出向とは? 派遣や左遷との違いや企業の目的も解説

出向とは? 派遣や左遷との違いや企業の目的も解説

出向の意味は、ビジネスで自社の社員を他社に出向かせる、あるいは他社の従業員を自社に受け入れる際に使われる言葉です。出向には、派遣や左遷などと混同しやすい言葉もあります。

本記事では、出向の意味や企業の目的について解説します。混同しやすい言葉との違いも紹介するので、特に企業の人事担当者は参考にしてください。

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    出向とは? 

    出向とは、企業の従業員が出向先(他社)へ赴き、出向先の指揮命令下のもと、業務に取り組むことです。出向の目的は、従業員の成長やキャリア形成を促進する点や出向先企業の業績向上や人材補充などが挙げられます。

    厚生労働省の「産業雇用安定助成金出向実施計画届」のデータによると、出向労働者数は1万人を上回っており、企業でニーズが高まっている人事施策の1つです。

    参照:「産業雇用安定助成金の活用状況」厚生労働省

    出向と派遣の違い

    出向と派遣は混同しやすい言葉です。どちらも、従業員が在籍する企業とは別に、業務に関する指揮命令権は他社が所有します。出向の場合は出向元に在籍し、業務の指揮命令権は出向先企業です。派遣の場合は派遣元企業に在籍し、業務の指揮命令権は派遣先企業にあります。

    両者の明確な違いは、労働契約をどこで行うかです。在籍出向は、労働契約を出向元と出向先の二か所で行います。転籍出向の場合は、出向元企業との労働契約を解消し、出向先企業と労働契約を結びます。一方、派遣との違いは、派遣元企業とのみ労働契約を締結することです。

    出向と左遷の違い

    出向と左遷も、意味を正しく理解しておく必要があります。そもそも出向は従業員の成長やキャリア形成、雇用確保などを目的として行う人事施策です。左遷とは、これまでの役職や待遇を下回る環境で働かせることを意味します。そのため、出向と左遷は、目的が異なります。

    出向と左遷が混同されるのは、在籍出向の場合、出向元でのキャリアパスから一時的に外れることがあるためです。このため、出向が左遷と同じものだと誤解を生みます。しかし、出向は、従業員のキャリア形成や成長によい影響をもたらす前向きな要素が強い人事施策です。

    出向の種類

    出向の種類には、在籍出向と転籍出向の2種類があります。両者の違いを把握し、出向の仕組みについて理解しましょう。

    在籍出向とは

    在籍出向とは、従業員が出向元(もともと所属する企業)に在籍したまま出向先に勤務する制度を指します。労働条件等は、出向元企業で契約している内容のままであることが一般的です。給与の支払いは出向元企業が行い、業務の指揮命令権は出向先企業にあることが一般的です。

    また、出向元企業は、従業員の出向について出向先企業と契約を行います。そのため、対象従業員は、出向元と出向先で二重の労働契約を結ぶことになる点を理解しておきましょう。

    転籍(移籍)出向とは

    転籍出向とは、出向元企業と出向先企業が転籍契約を結びます。そのため、従業員の在籍は出向先企業です。対象従業員は、出向元企業との労働契約はなくなり、出向先企業と新たに労働契約を結ぶことになります。転籍出向では、給与の支払いも業務の指揮命令も、出向先企業が行うことが一般的です。

    出向の命令権と義務

    出向の命令権と従業員の出向義務の関係を解説します。出向の命令権は、在籍出向と転籍出向で異なるため、理解しましょう。

    在籍出向の場合

    在籍出向の場合、就業規則や雇用契約書等に明記されていれば出向元企業に命令権があります。そのため、従業員は原則企業からの出向命令について拒否できません。就業規則等に記載されていれば、規定された内容に従うことに同意していると見なされるためです。

    転籍出向の場合

    転籍出向の場合、出向元企業には命令権がなく、対象従業員の同意を得なければなりません。転籍出向は、出向元企業から出向先企業に籍を移すため、転職と同等扱いとなります。そのため、さまざまな変化が生じる可能性のある対象従業員に配慮する必要があるのです。

    出向における必要書類

    企業が従業員を出向させる場合、いくつかの書類を用意しなければなりません。企業が従業員を出向させる場合は、必要書類を把握し、漏れのないようにしておきましょう。

    在籍出向で企業が用意すべき書類

    在籍出向で企業側が用意すべき書類には、以下3つの書類が挙げられます。

    • 出向辞令
    • 出向通知書
    • 出向契約書

    これらの書類は、従業員への説明や企業内契約を明確にし、トラブル防止につながるため、詳しくご紹介します。

    出向辞令

    出向を命じる際は、出向辞令を発行します。出向辞令の書面には、出向期間や出向先企業名、出向期間中の取り扱い(休職扱い)などを記載します。また、就業規則や雇用契約書など、出向命令を行う根拠も記載しましょう。

    出向通知書

    出向元企業は、出向先企業の具体的情報をまとめた「出向通知書」も発行します。対象従業員が、出向先の企業情報や、期間や待遇などをあらかじめ把握することで、出向の不安を軽減させることにもつながります。

    出向契約書

    出向の際には、出向契約書も作成します。出向契約書に記載する内容には、以下のような項目を入れましょう。

    • 出向元および出向先の情報
    • 出向させる対象従業員の情報
    • 出向期間中および期間中の取扱い
    • 出向者の業務など
    • 出向者の労働条件など
    • 社会保険等
    • 出向先の給与負担金など
    • 復職に関する条件
    • 機密保持
    • 個人情報
    • 出向契約書の有効期間
    • 合意管轄
    • 協議事項
    • 出向に関する従業員の同意や承諾(署名欄)

    また、出向によって従業員に不利益が被らないような配慮や補償の記載も重要です。具体例として、以下のような点を記載します。

    • 出向期間は出向元企業の在籍期間に通算する旨
    • 出向先における労働条件が従業員に不利益になる場合は出向元が補償する旨

    このように、出向契約書では、出向先企業の命令内容などを一方的に記載するのではなく、対象従業員へ配慮した内容で作成しましょう。

    転籍出向で用意すべき書類

    転籍出向を行う際に用意すべき書類をご紹介します。転籍出向の場合、従業員の在籍が出向元から出向先へと移るため、特に注意して書類を用意する必要があります。

    具体的には以下の書類が必要です。

    • 転籍協定書
    • 転籍辞令
    • 転籍同意書

    転籍協定書

    転籍協定書は、出向元と出向先で事前調整を行い、対象従業員の同意を得たうえで、作成します。協定書には以下の内容を記載します。

    • 退職と雇入れについて
    • 転籍後の指揮命令権の所在
    • 勤務条件や就業規則
    • 転籍に関するの事務手続きについて

    また、出向の状況にあわせて「退職・再雇用型」か「労働契約譲渡型」を踏まえて作成するのがポイントです。

    転籍辞令

    転籍辞令の書面には、転籍日や転籍先企業名などを記載します。また、転籍後の労働条件などは、転籍同意書や転籍協定書に基づく旨の記載も行いましょう。辞令書類は、できるだけシンプルな内容にし、必要な情報だけを記載します。

    転籍同意書

    転籍出向では、出向元企業から籍を移すことになるため、対象従業員の同意が必要です。そこで、出向元企業は、同意書の作成の必要があります。

    転籍同意書は、転籍先企業の情報や業務内容、待遇など、転籍出向に関する概要を記載し、対象従業員の署名と捺印を行う内容にしましょう。

    出向のメリットとデメリット

    出向に関するメリットとデメリットを、出向元・出向先・対象従業員の3者目線で紹介します。

    メリットデメリット
    出向元企業・人材育成を進められる
    ・出向先企業との信頼関係構築
    ・自社の人材リソースが不足する
    ・優秀な従業員の場合は組織や業績に悪い影響が出る可能性もある
    出向先企業・組織活性化
    ・出向元企業との信頼関係構築
    ・人材の受け入れ体制を整備する必要がある
    ・教育コストがかかる
    対象従業員・業務の知見が広がる
    ・経験を積める
    ・人脈を拡大できる
    ・新たな人間関係や業務内容に慣れるまで時間がかかる

    出向を行う際は、どの立場でもメリットとデメリットがある点を理解しておきましょう。

    出向について企業が注意すべきポイント

    出向を行う際は、企業側が注意するべきポイントがあります。あらかじめ注意点を理解しておくことで、トラブルやリスクを回避できるため、参考にしてください。

    • 人事労務関係の取り扱い
    • 転籍出向は強制できない
    • 企業の権利濫用に注意する

    人事労務関係の取り扱い

    出向では、社会保険や福利厚生などの取り扱いについて、整理しておく必要があります。従業員に対して実際に給与を支給している企業が、社会保険料の支払い責任を負います。在籍出向の場合は、出向元と出向先企業のどちらが給与支払いを受け持つのかを明確にしておきましょう。

    また、福利厚生は、企業が任意で用意するものであるため、仮に双方の福利厚生を二重で適用させることも問題ありません。出向契約を定める際に、対象従業員にとって不利益にならないような取り決めを行いましょう。

    転籍出向は強制できない

    転籍出向は、従業員の同意が必要です。在籍出向は、就業規則などの規定に基づき企業側が命令できるのに対して、転籍出向の場合は一方的には命令できません。これは、転籍によって在籍する企業が変わり、待遇やキャリアにも変化が起こる可能性があるためです。企業が転籍出向を検討する際は、あらかじめ従業員と話し合い、本人の意思を確認しましょう。

    企業の権利濫用に注意する

    企業が行う出向命令は、権利濫用に該当しないよう注意が必要です。就業規則や雇用契約書で出向に関する規定があっても、出向するための正当な理由がなければ出向命令は認められない場合もあります。具体的には、以下のような点が権利濫用かどうかを判断する材料とされます。

    • 企業経営における出向の必要性の有無や動機の重要度
    • 出向対象者における基準の合理性
    • 出向によって被る労働者の不利益の有無や程度

    正当な理由や必要性がないにもかかわらず、出向命令を強行しようとすると、権利濫用として労働契約法に違反する可能性もあるため、注意しましょう。

    参照:「労働契約法第14条」e-GOV法令検索

    まとめ

    出向は、企業が自社の従業員を出向先で業務させることを指します。出向の種類には、在籍出向と転籍出向があります。企業が従業員を出向させる場合は、どちらの種類であっても、それぞれ必要書類を作成しなければなりません。従業員の出向を実施する際は、トラブルを防止するためにも、事前に従業員の納得や同意を得たうえで、書類を作成しましょう。