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離婚した場合の年末調整|控除との関係や影響のあるタイミングも解説

離婚した場合の年末調整|控除との関係や影響のあるタイミングも解説

離婚した場合、年末調整において従来受けていた配偶者控除や扶養控除などが適用できなくなる可能性があります。 そうなると、課税対象所得が増え、結果として所得税額が高くなり、納税者の税負担が重くなる恐れがあります。

離婚により、これまで受けていた配偶者控除や扶養控除などが適用できなくなる一方で、新たに単身者向けの控除を受けられる可能性もあります。 離婚前後で適用される控除が変わるため、正しい理解の上で、控除の申請を行う必要があります。

記事では、離婚した場合の年末調整について、控除や注意点などを解説します。企業の年末調整担当者だけでなく従業員も参考にしてください。

 

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    離婚した場合の年末調整

    従業員が配偶者と離婚した場合、年末調整においてさまざまな変更点が生じる場合があります。年末調整は、従業員の控除額などから所得額を所得税を再計算し、源泉徴収額から精算を行う手続きです。それまで適用していた控除のなかには、婚姻していることを条件としている種類もあるため、適用を外すなど、ミスなく対応しなければなりません。

    離婚によって受けられない控除

    離婚したことによって受けられなくなる控除は、以下の通りです。

    • 配偶者控除
    • 配偶者特別控除
    • 扶養控除
    • 生命保険料控除

    ひとつずつの控除について、確認してみましょう。

    配偶者控除

    配偶者控除とは、納税者に一定の条件を満たす配偶者がいる場合に受けられる所得控除のことを指します。具体的な適用条件はいくつかありますが、配偶者の合計所得金額が48万円以内であることなどが挙げられます。

    配偶者控除を適用するためには、年末調整において「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に必要事項を記入して会社へ提出します。また、確定申告でも納税者本人による申告ができます。

    配偶者控除の申請方法について、納税者の収入が、勤務先(1か所)の給与所得のみである場合、年末調整で行えます。個人事業主の場合は、確定申告で配偶者控除の申請を行うという違いがあります。

    また、配偶者控除における控除対象配偶者は、「一般控除対象配偶者」と70歳以上の「老人控除対象者」があります。同じ年収であっても、老人控除対象者が配偶者の場合、控除額が大きくなる特徴があります。

    配偶者控除の適用条件は、以下の通りです。

    1. 民法規定の配偶者であること
    2. 納税者と生計を一にしていること
    3. 年間所得が合計48万円(給与収入のみの場合は103万円)以下であること
    4. 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与支給を受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者でないこと

    民法規定の配偶者というのは、内縁関係などではない法律上の配偶者であることを示します。離婚した場合は当然この条件を満たさなくなりますので、適用できません。

    参照:『No.1191 配偶者控除』国税庁

    配偶者特別控除

    配偶者特別控除とは、納税者の配偶者に48万円を超える所得がある場合に適用できる所得控除を指します。

    配偶者控除では、48万円を超える所得があると控除適用外となってしまいます。しかし、適用要件を満たせば、代わりに配偶者特別控除を受けられるという制度です。

    配偶者特別控除にもいくつかの適用条件が定められており、具体的には、「配偶者の所得金額が合計48万円を超えて133万円以下の場合」などが挙げられます。

    配偶者特別控除の適用条件は、大きく分類すると以下通りです。

    1. 納税者本人のその年の合計所得金額が1,000万円以内であること
    2. 民法規定の配偶者であること
    3. 納税者と生計を一にしていること
    4. その年に、配偶者特別控除を適用していないこと
    5. 年間所得が合計48万円超133万円(給与収入が103万円超~201万円)以下であること
    6. 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与支給を受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者でないこと
    7. 配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
    8. 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと

    配偶者特別控除についても、適用要件に「民法上の配偶者」であることが定められているため、離婚した時点で適用対象外となります。

    参照:『No.1195 配偶者特別控除』国税庁

    扶養控除

    扶養控除とは、納税者が扶養する親族等の課税所得を控除する制度です。親族を扶養することによって重くなる納税者の税負担を軽減させる役割があります。扶養控除を適用すると、納税者の課税所得を減らせます。

    扶養控除の適用条件は以下の通りです。

    • 納税者から6親等以内の血族または3親等以内の姻族、もしくは都道府県知事から養育委託を受けた里子や養護を委託された老人であること
    • 納税者と生計を一にしていること
    • 年間合計所得が48万円(給与収入では103万円)以下であること
    • 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与支給を受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者でないこと
    • 控除を受ける年の12月31日時点で、年齢が16以上であること

    扶養控除の要件には、「生計を一にする」という点が含まれていますが、同居の有無などは問われません。離婚後も、16歳以上の子どもを扶養する場合は適用できます。

    ただし、離婚後に両親ともに養育費の送金などをしている場合でも、扶養控除を適用できるのは1人のみです。扶養者複数名による扶養控除の重複申請はできませんのでご注意ください。

    また、非居住者である親族は原則として扶養控除の対象とはなりません。しかし、留学等の一定の要件を満たした場合には対象となります。

    参照:『No.1180 扶養控除』国税庁

    生命保険料控除

    生命保険料控除とは、対象の各種保険に加入して保険料の支払いをしている人を対象に行う控除です。生命保険料控除の対象になる保険は以下の通りです。

    • 一般の生命保険
    • 介護医療保険
    • 個人年金保険

    保険料控除では、保険金の受取人が本人・配偶者・親族でなければなりません。離婚した場合、保険金の受取人が元配偶者のままでは控除を適用できません。契約者が自分名義の場合、忘れてしまいがちな点であるため、離婚が決まった場合は、できるだけ速やかに契約内容を変更しましょう。保険の契約者と受取人のどちらも本人の場合は、引き続き控除を適用できます。

    参照:『No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等』国税庁

    離婚によって受けられる「ひとり親控除」と「寡婦控除」

    離婚した場合の年末調整|控除との関係や影響のあるタイミングも解説

    離婚によって適用対象外となる控除がある一方で、離婚によって受けられるようになる「ひとり親控除」と「寡婦控除」があります。

    ひとり親控除と寡婦控除とは

    ひとり親控除とは、納税者がひとり親である場合に受けられる控除のことです。ひとり親控除の適用要件は以下の通りです。

    • 生計を一にする子どもがいること
    • 子どもの所得金額が48万円以下であること
    • 納税者本人の所得額が500万円以下であること

    ひとり親控除は、2020年分から新設された所得控除です。ひとり親控除が新設されるまでは、1人で子どもを養う親の控除として、婚姻歴のある男女を対象とした「寡婦控除」と「寡夫控除」がありました。

    寡婦(夫)控除は配偶者と離婚や死別した人を対象としているため、婚姻歴のない人は対象外となる問題がありました。また、寡婦控除と寡夫控除の間で控除額に差があるなどの問題もあったため、税制改正によって「寡夫控除」が廃止され、「ひとり親控除」が新設されたのです。

    ひとり親控除は、婚姻歴や性別にかかわらず、要件を満たせば適用対象となります。

    また、「寡婦控除」についても見直され、離婚や死別した女性のなかで、ひとり親控除の適用要件を満たさないシングルマザーを対象としています。

    それぞれの控除額は以下の通りです。

    控除名
    控除額
    ひとり親控除35万円
    寡婦控除27万円

    適用要件

    ひとり親控除の適用要件は以下の通りです。

    • 生計を一にする子どもがいること
    • 子どもの所得金額が48万円以下であること
    • 子どもが他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない
    • 納税者本人の所得額が500万円以下であること

    寡婦控除の適用要件は、以下のいずれかに該当する場合に適用されます。

    • 夫と離婚した後に婚姻しておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下
    • 夫と死別した後に婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下

    参照:『No.1171 ひとり親控除』国税庁
    参照:『No.1170 寡婦控除』国税庁

    なお、寡婦控除における夫は、民法規定の夫であることが必要です。

    離婚に関する年末調整の注意点やトラブル

    離婚後の年末調整について、考えられる注意点とトラブルをご紹介します。あらかじめ懸念点を把握しておくことで、大きな問題に発展することを防げるはずです。ぜひ参考にしてください。

    離婚のタイミング

    離婚のタイミングによって、納付すべき所得税が異なります。各種控除は、その年の12月31日時点で適用要件を満たしていなければならないため、仮に12月に離婚した場合は、控除が受けられなくなるということです。一方で、年明けの1月1日に離婚した場合は、昨年12月31日時点では婚姻状態や扶養状態にあったため、控除の適用要件を満たします。離婚する日にちによって、所得税に大きな違いが生じますので、理解しておきましょう。

    また、会社側が年末調整の手続きを行った後に、離婚した場合などは、改めて年末調整をする必要があります。年末調整の期限は、翌年1月31日としていますので、従業員から離婚の報告や年末調整のやり直し依頼があった場合には、早急に対応しなければなりません。

    仮に、期限のギリギリで年末調整のやり直し依頼がきたら、対応できない場合は本人に確定申告を行ってもらいましょう。

    参照:『No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき』国税庁

    控除がなくなることで所得税を追加納付する可能性がある

    離婚したことによって、配偶者控除や扶養控除などが適用出来なくなった場合、源泉徴収していた金額が本来の所得税額よりも低い場合があります。その場合は、追加徴収される可能性がある点を理解しておきましょう。

    参照:『No.2675 年末調整の過不足額の精算』国税庁

    離婚したことが会社に発覚する場合がある

    離婚後の年末調整によって、控除内容が過去の内容と違っていたり、苗字が変わっていたりすることで、会社側で離婚の事実が発覚してしまうことがあります。離婚したことを会社に報告する義務はありませんので、問題はありません。ただし、扶養控除や配偶者控除の変更、住所の変更があった場合には会社側も把握する必要があるため、担当者には報告しておくとよいでしょう。

    離婚前の年末調整とは

    年末調整は、その年の12月31日時点の状況で手続きを行います。そのため、仮に離婚直前であっても、実際に婚姻関係を解消していない場合は、控除等が適用されます。所得税の観点から考えると、年明け以降に離婚をしたほうが、所得税の負担が軽減されるということです。

    まとめ

    離婚した際の年末調整では、特に控除について注意しなければなりません。これまで過去に適用していた控除が適用対象外となったり、逆に離婚したことで適用できるものもあります。まずは控除について、確認したうえで、漏れのない申請や手続きを行いましょう。

    また、離婚するタイミングによって、控除の適用有無が変わります。年末調整では、その年の12月31日時点の状況で判断を行います。適用する控除が変更になることで、所得税額が大きく変わる可能性があるため、注意しておきましょう。