年末調整の住宅ローン控除申請に必要な書類とは?記入例や2年目以降の対応も解説

年末調整で住宅ローン控除の申請を受ける従業員が増えてきた——。
企業の年末調整では、2年目以降の住宅ローン控除申請に対応する必要があります。「どの書類が必要か」「書き方に間違いはないか」といった問い合わせを受けることもあるでしょう。
本記事では、「年末調整で住宅ローン控除を申請するために必要な書類」を中心に、確認すしたいポイントや記載例、税制改正の注意点まで解説します。人事・労務を担当する方は、従業員への案内や社内のチェック体制構築にぜひお役立てください。

目次

住宅ローン控除を受けるには年末調整が必要
会社に勤める給与所得者が住宅ローン控除を受けるには、原則として初年度は確定申告、2年目以降は年末調整によって手続きをする必要があります。
住宅ローン控除の基本的な仕組みと適用条件について、担当者としておさえておきたいポイントをおさらいします。
住宅ローン控除とは
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用してマイホームを購入・改築した人が、一定の条件を満たすことで所得税の一部を控除できる制度です。
控除額は、住宅ローンの年末残高をもとに計算され、毎年の年末調整や確定申告での手続きが必要となります。
住宅ローン控除制度の対象になるのは、住宅ローンを組んでから10年以内(最長13年)にマイホームを購入・改築し、その家に実際に住んでいる人です。
住宅ローン控除の条件
住宅ローン控除を受けるには、住宅の種類や所得などについて複数の条件を満たしている必要があります。適用条件は以下のとおりです。
- 合計所得金額が2,000万円以下(一部の場合、1,000万円以下)
- 自らが居住するための住宅である
- 新築、または引渡し完了から6ヵ月以内に入居する
- 住宅ローン借入期間が10年以上ある
- 床面積が50㎡以上(一部40㎡以上)
- 店舗などとの併用住宅では、床面積の2分の1以上が自ら居住するための物件であること
- 1982年以降に建築または現行の耐震基準に適合
住宅ローン控除を受けるには、上記の適用条件を満たす必要があります。
条件を満たさない場合、年末調整や確定申告で住宅ローン控除を申請しても適用されません。従業員から申請があった際は、条件を確認しましょう。
▼年末調整で受けられるその他の控除は以下の記事でご確認ください。

年末調整による住宅ローン控除は2年目以降
住宅ローン控除は、初年度と2年目以降で手続きが異なるのが特徴です。正しく理解していないと、従業員からの提出書類に不備があったり、間違った案内をしてしまったりしてしまうかもしれません。
以下では、住宅ローン控除の「1年目」と「2年目以降」で異なる申請方法を整理しておきましょう。
1年目は確定申告
住宅ローン控除を給与所得者が初めて申請する年は、年末調整ではなくみずから確定申告をしなければなりません。申請期間は、購入または入居した翌年の2月16日から3月15日までと定められています。
また、共働きの夫婦で住宅ローンを連帯債務で借りている場合は、主債務者だけでなく、連帯債務者も確定申告をすることで、控除を受けられます。
参照:『共有の家屋を連帯債務により取得した場合の借入金の額の計算』国税庁
▼確定申告と年末調整を両方やらなければならないその他のケースは以下の記事でご確認ください。
2年目以降は年末調整
住宅ローン控除の2年目以降は、確定申告ではなく年末調整で控除申請が可能です。手続きは企業側が年末調整の一環として対応しますが、納税者である従業員が必要書類をそろえ、記入したうえで提出することが前提です。
担当者としては、従業員からの提出物に記入漏れや書類不備がないかを確認し、スムーズに年末調整処理へとつなげる対応が求められます。
初年度とは違って、2年目以降は「書類のやりとり」が中心になるため、社内案内や提出フローを明確にしておくとミスを減らせるでしょう。
参照:『年末調整で住宅借入金等特別控除の適用を受ける方へ』国税庁

年末調整における住宅ローン控除の必要書類
年末調整で住宅ローン控除(2年目以降)を適用する場合、通常の年末調整書類に加えて、以下の2つの書類が必要です。
必要書類 | 概要 |
---|---|
住宅借入金等特別控除申告書(※1) | 10月頃、税務署から郵送される書類 |
住宅ローンの年末残高証明書 | 11月頃、金融機関から送られてくる書類 |
※1:正式名称は「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書兼(特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書」
それぞれがどのような書類なのか確認していきます。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書は、住宅ローン控除の初年度に確定申告をした人に対して、税務署から翌年10月頃に郵送されるものです。原則として1年ごとに1枚、計12年分が届きます。
申告年ごとに使用する用紙が決まっており、誤って別の年のものを使うと処理できないため、間違いがないよう注意しましょう。
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(残高証明書)
住宅ローンの借入先である金融機関が、年末時点の残高を証明するために発行する書類です。多くの金融機関では毎年11月頃に郵送されます。名称は金融機関によって異なる場合があるため、内容をよく確認しましょう。
なお、「調書方式」に対応している金融機関であれば、残高証明書の提出は必要ありません。
証明書方式と調書方式
2022年の税制改正により、住宅ローン控除の申請手続きには、調書方式が設けられました。
調書方式とは、金融機関が税務署に「年末残高調書」を提出することで、借りた人に残高情報が通知される方法です。一方で証明書方式は、従来どおり、納税者が「残高証明書」を企業へ提出する方法です。
2025年現在、調書方式に完全に対応している金融機関はまだ少数です。基本的には残高証明書の提出が必要になると考えておくと安心です。金融機関の案内を確認して判断しましょう。
年末調整の住宅ローン控除における書類の書き方
年末調整で提出される住宅ローン控除の書類のなかでも、重要なのが「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」です。人事担当者が従業員からの相談を受ける場面でも、どこをどう見れば正しくチェックできるか自信が持てず、不安になることもあるでしょう。
以下では、新築住宅を購入したケースを想定し、実際の申告書でどの項目に何を記入すればよいかを順を追って解説します。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書の記載例
申告書は、上下に2つの記入欄に分かれているのが特徴です。
下半分 | 年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書 | 印字された状態で従業員の手元に届く |
---|---|---|
上半分 | 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 | 従業員の記入が必要 |
実務上チェックするのは主に上半分です。新築で住宅を購入したケースについて、以下で項目ごとの記入内容を紹介します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(1) | 「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」 |
その年の12月31日時点の住宅ローン残高を記入します。住宅ローンを2箇所以上の金融機関から受けている場合は、合算額を記入します。夫婦で連帯債務者となっているなら、自分の負担割合をかけて記入しましょう。なお、A欄は住宅のみ、B欄は土地等のみ、C欄は住宅と土地等であるため、該当箇所に記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(2) | 「住宅借入金等の年末残高」 |
本人のみの個人債務者は、(1)の金額を記入します。連帯債務者は、申請者が負担している金額と割合をかけた金額を記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(3) | 「(2)と証明事項の取得対価の額又は増改築等の費用の額のいずれか少ない方の金額」 |
以下、どちらか金額のより少ない方を記入します。
- (2)の金額
- 用紙下部にある「取得対価の額(ロ欄とホ欄とリ欄)」
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(4) | 「(3)×『居住用割合』」 |
- 割合を記入します。申請者が当該住宅を居住用としている場合は、用紙下部にある「居住用割合(ヘ欄)」の100%と記入します。
- (3)の金額を記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(5) | 「住宅借入金等の年末残高等」 |
(4)の金額を記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(6) | 「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算の基礎となる借入金等の年末残高」 |
特定増改築等住宅借入金等特別控除を受ける人のみ記載します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(7) | 「特定増改築等の費用の額に係る住宅借入金等の年末残高等」 |
特定増改築等住宅借入金等特別控除を受ける人のみ記載します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
(8) | 「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額 」 |
(5)の金額に0.7%をかけて記入します。
※100円未満は切り捨て
該当番号 | 項目名 |
---|---|
ー | 「年間所得の見積額」 |
源泉徴収後の金額を記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
ー | 「連帯債務による住宅借入金等の年末残高」 |
連帯債務者がいる場合のみ、金融機関から送られてくる「年末残高証明書」の金額を記入します。2社以上に借入れしている場合は合算額を記入します。
該当番号 | 項目名 |
---|---|
ー | 「備考欄」 |
「連帯債務による住宅借入金等の年末残高」に記入した場合は、連帯債務者の情報(相手の負担金額、氏名、住所、勤務先)を記入します。
なお、借り入れの状況や連帯債務者の有無、購入対象物によっても記入方法が変わる場合もあります。不明点がある場合は、国税庁の記載例などを確認したうえで案内するようにしましょう。
参照:『年末調整で住宅借入金等特別控除を受ける方へ(令和5年居住者用)』国税庁
年末調整による住宅ローン控除申請後の還付金
年末調整による住宅ローン控除適用によって、どれくらいのお金が還付されるのでしょうか。住宅ローン控除額の計算式は以下のとおりです。
控除額=住宅ローンの年末借入残高等×0.7% |
住宅の種類によって控除額の上限が異なるので注意が必要です。
年末調整で住宅ローン控除の手続きをした場合は、一般的に12月から1月の給与で還付金が支払われますが、企業によっては賞与の支給で還付されることもあります。
参照:『No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)』国税庁
住宅ローン控除の税制改正
近年、住宅ローン控除の内容は控除率や所得要件などが変更されています。
以下では、企業の年末調整担当者がおさえておきたい2022年と2024年の税制改正のポイントをわかりやすく整理します。
住宅ローン控除に関する2022年の税制改正
住宅ローン控除について、税制改正にともない、2022年は以下の変更点が生じました。改正の内容別に、紹介します。
改正内容 | 改正前 | 改正後 | |
---|---|---|---|
入居期限 | 2021年12月31日まで | 2022年1月1日から2025年12月31日 |
住宅ローン控除の条件である入居期限が、4年間延長されました。入居期限が延長されたことで、より多くの人が控除を受けられるようになりました。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
住宅ローン控除率 | 1% | 0.7% |
住宅ローン控除率が改正されました。控除率の改正には、住宅ローンの控除額が実際の支払利息を上回り、支払利息より還付される税金の方が多くなる現象を防止する目的があります。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
控除期間 | 10年(特例13年) | ・新築は13年 ・既存は10年 |
住宅ローンの控除期間について、新築は13年に延長されました。既存住宅は、改正前と同様に10年のままである点に注意しましょう。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
申請者の所得要件 | 総所得3,000万円以下 | 総所得2,000万円以下 |
住宅ローン控除申請者の所得要件が緩和されました。所得要件を1,000万円引き下げることで、これまで対象にならなかった人も控除を受けられます。
改正内容 | 改正前 | 改正後 | |
---|---|---|---|
控除対象限度額 | 【新築】5,000万円 | 認定住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | ||
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | ||
一般住宅 | 3,000万円 | ||
【既存】認定住宅等:3,000万円 | 認定住宅等 | 3,000万円 | |
一般住宅 | 2,000万円 |
控除対象額が、住宅種類に応じて変更されました。新築か既存住宅かどうかだけでなく、住宅種類によって、細かく金額が設定されている点に注意しましょう。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
住民税の控除上限額 | 136,500円 | 97,500円 |
住宅ローン控除の上限額が変更されました。所得税から引ききれない場合は翌年の住民税から控除します。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
新築住宅の建築確認 | ー | 2024年以降は、省エネ基準適合を要件化 |
2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅で住宅ローン減税を受けるためには、省エネ基準に適合することが必要になりました。省エネ基準適合を証明するには、以下の書類を確定申告時に提出します。
- 建設住宅性能評価書(登録住宅性能表か機関のみが発行可能)
- 住宅エネルギー性能証明書(登録住宅性能評価機関等のほか建築士も発行可能)
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
床面積要件 | 50㎡以上 | 50㎡以上(合計所得金額1,000万円以下の場合は40㎡以上) |
床面積の要件の一部緩和として、合計所得金額が1,000万円以下の人は、床面積40㎡以上が対象になりました。
改正内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
既存住宅の築年数要件 | ・耐火建築物以外は築20年以内 ・耐火建築物は築25年以内 | 1982年以後に建築された住宅(新耐震基準適合住宅) |
住宅ローン控除が受けられる既存住宅の要件が緩和されました。これにより、新耐震基準を満たす物件は、住宅ローン控除を受けられます。
住宅ローン控除の改正ポイント
2022年の改正では、控除率が1%から0.7%に引き下げられたことなどが大きなポイントです。そのほか、入居期限や所得要件、対象限度額など影響する範囲が大きい変更点が多くあります。
住宅ローン控除に関する2024年の税制改正
住宅ローン控除について、2024年の税制改正では以下の変更点が生じました。
変更内容 | 詳細 |
---|---|
借入限度額の一部維持 | 住宅ローン控除における借入限度額について、子育て世帯や若者夫婦世帯が2024年に入居する場合は2022年、および2023年の水準を維持 |
床面積要件の緩和措置 | 合計所得金額1,000万円以下における緩和措置(40㎡以上)について、建築確認の期限を令和6年12月31日に延長(改正前は令和5年12月31日まで) |
2024年の改正は、2022年の改正内容を踏まえた経過措置や対象拡大の延長が中心です。たとえば、40㎡でも控除が受けられる緩和措置の期限が1年延長されるなど、若年層や子育て世帯への配慮が見られます。
まとめ
住宅ローン控除は、2年目以降は年末調整で手続きが可能です。実務では、従業員からの提出書類に記入漏れがないか、税制改正による条件変更を正しく反映しているかなど、人事労務側の確認ポイントも年々複雑になっているといえます。
従業員が安心して住宅控除を受けられるよう、企業側も年末調整にかかわる税制を理解し、万全のサポート体制を整えていきましょう。
