労働基準監督署の調査にどう備える? 対象や手順とよくある指摘、拒否リスクを解説

労働基準監督署から突然調査通知が届くと、「何を用意すればいいのか」「どう対応すればいいのか」と戸惑う担当者も多いでしょう。とくに残業が多い部署がある企業では、従業員の通報をきっかけに調査が入る可能性があります。
労働基準監督署の調査は、労働基準法や労働安全衛生法の遵守状況を確認する手続きです。拒否すると30万円以下の罰金が科されるおそれもあるため、適切な対応が欠かせません。事前に準備し、調査のポイントを理解しておけば、落ち着いて対応することは十分可能です。
本記事では、労働基準監督署の調査対象になりやすい企業の特徴をはじめ、調査の流れ、準備する書類、よくある指摘事項、拒否した場合のリスクを解説します。

目次[表示]
労働基準監督署の調査とは? 労基の権限や調査理由を解説
労働基準監督署の調査は、企業が労働基準法や労働安全衛生法、最低賃金法などの労働関係法令を守っているかを確認する手続きです。
事業場への立ち入り調査は「臨検監督」と呼ばれ、労働基準監督官が帳簿・書類の確認や労働者への聞き取りを通じて、労務管理の実態を把握します。
調査は定期的な実施のほか、労働者からの申告や労働災害の発生を契機に行われます。
調査の結果、法令違反が認められると是正指導となります。企業側に調査を拒否する権限はありません。正当な理由がなく拒否すると30万円以下の罰金が科されるため注意が必要です。
また、労働基準監督官は行政監督としての権限に加え、司法警察官としての権限も持ちます。重大・悪質な事案では、逮捕や送検に至ると理解しておきましょう。
労働基準監督署の役割・権限
労働基準監督署は、労働者の権利を守り、適切な労働環境を確保するための国の機関です。主な業務は、次の3つに整理できます。
| 労働条件の監督・是正 | 賃金の未払いや労働時間管理の不備、解雇手続きの問題などについて指導 |
| 職場の安全維持 | 労働災害の防止や作業環境の改善に向けた指導 安全と健康の確保 |
| 労災対応 | 労働災害が発生した際の補償手続き 原因の把握 再発防止に向けた指導 |
また、労働基準監督署は次の権限が認められています。
- 事業場への立ち入り
- 帳簿・書類の提出要求
- 使用者や労働者への尋問
- 特別司法警察職員としての職権
改善が見られない場合や悪質な事案では、特別司法警察職員の職権を使って刑事事件として捜査・送検することも可能です。

調査の理由・目的
労働基準監督署の調査目的は、労働者の雇用・賃金・安全・健康の確保です。
具体的には、次のような項目を確認します。
- 賃金が適切に支払われているか
- 労働時間が適正に管理されているか
- 安全な作業環境が整備されているか
- 労働災害を防ぐ体制が取られているか
監督署に調査権限があるのは、憲法第25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保証するためです。適切な労働条件と労働環境は、労働者の基本的人権が守られます。
また労働基準法は、憲法第27条2項の規定により、制定された法律です。
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める
引用:『憲法第27条2項』e-Gov法令検索
労働基準監督署の調査は、2つの憲法理念を実務に落とし込み、労働者が安心して働ける環境を実現するための手段として位置づけられています。
労働基準監督署の調査の種類・きっかけ
労働基準監督署の調査は、実施される理由や目的によって5つの種類に分かれます。
| 種類 | 実施理由 | 調査方法 |
|---|---|---|
| 定期監督 | 年度計画に基づく定期的な調査 | 立ち入り調査または呼び出し |
| 申告監督 | 労働者からの申告・相談 | 立ち入り調査が中心 |
| 災害時監督 | 労働災害の発生 | 立ち入り調査 |
| 再監督 | 是正勧告後の確認 | 立ち入り調査または書面確認 |
| 呼び出し調査 | 書類確認や事情聴取 | 労働基準監督署での面談 |
調査は必ずしも臨検監督(事業場への立ち入り)だけではありません。内容によっては、電話や書面の確認で終わることもあります。
自社がどんな状況で調査対象になり得るかを把握しておくと、適切な準備に役立つため、それぞれ確認していきましょう。
定期監督
定期監督は、年度計画に基づくもっとも一般的な調査です。
厚生労働省が毎年公表する「地方労働行政運営方針」に沿って監督計画が作成され、その年の重点課題に応じて対象企業が選定されます。産業構造や労働時間の状況、労働災害の発生状況や電話・投書などが参考にされます。
| 対象になりやすい例 |
|---|
| ・月80時間を超える時間外労働が疑われる ・36協定の届出が未提出 ・離職率が高い ・建設業、製造業など労働集約的な業種 |
令和6年(2024年)の監督実施件数は計176,877件で、そのうち定期監督は142,477件と、8割にのぼっています。
調査では、次の書類などが点検されます。
- 就業規則
- 雇用契約書
- 賃金台帳
- 36協定届
- 安全・衛生委員会の議事録
経営者や人事担当者へのヒアリングも行われ、法令違反があれば是正勧告が交付される流れです。
申告監督
申告監督は、労働者からの申告や相談をきっかけに実施される調査です。「総合労働相談コーナー」への相談から、法令違反の疑いがあると判断された場合に実施されます。
労働基準法第104条により、労働者には法令違反を申告する権利が保障されています。
| 申告で多い内容 |
|---|
| ・残業代の未払い ・不当解雇 ・雇止め ・労働条件の一方的変更 |
申告監督は、定期監督と比べて抜き打ちとなる可能性が高いようです。
調査では申告内容の確認に加えて、法令全般の確認が行われます。申告内容以外の違反が見つかった場合も、是正勧告の対象です。
また、申告した労働者への不利益取扱いは労働基準法で禁止されており、違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
災害時監督
災害時監督は、労働災害の発生をきっかけに実施される調査です。内容は大きく2つに分かれます。
| 災害調査 | 死亡事故や重篤な傷害をともなう重大災害が起きた場合 |
| 災害時監督 | 一定規模以上の労働災害について法令違反の可能性を調べる |
災害調査は、死亡事故の発生など重大災害のあと、すみやかに実施されます。同時に複数人が被災した場合や、被災者が一人でも重篤な傷害を負った場合も対象です。
| 確認される観点 | 確認場所 |
|---|---|
| ・法令違反の有無 ・災害発生の原因 ・再発防止策 | ・作業手順 ・機械設備 ・環境管理 |
災害時監督は、企業が提出した死傷病報告や労災請求書などをもとに、法令違反の可能性がある事故を労働基準監督官が抽出して実施します。
業務フローや機械に不備が見つかれば、是正勧告や指導票が交付されます。
再監督
再監督とは、是正勧告後の是正状況を確認するための再調査です。定期監督や申告監督、労災発生時の監督で法令違反が見つかり、是正勧告書が交付されたあとに行われます。目的は、勧告内容が確実に実行されているかどうかの確認です。
| 再監督が行われやすいケース |
|---|
| ・指定された期限までに是正報告書が提出されない ・是正報告書は提出されたが、内容の裏づけが必要と判断された ・是正勧告書の交付時に、来署要請に応じなかった |
いずれも、労働者の権利保護と法令遵守を確保するための手続きといえます。企業としては、是正勧告を受けたらすみやかに対応し、再監督が不要となるよう誠実な改善を進めることが信頼回復への近道です。
呼び出し調査
呼び出し調査は、労働基準監督署への出頭を求められる調査です。
| よくある呼び出しの例 |
|---|
| ・長時間労働の是正 ・最低賃金違反の確認 ・労働条件の調査 |
持参する書類を指定されるため、準備が必要です。立ち入り調査と同様に、労働関係帳簿の確認や担当者へのヒアリングが行われます。
労働基準監督署の呼び出しが抜き打ちと異なるのは、企業側が事前に書類を整理し、適切な担当者を同席させられる点です。
呼び出しに応じなければ、立ち入り調査に切り替わることもあります。最終的に調査を拒否したとみなされ、30万円以下の罰金が科される可能性もあるため、呼び出しには素直に応じましょう。

労働基準監督署の調査手順
労働基準監督署の調査は、一定の手順に沿って進みます。流れを把握しておけば、対応に迷いが減り、負担も抑えられるでしょう。
労働基準監督署の調査は、主に次の4ステップです。
- 予告・来訪(抜き打ちもあり)
- 立ち入り調査
- 文書指導
- 是正・改善報告
法令違反や重大な問題がなければ、立ち入り調査で終了します。是正指導が出た場合は、報告書提出までが一連の流れです。
1.予告・来訪(抜き打ちもあり)
労働基準監督署の調査は、事前連絡がある場合と、予告なく調査官が来る「抜き打ち」の場合があります。
事前連絡があるときは、書面・電話・FAXなどで調査予定日や必要書類が伝えられます。必要な帳簿・書類や出席者の指定は、暗に準備を求めているのです。
一方で、事前に通知すると書類の改ざん・破棄や隠ぺいのおそれがあれば、予告はありません。書類の保管状況や協定書の作成・届け出など、日頃の状態を確認したい場合も、抜き打ちとなるでしょう。
調査の拒否は原則として認められておらず、拒否すると30万円以下の罰金が科されます。
担当者が不在の場合や、急な対応が難しい場合は、丁重に日程変更を申し出ると、多くの場合は調整が可能です。
2.立ち入り調査
立ち入り調査では、通常2名の労働基準監督官が事業場を訪れ、1〜2時間かけて調査します。一般的な流れは次のとおりです。
- 労働関係帳簿などの書類の確認
- 事業主や責任者からの聞き取り(帳簿や勤務実態の不明点など)
- 事業場への立ち入り調査や労働者からの聞き取り(勤務実態の確認など)
- 口頭での改善指示または指導
確認されやすい書類・論点は次のとおりです。
- 賃金台帳、出勤簿(勤怠記録)
- 労働者名簿
- 就業規則(作成・周知・運用状況)
- 36協定
- 労働条件の書面通知
- 残業代の計算方法、シフト管理の状況
- 健康診断など、安全衛生法に基づく実施状況
書類に不備があったり、違反が多数発見されたりすると、調査時間がさらに長くなります。
3.文書指導
調査後は、口頭で終わる場合もあれば、書面で是正を求められる場合もあります。書面による指導は主に次の3種類です。
| 書面 | 交付 | 典型例 |
| 是正勧告書 | 法令違反がある | 未払い残業代、労働時間管理の不備など |
| 指導票 | すぐに違反とは言い切れないものの改善を促す目的で交付 | 36協定内でも長時間労働が続く場合など |
| 使用停止等命令書 | 緊迫した危険があり、緊急対応が必要 | 設備の不備により労働者に危険が差し迫っている状態 |
是正勧告書には、違反条文、違反内容、是正事項、是正期限が記載されます。
4.是正・改善報告
是正勧告書や指導票が交付された場合、期日までに指摘事項を改善し、是正(改善)報告書を提出します。
報告書の書式は法令で一律に決まっているわけではありませんが、監督署からひな型が渡されることがあります。厚生労働省のサイトから様式のダウンロードも可能です。
報告書には基本的に以下の項目を記載しましょう。
- 違反法条項など
- 是正内容(具体的な改善措置)
- 是正年月日(改善完了日)
- 会社名、住所、代表者名
- 添付資料(改善内容がわかる書類)
期日までの提出が難しい場合は、事情を説明したうえで期限延長について相談できます。
報告書を提出しない、または改善が不十分な場合は、追加の指導や再調査となるため、注意しましょう。
労働基準監督署の調査前に企業が準備したいこと
労働基準監督署の調査に備えるうえでは、事前準備が欠かせません。調査は突然行われることもあるため、日頃から書類と対応体制を整えておくと、当日の混乱を避けやすくなります。主な準備は次の4つです。
- 調査の対象項目を知る
- 書類を用意する
- 調査の出席者を決める
- 事前にできる改善はしておく
準備が足りないと、調査が長引いたり、指摘事項が増えたりします。労務管理上の問題が見つかれば、企業の信頼性にも影響しかねません。事前に整えておけば、監督官にも状況を説明しやすく、調査を進めやすくなります。
調査の対象項目を知る
労働基準監督署の調査対象は「労働関係法令」で定められた項目です。
労働条件の最低基準が守られているかチェックします。調査項目は統一されていませんが、企業規模や業種に関わらず共通して確認される点もあります。
主な調査対象項目は以下のとおりです。
| 調査対象 | 具体的な確認内容 |
|---|---|
| 労働時間 | タイムカードや出勤簿による労働時間の記録 36協定の締結と届出 時間外および休日労働の実態 シフト管理 |
| 労働条件 | 労働契約書の交付状況 就業規則の整備・周知状況 労働条件通知書の内容 |
| 賃金 | 賃金台帳の記録 最低賃金の遵守 残業代の計算と支払い状況 |
| 年次有給休暇 | 有給休暇の取得状況 取得記録の管理 年5日取得義務の履行 |
| 安全衛生管理 | 安全管理者・衛生管理者の選任 安全委員会・衛生委員会の設置・運営 |
| 健康診断 | 健康診断の実施状況や結果報告 産業医の選任状況 |
まずは、以上の項目について自社の現状を整理し、問題がないか確認しておきましょう。
書類を用意する
労働基準監督署の調査では、複数の書類提出を求められます。書類の指定期間は最長2年におよぶため、必要なときにすぐに確認できるよう、日頃から管理しておくと安心でしょう。
基本的な必要書類の例は、次のとおりです。
- 会社組織図、労働者名簿、賃金台帳
- 就業規則、労働条件通知書(雇用契約書)
- タイムカード(出勤簿)、有給休暇管理簿
- 36協定書、変形労働時間制に関する協定書
- 健康診断の実施結果、産業医の選任状況に関する資料
事前に確認しておきたい事項の例は、次のとおりです。
- 全従業員数、男女別従業員数、18歳未満の従業員数
- パート・アルバイトの人数、外国人従業員の人数と在留資格
- 障害のある従業員数と業務内容、もっとも賃金の低い労働者の賃金額
現時点で書類がそろっていなければ、できる限り調査当日までに整備しておくのが望ましいでしょう。労働基準法などで定められた届け出をしていなかった場合は、調査前に届け出る必要もあります。
調査の出席者を決める
労働基準監督署の調査当日は、書類の内容と実務を把握している総務・人事担当者が基本的に出席します。監督官からの質問に対し、労働関係帳簿の根拠や運用実態を踏まえて回答できる人選が望ましいです。
調査の所要時間は企業規模や目的によって異なりますが、1〜2時間で終わることが多いとされています。長時間の対応も想定し、社内の体制を整えておくと安心です。
顧問の社会保険労務士がいる場合は、同席を求めるのが一般的です。専門家の同席により、法的観点からの回答や、調査後の対応について助言を受けやすくなります。事案によっては弁護士の同席も必要です。
複数名で出席するなら、事前に役割分担を決めておきます。統一した回答ができるよう、想定問答を共有し矛盾のない対応を心がけましょう。
事前にできる改善はしておく
労働基準監督署の調査前に改善点が見えている場合は、可能な範囲で着手しておくことが重要です。監督官にも改善の意思と対応状況を説明しやすくなります。
調査前の自主的な改善例は次のとおりです。
- 36協定に不備がある場合の締結・届出
- 就業規則に不備がある場合の変更・改訂
- 雇用契約書に不備がある場合のひな形整備
- 残業代未払いの場合の支払い体制整備や固定残業代制度の導入
あわせて、問題が見つかった場合の再発防止策も検討しておくのが望ましいとされています。
たとえば就業規則の周知が不十分なら、労働者に書面で交付したり、労働者全員の目につきやすい場所に掲示したりなど、具体策まで準備しておきましょう。

労働基準監督署の調査で指摘されやすいポイント
労働基準監督署の調査では、多くの企業で共通して指摘されやすい点があります。典型例を把握し、社内で点検しておくと、調査時のリスクを抑えられるでしょう。
調査で指摘されやすいのは、次の5つのポイントです。
- 労働時間の管理体制が整備されていない
- 賃金や残業代が正しく支払われていない
- 就業規則などの整備が不十分である
- 年5日の有給休暇取得義務が果たされていない
- 健康診断の実施など安全衛生体制に不備がある
いずれも、労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法の違反につながり、是正勧告の対象になるため、解説していきます。
労働時間の管理体制が整備されていない
労働時間を適切に把握できていない事業場は、監督指導でも指摘が多い問題の一つです。
タイムカードの打刻と実態がずれていると、労働時間の過少申告として厳しく指導されます。とくに、始業前・終業後の業務が記録に反映されていない場合は、重大な違反として扱われるため注意が必要です。
あわせて、36協定の未締結や届出漏れも頻繁に指摘されます。月45時間・年360時間の上限を超える時間外労働が行われていたり、協定の有効期限が切れていたりすると是正勧告の対象です。変形労働時間制を採用している企業では、労使協定の内容と実運用の乖離も問題です。
自己申告制を採用している企業では、申告された労働時間の妥当性が問われます。管理者が実態を把握せず、自己申告をそのまま受け入れていると、適切な管理ができていないと判断される可能性があります。
勤怠管理システムなどを用いて、客観的な記録に基づいた労働時間管理体制を整備しておかなければなりません。
| ここが見られやすい |
|---|
| ・打刻と実労働の乖離(早出・残業・持ち帰りなど) ・36協定の締結・届出・有効期限 ・上限規制(45時間/360時間)を超える運用 ・変形労働時間制の協定内容と運用の一致 ・自己申告制に対する裏付け(PCログ等)と管理者の把握 |
賃金や残業代が正しく支払われていない
残業代の計算ミスは、調査で多い指摘です。基礎賃金の算定で、本来算入する手当を除外している、または除外する手当を含めているなど、前提の整理が不十分なケースがあります。
手当の取り扱いは企業ごとに運用が異なるため、根拠と計算方法を整えておく必要があります。
深夜労働・休日労働の割増率も見逃せません。深夜労働(22時〜5時)の25%割増、法定休日労働の35%割増が正しく適用されていない、時間外労働と深夜労働が重なる時間帯の扱いが誤っている、といったミスが典型です。
最低賃金法違反も重要な指摘事項です。地域別最低賃金・特定最低賃金を下回る設定、研修期間中の減額の扱いなどが問題になります。
賃金台帳の記録不備や、支払い方法の問題が指摘される場合もあります。
| ここが見られやすい |
|---|
| ・基礎賃金に含める/除外する手当の整理 ・深夜(22時〜5時)・法定休日の割増の適用 ・時間外×深夜が重なる時間帯の扱い ・最低賃金を下回っていないか(研修期間含む) ・賃金台帳の記録、支払い方法の適法性 |
就業規則などの整備が不十分である
就業規則の不備も調査で指摘されやすい点です。法改正に対応していない古い規程を使っている、周知が不十分、就業規則と実際の運用が合っていない、といったケースがあります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が義務です。作成していても、届出が未了、意見書の添付がないなど、手続き面の不備が指摘されることがあります。
労働条件通知書(雇用契約書)の記載不備も多い項目です。法定記載事項の漏れ、内容があいまい、実態と相違している、といった点が問題になります。有期雇用契約では、更新基準の記載が論点になりやすいでしょう。
| ここが見られやすい |
|---|
| ・就業規則:法改正未対応/周知不足/実運用との乖離 ・就業規則の届け出:届出未了/意見書の未添付 ・労働条件通知書:法定記載漏れ/記載があいまい/実態と不一致(更新基準など) |
年5日の有給休暇取得義務が果たされていない
2019年4月から施行された年5日の有給休暇取得義務が、未対応になっている企業はないでしょうか。年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、使用者は年5日取得させる義務があります。
管理簿が作成されていない、取得状況を把握できていない、計画的付与を導入していても運用に不備があるなども調査で指摘されやすい点です。取得を阻害する職場環境や、申請に対する不当な拒否も問題になります。
有給休暇の時季指定権の行使が適切に行われていない場合や、労働者の時季変更権を不当に制限している場合も指摘の対象です。パートタイム労働者や有期雇用労働者に対する有給休暇の付与や管理が不適切な場合も、問題となることがあります。
| ここが見られやすい |
|---|
| ・有給休暇管理簿の整備と保存 ・年5日取得の対象者 ・取得状況の把握 ・計画的付与の運用実態 ・パート・有期雇用の付与・管理 ・申請フローの運用(不当な拒否がないか) |
健康診断の実施など安全衛生体制に不備がある
安全衛生面では、健康診断の未実施や事後措置の不備が指摘されます。定期健康診断の未実施、特定業務従事者の特殊健康診断の未実施、結果の管理不足や再検査・面談などの事後措置が不十分、といった点です。
産業医、衛生管理者、安全管理者の選任義務も確認されます。常時50人以上の事業場では産業医の選任が義務となり、衛生管理者の選任も必要です。要件は業種・規模で変わるため、不安な場合は自社の該当要件をあらためて確認しましょう。
安全委員会・衛生委員会の設置義務がある事業場で未設置、運営が形骸化、議事録の作成・保存が不十分といった点も論点になります。安全衛生管理は、体制と記録がセットで見られることも少なくありません。
| ここが見られやすい |
|---|
| ・健康診断の実施、結果の管理、事後措置 ・産業医・衛生管理者・安全管理者の選任状況 ・安全委員会・衛生委員会の設置、開催、議事録の保存 |
労基の調査後、是正勧告書が交付されたら是正報告書の提出が必要
労働基準監督署の調査で法令違反が確認されると、是正勧告書が交付されます。企業は、指定された期日までに違反を是正し、是正報告書を提出しなければなりません。
是正勧告書には、是正すべき内容と対応期限(是正期日)が記載されています。企業は指摘事項に沿って改善策を実施し、結果を是正報告書としてまとめて提出します。
是正報告書は手書きでもPC作成でも差し支えありません。提出時は署名を求められます。(押印を求められるケースもあり)
対応が難しい項目があっても、放置せず監督官に相談し、対応方針や進捗を共有することが大切です。

労働基準監督署の調査を拒否するとどうなる?
労働基準監督署の調査や呼び出しを、正当な理由なく拒否・無視・妨害すると、労働基準法第120条に基づく罰則規定が科されます。具体的には、30万円以下の罰金対象です。
処罰の対象となる行為は、以下のとおりです。
- 労働基準監督署の調査拒否
- 指導の無視
- 虚偽の報告、陳述
- 書類の未提出
- 帳簿の偽造
- 尋問への回答拒否
悪質と判断されると、労働基準監督署は司法警察官の権限を行使して刑事事件の手続きを進め、逮捕・送検に至ることもあります。逮捕・送検が報道されれば、企業名の公表による信用低下は避けられないでしょう。
調査や是正勧告には、拒否せず、期限と手続きを守って対応することが重要です。
まとめ
労働基準監督署の調査は、労働基準法や労働安全衛生法の遵守状況を確認する、避けられない法的手続きです。
正当な理由なく拒否・無視・妨害すると、30万円以下の罰金や強制捜査のおそれもあるため、期限と手続きを守って対応しましょう。
事前の準備と正しい理解があれば、適切な対応は十分可能です。
調査では、法定三帳簿や就業規則などを調べられることが多く、日頃の整備・保管が欠かせません。
指摘が多いのは、いずれも勤怠管理や給与計算など基本業務にかかわる分野です。
万一是正勧告を受けたら、是正期限までに改善したうえで、根拠となる資料を添えて是正報告書を提出し、再発防止まで行う必要があります。調査を自社の労務管理をよりよくする機会ととらえて臨みましょう。
