複線型人事制度とは?メリット・デメリットと事例を紹介

複線型人事制度は複数のキャリアコースを用意する人事制度です。終身雇用や年功序列制度が定着している企業にはなかった、比較的新しい制度として注目が高まっています。

本記事は、複線型人事制度のメリット・デメリット、複数のキャリアコースのパターン、民間と自治体の事例を紹介します。制度の導入方法も解説しますので、人事制度の再構築を検討している担当者の方は、ぜひお役立てください。

複線型人事制度の運用をサポート「One人事」の資料をダウンロード

目次アイコン 目次

    複線型人事制度とは

    複線型人事制度とは、企業内に複数のキャリアコースを用意する人事制度です。

    従業員みずからキャリアコースを選択できるため、成長の幅が広がり、自律的なキャリア形成を後押しします。複線型人事制度は、複数のキャリアコースが準備されているので、働き方の多様化に適応しやすく、たとえばライフステージの変化にともない、コースを選び直すこともできます。

    結果的に、企業は多様な人材を育成することにつながります。

    単線型人事制度とは

    複線型人事制度とは異なり、単線型人事制度は、キャリアコースがある程度固定されている人事制度です。従来の人事制度は、年功序列や終身雇用の影響もあり、昇級や昇格の道が一つに絞られている傾向がありました。

    定められたキャリアコースが、自身のキャリアプランと一致しない場合は、従業員の不満につながりやすいです。

    複線型人事制度の目的

    複線型人事制度の主な目的は、以下の2点です。

    • 自発的なキャリアの促進
    • 事業の課題解決

    自発的なキャリアの促進

    複線型人事制度のようにキャリアコースが選べないと、自発的なキャリア開発が難しくなり、モチベーションの低下につながります。働き方や仕事への価値観が多様化したことにより、単線型人事制度では、従業員のキャリア志向に対応しきれなくなってきました。

    複線型人事制度では、従業員のキャリアプランに沿ったキャリアアップの道を提供することができるかもしれません。さらに、社員自らキャリアコースを選択するので、自発的な姿勢につながり、モチベーションも上がりやすくなるでしょう。

    事業の課題解決

    複線型人事制度では、各キャリアコースでそれぞれの視点を持ったスペシャリストが育ちやすい傾向にあります。優秀なスペシャリストを育てることは、事業の課題解決のスピードを早める可能性があります。

    従来の単線型人事制度では、画一的な人材が育ちやすい傾向にあります。組織に統一感が出る一方で、視点が偏り、事業の課題解決を難しくすることもありました。

    複線型人事制度とジョブ型雇用の関係

    複線型人事制度は、ジョブ型雇用と相性がいいと考えられています。

    日本企業は、終身雇用や新卒採用を前提とした「メンバーシップ型雇用」が主流でした。しかし昨今は、明確な職務定義をもとにしたジョブ型雇用が広がりつつあります。ジョブ型雇用は、仕事に人を充てる考え方で、スペシャリストの育成に適しています。

    ジョブ型雇用へ移行する企業では、複線型人事制度のような従業員自らキャリアコースを選択できる制度の方が適しているでしょう。

    複線型人事制度のキャリア軸 3パターン

    複線型人事制度で採用されるキャリアコースの軸は、3種類に分かれます。

    1. キャリア志向
    2. 適性
    3. 職種

    一つずつ解説します。

    キャリア志向

    キャリア志向を軸とした複線型人事制度のパターンは、社員が希望するキャリアに基づいて、キャリアコースが設定されています。具体的には、以下の3つのキャリアコースに分かれます。

    総合職コース幹部も視野に入れるキャリアコース。
    さまざまな勤務地や職務に配属される可能性あり。
    一般職コース一定条件の勤務を希望する人のためのキャリアコース。
    勤務地や職務は限定される。
    専能職コース1つの専門性を極めたい人のためのキャリアコース。

    キャリア志向を基準とする複線型人事制度は、企業の成長を左右する可能性があるので、入念に協議をして決定する必要があります。

    適性

    適性を軸とした複線型人事制度のパターンは、従業員のスキルや特性に応じてキャリアコースが分かれます。得意不得意に配慮して、個人の特性を最大限に活かせるよう適材適所の人材配置を行います。具体的には、以下の3つのキャリアコースに分かれます。

    管理職コースマネジメントも担う。
    一般職コース特定の分野における職務を担当。
    専能職コース特定分野のエキスパートとして、知識や技術を習得。

    適性を基準とする複線型人事制度は、従業員の個性や能力が発揮しやすいので、モチベーションがアップにもつながります。

    職種

    職種を軸とした複線型人事制度では、特定の職種や業務に特化してキャリアコースが分かれます。企画職コース、研究開発職コースなど、専門に特化しています。職種を基準とする複線型人事制度は、各職種のスペシャリストを育成できる点がメリットです。しかしその反面、キャリアの転向が難しいといったデメリットもあります。

    複線型人事制度の導入メリット

    複線型人事制度を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットを4つご紹介します。

    人材の成長の可能性が広がる

    複線型人事制度では、従業員自らの意思でキャリアコースを選択できるので、成長の可能性が拡大します。単線型人事制度では実現できないキャリアコースが複数用意されているため、成長の機会も複数あるということになります。従業員一人ひとりの成長は、企業の成長にもつながる点は大きなメリットでしょう。

    モチベーションの向上

    複線型人事制度は、従業員のモチベーションの向上も期待できる点もメリットです。希望のキャリアが反映されることは、モチベーションの向上だけでなく、維持にもつながります。モチベーションが高い状態で継続的に業務に取り組めるので、生産性もアップするでしょう。

    専門スキルの習得

    複線型人事制度の中でも、適性を軸にした専門職コースや仙人職コースを選んだ人材は、特に、特定の業務に対する知識や技術を極められます。継続的にスキルが向上が見込めるとともに、本人のキャリア形成においても満足のいくものとなりやすい点はメリットといえます。また、専門的なスキルを習得した人事が集まる組織は、他社と差別化ができるでしょう。

    出世できない不満の解消

    複線型人事制度は、企業への貢献度に合わせてポジションを用意し、登用します。

    従来の単線型人事制度で出世とは、管理職への昇進を指すことが多いです。出世したい人材は管理職を目指しますが、管理職のポスト数は限られています。そのため、希望のポストに空きがでないと、なかなか出世できません。希望がかなわないとモチベーションの低下を招くため、複線型人事制度はポスト不足や不満の解消にも役立つ点でメリットといえます。

    複線型人事制度のデメリット・注意点

    複線型人事制度は、従業員の成長の幅を広げる点で大きなメリットです。しかし、デメリットもあるため、導入には注意が必要です。

    導入時にコストがかかる

    複線型人事制度を導入すると、単線型人事制度より時間的にも金銭的にもコストがかさむ可能性がある点がデメリットです。主に以下のような投資が予想されます。

    ・キャリアコースのルール構築
    ・昇給システムの整備
    ・給与体系の見直し

    複線型人事制度の構築には、経営層やマネジメント層、人事担当者を交えて検討や整備が必要なので、人件費も考慮する必要があります。そのため、費用対効果はよく検討しましょう。

    複数の評価基準が必要

    複線型人事制度では、複数のキャリアコースに対応した評価基準を設定する必要があり、複雑化する点がデメリットです。。評価基準は、公平で従業員から納得感が得られるものでなければなりません。運用には随時見直しも必要です。

    複雑な評価運用は、人事担当者や評価担当者の負担になります。複数のコースである程度統一した評価項目や基準を設けるなど工夫も求められるでしょう。

    定着までに時間がかかる

    複線型人事制度は、定着までに時間がかかることもデメリットです。導入スケジュールは、余裕をもって計画しましょう。部分的に取り入れて、段階的に取り入れるのも一案です。

    複線型人事制度の事例

    複線型人事制度は、民間企業でも自治体でも導入が始まっています。成功事例をご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

    自治体

    複線型人事制度を導入する自治体は増えています。有名なのは、千葉県柏市、埼玉県春日部市です。柏市では、年々多様化する住民ニーズに対応するため、専門的な人材の育成を目指し、複線型人事制度を導入しました。春日部市では、ベテランが退職するたびに現場が混乱していたため、専任職のキャリアコースを設けたそうです。いずれの市でも、職員の専門スキルが向上し、技術や知識の継承につながっています。

    また、大阪府の枚方市でも地方分権改革によって、職員に以前より専門的なスキルが求められるようになり、複線型人事制度を導入しました。

    公務員は年功序列型のイメージが強いですが、複線型人事制度によって、専門的な人材が育ち、多様化する住民ニーズに対応しています。

    参考:『柏市アクションプラン全体計画』
    参考:『ビジネス・レーバー・トレンド2014年9月号』
    参考:『地方公共団体における人材育成・能力開発に関する研究会(第1回)』

    民間企業

    民間企業でも、主に大企業で複線型人事制度が導入されています。

    たとえばりそな銀行では、19コースの複線型人事制度を導入しています。以前はゼネラリスト育成に力を注いでいましたが、時代の変化に対応できないと気づき、複線型人事制度を設けたそうです。

    また東日本旅客鉄道では、管理職の一斉退職への対策と優秀な人材の活躍を目的に、複線型人事制度を導入しました。その結果、従来の年功序列制度を脱するきっかけになったそうです。

    ほかにも複線型人事制度を導入して、エンゲージメントや定着率の向上をを実現した事例もあります。

    参考:『東日本鉄道株式会社』
    参考:『りそな銀行 CROSS TALK 座談会』

    複線型人事制度の導入方法

    複線型人事制度を成功させるには、どのように導入すればよいでしょうか。一般的な導入方法・手順をご紹介します。

    1.キャリアコースの設定

    まずは、キャリアコースを設定します。自社に必要なポジションを洗い出し、各ポジションにあったキャリアコースを用意します。コースの設定は、さまざまな意見を取り入れて協議しましょう。

    2.評価制度の整備

    続いて各キャリアコースに応じた評価制度を整備します。各キャリアコースによって求められるスキルや役割が異なるため、キャリアコースごとに評価制度を設定します。

    たとえば、定量的に成果がわかりやすいキャリアコースの場合、賞与に反映させるのもいいかもしれません。企画職やエンジニア職など、職種を軸にキャリアコースを設ける場合は、専門性をどのように評価するのか具体的に検討しましょう。

    3.社員の配置

    キャリアコースと評価基準が設定できたら、社員を配置します。本人のキャリア選択を尊重するとともに、人事担当者や現場の管理者から見た適性なども反映するといいでしょう。配置前には1on1などを実施し、納得感を得てから配置を決めます。本人の理解が得られないと、モチベーションの低下を招き、複線型人事制度の最大のメリットである本人の成長が期待できません。

    まとめ

    当記事は、多岐にわたるキャリアコースを用意する複線型人事制度について解説しました。複線型人事制度は、社員の自律的なキャリア形成を促すなどのメリットがある一方、デメリットもあるため、導入には準備が必要です。


    One人事[タレントマネジメント]は、従業員のスキルや経歴を直感的に管理し、評価の効率化をサポートするタレントマネジメントシステムです。複雑化しやすい複線型人事制度の評価運用にも役立ちます。人事評価や人材管理の見直しの際は、システムの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

    自社の人事課題や目的に応じて欲しい機能だけを選べる、柔軟な料金プランでご利用いただけますので、多機能過ぎて使いこなせない…といった無駄はありません。

    当サイトでは、サービス紹介資料はもちろん、人事労務のノウハウに関する資料を無料でダウンロードいただけます。また、無料トライアルも提供していますので、まずはお気軽にお問い合わせください。