続きが可能です。
ただし、従業員の年収が2,000万円を超える場合と、複数の企業から給与を受け取っている場合は、確定申告が必須です。
たとえば、子どもや特別障害者などを養育していても、従業員が自社以外からも給与を受け取っている場合は、自分で確定申告をしてもらう必要があります。
年末調整
年末調整で手続きできるのは、子ども・特別障害者等を養育する者の所得金額調整控除のみです。
要件を満たす従業員がいる場合は、『給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼給与所得者の特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書』に必要事項を記載して申告します。
申告書の一番下に「所得金額調整控除申告書」の欄があるので、当てはまる要件にチェックを入れたり、同一生計配偶者や扶養親族の氏名・マイナンバーを記入したりします。
子ども・特別障害者等を養育する人の所得金額調整控除の要件は複数あるため、それぞれの従業員が当てはまる要件に応じた内容を記載することが大切です。
確定申告
年金を受け取りながら給与所得を得ている人に対する所得金額調整控除の適用を受ける場合や、子ども・特別障害者等を養育する人の所得金額調整控除の手続きを確定申告で行う場合は、確定申告書に必要事項を記入して提出します。
確定申告書の「収入金額等」の「給与」欄に、所得金額調整控除の区分番号を記載するところがあるので、従業員が受ける控除にあわせて選択します。
| 区分番号 | 適用する所得金額調整控除 |
|---|---|
| 1 | 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除 |
| 2 | 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除 |
| 3 | 2つを併用する場合 |
また給与欄には、給与収入から給与所得控除と所得金額調整控除を差し引く前の源泉徴収票の支払金額を記入することが大切です。
年金所得がある場合は、そのほかにも記載項目があります。詳しくは、国税庁の記載例を参考にするとよいでしょう。
所得金額調整控除について担当者が注意したいポイント
所得金額調整控除の要件を満たす従業員がいる場合、担当者は以下の5点に注意しましょう。
- 年収要件を超えるか不明な場合も提出してもらう
- 共働きの場合も双方に適用される
- 複数勤務先の給与を合算する場合も年末調整は必要になる
- 1円未満の端数は切り上げる
- 所得金額調整控除は併用が可能である
年収要件を超えるか不明な場合も提出してもらう
子ども・特別障害者等を養育する人の所得金額調整控除を受けるには、まず従業員の年収が850万円を超えている必要があります。しかし、一般的に年末調整書類は11月頃には回収することが多いため、その時点では年収が確定していないケースもあるでしょう。
年収が850万円を超えるかはっきりとしていなくても、申告書類は先に受け取っておくほうが安心です。ひとまず記載できる部分のみ埋めてもらい、年収が確定してから追記するとスムーズに処理できます。
共働きの場合も双方に適用される
扶養控除とは異なり、子ども・特別障害者等を養育する人の所得金額調整控除は夫婦それぞれが申告可能です。
たとえば、18歳の子どもがいる共働き家庭で、夫婦が2人とも年収850万円を超えている場合は、双方に控除が適用されます。
複数勤務先の給与を合算する場合も年末調整は必要になる
従業員が複数の勤務先から給与を受け取っている場合、所得金額調整控除を受けるには本人による確定申告が必要です。
ただし、このようなケースでも、本業の勤務先では当該従業員の年末調整を行わなければなりません。本人が確定申告をするから年末調整は不要、と誤解しないよう注意しましょう。
1円未満の端数は切り上げる
所得金額調整控除の計算で1円未満の端数が出た場合は、切り上げて処理します。たとえば、計算の結果、控除額が8万9,110.3円となった場合は、8万9,111円として考えます。
年末調整システムを利用する場合は自動的に処理されますが、手計算の際には端数を誤って切り捨てないよう注意しましょう。
所得金額調整控除は併用が可能である
適用要件さえ満たしていれば、2つの所得金額調整控除の併用が可能です。
たとえば、給与収入900万円に加えて公的年金を受け取っており、同一生計配偶者が特別障害者に当てはまる場合は、2つの所得金額調整控除が適用されます。
ただし、所得金額調整控除を併用する場合は、以下の順番で適用する必要があります。
- 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
- 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
順番を誤ると計算結果にも差が生じてしまうため、注意が必要です。
まとめ|所得金額調整控除の適用要件は2パターン
所得金額調整控除とは、税制改正による税負担を軽減するため、要件を満たす人の所得から一定額を差し引く制度です。
所得金額調整控除は2種類あり、それぞれ適用要件が異なります。従業員本人による確定申告が必要なケースもあるため、制度について社内に周知すると親切でしょう。
子どもや特別障害者を養育する場合の控除は、年末調整での対応が必要になることがあります。年末調整の担当者は、手続きがスムーズにできるよう制度について理解を深め、従業員からの問い合わせに答えられるようにしておきましょう。


