労災保険のメリット制とは【保険料負担を公平にする仕組み】対象や計算方法をわかりやすく解説

労災保険のメリット制とは、各企業の労災発生状況に応じて保険料率を割引、または割増する制度です。
労災保険料は本来、業種ごとに決まった保険料率をもとに事業主が全額負担しますが、実際には上下することがあります。なかには「今年の労災保険料が上がった」という通知を見たことがある方もいるでしょう。
本記事では、労災保険のメリット制の仕組みや計算方法、適用条件、通知の見方まで担当者向けにわかりやすく解説します。
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目次

労災保険のメリット制をわかりやすく解説
労災保険のメリット制とは、事業場ごとに労災の発生状況に応じて、保険料率を調整する制度です。労災が少ない企業には保険料を下げ、発生が多い企業には引き上げるため、同じ業種でも企業ごとに保険料が変わる可能性もあります。
通常、労災保険料は「賃金総額×保険料率」で計算され、保険料率は業種ごとのリスクに応じて国が定めます。しかし、企業ごとの安全対策によって労災リスクは異なるため、メリット制では事業場単位で保険料率を見直すのです。
労災保険のメリット制の対象は「業務災害」のみで「通勤災害」は含まれません。災害件数ではなく支給された保険給付の総額により判断されます。
保険料の変動幅は最大で増減ともに40%です。安全対策に取り組む企業ほど、保険料が割安になります。

メリット制の目的
労災保険のメリット制の主な目的は、「保険料負担の公平化」と「労災の抑制努力の促進」です。
業種ごとに一律で決まる保険料率は、安全対策に取り組んでいる企業もそうでない企業も、同じ保険料を支払うことになり、不公平感が生まれがちです。とくに労災保険は、事業主が全額負担するため、不満は大きくなります。
そこで、労災の発生状況に応じて保険料率を調整することで、安全対策をしている企業には割引というメリットを与え、労災防止の意識向上につなげる狙いがあります。
メリット制の適用を確認する方法
メリット制の対象となった企業には、毎年の労働保険(雇用保険+労災保険)の年度更新時期に『労災保険率決定通知書』が送付されます。
通知書に「割引」や「割増」のメリット増減率が記載されていれば、メリット制が適用されているということです。
事業主は通知を受け取ることでのみ、自社にメリット制が適用されたことを把握できます。Webサイトで照会するなど原則として事前に確認する方法はありません。
労災保険のメリット制は企業から申請して審査を受けるのではなく、要件を満たすと自動的に適用される仕組みであるのが特徴です。
メリット制の適用時期
労災保険のメリット制は、継続事業の場合、直近3保険年度の労災発生状況をもとに、翌々年度の保険料率に反映されます。
たとえば、2022年度・2023年度・2024年度の3年間の実績が対象となる場合、反映されるのは2026年度の労災保険料率です。
実績と適用に間隔があるため、過去の労災が数年後の保険料に影響を与える点には注意が必要です。
労災保険のメリット制の対象事業・適用要件
労災保険のメリット制が自社に適用される可能性があるか気になりますよね。
メリット制の適用は、事業の種類(継続事業、一括有期事業、単独有期事業)によって異なります。「継続事業」「一括有期事業」「単独有期事業」の3つに分けて、それぞれの対象条件をわかりやすく解説します。
継続事業
多くの一般企業は、業種を問わず事業の期間が予定されていない「継続事業」に該当します。継続事業の場合、メリット制の適用対象となるためには、「事業の継続性」と「事業規模」に関する要件を両方満たす必要があります。
要件1:事業の継続性 |
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制度適用の前々保険年度の3月31日時点で、労災保険の成立から3年以上が経過している |
要件2:事業の規模 |
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・制度適用の前々保険年度からさかのぼった3年度において、各年度が次のいずれかの条件を満たしている ・労働者を100人以上使用している ・労働者を20人以上100人未満を雇っており、災害度係数※が0.4以上である |
※災害度係数とは、従業員数に保険料率(業種ごとの)から非業務災害率を除いた値を掛け算した数値です。
なお、継続事業ではメリット制における保険料率の変動幅は最大40%です。
一括有期事業
複数の現場をまとめて労災保険に加入している建設業や立木の伐採業は、「一括有期事業」に該当します。メリット制の適用要件は次の2つです。
要件1:事業の継続性 |
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制度適用の前々保険年度の3月31日時点で、労災保険の成立から3年以上が経過している |
要件2:事業の規模 |
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・基準となる3保険年度における労災保険の確定保険料が、40万円以上であること ・3保険年度における労災保険の確定保険料が、各年度で100万円以上の場合は、メリット増減率40% ・3保険年度のうち1年度でも確定保険料が40万円以上100万円未満の年がある場合は、メリット増減率30% |
単独有期事業
事業の期間が予定されており、単独で労災保険に加入する建設業や立木の伐採業は、単独有期事業に該当します。以下のいずれかを満たすとメリット制の対象です。
- 労災保険の確定保険料が40万円以上
- 建設業の場合:請負金額が税抜1億1,000万円以上
- 林業(立木の伐採業)の場合:素材の生産量が1,000㎥以上
労災保険のメリット制の計算方法
労災保険のメリット制の計算方法は非常に複雑であり、自社で計算することはほとんどありません。とはいえ、仕組みを大まかに理解しておくと、通知書の内容理解も進むため、参考までに紹介します。
メリット制を適用した最終的な労災保険料は、「メリット料率」に賃金総額を掛け算して算出します。基本の手順は次のとおりです。
- メリット収支率を計算
- メリット増減率を判定
- メリット料率を計算
- 賃金総額にメリット料率を掛け算
メリット収支率は、連続する3保険年度についての保険給付額と保険料の比率のことです。計算の具体的な式は、事業の種類や算定日によって差があり、詳細は厚生労働省のホームページで確認が可能です。
また、メリット増減率は厚生労働省の資料で確認できます。事業の種類や確定保険料の金額によって使用する表が異なるので注意しましょう。
参考:『労災保険のメリット制について』厚生労働省
参考:『労災保険の「メリット制」のご案内』厚生労働省
労災保険の特例メリット制とは
特例メリット制とは、労災保険のメリット制における増減率が最大45%になる制度です。通常、メリット制の増減率は最大40%ですが、所定の安全措置を講じた企業に対して、増減率が引き上げられます。
特例メリット制が適用される条件は、次の4つです。
- メリット制の適用がある継続事業であること(建設業、立木の伐採業を除く)
- 中小企業であること
- 厚生労働省が定める措置を講じたこと
- 3の措置を講じた年度の次の年度の4月1日から9月30日までの間に、特例メリット制の適用を申告していること
2の「中小企業であること」の要件に関しては、3の措置を講じた年度において、常時使用する従業員が次の範囲に収まっている必要があります。
金融業、保険業、不動産業、小売業、飲食店 | 50人以下 |
卸売業、サービス業 | 100人以下 |
そのほかの事業 | 300人以下 |
※企業全体の主たる事業で判断
また、3の「厚生労働省が定める措置」とは、次のいずれかです。
- 都道府県労働局長の認定を受けた快適職場推進計画に基づく、快適な職場環境の形成のために事業主が講ずる措置
- 機械設置などの計画届の免除の認定を受けた事業主が講ずる措置
まとめ
労災保険のメリット制は、労働災害の発生状況に応じて保険料率が上下する仕組みです。要件を満たすと自動で適用され、通知書で確認できます。計算は複雑ですが、労災リスクが低いほど保険料が下がるため、安全対策に力を入れている企業にはメリットがあります。
さらに労災保険料を抑えられる特例制度もあるため、詳細は毎年の通知や厚労省の情報を確認しましょう。ただし、通常のメリット制とは異なり、適用を受けるにはみずから申告する必要があるので注意が必要です。
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