生理休暇とは? 無給と有給に関する傾向や企業の対応を解説
生理休暇を無給にすること自体は問題ありませんが、給与計算で不利にならないようにしたり、取得率が低下したりしないようにするための工夫が必要です。多くの企業では、女性従業員に対して生理による体調不良で会社を休むことを認める「生理休暇」制度を設けています。
本記事では、生理休暇の内容について解説します。生理休暇を導入するメリットやポイント、生理休暇における給与の扱いもご紹介しますので、企業の人事労務担当者はぜひ参考にしてください。
生理休暇を無給か有給にするかは企業の判断
生理休暇の取得について、有給にするか無給にするかは企業側が判断します。生理休暇を設ける際は、あらかじめ生理休暇に関する規定を設け、就業規則に記載しておくことが大切です。また、給与計算や評価の際に、生理休暇によって有利不利の差が生じないようにしなければなりません。
生理休暇とは
生理休暇とは、女性従業員が毎月の生理について、体調不良などを理由に休暇の取得を認める制度です。
生理休暇に関する法律
労働基準法では、生理によって就業が難しい女性従業員に対して、企業は就業することを強制してはいけないことが定められています。
第六十八条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した時は、その者を生理日に就業させてはならない
引用:『労働基準法第68条』e-Gov法令検索
万が一、生理休暇を取得させなかった場合、労働基準法違反として罰則対象とされ、30万円以下の罰則が科されるため、注意しなければなりません。
とくに生理休暇を取得させる際の判断ポイントになる点は、「就業が著しく困難である」と「本人による請求」です。
参照:『労働基準法第68条、第120条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法のあらまし(生理休暇)』厚生労働省
生理休暇の目的
生理休暇の目的は、働く女性を保護するためにあります。生理中の女性は、腹痛や全身の倦怠感、頭痛が起こる場合が少なくなく、仕事をすることが難しいケースも少なくありません。そこで、企業は生理休暇を設け、女性の生理に対する体調不良を理由に休暇を取得することを認めているのです。
生理休暇の取得率
生理休暇は法律で定められていますが、実際には取得率が低いといえます。厚生労働省の「雇用均等基本調査」のデータによると、令和2年度における生理休暇の取得率は0.9%となっています。
また、女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇の請求者がいた事業所の割合も同年度3.3%と低い水準です。厚生労働省では、生理休暇制度が中小企業において社内制度化されていない点や男性上司に申請しにくい点などをふまえ、職場全体で生理休暇に対する理解が必要としています。
参照:『働く女性と生理休暇について』厚生労働省(令和5年9月28日)
生理休暇に関する規定内容
生理休暇は、労働基準法で定められているため、雇用形態にかかわらず、すべての女性従業員が取得できます。具体的に生理休暇に関する規定内容を解説します。
生理休暇の取り方や条件
生理休暇は、女性従業員による自己申告制で、診断書等の提出は必要ありません。企業側は、生理休暇を取得したいという申請があった場合には、尊重する必要があります。また、生理休暇の日数制限もないため、企業側は従業員に必要な日数の休暇を取得させなければなりません。
休暇の取得単位は、従業員の要望に応じて、時間単位や1日単位で取得させます。これは、女性の体調によって、生理休暇を柔軟に取得できるようにするためです。
就業規則に記載されていなくても取得可能
生理休暇は、労働基準法で定められているため、企業側が就業規則に明記していない場合でも、従業員は取得できます。しかし、企業側が自社の休暇制度として生理休暇を設ける場合は、就業規則で定めなければなりません。
生理休暇は無給でもよい
生理休暇について無給とするか有給にするかという点は、法律で定められていないため、企業が自由に判断できます。一般的には、無給とする企業が多い点が特徴です。このように、生理休暇は無給として扱っても法律上問題ありませんが、企業は、女性従業員が生理休暇を申請した場合、これを認める義務があります。
生理休暇に対する無給と有給の割合
生理休暇の無給と有給に関する扱いについて、厚生労働省の『雇用均等基本調査』によると、生理休暇を無給扱いとする企業は、2020年度において67.3%を占めています。一方、生理休暇を有給とする企業は、同年度29.0%です。依然として無給扱いとする企業が多いですが、有給扱いとする企業の割合は、2015年度の25.5%という数字をふまえると増加傾向にあるといえます。
参照:『「令和2年度雇用均等基本調査」の結果概要 』厚生労働省
生理休暇を取得した場合の給与や評価の取り扱い
生理休暇を無給にする場合、取得する従業員が不利になるような状況にしてはいけません。たとえば、生理休暇を欠勤扱いとしたり、評価を下げたりすることで、生理休暇の取得率が低下する恐れがあります。このように、生理休暇を取得する従業員が不利になるようなルールを設けてはいけないと捉えましょう。
生理休暇を導入する企業のメリット
生理休暇を導入する企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的なメリットをご紹介します。
従業員の満足度向上
生理休暇を導入することで、従業員の満足度が向上しやすくなります。生理休暇が企業の制度として設けられていることによって、女性従業員は生理による体調不良を無理せず休めるようになります。その結果、従業員は安心して働けるようになり、企業に対する満足度が向上します。
従業員の生産性が高まる
生理休暇の導入は、従業員の生産性の向上において大きな意義があります。体調不良時に無理して仕事を続けると、集中力の低下や作業効率の悪化を招きがちです。また、ストレスの蓄積や精神的な負担が増大し、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす恐れがあります。
生理休暇を取得して十分な休養を取ることで、体調回復後により高いパフォーマンスで業務に取り組むことができます。
人材確保につながる
生理休暇を導入することは、企業における人材確保にもつながります。女性にとって、企業が生理休暇を積極的に取得させていることは、働くうえで重要なポイントとなります。生理休暇に関する企業の考えや取得率を示せれば、今いる従業員の確保だけでなく、優秀な人材の確保も期待できます。
生理休暇を導入する際の手続き
生理休暇を導入する際の手続きは、一般的に以下のような手順で行います。
- 就業規則への明記(変更)
- 休暇取得に関する申請手続きの整備
- 従業員への周知
まずは就業規則への明記を行います。次に生理休暇を取得する際の申請手続きに関する手段などを整備しましょう。最後に、従業員への周知も行います。周知は職場全体に行い、生理休暇に対する理解を深められるようにしましょう。
生理休暇の制度運用に関するポイント
生理休暇を企業が導入する際のポイントや注意点を解説します。生理休暇は従業員の満足度向上や人材確保にもつながるため、企業側にもメリットがあります。一般的に、生理休暇は取得率が低い状況にありますが、企業として女性従業員が取得しやすい環境を目指しましょう。
社内での生理休暇の理解を深める
生理休暇の取得率を上げるためには、社内における理解を深めることが大切です。生理休暇は法律で定められた労働者の権利であるにもかかわらず、取得率が低い状況にあります。
これは、男性上司への言いにくさや業務状況をふまえて女性が体調不良を我慢してしまうことなどが考えられます。
そのため、女性従業員が安心して生理休暇を取得するためには、社内周知を行ったり、生理休暇によるメリットを伝えたりして、社内の理解を深めることが大切です。
参照:『「生理」に関して理解ある職場環境を考えてみませんか?』厚生労働省
生理休暇の取得手順を整える
生理休暇を取得しやすくするためには、取得手順を整備することも大切です。たとえば、システム上で簡単に申請できることも重要です。女性従業員が、上司やマネージャー、人事労務担当者に直接伝えなければならない場合や手順が複雑な場合は心理的にも取得しにくくなってしまいます。生理休暇の取得手順をできるだけシンプルにし、申請しやすい方法を整えましょう。
生理休暇について就業規則に記載する
生理休暇についての内容を就業規則に明記します。これは、生理休暇に関するトラブルを防止したり女性従業員が安心して生理休暇を取得できるようにしたりするためです。企業は、就業規則において生理休暇の取得日数の上限を設けたり、雇用形態を限定するようなルールを設けることはできませんので注意しましょう。
診断書の提出を求めない
生理休暇の取得を希望する従業員に対して、企業は診断書や証明書等の提出を求めてはいけません。法律上、このような定めはなく、女性の権利として生理休暇の取得を定めているためです。女性従業員の生理休暇申請を尊重し、スムーズに取得できるような環境整備を進めましょう。
まとめ
生理休暇は、法律で定められた女性労働者の権利です。企業側はたとえ就業規則に明記していなくても、女性従業員本人による希望があれば、拒否できません。また、生理休暇は無給とする企業が多く、給与に関する扱いは企業ごとの判断で行います。生理休暇を無給にする場合は、従業員の給与計算において不利にならないよう注意しましょう。