雇用保険料の計算方法|賃金の対象や計算開始時期も解説
雇用保険の金額を計算する際は、従業員の賃金に事業ごとの雇用保険料率を乗じて行います。雇用保険料は企業と労働者の双方で負担するため、それぞれの雇用保険率を理解したうえで正しく計算しなければなりません。
本記事では、雇用保険料の計算方法や具体的な保険料率、計算の開始時期や注意点などを解説します。企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。
雇用保険とは
雇用保険とは、労働者の失業や会社都合により雇用継続ができない場合に、労働者への給付支援や能力開発などを行い、再就職を促進する保険です。
雇用保険における被保険者の種類
雇用保険の被保険者は、労働者の雇用状態や年齢などによって4つに分類されます。
種類 | 概要 |
---|---|
一般被保険者 | 高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者および日雇労働被保険者以外の被保険者 |
高年齢被保険者 | 65 歳以上の被保険者であって、短期雇用特例被保険者および日雇労働被保険者に該当しない者 |
短期雇用特例被保険者 | 季節的に雇用される者で、以下に該当しない者・4か月以内の期間を定めて雇用される者・1週間の所定労働時間が30時間未満である者 |
日雇労働被保険者 | 日々雇用される者または30日以内の期間を定めて雇用される者 |
短期雇用特例被保険者においては、同じ企業に引き続き雇用された期間が1年以上になった際は、一般被保険者もしくは高年齢被保険者に切り替わります。
また、同じ企業に連続して1年未満の雇用期間で雇用され、極端に短い離職期間を経て入職や退職を繰り返し、特例一時金を受給している労働者は、一般被保険者として扱われます。
雇用保険の保障内容
雇用保険は、労働者の雇用に対する保障を行う保険です。
保障内容の具体的な例は、労働者が失業した際の給付や再就職の際の給付、育児休業や介護休業など特定の理由によって休業する場合の保障などが挙げられます。
雇用保険の対象者
雇用保険の対象者は、年齢や雇用形態にかかわらず、一定の条件を満たす従業員です。雇用保険の対象となる主な条件は以下の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用見込みが31日以上
上記以外にも設定されている細かい条件も含めて、雇用保険の加入条件を確認しましょう。
雇用保険料の負担
雇用保険料は、企業側と労働者側の双方が負担します。企業と労働者における雇用保険料の負担割合と、事業種類によって雇用保険料率が異なる点は理解しておきましょう。
雇用保険における主な給付内容
雇用保険における主な給付内容を紹介します。
- 求職者給付
- 就職促進給付
- 教育訓練給付
- 雇用継続給付
求職者給付
求職者給付は、労働者が失業状態の際、生活安定と円滑な求職活動を行うための給付です。
なかでも代表的なのが基本手当です。基本手当は「失業手当」とも呼ばれ、労働者が失業状態の際、生活安定と円滑な求職活動を行うための給付です。
基本手当を受給できる日数は、雇用保険被保険者の期間や離職理由によって90〜360日の範囲内で決まります。自己都合ではなく、会社都合の退職であれば、受給日数延長などの優遇を受けられます。
就職促進給付
就職促進給付とは、失業者が再就職するための援助や促進するための給付です。具体的な給付内容として、再就職手当や就業促進定着手当、就業手当などが挙げられます。
教育訓練給付
教育訓練給付とは、労働者の主体的な能力開発を支援し、雇用安定と再就職促進をはかるための給付です。教育訓練を受講するために支払った費用の一部が支給されます。
雇用継続給付
雇用継続給付とは、労働者の職業生活を継続するための援助や促進を行うための給付です。具体的には、高年齢雇用継続給付や育児休業給付、介護休業給付などが挙げられます。
雇用保険料の計算は入社後いつから?
雇用保険料は、従業員に給与を支払うたびに控除しなければなりません。そのため、新たに従業員を雇った場合、入社後初めての給与においても、雇用保険料を計算する必要があります。
雇用保険料は、日割り計算を行えるため、月の途中で入社した従業員についても、計算の対象です。
たとえば、毎月の給与を月末締め、翌月25日に支給とする企業の場合、4月10日に入社した従業員は、入社日から月末までの賃金を計算し、保険料を算出します。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算は、方法を理解すれば複雑な処理は必要ありません。簡単な流れを解説するので、雇用保険料の算出にお役立てください。
- 従業員の賃金を確認する
- 事業の雇用保険料率を確認する
- 賃金と雇用保険料率をかけ合わせる
1.従業員の賃金を確認する
雇用保険料は、従業員の給与に保険料率を掛けて計算します。
そこで、まずは従業員の賃金を確認します。賃金の対象には、手当なども含まれ、社会保険や税金を引かれる前の金額で計算することに注意しましょう。
賃金に含まれるものには、以下の手当があります。
- 基本給
- 賞与
- 超過勤務手当や深夜手当
- 残業手当
- 宿直手当
- 扶養手当
- 子ども手当や家族手当
- 資格手当や教育手当
- 住宅手当や単身赴任手当
- 休業手当 など
一方で、役員報酬や退職金、慶弔手当、災害見舞金など、雇用保険料の計算に含まない手当などもあります。
具体的な賃金計算については、厚生労働省が紹介するページを確認したり、ハローワークへ相談したりするなどして、正しく計算しましょう。
参照:『労働保険料の算定基礎となる賃金早見表(例示)』厚生労働省愛媛労働局
2.事業の雇用保険料率を確認する
雇用保険料は、事業の種類によって保険料率が異なります。毎年行われる雇用保険料率の見直しによって、前年と変更になる場合もあるため、必ず確認しましょう。
令和6年度においては昨年度と同じ雇用保険料率であり、以下の通りです。
事業種類 | 労働者の保険料率 | 事業主の保険料率 | 労働者と事業主の保険料率 |
---|---|---|---|
一般事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 【内訳】 失業等給付・育児休業給付の保険料率:6/1,000 雇用保険二事業の保険料率:3.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 【内訳】 失業等給付・育児休業給付の保険料率:7/1,000 雇用保険二事業の保険料率:3.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 【内訳】 失業等給付・育児休業給付の保険料率:7/1,000 雇用保険二事業の保険料率:4.5/1,000 | 18.5/1,000 |
参照:『令和6年度の雇用保険料率について~令和5年度と同率です~』厚生労働省
3.賃金と雇用保険料率をかけ合わせる
雇用保険料の計算は、従業員の賃金に事業ごとの保険料率を乗じます。
雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
雇用保険料=給与総額×雇用保険料率 |
雇用保険料を計算する際の注意点
雇用保険料を計算するうえで、企業や担当者が注意すべき点を紹介します。
- 雇用保険料は賞与においても控除する
- 端数の処理を正しく行う
- 65歳以上も雇用保険の対象である
雇用保険料は賞与においても控除する
雇用保険料は、賞与においても控除するという点に注意が必要です。
賞与における雇用保険料の計算も、給与と同様に、額面の賞与に雇用保険料率を乗じて計算します。
雇用保険料は、賃金や賞与が支払われるたびに控除されます。賞与が退職後に支給される場合でも、賞与の対象期間は雇用保険加入期間であるため、控除しなければならないと理解しておきましょう。
端数の処理を正しく行う
雇用保険料の計算では、1円未満の端数が生じる場合もあります。雇用保険料に端数が生じた場合は、以下のようなルールに基づいて処理しましょう。ただし、慣習的な取り扱いが存在する場合は、その扱いにしたがいます。
被保険者負担分を賃金から源泉控除する場合 | ・端数が50銭以下は切り捨て・50銭1厘以上は切り上げ |
---|---|
被保険者負担分を被保険者が使用者へ現金で支払う場合 | ・端数が50銭未満は切り捨て・50銭以上は切り上げ |
参照:『雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法』厚生労働省
65歳以上も雇用保険の対象である
雇用保険料は、65歳以上も徴収されます。年齢にかかわらず、企業に雇用されている人は、条件を満たしていれば、保険料の支払い対象です。
高年齢被保険者の区分には、原則として以下の要件があります。
- 65歳以上
- 所定労働時間が1週間に20時間以上
- 雇用見込みが31日以上
すでに雇用保険に加入している労働者が65歳以上になった場合は、高年齢被保険者に自動的に切り替わります。
また、2022年1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が始まりました。
マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で働く65歳以上の労働者が、2つの事業所における勤務によって一定の要件を満たすとき、特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となれる制度です。
マルチジョブホルダー制度により、高齢者の労働において、さらに雇用保険の適用対象が拡大しました。
参照:『「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します』厚生労働省
まとめ
雇用保険の計算は、過度に複雑な内容ではないため、正しく理解すれば問題ありません。ただし、月によって金額が変わることもあるため、計算ミスを防ぐためには、保険料率の変更に柔軟に対応できる給与計算システムの導入をおすすめします。
雇用保険は労働者の保護や雇用安定を目指す労働保険の一つです。正しく理解し、保険料の徴収漏れがないように日々の業務を遂行しましょう。
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