キャリア教育とは? 重要性や小中高における現状や課題を解説
キャリア教育とは、社会人として働くことを見据え、必要な能力や考え方などを育む教育です。キャリア教育は、学生たちが将来、生き生きと働き、社会で自分の役割を果たしながら活躍するために必要な点を学ばせる役割があります。
本記事は、キャリア教育とはどのようなことをするのか、キャリア教育の現状や課題も解説します。
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キャリア教育とは
キャリア教育とは、学校教育の中で、子どもたちの社会的・職業的自立に向けて、生涯にわたり自分の役割を果たすための能力や意識を育むために必要な教育です。
文部科学省では、「キャリア」と「キャリア教育」を以下のように定義しています。
〇人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、みずからの役割の価値や自分との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、「キャリア」であるとされています。
〇一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育が「キャリア教育」です。
引用:『キャリア教育』文部科学省
また、2017年に改訂された学習指導要領で、「生きる力」要素がより協調されるようになり、幼稚園から高等学校までの教育カリキュラムに組み込まれました。このように、日本の学校教育で、キャリア教育の重要性が強まっていることがわかります。
参照:『生きる力 学びの、その先へ(学習指導要領)』文部科学省
キャリア教育を始めるタイミング
キャリア教育を始めるタイミングは、特定の時期が該当するわけではありません。キャリア教育は、幼児期から高等教育のあいだで、発達段階に応じて体系的かつ長期的に行っていくことが重要と考えられています。また、学校教育で行うキャリア教育が、その人の生涯を通して、キャリア形成を支えるものとなることが求められています。
キャリア教育と職業教育の違い
キャリア教育と混合しやすい概念に、「職業教育」があります。キャリア教育とは、一人ひとりの社会的・職業的自立に向けて必要なスキルや態度を育むための教育で、職業教育も含まれます。一方の職業教育とは、特定の職業に必要な知識やスキル、技術などを育むための教育です。職業教育では、特定職業に対する教育として行われる特徴があります。
キャリア教育と進路指導の違い
キャリア教育と進路指導は、将来的な自立や社会での生き方を長期的な視点を持って学ぶための教育活動であるため、目的や狙いとしては同様と考えられています。
ただし、進路指導は中学校と高等学校のみで行う教育活動であるため、幼児期から高等学校まで継続的に行うキャリア教育と比べると、限定的である点に違いがあります。
参照:『高等学校キャリア教育の手引き 第3節キャリア教育と進路指導』文部科学省
キャリア教育が大切な理由
キャリア教育が重視される理由にはどのような点が挙げられるでしょうか。具体的な理由を解説します。
子どもたちの発達のため
デジタル化が進む現代では、インターネットやSNSの普及など情報技術が著しく進化しています。このような社会のなか、人と人とのつながりが直接的なものだけでなく、オンラインを通したものも増えてきています。その結果、子どもたちが人間関係を構築しにくいケースや、直接的な人との関わり合いに関心を持てない子どもも少なくありません。
子どもたちが社会に出た際に、良好な人間関係を築くことは、働くうえでも重要です。このように、キャリア教育を通して、人との関わり合いの中で得られる喜びなどを学ぶことは重要と考えられています。
社会に出るための力を養う
社会に出るために必要な考え方や態度を学ぶことは、社会人として生きるために重要です。このような社会人としての基礎的な能力としては、自己管理能力や課題解決力、キャリアプランニング能力などが挙げられます。子どもたちが、キャリア教育を通して将来の自立に向けた基礎的な能力を養う点にも大きな意義があるのです。
将来のキャリアに希望を持てる
キャリア教育は、未来の労働力となる子どもたちが将来のキャリアや自立を考えるきっかけです。キャリア教育では、子どもたちが仕事やキャリアを想像し、自分がどのような役割を果たしながら生きていくのかを考えることで、将来に希望を抱くことも期待できます。
学習意欲の向上につながる
キャリア教育は、子どもたちの将来と学業がつながっていることを学ぶ機会でもあるため、学習意欲の向上も期待できます。今学んでいるさまざまな内容が、将来に役立つことを感じられれば、自発的に学習するモチベーションが向上します。
価値観が多様化しているため
キャリア教育は、子どもたちが自立して将来社会に出た際に、自分らしく生きる力を養えます。終身雇用や年功序列は崩壊しつつある現代で、成果主義を取り入れる企業が少なくなく、人材の流動化も進んでいます。このような時代で、自分の価値観を持ち、どのように働きたいかを考えることで、生き生きと働く力を身に付けることが必要です。
キャリア教育の現状
キャリア教育を、小学校・中学校・高等学校の現状別に解説します。
小学校におけるキャリア教育
国立教育政策研究所によると、小学校におけるキャリア教育の現状として、約8割の学校がキャリア教育担当者を配置しています。また、キャリア教育の全体計画の作成は6割、年間指導計画の作成は5割程度です。さらに、年間指導計画の中で「キャリアカウンセリング」が含まれている割合は1割を下回っています。
このように、小学校のキャリア教育推進への対応は進みつつあるものの、十分といえる対策や教育環境が整っているとはいえない状況です。
参照:『1.小学校におけるキャリア教育の現状と課題 』国立教育政策研究所
中学校におけるキャリア教育
同研究所によると、中学校におけるキャリア教育の現状として、キャリア教育に関する全体計画や年間指導計画の両方で約8割の学校が作成し、計画的に実践されています。
職場体験もほとんどの学校で実施されており、9割の卒業者が有意義だったとしています。
ただし、キャリア教育の担当者は、中学3年の担任と兼任が4割程度を占めており、キャリア教育に関連する研修に参加したことのない担任教諭は5割程度です。
中学卒業に向けた教育体制となっている可能性もあるため、全体として系統的な教育の実践が課題です。
参照:『2.中学校におけるキャリア教育の現状と課題 』国立教育政策研究所
高等学校におけるキャリア教育
高等学校におけるキャリア教育は、全体計画が7割、年間指導計画が8割の学校で作成されているため、計画的に実施されています。また、キャリア教育担当者もほとんどの学校で配置されました。
ただし、中学校と同様に、キャリア教育に関する校内研修に未参加の担任が5割程度おり、全体として系統的なキャリア教育の実践が求められています。
また、教育の内容を長期的な視点で、さまざまなリスクへの対応なども含めてた指導が課題となっています。
参照:『3.高等学校におけるキャリア教育の現状と課題 』国立教育政策研究所
キャリア教育で育みたい能力
キャリア教育によって、特に子どもたちが育むべき能力を解説します。
人間関係を構築する力
キャリア教育では、良好な人間関係を構築し、周囲と協力し合う力の形成が大切です。良好な人間関係を構築するためには、日頃から相手の意見に耳を傾けたうえで、自分の意見を伝える必要があります。多様性が認められるようになっている現代では、さまざまな価値観の中で、受け入れたり変化に対応できる柔軟性が求められています。
自己理解と周囲との協働
キャリア教育を通して、子どもたちが自分自身を理解し、周囲と協力し合って成長していくことが大切です。自分ができることや価値観の理解で、得意不得意をあらためて理解したり将来のために必要な点の把握に役立ちます。
また、自分ができることを理解すれば、できないことや苦手分野がわかるきっかけです。このときに、自信をなくしたり自己肯定感を低下させるのではなく、周囲との連携や協働し合う大切さを学ぶことに価値があります。
キャリアプランニング能力
キャリア教育によって、自分のキャリアプランニングを行うきっかけにもなります。キャリアプランニングとは、自分のキャリアと向き合い、将来に向けた計画を練ることです。自分が目指すキャリアをどのように実現していくのかを具体的に計画します。子どもたちのキャリアプランニング能力を養えれば、自分の状況や目標を客観的に見つめられるため、効率的にキャリア形成に取り組めます。
まとめ
キャリア教育は、子どもたちが学校教育の中で、仕事や社会との関係を理解し、自分らしく生きるため重要な教育といえます。
将来と学業を結びつけて考えることで、今取り組んでいる学校生活や学業に対するモチベーションも向上しやすくなり、子どもたちの成長にもつながります。
キャリア教育は、学校の内外で行われるものです。学校側はキャリア教育の質を高めたり、教師の理解度を深めたりして、さらなる充実を目指しましょう。
また、キャリア教育で実施される「職場体験」は、企業の協力も不可欠です。企業側は、社会貢献の1つとして、子どもたちに向けて、職場体験の環境提供を検討してみてはいかがでしょうか。