育休中の年末調整はどうする? 控除や手続き、収入がない場合も解説

育休中の年末調整はどうする? 控除や手続き、収入がない場合も解説

給与所得者は、育児休業(以下、育休)や産前・産後休業(以下、産休)中で給与収入がない場合も、要件を満たす控除を受けるためには、年末調整を行う必要があります。育休中でも受けられる控除にはどのような種類があるのでしょうか。企業の中に、これから育休を取得する可能性のある従業員がいる場合は、正しく理解しておかなければなりません。

本記事では、育休中の年末調整について、適用可能な控除や必要書類、申請方法を解説します。企業の年末調整を扱う人事労務担当者は、ぜひ参考にしてください。

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    育休中にも年末調整は必要?

    育休中でも、企業に所属している場合は年末調整が必要です。育休中は、企業からの給与支給はありませんが、必要に応じて配偶者控除や保険料控除を受けられるため、所得税の節税にもなります。

    年末調整とは

    年末調整とは、企業が給与所得者の所得税を計算し、源泉徴収税額との差額を精算する手続きのことです。

    企業では、従業員の毎月の給与や賞与から一定の所得税を源泉徴収しています。源泉徴収額は概算であるため、実際に納付すべき所得税とは異なる場合があります。年末調整では、給与所得者の1年間の所得から正しい納税額を算出し、源泉徴収額と比較して過不足の精算を行います。源泉徴収額が本来の納税額より多ければ企業は従業員へ還付し、不足していれば追加徴収を行います。

    育休中に年末調整が必要な理由

    育休中に年末調整を行う理由は、正しい所得税を申告をすることで源泉徴収額の精算を行うためです。育休中の従業員は、育休期間であっても社会保険料などを支払っているため、各種控除要件を満たしている場合があります。年末調整によって控除申告を行えば、所得税の節税効果があるのです。

    そもそも育休とは

    育休とは、1歳未満の子どもを養育するための休暇期間を利用できる制度です。法律で定められた制度であるため、企業の就業規則などに定めがない場合でも、条件に該当する従業員は、育児休業を取得する権利があります。育休には「育児休業」と「育児休暇」がありますが、一般的には法律で定められた前者の育児休業制度を指します。

    また、育児・介護休業法の改正により、2022年10月1日からは「産後パパ育休」という制度が新設され、通常の育休とは別に産後8週間以内に合計28日の休業を2回に分けて取得できるようになるなど、育休の幅が広がっています。

    参照:『育児・介護休業法の概要』厚生労働省

    参照:『令和3(2021)年法改正のポイント|育児休業特設サイト』厚生労働省

    育児休業と育児休暇の違い

    育児休業と育児休暇の違いは、制度の根拠が異なります。育児休業は国が法律で定めているのに対して、育児休暇は企業が独自に定めています。育児休暇は企業の判断で定めるため、制度内容に特定のルールはありません。ただし、育児・介護休業法では、企業に対して小学校入学の前年度(満6歳に達する日の年度)までの期間、育児目的の休暇制度を設置する努力義務を定めています。

    参照:『育児休業と育児目的休暇の違いについて』厚生労働省

    育休と産休の違い

    育休と産休の違いは、休業するための対象期間と対象者が異なります。育休は、産後休業が終了した翌日から子どもが1歳を迎える誕生日の前日までの期間を対象としていて、最大2年まで延長できます。一方の産休は、出産日以前の6週間(任意)から出産後8週間までの間を対象としています。育休の対象者は父親と母親で、産休の対象者は子どもを出産する母親のみとしています。

    手当金や給付金は年末調整の対象になる?

    育休中や産休中は、企業からの給与支給がなくても、手当金や給付金を受けられます。こうした手当金が、年末調整の際にどのような扱いになるのか解説します。

    出産手当金

    出産手当金は、健康保険から支給される給付金です。産休を取得することによって無給状態になる従業員の生活を保障するために支払われます。出産手当金は、所得税の対象ではないため、年末調整などで申告の必要はありません。

    出産育児一時金

    出産育児一時金は、出産に伴って健康保険から支給される給付金です。出産するためにかかる費用を補填するために、支払われます。出産育児一時金も、所得税の対象ではないため、年末調整などで申告の必要はありません。

    育児休業給付金

    育児休業給付金は、育児休業中に雇用保険から給付される給付金です。育児休業給付金は、対象者の復職を前提として支給されます。育児休業給付金も、所得税の対象ではないため、年末調整などで申告する必要はありません。

    育休中も年末調整で受けられる控除

    育休を取得する場合も、年末調整を行うのは、適用要件を満たす控除を受けることで所得税の節税になるためです。そこで、育休中でも年末調整で受けられる控除をご紹介します。

    配偶者(特別)控除

    配偶者控除とは、納税者本人の所得が1,000万円(給与収入の場合は1,195万円)以下で、納税者に条件を満たす配偶者がいる場合に受けられる所得控除です。

    具体的には、納税者の配偶者が以下の適用要件を満たす必要があります。

    • 法律上の配偶者である
    • 給与所得者(本人)と生計を一にしている
    • その年に青色申告者の専業専従者として給与が支払われていないこと、または白色申告者の専業専従者でない
    • 合計所得金額が配偶者控除の場合は48万円(給与収入の場合は103万円)、配偶者特別控除の場合は48万を超えて133万円以下(給与収入の場合は103万円を超えて201万6,000円未満)である

    配偶者控除は、年末調整において「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に必要事項を記入して会社へ提出すれば適用されます。

    保険料控除

    保険料控除とは、各種保険に加入している場合に、支払った保険料に対して受けられる控除です。保険料の対象になるのは、以下の通りです。

    • 生命保険料
    • 地震保険料

    一般的な会社員の場合、このほかに社会保険料も控除対象になりますが、育休中は支払いが免除されるため、年末調整の控除対象にはなりません。また、生命保険や地震保険は控除対象ですが、所得がある場合のみに受けられる制度です。育休中で副業などによる所得がない場合は控除を受けられませんのでご注意ください。

    住宅ローン控除

    住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んでいる場合、ローン残高に応じた金額を控除できる制度です。所得税額から直接差し引かれます。育休中は、所得税額が少ないことから、全額控除できない可能性もあるという点を理解しておきましょう。

    ※初回の住宅ローン控除申請は確定申告で行います。

    育休中における年末調整のやり方と流れ

    育休中の年末調整のやり方や流れを解説します。なお、育休中であっても年末調整の期間は例年11月から12月にかけて行います。

    年末調整における必要書類の準備

    育休中の年末調整でも、以下の書類を入手し、必要書類に記入します。

    • 扶養控除等申告書
    • 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
    • 保険料控除申告書
    • 住宅借入金等特別控除申告書

    それぞれの書類の概要や年末調整における対応を解説します。

    基礎控除申告書

    「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」とは、基礎控除だけでなく、配偶者控除や配偶者特別控除、所得金額調整控除を申告できる書類です。適用させたい控除欄に必要事項を記入しましょう。

    扶養控除等(異動)申告書

    「扶養控除等(異動)申告書」とは、扶養控除を受けるための書類です。従業員が、条件を満たす親族を扶養している場合に申告します。扶養親族に関する情報を書類に記入して、会社へ提出します。仮に扶養親族がいない場合でも年末調整を受けるために、すべての人が提出する必要のある書類です。

    保険料控除申告書

    保険料控除申告書とは、自分が加入する各種保険の保険料控除を受けるための書類です。保険料控除では、育休中は、生命保険や地震保険の控除を受けられますが、所得がない場合は控除を受けられません。ただし、実際に保険料を支払ったのが配偶者であれば、配偶者が控除の対象となりますので理解しておきましょう。

    参照:『妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除』国税庁

    住宅借入金等特別控除申告書

    住宅ローンを組んでいて、年末時点でローン残高が残っている場合は、住宅借入金等特別控除が受けられます。初年度の申告の場合は確定申告で行い、2年目以降は年末調整で行います。ただし、育休によって、給与収入が103万円以下の場合は所得税がかからないため住宅ローン控除が受けられません。

    年末調整書類の記入

    年末調整書類を入手したら、従業員が書類に必要事項を記入します。適用したい控除の項目や記入欄に、記入しましょう。書き方がわからない場合は、国税庁のホームページを参考にするか、企業の担当者に問い合わせてみましょう。

    参照:『各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)』国税庁

    企業へ書類提出

    必要書類の記入と控除の証明書などが用意できたら、企業へ書類を提出します。育休中は会社へ出勤することがないため、郵送か直接持参します。企業の担当者は、あらかじめ育休中の従業員に対して、年末調整書類の提出方法も説明しておきましょう。

    育休中で収入がない場合や手続きを忘れた場合

    育休中で収入がない場合でも、年末調整を受けられます。従業員は必要書類に記入し企業に提出します。企業側は、提出された書類をもとに、源泉徴収票を作成しましょう。仮に従業員が育休中で1年間を通して収入がない場合も、給与所得・源泉所得ともに0円という内容で作成されます。年の途中で育休に入った場合には、それまでの給与収入があるため、所得税の計算を行い、年末調整を行う必要があります。

    また、育休中で年末調整の手続きを忘れてしまった場合は、翌年に確定申告を行えます。収入や控除などを計算のうえ、正しい所得税の申告を行いましょう。年末調整での控除手続きを忘れた場合でも、確定申告によって過去5年分を遡って申告できます。

    まとめ

    育休中で、給与収入がない場合でも要件を満たす控除がある場合は、年末調整で申告する必要があります。年末調整によって正しい所得税を計算することで、源泉徴収によって所得税を多く払いすぎていた場合は還付金を受けることもできます。

    育休や産休を通して受け取る給付金は所得税の課税対象外になるため、年末調整で申告する必要もありません。

    このように、育休中の年末調整は、いくつかのポイントがあります。企業の担当者は、育休中の従業員に対しても、年末調整の連絡や説明をしっかりと行いましょう。

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