年末調整と確定申告の違いとは? 対象者や控除種類、時期などを解説
年末調整と確定申告の目的は、どちらも納税者の所得から正しい所得税を計算し、納付するための手続きです。では両者の違いはどのような点にあるのでしょうか。
本記事では、年末調整と確定申告の違いを解説します。それぞれの内容や手続きについて知りたい納税者や、企業の年末調整担当者は、ぜひ参考にしてください。
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告は、どちらも所得から正しい所得税を算出し、納付するための手続きです。両者の大きな違いは、手続きを行う人や手続きを行う時期、対応可能な控除種類にあります。
年末調整 | 確定申告 | |
---|---|---|
手続きを行う人 | 会社(年末調整担当者) | 納税者本人 |
手続き期間 | 11月頃から翌年1月31日まで | 例年2月15日から3月15日まで |
対応できる控除種類 | ・扶養控除 ・障害者控除 ・勤労学生控除 ・寡婦控除 ・ひとり親控除 ・配偶者控除 ・配偶者特別控除 ・社会保険料控除 ・小規模企業共済等掛金控除 ・生命保険料控除 ・地震保険料控除 ・基礎控除 ・住宅借入金等特別控除 | ・雑損控除 ・医療費控除 ・社会保険料控除 ・小規模企業共済等掛金控除 ・生命保険料控除 ・地震保険料控除 ・寄附金控除 ・寡婦控除 ・ひとり親控除 ・勤労学生控除 ・障害者控除 ・配偶者控除 ・配偶者特別控除 ・扶養控除 ・基礎控除 ・住宅借入金等特別控除(初回) |
年末調整とは
年末調整とは、企業が給与所得者の所得税を計算し、源泉徴収税額との差額を精算する手続きのことです。
企業では、従業員の給与や賞与から一定の所得税を徴収し、本人に代わって納付しています。しかし、源泉徴収額は概算であるため、従業員が本来納付すべき所得税よりも多く源泉徴収していたり不足したりするなど、正しい納税額ではありません。年末調整では、給与所得者における1年間の所得から正しい納税額を算出し、源泉徴収額と照らし合わせることで、還付もしくは追加で徴収を行うのです。
年末調整の対象者
年末調整の対象者は以下の条件に当てはまる人です。
- 1年を通じて勤務している人
- 年の中途で会社へ入社し、年末まで勤務している人
また、その年の中途で年末調整をしなければならないケースもあります。この場合に該当する人は、本来の年末調整時期には対象にはなりません。
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身障害によって退職した人(退職後、再就職することが見込まれる場合は除く)
- 12月に支給されるべき給与を支払いを受けた後に退職した人
- パートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後、その年内に転職などによって他の勤務先から給与支給される見込みのある人は除く)
- 海外支店への転勤などにより、非居住者となった人
年末調整に関する書類
年末調整では、以下の書類記入と提出が必要です。
- 基礎控除申告書(給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書)
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
また、全員が当てはまるわけではありませんが、住宅ローン控除を受けている場合も「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書兼(特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書」の提出が必要です。会社に提出しなければならない必要書類を確認したうえで、正しく書類に記入しましょう。
年末調整では、会社側が税務署や市区町村に提出する書類もあります。
書類 | 内容 | 提出先 |
---|---|---|
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 | 法定調書の種類ごとに給与等の支払い人数や金額、源泉徴収税額などの総額を記載しまとめた書類 | 税務署 |
源泉徴収票 | 納めた所得税を証明する書類 | 税務署 |
不動産の使用料等の支払調書 | その年に支払った不動産(建物や土地)の使用料に関する支払い調書 | 税務署 |
報酬・料金・契約金および賞金の支払調書 | 弁護士やフリーランスなど、源泉徴収対象となる報酬の支払いに関する支払い調書 | 税務署 |
不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書 | 不動産を売買・賃貸する際の仲介手数料に関する支払調書 | 税務署 |
不動産等の譲受けの対価の支払調書 | 不動産を譲受け、同一の者に年間の支払合計額100万円を超える場合に提出する支払い調書 | 税務署 |
給与支払報告書(総括表) | 個人別の給与支払報告書の表紙となる報告書で会社情報等を記入 | 市区町村 |
給与支払報告書(個人別明細書) | 従業員の給与や賞与の支払い金額や所得金額、所得控除の金額や情報などを記載する書類 | 市区町村 |
確定申告とは
確定申告とは、すべての所得を対象とし、納税者本人がその年の所得をもとに所得税額を申告する手続きです。納税者本人が自分の1年間の所得から経費や控除額を差し引き、所得税額を申告し、納付します。
源泉徴収された所得があり、多く払いすぎている場合は確定申告によって還付される場合もあります。また、確定申告では、事業所得や不動産所得など、給与以外の所得や年末調整では対応できない控除額等を反映させられます。
確定申告を行う必要があるのは、個人事業主や不動産所得などがある人を中心に、状況によって給与所得者なども含まれます。一般的に、会社員は年末調整だけを行うイメージがあるかもしれませんが、副業収入によって納付すべき所得税がある場合や医療費控除・寄付金控除を受けたい場合など、確定申告を行うことも少なくありません。
確定申告に関する書類
確定申告で提出する書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- 収支内訳書や青色申告決算書など、所得金額がわかるもの
- 本人確認書類
- 各種控除に必要な書類
- 銀行口座がわかるもの(還付される場合)
これらの書類に必要事項を記入して、所得金額や控除額を計算し、納付すべき所得税額を算出します。
確定申告の提出方法
確定申告では、納税者自身が申告を行うため、書類作成だけでなく提出も行います。書類提出の方法は以下の通りです。
書類提出の方法 | 内容 |
---|---|
e-Tax | ・インターネット上で確定申告の書類を提出 ・マイナンバーカード式とID・パスワード方式の方法がある |
郵送 | ・郵送の場合は、添付書類台紙に控除証明書などを添付して確定申告と一緒に郵送※普通郵便かレターパックによる郵送(信書便) ・確定申告書の控えと切手貼付済の返信用の封筒を同封すると、収受日付が押されたものが返信される |
税務署への持ち込み | ・税務署へ持ち込む場合は、添付書類台紙に控除証明書などを添付して税務署へ持参 ・税務署でも確定申告書の控えを持参することで収受日付を押してもらえる |
所得税の納付方法
確定申告で算出した所得税は、以下の方法で納付します。
- 口座振替
- 電子納税
- クレジットカード納付
- スマホアプリ納付
- QRコードによるコンビニ払い
- 金融機関や税務署窓口による現金納付
また、源泉徴収されていた所得がある場合、所得税が還付されることもあります。その場合は、後日指定した預金口座や公金口座への振込か、ゆうちょ銀行の店舗等で直接受け取ります。還付金の受け取りまでは、確定申告を行った日から最大で1か月半程度の期間がかかります。
年末調整と確定申告の両方を行うべきケース
一般的には、会社員は年末調整を行うため、確定申告は不要というイメージがあるかもしれません。しかし、状況によって会社員の場合でも年末調整と確定申告が必要な場合があります。具体的なケースをご紹介します。
給与所得以外の所得が20万円を超える人
給与所得や退職所得以外で、1年間で20万円を超える所得がある場合、年末調整とは別で確定申告する必要があります。たとえば副業収入や株式の売買などによって得た所得などが該当します。
2ヶ所以上の企業で給与所得がある人
年末調整は、1人の給与所得者について1企業のみが行う手続きです。2つ以上の企業から給与が支払われている場合、給与収入額が多い方の企業で年末調整を行います。それ以外の企業における給与所得が1年間で20万円を超えた場合、確定申告を行わなければなりません。
給与や賞与の収入金額が年2,000万円を超える人
会社員として1年間に支払われた給与や賞与額が2,000万円を超える人は、年末調整の対象外となるため、確定申告を行わなければなりません。確定申告で正しい所得税を申告し、納税しましょう。
同族会社の役員で、同族会社から給与以外の不動産賃料などを受け取っている人
同族会社の役員で、役員給与(給与所得)の他に、貸付金の利子や不動産の賃料を受け取っている人は、所得金額にかかわらず確定申告をする必要があります。その役員の特殊な関係性(親族または親族であった人)にある人の場合も同様です。
災害減免法の規定によって源泉徴収の猶予や還付を受けた人
災害による被害を受けた人で、税金を支払えない場合は、災害減免法によって所得税の支払いが軽減免除されます。源泉徴収の猶予や還付を受けた人は、年末調整されないため、確定申告を行う必要があります。
源泉徴収の規定が適用されない給与や賞与の支払いを受けている人
源泉徴収の規定が適用されない給与所得者(家事使用人や在日の外国公館等で勤務する人)など、所得税を源泉徴収されていない人は、確定申告が必要です。
参照:『源泉徴収の対象とされない給与収入がある場合の確定申告』国税庁
参照:『No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは』国税庁
それ以外で確定申告を行うケース
ご紹介したケース以外にも、以下のように確定申告をしたほうがよいケースがあります。
- 年末調整で控除書類を提出していない
- 年末調整の内容を修正したい
- 確定申告でのみ受けられる控除の適用対象である
- ふるさと納税の納付先が6か所以上ある
- 住宅ローン控除を初めて受ける
このように、年末調整におけるミスの修正や、確定申告でしか対応できない控除の適用など、所得税の負担が軽減されます。
まとめ
年末調整と確定申告は、ともに納税者の適正な所得税額の算定と納付を目指した制度です。ただし、手続き主体や時期、対象控除の範囲が異なります。
給与所得のみの会社員であれば、勤務先による年末調整で所得税の精算が完了します。一方、給与外収入があるか、年末調整で対応できない控除を受けたい場合、納税者自身が確定申告を行う必要があります。
納税者は自身の収入状況と必要控除を把握し、適切な手続きを選ばなくてはなりません。制度の趣旨と特性を理解した上で、漏れのない対応に努めましょう。