雇用流動化とは|日本の現況と流動性を高めるメリット、企業にできることをわかりやすく解説
雇用流動化とは、労働市場において人材が企業や業界を活発に移動しやすい環境にあることです。
雇用流動化が高まることで、労働市場全体が活性化し、労働者だけでなく企業にもメリットがあると考えられています。
本記事では、日本における雇用流動化の現状や企業が協力するメリット、さらに流動性を高めるためにできる具体的な政策について、わかりやすく解説します。
雇用流動化(人材の流動化)とは|意味と目的
雇用流動化(人材の流動化)とは、転職などにより労働市場において活発な人材の移動が可能な状態です。
雇用流動化の概要を、目的や必要性という観点から解説します。
目的
雇用流動化(人材の流動化)は、労働力の流動化を起こし、最終的には経済全体の生産性を向上させることが目的です。
労働者が自身のスキルや興味にあわせて職業選択の機会を増やすことで、個人のキャリアパス追求が可能となります。
企業にとっては、必要とする人材を適時に確保し、市場の変化に迅速に対応できる体制を構築しやすくなります。
必要性
日本雇用制度では従来、年功序列・新卒一括採用・終身雇用を前提とした「メンバーシップ型雇用」が主流であり、雇用は流動的とはいえませんでした。
メンバーシップ型雇用では、組織の新陳代謝が進まず、イノベーションが起こりにくいという課題があります。また、社風や価値観に合わない人材を長期間雇用しているため、個人と組織の双方にとって不利益となっていました。
雇用流動化は、個人のキャリア形成と企業の競争力強化の両立をはかりながら、産業全体の発展と雇用市場の活性化を実現するために不可欠です。
雇用流動化の背景
雇用流動化が注目されるようになったきっかけは、主に以下3つの背景が関係しています。
- 労働人口の減少
- 労働者の就労意識の変化
- 働き方改革の推進
労働力人口の減少
雇用流動化が注目される背景には、少子高齢化による労働力人口の減少が影響しています。
日本は少子高齢化により労働力人口が減り、経済の成長を維持するには、人材の効率的な活用が必要です。
雇用流動化は、適材適所の人材配置やスキルの適性活用を促進し、課題に対する解決策として期待されています。
労働者の就労意識の変化
雇用流動化が進んでいるのは、若い世代を中心に、終身雇用や年功序列といった従来の日本型雇用スタイルへの関心が薄れている背景があります。
代わりに、自己実現や多様な経験を重視する傾向が強まっています。転職や副業に対する抵抗感が減り、多様なキャリアを求める意識の変化が雇用流動化を後押ししています。
働き方改革の推進
働き方改革の推進によって、労働環境の改善や柔軟な働き方が促進され、雇用流動化を支えています。
たとえば、働く場所を選ばないテレワーク、就業開始時間に縛られないフレックスタイム制度などを選ぶ人も増えてきました
個人の都合に応じた働き方が可能になり、企業と従業員双方にとって、雇用流動化の必要性が高まっています。
日本における雇用流動化の現況
日本の雇用流動化は以前より進んでいるとはいえ、他国と比較すると依然として低い水準です。主な理由として以下の3点が挙げられます。
- 正社員の解雇が困難
- 非正規雇用の増加
- 年功序列制度の残存
日本で雇用の流動性が伸び悩む理由を解説します。
正社員の解雇が困難
日本で雇用流動化が進まないのは、正社員の解雇が労働法により厳しく制限されている影響が考えられます。
解雇規制は、雇用の安定性を保つ一方で、企業の人材入れ替えを結果として難しくしています。
また、政府も失業率の上昇を懸念し、安易に労働市場の改革を実行できない現状です。
雇用の流動化を進むと、失業者が増加する可能性があるため、安定と流動性のバランスが課題といえるでしょう。
非正規雇用の増加
日本では以前より雇用流動化が進んでいますが、近年の転職率の上昇は、主に非正規雇用の増加が原因によるものです。多くの非正規雇用は、正社員として働く機会がないなどの消極的な理由により選択されています。
非正規雇用者の転職は、必ずしも待遇の改善につながらず、むしろ収入が前職を下回るケースもあり、雇用流動化がもたらす効果を得られていません。
また、非正規雇用では職業能力を十分に発揮できず、長期的なキャリア形成が難しい現状です。
年功序列制度の残存
日本の雇用流動化が進まない現状には、年功序列制度が今も多くの企業で残っている点も挙げられます。
年齢や勤続年数に応じて給与が上がるため、企業にとって労働者の雇用維持が人件費の負担となり、反対に若手採用が優先される傾向があります。
労働力人口が高齢化しているにもかかわらず、シニア・ミドル層の転職を困難にし、雇用の流動性を妨げる要因です。
日本の雇用の流動性は、世界と比べて依然として低いため、政府はリスキリングの促進など、さまざまな施策を打ち出しています。
よい雇用流動化を促すために企業ができること
「よい雇用流動化」とは、労働者の職業能力の発揮や発展につながることです。企業が「よい雇用流動化」を促進するためにできる施策には、以下4つが挙げられます。
- ジョブ型雇用に切り替える
- 多様なキャリアパスを用意する
- 従業員に応じた人材育成と人材配置を行う
- 多様な働き方を取り入れる
ジョブ型雇用に切り替える
メンバーシップ型雇用 | ジョブ型雇用 | |
---|---|---|
概要 | 長期的な雇用関係を前提に、企業全体で人材を育成 | 職務やスキルを明確に定義し、即戦力を重視 |
人材流動性 | 低い。従業員は長期間同じ企業に在籍する傾向が強い | 高い。専門性が評価され、他社への転職が容易 |
企業は、従来の年功序列や曖昧(あいまい)な職務範囲による「メンバーシップ型雇用」から脱却し、職務内容や必要なスキルを明確に定義する「ジョブ型雇用」への移行が必要です。
ジョブ型雇用の導入により、労働者は自身のスキルやキャリアゴールに合致する職務に応募しやすくなって雇用流動化を促進し、企業も特定の役割に適した人材を確保できます。
さらに、スキルに基づいた評価制度を導入すると、透明性のある評価が実現し、従業員のモチベーションも向上するでしょう。
多様なキャリアパスを用意する
よい雇用流動化を促進するために、企業は異動やキャリアチェンジを前提としたキャリアパスの設計が重要です。
キャリア開発の一環で、研修や資格取得支援、社内ベンチャーやプロジェクトベースの柔軟な働き方を推奨しましょう。また、昇進・昇格の機会を整備することで、従業員の成長意欲を高められます。
従業員は、同じ企業内でも多様なスキルを身につけられ、新たな職務への挑戦に積極的になるでしょう。
適性に応じた人材育成と人材配置を実施する
従業員一人ひとりのスキルや能力を把握し、適性に応じた育成や配置により、個々の能力を最大限に引き出しましょう。
タレントマネジメントに注力し、従業員一人ひとりに適した育成プログラムを提供、適材適所の人材配置することで、本人のエンゲージメントが高まります。
多様な働き方を取り入れる
リモートワークやフレックスタイム制など、多様な働き方の導入も、よい雇用流動化を実現するための施策です。
働き方が多様化すれば、成果で評価する体制に切り替えが可能です。働く環境に左右されず公平な成果を出しやすくなります。
雇用流動化によるメリット
雇用流動化により、優秀な人材が他社へ流れてしまうと懸念を持つ企業もあるかもしれません。しかし、雇用流動化が進むことは、企業にも以下のようなメリットが期待できます。
- 人材の採用機会が増える
- 即戦力を採用しやすい
- 人材育成にかかるコストを削減できる
- イノベーションが起こせる
人材の採用機会が増える
雇用流動化により人の動きが活性化すると、企業は必要なときに必要な人材を採用できます。
採用機会が増えると、急速に変化する市場環境に対応できるとともに、自社にマッチしたスキルを持つ人材や社風に合う人材を確保しやすくなるでしょう。
新卒採用のタイミングで雇用できなかった優秀な人材を、中途採用で雇用できる機会も増えます。
即戦力を採用しやすい
雇用流動化を促すため、ジョブ型雇用への切り替えが進めば、特定のスキルや経験を持つ即戦力人材を採用しやすくなります。
常に採用の機会がある状態であれば、他社で多様な経験を積んだ優秀な人材と出会える確率も高まり、すぐに事業に貢献してもらえる可能性が高まります。
人材育成にかかるコストを削減できる
雇用流動化により、自社に必要なスキルを持つ人材を採用しやすくなるため、育成にかかるコスト削減につながることもメリットです。
中途採用で即戦力となる人材を採用できれば、新人教育にかかる育成コストはかかりません。
必要最低限の研修で実践的に活躍してもらえるのであれば、余ったリソースをより専門的なスキル向上研修に投入できるでしょう。
イノベーションが起こせる
雇用流動化が進み、人の動きが活発になれば、異なる背景や経験を持つ人材の交流が増えます。活発な議論で新しいアイデアや視点が生まれやすくなるでしょう。
革新的なプロジェクトやサービスの創出を促進し、組織内でイノベーションを起こすきっかけとなるかもしれません。
雇用流動化によるデメリット
一方で雇用流動化には、以下のデメリットもあり対策が必要です。
- 大量採用が難しい
- 採用コストが増加する
- 若手人材の成長機会が減る
大量採用が難しい
新卒一括採用は大量の人材を一度に確保できますが、中途採用では状況が変わります。
求職者にとって、労働条件が魅力的でなければ、企業にとって人材の確保は容易ではありません。特に認知度が低く、人手不足に悩む中小企業にとっては深刻な問題です。
人材獲得競争が激化するなか、他社の方がより魅力的な条件を出していれば、苦労して獲得した人材が短期間で離職するリスクもあります。
企業は継続的に働きやすい社内環境への改善に取り組み、長期的な視点で人材を定着させる対策が必要です。
採用コストが増加する
雇用流動化によるデメリットとして、採用コストの増大も挙げられます。企業は常に募集の間口を広げている必要があり、採用活動が長期化するとともに、即戦力人材の獲得競争も厳しくなるためです。
特に高度なスキルを持つ専門人材の獲得には、転職エージェントなどを利用しなければなりません。外部サポートの利用にともない、さらに費用がかさむ可能性があります。
若手人材の成長機会が減る
雇用流動化にともなって、多くの企業が即戦力人材の採用に力を入れています。しかし、自社で人材が一定の経験を積んだあとに転職してしまうと、将来の幹部候補が不足するリスクがあります。
長期的な視点で見ると、即戦力の確保だけでは、組織の持続的な成長や安定的な経営を鈍化させるかもしれません。
一定程度の若手未経験採用と、長期的な人材育成も視野に入れ、自社の事業計画に沿ってバランスの取れた人材戦略が必要です。
まとめ
雇用流動化とは、労働市場において人材の移動が活発に行われる状態です。
日本の雇用流動性は依然として低い現状にありますが、ジョブ型雇用の導入や多様なキャリアパスの提供を通じて「よい雇用流動化」を促進できます。
雇用の流動性を高めると、必要なスキルを持つ人材を適切なタイミングで確保しやすくなる一方、採用コストの増加や将来の幹部候補不足といった課題もあります。
企業は長期的な視点で、雇用流動化に向けて検討し、働きやすい環境を整えて成長機会を提供することで、持続的な成長と競争力の強化につながるでしょう。
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必要な人材を必要なタイミングで獲得するには、日頃から自社に必要な人材を明確にしておくことが大切です。
従業員一人ひとりのスキルや経歴を可視化し、自社で活躍しやすい人材要件を定義しておきましょう。
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