年末調整で適用される控除一覧|上限と適用されない控除も紹介
年末調整とは、源泉徴収した所得税の過不足を精算するための手続きです。企業には年末調整を実施する義務があり、従業員ごとに適用されるさまざまな控除を正しく把握する必要があります。年末調整をすることで、従業員は最大12種類の所得控除を受けることが可能です。
本記事では、年末調整で適用される控除と適用されない控除について詳しく解説します。
年末調整で適用される控除一覧
年末調整で適用される所得控除は、以下の12種類です。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 社会保険料控除
- 障害者控除
- ひとり親控除
- 寡婦・寡夫控除
- 勤労学生控除
それぞれの所得控除について、以下で詳しく解説します。
基礎控除
基礎控除とは、一定の所得以下の場合に年末調整で適用される控除です。基礎控除を適用することで、所得税額を節税できます。
基礎控除は、給与所得者だけでなく個人事業主も対象であり、業種や企業規模も問われません。適用されるのは、年間の合計所得金額が2,500万円以下の場合に限られています。
合計所得金額別の基礎控除額は、以下の通りです。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超〜2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超〜2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
2020年分以降は、合計所得金額が2,400万円以下の基礎控除額が38万円から48万円に引き上げられているため、手続きする際は注意しましょう。
配偶者控除
配偶者控除とは、控除対象の配偶者がいる納税者に対して、一定金額の所得控除が認められる制度です。年末調整で控除対象となる配偶者は、一般の配偶者と、その年の12月31日時点で70歳以上の「老人控除対象配偶者」に分けられます。
配偶者控除が受けられる条件 |
---|
・民法の規定による配偶者であること(※内縁関係の人は該当しない) ・納税者と生計をともにしていること ・配偶者の年間所得が48万円以下であること(給与所得のみの場合は103万円以下) ・青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払いを受けていないこと ・白色申告者の事業専従者でないこと |
事業専従者とは、個人事業主と生計をともにする配偶者や、15歳以上の親族などの家族専従者のことです。
以上の条件に加えて、配偶者控除を受けるためには納税者の所得が1,000万円以下でなければなりません。
配偶者特別控除
配偶者特別控除とは、配偶者に48万円を超える所得があっても、年末調整で控除を受けられる制度です。ただし、年間の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の合計所得金額が133万円以下であることが条件です。
控除される具体的な金額は、以下の通りです。
配偶者の合計所得金額 | 納税者本人の合計所得金額 | ||
---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超〜950万円以下 | 950万円超〜1,000万円以下 | |
48万円超〜95万円以下円 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超〜100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超〜105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超〜110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超〜115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超〜120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超〜125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超〜130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超〜133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
配偶者特別控除を受けるための詳しい要件は、国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
扶養控除
扶養控除とは、控除対象となる扶養親族がいる場合に、課税所得から一定金額を差し引く制度です。扶養にともなう負担を軽減する目的で設けられています。
年末調整で適用される控除額は、扶養親族の年齢や同居の有無によって、次のように異なります。
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日における年齢が19歳以上23歳未満の人を指します。また、同居老親等とは、老人扶養親族のうち、直系尊属で常に同居している人のことです。
参照:『専門用語集』国税庁
生命保険料控除
生命保険料控除とは、毎年1月1日から12月31日までに支払った生命保険料のうち、一定の金額を所得金額から差し引く制度です。
生命保険料控除には3つの種類があり、それぞれ以下のような保険商品が対象となります。
一般生命保険料控除 | 定期保険、終身保険、学資保険など |
介護医療保険料控除 | 医療保険、がん保険、介護保険など |
個人年金保険料控除 | 個人年金保険 |
生命保険料控除は、保険を契約した年月日によって、年末調整の控除額が異なる点に注意しましょう。2011年12月31日以前に締結した保険契約は「旧契約」と呼ばれ、以下の計算式で控除額を算出します。
年間に支払った保険料 | 控除額 |
---|---|
2万5,000円以下 | 支払った保険料の全額 |
2万5,000円超~5万円以下 | 支払った保険料×1/2+1万2,500円 |
5万円超~10万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
一方、2012年1月1日以降に締結した「新契約」の算出方法は、以下の通りです。
年間に支払った保険料 | 控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払った保険料の全額 |
2万円超~4万円以下 | 支払った保険料×1/2+1万円 |
4万円超~8万円以下 | 支払った保険料×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
新契約と旧契約の双方に加入している場合の控除額の算出方法の詳細は、国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
地震保険料控除
地震保険料控除は、特定の損害保険契約にかかる地震保険部分の保険料や掛け金を支払った場合に、その金額に応じて一定額が控除される制度です。
地震保険料控除の控除額は、以下の通りです。
税金の種類 | 控除の対象となる条件 | 控除額 |
---|---|---|
所得税 | その年に支払った地震保険料が5万円以下の場合 | 支払った保険料の全額 |
その年に支払った地震保険料が5万円を超えている場合 | 一律5万円 |
2006年の税制改正によって2007年分より、年末調整において損害保険料控除が廃止されました。ただし、経過措置として、一定の長期損害保険契約などにかかる損害保険料は地震保険料控除の対象となります。詳しい条件は、国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法に規定された共済契約において掛け金を支払った場合に、年末調整で受けられる所得控除です。
具体的には、以下の掛け金が対象です。
- 小規模企業の経営者の退職金制度である小規模企業共済制度の掛け金
- 企業型確定拠出年金の掛け金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金
- 心身障害者扶養共済制度の掛け金
控除できる金額は、その年に支払った掛け金の全額です。
社会保険料控除
社会保険料控除とは、従業員が自身の社会保険料または配偶者やその他親族が負担すべき社会保険料を納めた場合に、年末調整で受けられる所得控除です。
健康保険や国民年金、厚生年金保険などの社会保険料であれば、自身が被保険者でなくても、控除の対象です。
そのほか、控除の対象となる細かな条件は、国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
控除できる金額は、その年に支払った保険料、もしくは給与や公的年金などから差し引かれた保険料の全額です。
障害者控除
障害者控除とは、従業員自身または生計をともにする配偶者、扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合に、一定金額の所得控除を受けられる制度です。
障害者控除は、以下の3つに区分されます。
区分 | 控除額 |
---|---|
障害者 | 27万円 |
特別障害者 | 40万円 |
同居特別障害者 | 75万円 |
区分によって、年末調整で対象となる条件と控除額が大きく異なります。詳しくは国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
ひとり親控除
ひとり親控除とは、婚姻せずに子どもを育てているひとり親を対象とした年末調整で適用される所得控除です。
対象者は、以下の条件を満たす人です。
- 婚姻関係や事実婚状態にある一定の人がいない
- 生計をともにする子どもがいる
- 年間の合計所得金額が500万円以下である
上記の条件を満たすひとり親は、一律35万円が控除されます。
寡婦・寡夫控除
寡婦・寡夫控除とは、夫や妻に先立たれたあと、もしくは離婚したあとに婚姻していない人が、一定金額の所得控除を受けられる制度です。
2020年より寡夫控除は廃止され、ひとり親控除が創設されました。寡婦控除は夫と離婚・死別した、または夫の生死が不明の女性が対象であるのに対し、ひとり親控除は婚姻歴や性別を問いません。
寡婦控除の控除額は27万円で、年末調整で控除を受けられる人の、年間合計所得金額の上限は500万円です。
参照:『No.1170 寡婦控除』国税庁
参照:『No.1172 寡夫控除』国税庁
勤労学生控除
勤労学生控除とは、働く学生の税負担を軽減するための制度であり、年末調整で適用される所得控除の一つです。
勤労学生控除を受けられる条件には、以下の3つがあります。
- 給与所得などの勤労による所得がある
- 年間の合計所得金額が75万円以下、かつ勤労以外による所得が10万円以下
- 特定の学校の学生である
特定の学校とは、小学校、中学校、高校、高等専門学校、大学、大学院、専修学校などを指します。勤労学生控除の控除額は、27万円です。
年末調整で適用できない所得控除
年末調整で適用できない所得控除を詳しく解説します。
医療費控除
医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間にかかった医療費が10万円を超えた場合に、受けられる所得控除です。ただし、所得合計金額が200万円未満の人は、医療費が総所得金額の5%を超えた場合に控除の対象となります。
医療費控除は年末調整の控除の対象ではないため、従業員自身が確定申告をして還付金を受け取る必要があります。
参照:『No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)』国税庁
雑損控除
雑損控除とは、災害や盗難、横領によって資産に損害を受けた場合に受けられる所得控除です。雑損控除も医療費控除と同様に年末調整の対象外なので、従業員自身が確定申告をする必要があります。
損害を受けた資産が以下のいずれにも該当することが、雑損控除の対象となる条件です。
資産の所有者が次のいずれかであること | 生活に通常必要な住宅や家具、衣類などの資産であること |
・納税者 ・納税者と生計をともにする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が48万円以下の者 | ただし、事業用の資産や別荘、書画、骨董、貴金属などで、1個または1組の価額が30万円を超えるものは該当しない |
控除額は、次のいずれか多い金額となります。
1.(損害金額+災害関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10% 2.(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円 |
参照:『No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)』国税庁
寄附金控除
寄付金控除とは、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対する「特定寄附金」を支出した場合に対象となる所得控除です。寄附金控除も年末調整の対象外なので、従業員自身が確定申告をする必要があります。
控除額は、以下のいずれかの低い金額から2,000円を差し引いた金額です。
1.その年に支出した特定寄附金の合計額 2.その年の総所得金額等の40%相当額 |
参照:『No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)』国税庁
住宅借入金等特別控除(初年度)
住宅借入金等特別控除とは、個人が住宅ローンを利用してマイホームを購入または増改築して一定の条件に当てはまる場合に、年末のローン残高をもとに算出した金額が所得税から控除される制度です。
初年度のみ従業員自身が確定申告をする必要があり、2年目以降は企業が年末調整で対応します。
控除の対象となる期間や控除の対象は、敷地と建物をあわせたローン残高や建物を購入した時期によって異なります。詳しくは、国税庁のWebサイトでご確認いただけます。
参照:『No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)』国税庁
なぜ年末調整で住民税の控除がないのか
所得税はその年の所得から算出されるものですが、住民税の額は前年の所得によって決まります。その年の所得が確定してから翌年度に課税されるので、所得税のように税金の過不足を調整する必要はありません。そのため、年末調整において住民税の控除は存在しないのです。
そもそも控除とは何か
控除には、「一定の金額を差し引く」という意味があります。税金の控除とは、一定金額を差し引いて納税の負担を軽減させることです。
税金の控除には、大きく分けて「所得控除」と「税額控除」があります。
所得控除
所得控除とは、所得から差し引ける控除です。所得控除は、税金がかかる所得金額を小さくするという意味合いを持ちます。収入から必要経費を差し引いたものを所得といい、税金を求める際は、所得から所得控除を差し引いて課税所得を算出します。
税額控除
税額控除とは、課税所得に税率をかけて算出した所得税額から、一定の金額を控除するものです。税額から直接差し引くことで、税負担を軽減できます。
所得控除の概要を理解して正しい手続きを
所得控除には、年末調整で適用されるものと確定申告で適用されるものがあります。所得控除を受けるためには、さまざまな要件を満たさなければなりません。
年末調整で適用される控除の仕組みを理解して、正しく手続きを進めましょう。
年末調整は雇用主の義務なので、申請漏れのないようにすみやかに対応する必要があります。
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