自治体職員のテレワーク|課題や実施状況、事例を紹介
近年、働く場所や時間にとらわれない柔軟な働き方としてテレワークが注目されています。多くの企業では2020年頃からテレワークを推進するなど、ここ数年で加速度的に導入が進んでいるといえます。自治体でも同様の動きがあるものの、解決すべき課題もあるため、実施状況は一般企業とは異なるようです。
本記事では自治体職員のテレワークの実施状況や抱える課題などを紹介していきます。
自治体におけるテレワークの種類
自治体におけるテレワークには主に3つの働き方があります。いずれも「働く場所や時間にとらわれない」を前提とした働き方であることがわかります。
在宅勤務
自治体職員の自宅を勤務場所とする働き方が「在宅勤務」です。通勤などの移動を必要としないため、時間を有効活用できるメリットがあります。育児や介護との両立がしやすく、職員のワーク・ライフ・バランスの向上も見込めるでしょう。
サテライトオフィス勤務
「サテライトオフィス勤務」とは、勤務地以外の出先機関や公共施設などで業務を行う働き方です。自宅に近いオフィスで働くことが多く、移動時間の短縮につながります。また、災害時に職員が本庁舎へ出向くのが困難な場合も、サテライトオフィスであれば業務を進められるメリットもあります。
モバイル勤務
「モバイル勤務」は、外出先や移動中の交通機関内などで、パソコンやタブレットなどのモバイル端末を利用して働く方法です。モバイル端末であればスペースの確保に困らないため、セキュリティ対策を行っていればカフェなどの公共スペースでも仕事を進められます。現場にいる職員が、その場ですぐに本庁舎と情報を共有でき、業務効率化にもつながるでしょう。
自治体におけるテレワークの必要性
一般企業をはじめ、自治体でもテレワークが推奨されているのはなぜでしょうか。これには主に3つの理由が挙げられます。自治体におけるテレワークの必要性は以下の通りです。
ライフステージに合わせて働ける
テレワークはライフステージに合わせた柔軟な働き方ができます。育児や介護で時間的な制限がある職員を含め、多様な働き方を実現できるのが特徴です。
すべての職員が担当できる職務の幅を広げたり、中長期的なキャリア形成ができたりするため、長期にわたり優秀な人材を確保し続けられるでしょう。どのような職員も自身の能力を最大限に発揮しやすくなるため離職率の低下にもつながる可能性があります。
以上のような理由から、自治体でもテレワークの導入が求められています。
業務の効率化による行政サービスの向上が見込める
テレワークは場所にとらわれない働き方ができます。そのため、これまでかかっていた無駄な時間を短縮できます。
また、テレワークを導入するには、デジタルトランスフォーメーション(DX)が必要不可欠です。DX化の推進は、業務効率化につながるとともに、職員のみならず住民の利便性向上にも役立ちます。
業務効率化で無駄をなくし、行政サービスをよりよいものにしていくためにも、テレワークは必要とされています。
感染症対策や災害時における行政機能の維持につながる
大規模なウイルス感染が起きた際、テレワークであれば被害の拡大を抑えることができます。また、テレワークで働ける環境を整備しておけば、災害が起きた場合も職員それぞれが別の場所で業務を行えるため、行政機能の維持につながるでしょう。
特に災害時は行政の力が必要となるため、行政機能をストップさせないことは社会全体に安心感を与えます。このような理由も、自治体がテレワークを必要とする理由に挙げられます。
自治体におけるテレワークの実施状況・導入率
さまざまな理由から導入が必要とされているテレワークですが、実際に自治体ではどの程度テレワークが実施されているのでしょうか。自治体におけるテレワークの実施状況を見てみましょう。
総務省が行った調査によると、令和3年10月現在、都道府県・指定都市でのテレワーク導入率は100%となっています。前回令和2年に調査した際は、都道府県が100%、指定都市では85%だったため、さらに導入率が伸びたことになります。
一方、市区町村単位では前年が19.9%に対し、49.3%と大きく導入が進んだことがわかります。しかし、いまだに半分以下の導入率にとどまっており、この先も「導入予定がない・未定」と回答している企業も一定数います。
※ 「導入」には「試験的・実験的に導入」を含む
( )内は前回調査(令和2年10月1日)の数値
出典:『地方公共団体におけるテレワークの取組状況調査結果の概要』総務省(令和3年12月24日現在)より作成
自治体におけるテレワークの課題・進まない理由
前項で紹介した表を見る限り、自治体、特に市町村におけるテレワークの導入は「順調である」とは言い切れません。なぜ市町村でテレワークの導入が進んでいないのでしょうか。ここではテレワーク導入における課題に沿ってその理由を紹介します。
テレワークで対応できない業務がある
住民票の発行や各種手続きは、役所の窓口で行うことが多く、職員が対面で来庁者に対応してきました。また、住民票や戸籍謄本などを紙で発行することもあり、内容に不備がある場合、大量の書類の中から探し出して確認しなければなりません。このように、自治体ではテレワークで対応しきれない業務があることが課題であり、導入が進まない理由となっています。
セキュリティ対策に問題がある
自治体が扱う情報は、個人情報が含まれているものが多く、庁舎内でのみ使用できるパソコンで管理されています。パソコンを外部に持ち出すことが禁止されている場合、テレワークの導入は非常に困難なものとなります。また、仮にパソコンの持ち出しができるとした場合でも、徹底的なセキュリティ対策は避けられません。情報漏えいのリスクが大きすぎることも自治体がテレワークに踏み切れない理由でしょう。
テレワーク導入にコストがかかる
自治体のITシステムはセキュリティの関係上、庁舎内のネットワークでしか接続できません。テレワークを導入する場合、業務で使用するパソコンを自宅で使用できるように準備する必要があります。当然、厳重なセキュリティ対策を施さなければなりませんが、それにはコストがかかります。また、職員がテレワークでパソコンを使用するための知識も必要となるため、人材育成にもコストがかかってしまいます。これもテレワーク導入が進まない原因の一つといえるでしょう。
労務管理・業務管理・人事評価が難しい
自治体のテレワークは労務管理や業務管理、人事評価が難しいことも課題として挙げられます。
職場で業務を行っている場合、残業状況や業務に遅延が生じていることは比較的わかりやすく、人事評価も行いやすいメリットがあります。
一方テレワークの場合、どのくらい業務が進んでいるのかや遅れが生じているのかがわかりにくい傾向にあります。本人も気づかないうちに長時間労働をしてしまっているというケースもあるようです。また、職場と違ってチームのメンバーとコミュニケーションが取りにくいため、手助けが必要なときに協力を仰ぎにくいことも課題といえます。
・顔が見えない
・どのくらい業務が進んでいるのかがわからない
・どの程度目標を達成しているのかがわかりにくい
以上のような環境は、適正な人事評価が行えない場合があります。このような状況もテレワークを導入しにくい理由となっているのでしょう。
就業規則などの変更や改定が必要
条例や規則によって勤務場所を指定している自治体もあります。そのようなケースでは、就業規則の変更や改定を行わなければなりません。規則の変更にはさまざまな工程を経る必要があり、時間や手間がかかってしまいます。自治体がテレワークを導入しにくいのには、こうした理由も挙げられます。
これまでの慣習が根づいている
テレワークという新しい働き方をスムーズに受け入れられない人も少なくありません。コミュニケーションの取り方が不安だったり、部下の業務進捗がわかりにくい不満があったり、テレワークを受け入れられない理由はさまざまです。
また、自治体の特性として書類によるやり取りが多いこともテレワークを受け入れ難い理由といえます。これまでと全く違う働き方に慣れることができるか不安の声が多いのも、テレワーク導入が遅れる原因となっています。
自治体のテレワーク導入事例
市町村におけるテレワーク導入は芳しくない一方、導入に成功している自治体もあります。ここでは総務省が公表している資料から、テレワークを導入している自治体の事例を3つご紹介します。
⻑野県松本市
長野県松本市では、世界的規模の新型ウイルスの感染拡大を受け、在宅勤務を本格的に推進しました。いきなり全職員をテレワーク勤務とするのではなく、まずは管理職から始め、その後部署全体で在宅勤務に以降したそうです。
テレワークによる業務の遅延などを防止するため「担当業務の見える化シート」を作成・活用し、担当業務を見直すなどの工夫を行いました。
参照:『地⽅公共団体におけるテレワーク推進のための⼿引き』総務省(令和3年4月)
徳島県
徳島県庁では、2014年に「サテライトオフィス」「モバイルワーク」、2016年より「在宅勤務」の3つのテレワークを導入しています。2年連続で150人規模のテレワークを実施していることに加え、業務の効率化やワーク・ライフ・バランスの実現などの効果を報告しています。
ペーパーレス化や外部とのコミュニケーション手段など、課題となる部分はあるものの、円滑なテレワークに向けたさまざま取り組みを行い随時アップデートしています。
参照:『地方公共団体におけるテレワーク取組事例集について』総務省(令和元年7月4日)
静岡県掛川市
静岡県掛川市では、合併した町村の庁舎だった施設の会議室をサテライトオフィスとして活用しました。その結果、職員の移動時間の短縮や業務の効率化につながり、ワーク・ライフ・バランスを実現できています。
新しくオフィスを構えるのではなく、使わなくなった施設やパソコンなどを有効活用することにより、経費をかけずに短期間でテレワークを導入することに成功しています。
参照:『地⽅公共団体におけるテレワーク推進のための⼿引き』総務省(令和3年4月)
自治体のテレワーク導入ステップ
自治体でテレワークを導入するのは難しいとされる中でも、導入に踏み切っている自治体は前項で紹介した3団体以外にも存在します。そのような自治体では、どのようなステップでテレワーク導入を実現したのでしょうか。ここではテレワークを取り入れるために必要な3つのステップを紹介します。
テレワーク制度の構築を行う
自治体がテレワークを導入する理由は多岐にわたります。たとえば業務効率化、災害時のBCP対策、働き方改革の推進などが挙げられます。どのような目的であっても、まずは制度の仕組みを構築する必要があります。
特に自治体の場合、ネットワーク環境やインフラの整備、ペーパーレス化、テレワーク時の労務管理・業務管理、就業規則の変更・改定など議論しなければならないことが少なくありません。やみくもにテレワーク導入に踏み切るのではなく、課題とされる点を一つひとつ解決する方法を模索しながら、体制を整えていきましょう。
テレワークを庁内に浸透させる
テレワーク制度が整ったら、職員にその内容を周知する必要があります。職場でメンバー同士顔を合わせて働くことに慣れている人にとって、テレワークは不安材料になりかねません。
どのような制度で、どのような業務の進め方をすればよいのか、テレワークによってどのようなルールが加わったのか、などを丁寧に説明し全職員に浸透させることが大切です。職員から挙がる不安や不満の声をあらかじめ想定しておき、適宜回答できるようなフローをつくっておくのも一案でしょう。
試行実施から本格実施へ移行する
テレワーク制度をいきなり本格的に実施するのはおすすめできません。ソフト面・ハード面の両方で環境整備が必要となるため、まずはできるところから進めましょう。たとえば管理職からテレワークを実施してみるなど、PDCAを回しながら制度のブラッシュアップを行います。
また、テレワークの導入だけに注力するのではなく、手続きのデジタル化などテレワーク導入によって実施できそうな行政サービスの計画など、自治体としての長期的な展望もあわせて検討・推進していけるようにしましょう。
自治体におけるテレワーク推進ポイント
自治体にテレワークを導入したとしても、円滑な運用を行わなければなりません。せっかくテレワークを導入しても、かえって業務効率が悪くなったり、組織力が低下してしまったりしては、職員の不満の種になることも考えられます。
またそれによって行政サービスの質が低下すれば、社会的な不安を煽ることにもつながってしまいます。ここでは、自治体におけるテレワーク推進のポイントをいくつかご紹介します。
勤怠管理の可視化
自治体におけるテレワークでは、職員の勤怠状況を把握しにくいことが課題でした。解決方法としては、始業・就業時刻や在席状況、勤務状況の報告に関するルールをあらかじめ設定しておくことが挙げられます。共通のスケジューラーやチャットツールなどで、日々の勤怠管理を可視化するとよいでしょう。
勤怠管理が行えるシステムを導入するのも一案です。勤務状況の可視化だけでなく、労務関連の手続きなども行えるため、より効率的な人事業務につなげられます。
チャットツールの活用
テレワークは職員がそれぞれ別の場所で業務を行うため、コミュニケーションが取りにくいというデメリットがあります。チャットツールなら、気軽な相談や確認、息抜きに声をかけたいという場合も活用しやすいです。誰か1人だけに送るだけでなく、チーム全体に送ることもできます。
離れたところにいる相手にコミュニケーションを取る方法としてメールもありますが、挨拶文などを書く手間があり、届くまでに時間がかかることもあります。チャットツールなら、要件のみを素早く送れるため、コミュニケーションが取りやすくて便利でしょう。
Web会議の活用
何か重要なことをチーム全体で共有したり、議論したい場合は、Web会議を活用するとよいでしょう。
Web会議は、各自の勤務場所から参加可能です。これまでは本庁舎にわざわざ出向かなければ会議に参加できなかったという職員も、Web会議ならテレワークで参加できるため、移動時間の節約にもつながるでしょう。
また、会議室の空き状況に左右されることもないため、スケジュール調整を行いやすいのも利点です。会議に必要な資料は電子化しておけば、Web会議のツール上で共有もできます。
1on1ミーティングの実施
ときに「上司と直接対話したい」「部下の進捗状況や業務の悩みを本人の口から聞きたい」という場面もあるかもしれません。オフィス勤務と同様に、テレワークでも1対1で会話ができる場を設けることが大切です。上司と部下の2名で行う1on1ミーティングは、日頃の業務に関する情報を共有できるほか、目標に向けた行動へのフィードバックの場としても有効です。
特にテレワークでは積極的なコミュニケーションが取りにくくなるため、定期的な1on1ミーティングをあらかじめスケジュールに組み込んでおくとよいでしょう。一般的に1on1ミーティングは、月に1〜2回程度のペースで行われていることが多いようです。
上司・部下が直接対話できる場が確保されていると、小さなことでも相談しやすくなります。また、上司は部下のモチベーションの把握や目標への取り組みなども把握しやすくなるため、公平な評価の判断材料にもなるでしょう。
自治体にテレワークを導入する際の注意点
自治体でテレワークを導入する場合、注意すべき点もあります。これらを知っておくことで、より円滑なテレワーク制度を運用できるはずです。ここでは特に気をつけたいポイントを2つご紹介します。
まずはスモールスタートを心掛ける
先にも述べた通り、テレワーク制度はいきなり導入するのではなく、試験的に実施することが大切です。まずは、テレワークでも進めやすい業務や、テレワークのニーズが高い職員などに限定して始めるといいでしょう。
管理職などのマネージャー層からテレワークを実施し、改善点などを洗い出すのもおすすめです。スモールスタートで実施し、無駄なコストを発見したり、コミュニケーションの取り方、業務の進め方を模索することで、本格的な実施に向けた準備を行います。
テレワークできる業務を洗い出す
一見、テレワークには向いていない職種でも、業務内容によってはテレワークでも進められるものがあるかもしれません。「この業務はテレワークには向いていない」と決めつけず、業務の棚卸しを行い、テレワークができるかどうかを検討することも大切です。そうすることで、テレワークのニーズが高い職員でも長期的に業務を続けられるようになります。
在宅勤務にこだわらない
テレワークは「在宅勤務」に限りません。本記事でも紹介しているように「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」もテレワークです。
個人情報を扱う業務など、在宅勤務が難しい場合でも、セキュリティ強化が施されたサテライトオフィスなら業務が可能でしょう。また、現場に行き来することが多い職種なら、モバイル勤務で対応できるはずです。テレワーク導入の際は、視野を広げて職種に適したテレワークの方法を模索することが大切です。
公正な評価を行う
テレワークでは「公正な人事評価が難しい」という課題が挙げられる傾向にあります。しかし必ずしもその限りではなく、制度を整えれば、テレワークでも公平な評価を行うことは可能です。
従来の評価制度を大きく変えるのではなく、まずは評価者(上司)・被評価者(部下)双方が「職場にいる=仕事をしている」ではなく「成果を出す=仕事をしている」という考え方に変える必要があるかもしれません。
成果を出していると判断する方法としては、以下のような方法が挙げられます。
・目標管理制度を導入する
・定期的に1on1ミーティングで進捗確認を行う
・専用の人事評価システムを導入して職員が報告しやすい環境を整える
ルールの設定やシステムの活用などで業務管理を可視化し、同じ場所で業務を行っていなくても、職員の行動を把握することは可能です。テレワークのような多様な働き方に即した人事評価制度を整えることで、公正な評価の実現につなげられるでしょう。
まとめ
これからの働き方として注目されるテレワークは、ここ数年で多くの企業が導入を進めています。一方で、自治体のテレワークは、セキュリティ対策や導入コスト、DX推進の遅れなどが課題となっており、導入が遅れている傾向にあります。
しかし、自治体の中でもテレワークの導入に成功している例はあるため、不可能ではないことはわかります。導入にあたって意識するポイントや注意点などを理解しておけば、どのような自治体でもテレワークを導入できるでしょう。
テレワークの導入は、職員にとって働きやすい環境を構築できるだけではありません。業務効率化により行政サービス品質向上にもつながるため、地域住民・社会全体にもよい影響を与えます。
本記事で紹介したように、システムを活用した業務進捗や目標の管理・勤怠管理の可視化なども視野に入れ、自治体のテレワーク推進を検討してみてはいかがでしょうか。
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