労災保険の申請手続きとは【会社の対応】流れと必要書類・事業主側の注意点を解説

労災保険の申請手続きとは【会社の対応】流れと必要書類・事業主側の注意点を解説

従業員が仕事中にケガをした場合、会社としてどのように対応すればよいでしょうか。

労災保険の申請手続きは、頻繁に起こることではないため、いざというときに戸惑う担当者もいるかもしれません。 給付ごとに必要な書類の種類が多岐にわたるため、万が一に備えて手続きの流れを知っておくと安心です。

本記事では、労災保険の手続きの流れや必要書類を会社側の視点で整理し、注意したい点も解説します。

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目次アイコン目次

    労災保険の申請とは|会社の対応は?

    労災保険の申請は、従業員が業務中や通勤中に事故にあって負傷したり、疾病を発症したりした際に、治療費や休業中の収入を補償するための手続きです。申請は従業員本人、死亡の場合は遺族が行いますが、人事労務担当者が代わりに行うこともあります。

    会社が労災として認識していない場合でも、申請を拒否できず、労働基準監督署による最終判断を待たなければなりません。

    労災保険にはどんな種類がある?

    労災保険とは、労働者が業務中や通勤中に事故や災害に遭った場合に、治療費や休業補償などを国が負担する制度です。1人でも雇用すれば、事業主には加入義務が発生します。また、雇用形態にかかわらず全労働者が対象です。

    労災保険給付には、以下の7種類があります。

    • 療養(補償)等給付:業務上のケガや病気に対する医療費の補償
    • 休業(補償)等給付:業務上のケガや病気により働けなくなった際の給与の一部補償
    • 障害(補償)等給付:労災による後遺症が残った場合の給付
    • 遺族(補償)等給付:労災で死亡した場合に遺族に支払われる給付​
    • 葬祭料等(葬祭給付):労働者が死亡したときに葬祭を行った方への給付
    • 介護(補償)等給付:一定の障害により、介護を受けているときの給付
    • 傷病(補償)等年金:業務や通勤が原因となった傷病が治らず障害等級に該当するときの給付

    ▼労災保険の給付種類について詳しく知るには以下の記事をご確認ください。

    労災保険はどんな基準で認められる?

    労災保険が認められるには、ケガや病気の要因が「業務災害」または「通勤災害」に該当する必要があります。業務災害は仕事中や仕事に関連した行為中に発生した事故、通勤災害は出勤中や退勤中に発生した事故です。業務災害は、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つを満たすことで認められます。

    近年は過重労働が続いた結果、精神障害や過労死の事案も増えています。労災認定の基準は以下のとおりです。

    【精神障害がある場合の評価基準】

    • 症状性を含む器質性精神障害である
    • 気分(感情)障害である
    • 成人のパーソナリティおよび行動の障害である

    【長時間労働がある場合の評価基準】

    • 発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行っている
    • 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行っている

    ※以上の評価基準はあくまでも目安です。評価基準に満たなくても、労災認定される可能性があるため注意しましょう。

    労災保険の申請手続きに必要な書類

    労災保険の申請には、申請する給付の種類に応じた複数の書類が求められます。必要書類を正確にそろえ、労働基準監督署長に提出しましょう。

    各種給付請求書

    労災保険の申請には、給付の種類ごとに次のような書類が必要です。

    給付の種類書類
    療養(補償)等給付労災保険指定医療機関で受診した場合療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
    療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)
    労災保険指定医療機関以外で受診した場合療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号)
    療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)
    労災保険指定医療機関を変更する場合療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)
    休業(補償)等給付休業補償給付支給請求書(様式第8号)
    休業給付支給請求書(様式第16号の6)
    障害(補償)等給付障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書(様式第10号)
    障害給付支給請求書(様式第16号の7)
    遺族(補償)等給付遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書(様式第12号)
    遺族年金支給請求書(様式第16号の8)
    遺族補償一時金・複数事業労働者遺族一時金支給請求書(様式第15号)
    遺族一時金支給請求書(様式第16号の9)
    葬祭料等(葬祭給付)葬祭料・複数事業労働者葬祭給付請求書(様式第16号)
    介護(補償)等給付介護補償給付・複数事業労働者介護給付・ 介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)
    傷病(補償)等年金傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)

    参考:『主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)』厚生労働省

    様式と呼ばれる各種フォーマットは厚生労働省のホームページでダウンロードが可能です。

    給付ごとに複数の書類がありまぎらわしいため、取り違えないようにしなければなりません。主な書類の注意点をそれぞれ確認していきます。

    ▼もっともよく使われる様式5号については以下の記事で詳しく解説しています。

    治療費などの領収書

    療養(補償)等給付を申請する場合は、支払った医療費を証明する領収書が必要です。労災保険指定医療機関以外の病院で受診した際に立て替えた治療費については、請求書に領収書を添付して申請します。

    賃金台帳・出勤簿の写し(休業補償)

    休業(補償)等給付を申請する際には、賃金台帳出勤簿の写しが必要です。労働者がどの期間働けなかったのか、また、その間の賃金がどのように支払われたかを確認され、補償金額が決定します。

    休業(補償)等給付では、休業期間中の平均賃金の60%(休業特別支給金を合わせて80%)が支給されます​。

    後遺障害診断書等(障害補償給付)

    労災による後遺症が残った場合には、後遺障害診断書が必要です。医師が作成する書類は、労災による障害の程度を証明し、補償金額を決定するための基準となります。

    診断書には障害の内容や後遺症の程度が記載されており、障害等級に応じた補償が行われます。

    死亡診断書・戸籍謄本など(遺族補償給付)

    労災によって労働者が死亡した場合、遺族(補償)等給付を申請するためには、死亡診断書や戸籍謄本などが必要です。提出書類によって死亡の事実や労働者と申請者の関係が証明されれば、補償が決定します。

    労災保険の申請手続き|事業主側から見た流れ

    従業員の業務中や通勤中にケガや病気が発生した場合、事業主には迅速かつ正確な対応が求められます。労災保険の申請に際して、事業主は法律で義務づけられた手続きを行い、従業員が正当な給付を受けられるようにしなければなりません。

    万一のときに早急な対応ができるよう、全体の流れを理解しておきましょう。

    1. 従業員の報告を受けて労働者死傷病報告をする
    2. 請求書の事業主欄を記入する
    3. 請求書を労働基準監督署に提出する

    それぞれのステップで気をつけたいことを解説していきます。

    1.従業員の報告を受けて労働者死傷病報告をする

    事故によるケガや病気が発生した場合、事業主はまず従業員からの報告を受けます。そして『労働者死傷病報告』(様式第23号)を作成し、勤務先を管轄する労働基準監督署に提出する義務があります。報告は、従業員が4日以上休業する場合に必須です。

    休業日数が4日未満の場合は、四半期ごとにまとめて報告することが求められます。労働者死傷病報告には、事故の詳細や発生原因、従業員の傷病名、休業の見込み期間、事故発生時の状況を詳しく記入しましょう。

    なお、2025年1月1日からは、労働者死傷病報告の電子化申請が原則として義務化されています。従来の提出方法を継続している企業は見直しが必要です。

    2.請求書の事業主欄を記入する

    従業員が労災保険の給付を申請する際、事業主は、事業主証明欄に事業の名称や電話番号、所在地、法人名、代表者名などを記載する必要があります。事業主が証明を行うことで、労働基準監督署はその事故が労働に起因するものかを判断する材料とします。事業主が記載を拒否した場合、従業員は証明拒否理由書を提出しなければなりません。

    そのほか従業員側が記載する内容は、以下のとおりです。担当者は署名をする前に内容に問題がないか確認しましょう。

    • 被災従業員の氏名
    • 労災発生日(病気の場合は診断を受けた日)
    • 労災発生の状況を確認した人の名前
    • ケガや病気の部位や状態
    • 受診した医療機関

    事業主が事故を労災として認めない場合でも、従業員は労災保険の申請をすることが可能です。事業主証明欄が空白のまま提出され、労働基準監督署が最終的な判断を下すこととなります。

    3.請求書を労働基準監督署に提出する

    請求書に必要事項を記入したあと、労働基準監督署に提出します。基本的には従業員が提出するものの、事業主が代理で提出することも可能です​。労災保険法施行規則第23条1項で定められた助力義務により、本人が申請することが難しい場合には、事業主がサポートするように定められています。

    労災保険指定医療機関で受診した場合や、医療機関を変更する場合の療養(補償)等給付については、医療機関を経由して請求書を提出しましょう。労働基準監督署によって、事故が調査され、業務を原因とするものか判断されます。

    参考:『労働者災害補償保険法施行規則』e-Gov法令検索

    労災保険の申請手続きの期限

    労災保険の給付請求には、各給付金に応じた申請期限(時効)が設けられています。以下は代表的な労災給付の申請期限です。

    給付内容期限
    療養(補償)等給付治療費を支払った日の翌日から2年
    休業(補償)等給付労働者が休業した日の翌日から2年
    障害(補償)等給付労災による傷病が治癒(症状固定)した日の翌日から5年
    遺族(補償)等給付死亡した日の翌日から5年
    葬祭料等(葬祭給付)死亡した日の翌日から2年
    介護(補償)等給付介護を受けた月の翌月の1日から2年
    傷病(補償)等年金監督署長の職権により移行されるため請求時効なし

    期限を過ぎた場合には、申請ができなくなるため注意しましょう。

    労災保険の申請手続きから給付までの期間

    労災保険の給付が開始されるまで、申請手続きが完了してから最短でもおよそ1か月かかります。具体的な期間は、事故の内容や申請する給付の種類に応じて以下のように異なります。

    給付内容支給までにかかる目安
    療養(補償)等給付約1か月
    休業(補償)等給付約2か月
    障害(補償)等給付約3か月
    遺族(補償)等給付約4か月

    また、うつ病のような精神疾患に関する労災認定は慎重に行われるため、さらに長期化する可能性があります。十分な証拠や記録があれば早めに認定されることもありますが、複雑なケースでは6か月以上の時間がかかると覚えておきましょう​。

    労災保険の申請手続き|事業主側の注意点

    ここまでで「労災保険の申請手続きの流れ」はつかめてきたと思いますが、さらに事業主として見落としてはいけない注意点があります。

    単に書類を出すだけではなく、従業員を守る姿勢や適切な体制を取っているかが問われるポイントです。最後に、実務上の注意点と対応のポイントを確認しておきましょう。

    協力姿勢で臨む

    労災保険法に基づき、事業主には労災保険の申請に協力する、助力義務があります。たとえ事業主が労災と認めていない場合でも、労災保険の申請は労働者の権利です。事業主は手続きに必要な証明書類を提供するなど、労災にあった従業員を支援しなければなりません。

    協力的な態度を示すことで、従業員との信頼関係の構築やのちのトラブル防止なども期待できます。また、労災が起きたことを隠す行為は、違法行為です。

    アルバイトや日雇い労働者の申請にも対応する

    労災保険は、正社員だけでなくアルバイトや日雇い労働者にも適用されます。雇用形態に関係なく、従業員が業務中や通勤中に事故にあい、ケガや病気が発生した場合には、適切な手続きをする必要があります​。

    短期間の労働契約であっても、法的には正規雇用と同様に保護されるため、申請手続きにおいて差別があってはなりません。アルバイトや日雇いの従業員の業務災害や通勤災害についても迅速に報告し、申請のサポートをすることが求められます。

    派遣社員の労災は派遣元の会社に報告する

    派遣社員が労災に遭遇した場合、本人もしくは派遣元の会社が労災保険の申請手続きを行います。ただし、派遣先で事故が発生した場合、派遣先の会社は迅速に派遣元の会社へ報告し、必要な協力をしなければなりません。

    派遣先の会社には安全対策や労働条件の管理をする責任があるため、事故防止策を強化することも重要です。

    正確に期限内に提出する

    労災保険の給付には時効が存在し、申請が遅れると給付を受けられません。たとえば、療養(補償)等給付は治療費を支払った日から2年、休業(補償)等給付は休業した日の翌日から2年が申請期限とされています​。

    事業主は、従業員の申請が遅れないよう迅速にサポートする配慮が必要です。

    労働災害について調査し再発防止に努める

    労災事故が発生した場合、事業主は原因を調査し、再発防止策を講じなければなりません。事故の状況を把握し、職場の安全管理体制を見直して、同様の事故が再び起こらないように対策を強化することが重要です​。

    事故報告書や労働基準監督署の指導を参考に、従業員の安全確保に向けた対策を具体化し、労働環境の改善に努めましょう。

    従業員を守るためにも適正な労災保険の申請手続きを

    労災保険の申請手続きは、従業員の健康と安全を守るために欠かせません。万が一、労災が発生したら、企業は従業員が正しく申請して適切な補償を受けられるよう迅速にサポートしましょう。

    労災保険の制度を正しく理解し、適切なタイミングで申請できる体制を整えることが大切です。

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