スキルマトリックスとは? 開示項目や作成方法、事例も解説

スキルマトリックスとは? 開示項目や作成方法、事例も解説

スキルマトリックスとは、取締役の保有するスキルを整理した表です。上場企業は、取締役会のスキルを一覧化して開示する義務があるため、正しい理解が必要です。

本記事では、スキルマトリックスの概要を解説し、作成方法や事例も紹介します。企業の経営層や人事担当者はぜひ参考にしてください。

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    スキルマトリックスとは

    スキルマトリックスとは、取締役のスキルを整理した表です。スキル(Skill)は技術、マトリックス(Matrix)は行と列の整理を指す言葉です。

    企業の取締役会は複数人の取締役で構成されており組織の方向性や戦略を決める役割を持つ重要な存在です。多様なスキルを持つ人材で構成し、一覧化して株主との建設的な対話促進につながるツールとしての活用が必要です。

    コーポレートガバナンス・コードで一部義務化

    コーポレートガバナンス・コードでは、2021年の改訂(2022年4月より適用開始)で、上場企業に対してスキルマトリックスの開示を強く推奨しました。スキルマトリックスの開示が求められているのは、東証プライム市場およびスタンダード市場に上場する企業です。これにより、上場企業の多くがスキルマトリックスを開示することとなりました。

    参照:『コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~』株式会社東京証券取引所

    スキルマトリックスを開示する目的や役割

    スキルマトリックスの開示には、どのような目的や役割があるのでしょうか。具体的な目的は「スキルバランスの調整」と「ステークホルダーへの開示」が挙げられます。それぞれの内容を解説します。

    取締役会におけるスキルバランスの調整

    スキルマトリックスを開示することで、企業が自社の取締役会における保有スキルを客観的に把握でき、スキルバランスを捉えることもできます。スキルバランスが偏っている場合、企業は不足しているスキルを補完する必要があり、バランスの取れた組織体制の整備に動けます。企業にとってスキルマトリックスは、取締役の保有スキルを整理して可視化するツールです。

    ステークホルダーへの開示

    企業は、取締役の保有スキルを、投資家などのステークホルダーに公開する必要があります。ステークホルダーは開示されたスキルマトリックスをもとに、取締役の保有スキルを把握し、今後の企業経営の判断ポイントやリスク管理に役立てます。

    スキルマトリックスで開示する項目

    スキルマトリックスで開示する項目は、企業として、課題解決や変化に対応できるよう、幅広いジャンルのスキルを保有した取締役会であることが望ましいといえます。そこで、どのような企業でも必要とされる、スキルマトリックスの項目を紹介します。

    • 企業経営
    • マーケティング・営業
    • 財務・ファイナンス
    • IT・デジタル
    • 人材・労務・人材開発
    • 法務・リスクマネジメント
    • グローバル経験
    • ESG・サステイナビリティ
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)

    企業経営

    さまざまな経営判断に必要な知識が、企業経営スキルです。企業戦略や方向性を決めた経験、組織を束ねる能力が求められます。企業経営スキルは、スキルマトリックスの中でも核となり、必要不可欠です。企業規模や業界も考慮し、自社にあった企業経営スキルを保有する取締役を見極めましょう。

    マーケティング・営業

    企業が業績を上げるためには、計画や戦略が必要であり、業績に影響するスキルです。高度な分析や予測、効果的な営業手法などを理解していなければなりません。このスキルは、自社だけでなく、外部から補充する企業もあります。

    財務・ファイナンス

    企業には、お金に関するスキルを保有した取締役も必要です。企業運営や成長に必要な投資には、資金調達に関する知識やスキルが欠かせません。企業のお金そのものの知識だけでなく、冷静な判断や中長期的な視点、会計上のコンプライアンス知識も重要です。

    IT・デジタル

    近年、重要性を増しているスキルマトリックスの中で、注目されているのがITやデジタルスキルです。ITやデジタル化を進めることで、さまざまな業務の効率化がはかられ、生産性の向上が期待できます。ただし、懸念点として、これらのスキルを保有している人材が若い世代に限られていることも考えられます。そのような場合、年齢や社歴にとらわれず、若い世代を積極的に登用する機会になるでしょう。

    人材・労務・人材開発

    労務や人事のスキルは、企業の人材育成や人材確保を行ううえで重要です。また、コンプライアンスを遵守した企業経営の観点からも、必要とされます。特に近年では、人材を企業の資本と位置づける人的資本経営が注目されています。人的資本経営を成功させるには、自社の人材を貴重な資本として捉え、資源を有効活用するための知見やスキルが必要です。

    法務・リスクマネジメント

    企業は、法令遵守を徹底しなければなりません。一度でも法令違反が発生すれば、社会的信用を大きく損ないます。

    健全な企業経営を行い社会的信用を高めるためには、企業に関連するさまざまな法律を理解し、リスクマネジメントを徹底することが必要です。。また、社会の変化や法令改定の際にも、法務やリスクマネジメントのスキルがあれば、迅速に対応できます。

    グローバル経験

    海外進出を検討している、または海外投資家の獲得を目指している場合は、グローバルスキルを保有する取締役を揃えることが必要です。海外といっても国や地域によって文化や考え方の違いがあります。グローバルスキルを重視する企業は、地域ごとに分けたうえで、知識や経験のある人材を選定することが大切です。

    ESG・サステイナビリティ

    企業活動を行ううえでは、さまざまな社会問題や時代の変化に向き合わなければなりません。

    特に、現代ではESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティへの知見が重要です。これらのスキルを持つ取締役がいることで、企業はスキルマトリックスにその内容を記載でき、社会的責任を果たせる企業としてもアピールできます。

    DX(デジタルトランスフォーメーション)

    企業にとって、国が推進するDXに関する知見も重要です。企業は、DX化によって新たな価値を創造し、変革することが求められています。企業がDX化を推進するためには、経営層にDXに明るい人材を選定することが重要です。DXスキルは、比較的若い世代が持っている場合が多いため、積極的な登用が望まれます。

    スキルマトリックスの作成方法

    スキルマトリックスの作成方法を説明します。

    1. スキル選定
    2. 保有スキルの定義決め
    3. 保有スキルの確認
    4. スキルマトリックスの承認

    1.スキル選定

    企業の取締役として必要なスキルを選定しましょう。スキルはできるだけバランスよく選定することはもちろん、自社の課題に対応するためのスキルにも注目します。また、さまざまなスキル種類がありますが、取締役の数をふまえ、優先順位を考えて選定することが大切です。

    2.保有スキルの定義決め

    スキルを選定したあとは、保有スキルをどのように認定するかを決定します。保有スキルは、経歴や保有資格、成果などで定義します。たとえば、法務の場合は法務部門での経歴や士業資格の保有などが挙げられます。経歴や難易度の高い専門的な資格は、保有スキルとして裏付けしやすいといえます。

    3.保有スキルの確認

    現状の取締役が保有するスキルを確認します。取締役がスキルを保有しているかどうかの証明は、企業が決めた定義に沿ってチェックしましょう。証明が難しい場合は、第三者である諮問委員会に評価を依頼することも一つの方法です。保有スキルの確認ができれば、スキルマトリックスを作成します。

    4.スキルマトリックスの承認

    スキルマトリックスが作成できたら、承認を得ます。承認は経営会議などで行われ、承認を得られれば、スキルマトリックスを開示します。また、スキルマップの作成によって、企業の取締役会として不足するスキルも抽出できます。不足するスキルを得るための対応も検討しましょう。

    スキルマトリックス開示の注意点

    スキルマトリックスを開示する際は、特にいくつかの点に注意が必要です。そこで、スキルマトリックス開示に関する注意点をご紹介します。

    • 保有スキルに偏りがある場合には理由を説明する
    • 取締役の保有スキルに関する定義や証明方法を検討する
    • 場合によっては取締役の入れ替えも検討する

    保有スキルに偏りがある場合には理由を説明する

    スキルマトリックスにおける保有スキルが偏っている場合は、十分に理由を説明しましょう。特に投資家たちは、企業の成果を期待しています。保有スキルが偏ることで、変化が生じたときや、自社の課題にスムーズに対応できません。取締役が保有するスキルに偏りがある場合は、投資家に対して、納得できる説明が求められます。

    取締役の保有スキルに関する定義や証明方法を検討する

    スキルマトリックスは、主に投資家たちが、企業戦略の達成可能性を判断するために活用されます。そのため、企業はスキルマップにおいて取締役の保有スキルを低いレベルで記載しても投資家たちは、正しい判断ができません。スキルマップの作成では、取締役のスキル選定や定義付けを重視しましょう。自社のスキルマップに不安があれば、組織外部の有識者を社外取締役として招聘(しょうへい)し、その知見を求めることを検討しましょう。

    場合によっては取締役の入れ替えも検討する

    スキルマトリックスは、バランスが悪いと、投資家たちから指摘が入る可能性があります。スキルマトリックスで開示する項目や取締役の保有スキルが、企業戦略や方向性に合っていない場合は、取締役の入れ替えや人員補充も検討してみましょう。

    スキルマトリックスのバランスに課題がある場合

    スキルマトリックスにおいて、保有スキルのバランスが悪い場合は、社外取締役を選任することが効果的です。そこで、社外取締役を選任するメリットをご紹介します。

    • 専門性の高い人材を登用できる
    • 効率的にスキルバランスを整えられる
    • 自社に新しいスキルを取り入れられる

    専門性の高い人材を登用できる

    外部から社外取締役を選任することで、その分野に長けた人材を登用できます。スキルマトリックスに記載することは、高度な専門性があることを意味します。外部から取締役に登用することで、自社にない知見や技術を得られます。

    効率的にスキルバランスを整えられる

    スキルマトリックスに記載できるほどの専門性の高い高度なスキルを身につけるためには、時間も労力もかかります。自社で無理やりスキルを身に付けさせるよりも、すでにスキルを保有している人材を探すほうが、効率的です。

    自社に新しいスキルを取り入れられる

    スキルマトリックスで不足しているスキルは、自社では身に付けにくい能力ともいえます。外部から人材を登用することで、自社に不足しているスキルを、取り入れられます。不足したスキルを取り入れることは、新たな知見や技術として活用できるため、企業力強化や成長にもつながります。

    スキルマトリックスの事例

    スキルマトリックスを開示している企業の事例を紹介します。

    株式会社資生堂

    株式会社資生堂では、企業ホームページのコーポレートガバナンス体制のページで、取締役に関する情報を公開しています。また、同ページに掲載されている株主総会資料では、スキルマトリックスを公開しています。

    同社にとって特に重要と考える6つのスキルを紹介し、取締役の顔写真とともに公開されています。また、スキルマトリックスによる一覧表だけでなく取締役一人ひとりの紹介もされており、経歴や詳しいスキルがわかるようになっています。

    参照:『ガバナンス体制 | コーポレートガバナンス | 投資家情報 | 資生堂 企業情報』株式会社資生堂
    参照:『株式会社 資生堂 第124回 定時株主総会 招集ご通知』株式会社資生堂

    株式会社ニトリホールディングス

    株式会社ニトリホールディングスでは、企業ホームページで、スキルマトリックスを公開しています。スキルマトリックスでは、主な6つのスキルについて、各取締役がどのスキルを保有しているかが明確に記載されています。また、役員一覧のページでは、取締役の詳細経歴や選任理由も紹介しています。それぞれの取締役がどのようなスキルを保有しているのかが詳しくわかるようになっています。

    参照:『重要課題⑦ 実効性のあるコーポレート・ガバナンス|サステナビリティ』株式会社ニトリホールディングス
    参照:『役員一覧』株式会社ニトリホールディングス

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    まとめ

    スキルマトリックスとは、企業の取締役が保有するスキルを一覧化した表です。スキルマトリックスを開示することで、ステークホルダーへの周知ができます。企業やステークホルダーは、戦略実行や業績向上のための施策を検討する際に、スキルマトリックスを参考にできるでしょう。