【記入例】労働保険年度更新申告書の書き方をケース別にわかりやすく解説
労働保険に加入している事業者は、年度更新という手続きを毎年する必要があります。労働保険の年度更新では、『労働保険年度更新申告書』を提出します。労働保険年度更新申告書の記載内容には複雑な部分も多く、書き方に悩んでしまう人も少なくありません。
本記事では、労働保険年度更新申告書の書き方をわかりやすく解説します。ケースごとの記入例を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
労働保険年度更新申告書とは|提出の概要
労働保険年度更新申告書とは、労働保険に加入している事業者が年に一度、労働保険の保険料を申告するための書類です。
そもそも労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。
労働保険料の納付は、1年間の見込み賃金をもとに概算の保険料を納付し、賃金が確定してから本来の保険料との差額を精算する仕組みです。
労働保険における年度更新とは、前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算するとともに、今年度の概算保険料を計算して、合算した金額を申告・納付する手続きです。
労働保険の年度更新の概要は以下の通りです。
期限 | 7月10日(6月1日〜7月10日) |
提出先 | ・労働局・労働基準監督署・金融機関 |
提出方法 | ・窓口持参・郵送・電子申請 |
申告納付対象 | ・労災保険料従業員を1人でも雇用している場合 ・雇用保険料雇用保険の被保険者資格を有する従業員を1人でも雇用している場合 ・一般拠出金 |
提出物 | 労働保険年度更新申告書 |
労働保険年度更新申告書は事業別に様式が異なる
労働保険年度更新申告書には、3つの様式があります。
- 継続事業用
- 雇用保険用
- 一括有期事業用
継続事業の様式
「継続事業」とは、事業の期間を予定しない事業のことです。3つのうちもっとも一般的なのが継続事業用の様式で、労災保険と雇用保険をまとめて処理する「一元適用事業」に用いられます。
雇用保険用の様式
「雇用保険用」とは、労災保険と雇用保険を別々に処理する「二元適用事業」が使用する場合があります。
一括有期事業用の様式
「一括有期事業」とは、建設や立木の伐採の事業において一定の要件を満たす複数の小規模単独有期事業が、全体が一つの事業とみなされる場合に適用される制度です。一括有期事業として認められた事業も、継続事業とは別の様式を使用します。
本記事では、継続事業用の様式を前提として解説します。
参照:『労働保険の年度更新とは』厚生労働省
参照:『労務費率調査|用語の解説』厚生労働省
労働保険の年度更新申告書に書く内容
労働保険の年度更新申告書には、次の3つの内容を記載します。
- 一般拠出金の納付額
- 今年度の確定保険料
- 新年度の概算保険料
一般拠出金の納付額
一般拠出金とは、石綿(アスベスト)による健康被害を被った人のための救済費用です。事業の種類にかかわらず、すべての事業主が負担する決まりとなっています。納付額は「賃金総額×1,000分の0.02」で計算します。
今年度の確定保険料
確定保険料とは、1年間の賃金総額が確定したあと、正確な金額を算出した保険料のことです。
新年度の概算保険料
賃金の見込み額をもとに、新年度の概算保険料を計算して記載します。見込み額が前年度の2分の1から2倍の範囲におさまる場合は、前年度に確定した賃金総額と同額とします。
労働保険年度更新申告書を提出する流れ
労働保険年度更新申告書を提出する流れは、おおむね以下の通りです。
- 賃金集計表の作成
- 申告書の作成・提出
- 保険料の納付
1.賃金集計表の作成
賃金集計表とは、賃金総額を集計するために作成する資料です。労働保険料は従業員の賃金総額に基づき算定するため、賃金の内訳をまとめた賃金集計表があるとスムーズに計算できます。
申告書に添付する必要はないので、手続きを終えたあとは自社で保管しておきましょう。賃金集計表の作成には、厚生労働省の支援ツールを活用すると便利です。
参考:『主要様式ダウンロードコーナー(労働保険適用・徴収関係主要様式)』厚生労働省
出典:『令和5年度 確定保険料算定基礎賃金集計表/令和5年度 確定保険料算定内訳』厚生労働省
2.申告書の作成・提出
賃金集計表の内容を確認しながら、申告書を作成します。申告書には、労災保険と雇用保険の対象となる賃金の金額をそれぞれ記入します。そのほか、前年度の確定保険料や今年度の概算保険料など必要事項を記入し、労働局や労働基準監督署などに提出しましょう。
納付額については、一括納付する場合と分割納付する場合とで書き方が異なります。分割納付する場合は、期別の納付額を分けて記入しましょう。
3.保険料の納付
労働保険の年度更新は、保険料の申告と納付がセットです。申告書を提出するのと同時に、保険料を納付しましょう。
労働保険年度更新申告書の一般的な書き方
労働保険年度更新申告書の一般的な書き方を解説します。年度更新申告書の様式は、次の通りです。
出典:『令和6年度 労働保険年度更新申告書(下書き用)』厚生労働省
主な記載項目について、以下で書き方のポイントを紹介します。
(1)対象労働者数
常時使用している労働者数と、雇用保険の被保険者数について、前年度の1か月平均の人数をそれぞれ記入します。
(2)確定保険料・一般拠出金
確定保険料の算定金額(確定賃金総額)や、確定保険料と一般拠出金の額を記入します。
労災保険と雇用保険の対象者数が異なる場合は、それぞれの保険料を内訳として記入しましょう。たとえば、パートやアルバイトのなかに週の所定労働時間が20時間未満の人がいて、雇用保険の被保険者資格を満たさない場合などです。
(3)概算保険料
概算保険料と、計算のもとになった算定金額(見込み賃金総額)を記入します。基本的な書き方は、確定保険料と変わりません。
(4)延納の申請
労働保険料は原則一括納付ですが、10月1日以降に保険関係が成立した事業ではなく、次のいずれかの条件を満たす場合は分割納付(延納)が可能です。
- 概算保険料が40万円以上
- 労災保険か雇用保険のどちらかのみに加入しており、その保険料が20万円以上
分割納付を希望する場合は「延納の申請」の欄に「3」を、一括納付する場合は「1」を記入します。
なお、労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合には、保険料の額を問わず延納が可能です。
(5)差引額・充当意思
確定保険料が概算保険料より多い場合は、保険料を追加で納付する必要があるので、不足分の金額を記入しましょう。
一方、確定保険料が概算保険料より少ない場合は、保険料を多く払いすぎています。今年度の概算保険料や一般拠出金の納付に充当できます。
充当を希望する場合は、「充当意思」の欄に「1」〜「3」の数字を記入しましょう。
1:労働保険料のみ充当
2:一般拠出金のみ充当
3:労働保険料及び一般拠出金に充当
(6)期別納付額
確定保険料から概算保険料を差し引いた結果の不足額や充当額、一般拠出金の金額などを記入します。分割納付する場合は、3期に分けて記入しましょう。
【ケース別】労働保険年度更新申告書の書き方
労働保険年度更新申告書の書き方をケース別に解説します。
確定保険料が概算保険料を上回る(不足が出る)場合
確定保険料が概算保険料を上回る場合は、「確定保険料額」と「申告済概算保険料」の欄にそれぞれの金額を記入し、その差額を「差引額」の「不足額」欄に記入します。
また、「期別納付額」の「不足額」欄にも同じ金額を書き、今年度の概算保険料額と一般拠出金額に足した金額を記入しましょう。
確定保険料が申告済概算保険料を下回る(充当する)場合
確定保険料が申告済概算保険料を下回る場合は、次の3パターンが考えられます。
- 労働保険料のみ充当する
- 一般拠出金のみ充当する
- 労働保険料と一般拠出金の両方に充当する
たとえば労働保険料と一般拠出金の両方に充当する場合は、「確定保険料額」と「申告済概算保険料」の欄にそれぞれの金額を記入し、その差額を「差引額」の「充当額」欄に記入します。
そして、充当意思欄に「3」と記入し、充当額を「期別納付額」の「労働保険料充当額」や「一般拠出金充当額」欄に記入しましょう。
充当後還付額が出る場合
充当後も充当額が余る場合は、還付金として扱われます。計算の結果還付金が生じる場合は、充当する場合の基本的な項目を記入したうえで、「差引額」の「還付額」欄に充当額のあまりの金額を書き入れましょう。
労働保険年度更新申告書の書き方や提出に関する疑問
次は、労働保険年度更新申告書の書き方や、提出に関するよくある疑問に答えます。
申告書はどこでもらえる?
労働保険年度更新申告書は、毎年5月下旬ごろ、緑の封筒で事業所宛に送られてきます。
封筒には申告書だけでなく次のような書類も入っているので、送られてきたら中身を確認しましょう。
- 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表
- 申告書の書き方
- 保険料率表
書類が届かない場合はどうする?
労働保険の年度更新は例年6月1日から手続きができるようになります。万一、6月1日を過ぎても書類が届かない場合は、一度管轄の労働局や労働基準監督署に問い合わせることをおすすめします。
押印は省略できる?
2020年の法改正により、労働保険関係書類から押印欄が廃止されました。労働保険の年度更新についても、押印は必要ありません。
手続きが遅れたらどうなる?
手続きが遅れると政府によって労働保険料と一般拠出金の額が決定され、確定保険料に対して10%の追徴金が課せられる恐れもあります。
労働保険年度更新申告書の電子申請について
2020年4月より、特定の法人に対して労働保険の年度更新の電子申請が義務化されました。義務化の対象となる法人の条件は、以下の通りです。
- 資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
- 相互会社(保険業法)
- 投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
- 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)
参照:『2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます。』厚生労働省
義務化の対象ではない法人であっても、労働保険の年度更新手続きを電子申請することは可能です。電子申請は時間や場所を選ばず手続きができ、窓口まで移動する手間もかからないなど、なにかとメリットが多いでしょう。
電子申請の基本的な手順は、以下の通りです。
- e-Govアカウントを作成する
- 電子証明書を取得する
- 専用アプリをインストールする
- ログイン後、手続検索から「労働保険年度更新申告」を探す
- 申請書入力画面で必要事項を入力する
- 電子証明書を添付したデータをe-Govに保管する
- 保管した申請データを送信する
- 保険料を電子納付する
労働保険年度更新申告書は電子申請が便利(まとめ)
労働保険年度更新申告書には、確定保険料や申告済概算保険料との差額、今年度の概算保険料などを記入します。記載内容は、確定保険料と申告済概算保険料を差し引きした結果や、充当のやり方などにより異なります。
労働保険年度更新申告書は、保険料を申告・納付するための大切な書類です。基本の書き方やケース別の記入方法などを把握しておきましょう。
労働保険の年度更新申告書は窓口や郵送でも提出できますが、手続きの手間を軽減するなら電子申請をおすすめします。労働保険料の申告・納付をオンラインで済ませられるので、検討してみてはいかがでしょうか。
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