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段階的な社会保険適用拡大にどう対応する? 2024年10月に向けた行動・適用要件を解説

2024年10月より、パートやアルバイトなどの短時間労働者を対象とした社会保険の適用範囲が拡大します。社会保険の適用範囲は2016年より段階的に拡大しており、次回の拡大でより多くの労働者が社会保険の加入対象となるのです。本記事では、社会保険の適用拡大の流れや、2024年10月に向けて企業が対応すべきことについて詳しく解説します。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

段階的な社会保険適用拡大にどう対応する? 2024年10月に向けた行動・適用要件を解説
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    2024年10月から始まる社会保険の適用拡大

    社会保険の適用拡大は、現在重要視されている、少子高齢化やワークスタイルの多様化など現代の日本の状況にあわせて、適切な社会保険を提供することを目的に実施されている取り組みです。

    社会保険に加入すれば医療保険が充実し、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても傷病手当金や出産手当金などが受け取れます。

    さらに、厚生年金に加入することで国民年金とあわせて年金を受け取れるため、保障内容が大幅に拡充するでしょう。これまで保障を十分に受けられなかった短時間労働者には、今回の法改正は非常に大きなメリットがあるといえます。

    特定適用事業所の対象となる従業員数の段階的な変化

    短時間労働者を社会保険の適用対象とする事業所を「特定適用事業所」と呼びます。パートやアルバイトなどを対象とした社会保険の適用拡大は、2016年より順次スタートしており、企業の従業員規模によって適用されてきました。

    時期適用拡大の要件
    2016年10月〜従業員501人以上規模の企業
    2017年4月〜従業員500人以下の企業(労使合意により、適用拡大が可能)
    2022年10月〜従業員101人以上規模の企業
    2024年10月〜従業員51人以上規模の企業 ※2023年4月現在の情報

    今回の改正のポイントは、従業員規模が51人以上の企業においても、一定の要件を満たす短時間労働者は社会保険の被保険者となる点です。

    従業員数をカウントする際の注意点

    一般的に従業員とは、企業に雇用される正社員をはじめ契約社員やパート、アルバイトなどの雇用形態を含む労働者の総数を指します。

    しかし、社会保険の適用要件を判断する際は常時使用する労働者数ではなく、直近12か月のうち6か月で「一定の要件」を満たす社会保険の被保険者数が上回ると、日本年金機構において適用されます。一般的な従業員数の考え方とは異なると理解しておきましょう。

    また、一度従業員数が適用対象となったら、従業員数が減ったとしても特定適用事業所として判断されます。万が一、特定適用事業所を辞退したい場合は「特定適用事業所不該当届」の提出が必要です。

    参考:『従業員数100人以下の事業主のみなさま』厚生労働省

    社会保険適用の対象となる従業員の要件

    特定適用事業所で働く従業員は、以下の4つの要件を満たした場合に社会保険適用の対象となります。

    • 1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である
    • 月額賃金が8.8万円以上である
    • 2か月を超える雇用の見込みがある
    • 学生ではない

    参考:『従業員数100人以下の事業主のみなさま』厚生労働省

    労働時間とは、残業時間を含まない労働契約上の所定労働時間を指します。ただし、契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2か月間続けて20時間以上となり、そのあとも続くことが見込まれる場合は、3か月目以降に保険適用と判断されます。

    なお、月額賃金は残業手当や賞与などの手当は含みません。また、休学中や夜間学生の場合は社会保険の加入対象なので注意しましょう。

    特定適用事業所ではない企業が社会保険に加入する方法

    一定の要件を満たす社会保険の被保険者数が100人以下(2024年10月以降は50人以下)の事業所であったとしても、全体の半数以上の被保険者の同意を得られれば「任意特定適用事業所」の申請が可能です。

    厚生労働大臣の認可を得ることで、規模が小さな企業も社会保険適用事業所として認定されます。申請先は日本年金機構の事務センターもしくは管轄の年金事務所で、事業主が手続きをします。

    参考:『任意特定適用事業所申し出・取消申し出の手続き』日本年金機構

    社会保険の適用拡大への対応ステップ

    社会保険の適用拡大に該当する企業は、従業員に周知したうえで必要な手続きをしていきましょう。

    1. 特定適用事業所の手続きをする
    2. 加入対象者を確認し社会保険料の負担を見積もる
    3. 加入対象者に社会保険適用拡大について説明する
    4. 社会保険新加入者の被保険者資格取得届を提出する

    1.特定適用事業所の手続きをする

    2024年10月時点で対象となることが明らかな企業には、日本年金機構から『特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ』が事前に届きます。この通知書が届いた場合、特定適用事業所に加入する手続きは不要ですが、該当者については被保険者資格取得届出に関する手続きが必要です。

    また『特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ』が届かない場合や施行日以降に特定適用事業所となった場合は、特定適用事業所になった日から5日以内に「特定適用事業所該当届」を提出しなければなりません。

    2.加入対象者を確認し社会保険料の負担を見積もる

    まずは、自社の短時間労働者が社会保険適用拡大の対象であるかをチェックし、社会保険に新規加入する従業員を抽出しましょう。

    企業にとって社会保険料の負担は非常に大きく、社会保険の適用拡大をきっかけに労働条件を見直す企業も多く存在します。自社の負担する社会保険料がどの程度増えるか、事前に見積もっておくことも大切です。

    3.加入対象者に社会保険適用拡大について説明する

    制度改正に関して、新たに社会保険加入対象者となった従業員はもちろん、今後の働き方によって加入対象となり得る従業員に対しても周知してください。

    社内イントラやメールを活用したり、社内説明会や個人面談の機会を設けたりして、従業員と直接コミュニケーションをはかるのがおすすめです。社会保険に加入するメリットを伝え、今後の労働時間について話し合いましょう。

    4.社会保険新加入者の被保険者資格取得届を提出する

    社会保険への加入から5日以内に、健康保険・厚生年金保険の「被保険者資格取得届」を提出します。加入対象者の未加入が判明した場合は日付をさかのぼって社会保険料を支払わなければならないため、早めに手続きしてください。

    社会保険への加入で生じる従業員のメリット

    新たに社会保険に加入対象となる短時間労働者に対して、社会保険に加入するメリットを伝えることが大切です。

    • 老後の備えになる
    • 社会保険の手厚い保障を受けられる
    • 扶養基準を気にせず働ける
    • 保険料が安くなる場合もある

    老後の備えになる

    社会保険に加入することで厚生年金保険に加入できるため、年金受給額が増え、老後の備えとなるでしょう。国民年金加入者は「老齢基礎年金」のみ受給可能ですが、厚生年金加入者なら老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金や障害厚生年金、遺族厚生年金も受け取れるのが特徴です。

    参考:『従業員数100人以下の事業主のみなさま』厚生労働省

    社会保険の手厚い保障を受けられる

    社会保険に加入することで、健康保険も充実します。業務外に生じたケガや病気による療養で働けなくなった際に支給される「傷病手当金」では、最長1年6か月にわたって給与の3分の2相当を受け取れます。

    さらに、出産のために欠勤し、報酬が受け取れない場合に支給される「出産手当金」では、出産日以前42日、産後56日の間に給与の3分の2相当を受け取れます。

    参考:『従業員数100人以下の事業主のみなさま』厚生労働省

    扶養基準を気にせず働ける

    社会保険に加入すれば、扶養基準を気にせずに働けるのも大きなメリットです。社会保険に加入しない場合は、年収106万円(月額88,000円)までに収入を抑えなければなりません。

    労働時間を気にしなければ、好きなだけ働けて収入が増えるのはもちろん、キャリアの幅が広がりやすくなるのもうれしいポイントといえるでしょう。

    参考:『従業員数100人以下の事業主のみなさま』厚生労働省

    保険料が安くなる場合もある

    これまで国民健康保険料を払っていた従業員のなかには、社会保険料を企業と折半することで保険料が安くなる人もいます。月々の負担を減らせる従業員が出てくるのも、大きなメリットといえるでしょう。

    社会保険への加入で生じる従業員のデメリット

    社会保険料は、企業と従業員とで折半をして納付します。そのため、社会保険に加入すると従業員の手取り収入が下がってしまいます。さらに、扶養対象となる年収基準が厳しくなる、国民年金の第3号被保険者でなくなるなどのデメリットも生じるでしょう。

    社会保険への加入よる従業員の手取り収入の変化

    従業員と話し合う際に、従業員の手取り収入の変化を理解しておきましょう。

    扶養の範囲内で働いてきた主婦パートが社会保険へ加入した場合

    扶養の範囲内で働いて月に88,000円ほどの収入を得ている東京都の主婦パートの方が社会保険に加入する場合、ひと月にかかる保険料は次の通りです。

    厚生年金8,052円
    健康保険4,316円
    合計12,368円

    参考:『令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表』全国健康保険協会

    このように、毎月1万円ほど手取りが減るため、社会保険に加入するメリットが理解できたとしても大きな負担を感じ、社会保険への加入をためらう人も多いと予想されます。勤務時間を削減しようと検討する人が増える可能性もあります。

    国民健康保険加入者が健康保険・厚生年金保険に加入した場合

    国民健康保険に加入している年収200万円のフルタイムパートの方が、健康保険・厚生年金保険に加入した場合の負担額の違いを見ていきましょう。

    国民健康保険料は年収や年齢、居住地、家族構成によって異なるため、全国平均の保険料を記載しています。なお、厚生年金は国民年金の2階部分であり、厚生年金に加入しても、国民年金の資格を喪失するわけではありません。

    健康保険・厚生年金保険加入前
    国民年金16,520円
    国民健康保険12,039〜14,741円
    合計28,559〜31,261円
    健康保険・厚生年金保険加入後
    厚生年金15,555円
    健康保険8,339円
    合計23,894円

    このように、社会保険に加入することで、ひと月あたりの負担額がおよそ4,600〜7,300円軽減します。そのほかにもメリットがあるため、社会保険に加入する意味は大いにあるといえるでしょう。

    社会保険の適用拡大に対応するポイント

    社会保険の適用拡大に向けて、企業として対応する際の2つのポイントをご紹介します。

    複数の企業で働く従業員の扱いに注意する

    複数の企業で働く従業員の社会保険料は、本業・副業すべての給与金額を合算して求めなければならないため、十分注意が必要です。

    従業員自身が主たる事業所を選択し、管轄の日本年金機構で手続きをします。そのあと、決定した保険料は管轄の事務センターからそれぞれの事業所に伝えられるので、その指示にしたがって保険料を徴収してください。

    労働条件の変更・解雇の際は従業員の合意を得る

    労働条件は、企業と従業員の双方の合意によって定められるのが原則です。つまり、企業による一方的な労働時間の削減や時給引き下げは無効です。そのため、従業員の意向を確認したうえで、社会保険への加入や労働条件を決めていかなければなりません。一方的な解雇や、強引な退職勧奨も避けましょう。

    社会保険への加入を促す際に役立つキャリアアップ助成金

    キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の正社員化や人材育成、処遇改善などの取り組みを助成する制度です。

    なかでも「短時間労働者労働時間延長コース」では、週所定労働時間を延長することによって社会保険の加入者を増やした場合に助成金が支払われます。助成金を財源に時給アップを提案できるため、従業員と企業双方にとって大きなメリットとなるはずです。

    2024年10月の適用拡大に向けて必要な準備を

    社会保険制度の改正によって、2024年10月から適用拡大が実施されます。これまで特定適用事業所に該当しなかった企業や短時間労働者の要件を満たしていなかった従業員に、大きな影響を与える制度改正といっても過言ではないでしょう。企業として今回の適用拡大の変更点や必要な段取りを正しく理解し、要件を満たす従業員に対するフォローを徹底していきましょう。

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