スキルトランスファー(スキトラ)とは|意味とメリットや方法を紹介
スキルトランスファーとは、社内に蓄積した知識や技術を従業員に引き継いでいくことです。しかし「退職や異動にともなう業務の引き継ぎと何が違うの?」「何から始めればいいかわからない」と悩んでいる担当者もいるかもしれません。
そこで本記事では、スキルトランスファーの目的やメリット、導入手順、役立つツールなどをご紹介します。
スキルトランスファーとは
スキルトランスファーとは、誰かが持っているスキルをほかの人に伝えて移していくこと。略して「スキトラ」といわれる場合もあります。そもそも「トランスファー(transfer)」は「移す」などの意味を持った英単語です。
スキルトランスファーは、作業手順や道具の使い方という業務の引き継ぎだけを指すのではありません。仕事での心構えや感覚など抽象的な内容まで含みます。前任から後任への引き継ぎや先輩から後輩への教育のほか、同僚から同僚へのちょっとした情報共有もスキルトランスファーの一部といえます。
ナレッジトランスファーとの違い
スキルトランスファーとよく似ている言葉に「ナレッジトランスファー」があります。
「ナレッジ(knowledge)」は「知識」という意味の英単語なので、ナレッジトランスファーは「知識の移転」と訳されます。組織においてスキルと知識は密接にかかわっているので、両者はほとんど同じ意味で使われています。どちらを使うかは個人や組織によって異なりますが、本記事では「スキルトランスファー」として解説していきます。
スキルトランスファーの目的
スキルトランスファーは、主にスキルの属人化を防ぐのを目的として行われます。
属人化とは「特定の人しか知らない」「その人しかできない」状態になることです。特定の人が退職したり、異動したりした際に、業務が回らなくなってしまうのです。属人化は効率的とはいえません。複数人で業務を分担して、協力し合いながら進めることができないからです。
少子高齢化が進んで労働力人口が減り続けている日本社会では、人手不足が原因で特定の人に業務が集中しがちです。スキルトランスファーは、人手不足を解消する一手としても注目されています。
スキルトランスファーのメリット
スキルトランスファーを進めることで、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。主なものを3点ご紹介します。
従業員の成長が早まる
スキルトランスファーによって、従業員の成長を促すメリットがあります。
新入社員や経験の浅い社員が、即戦力として活躍するまではどうしても時間がかかります。しかし、ベテラン社員が持っているノウハウを適切に引き継ぐことができれば、成長を早められるでしょう。引き継ぐ側の従業員も、仕事に対する理解が深まったり、上手に教えるスキルを身につけられるはずです。従業員の成長が早まれば、教育コストが削減でき、業績の向上にもつながるかもしれません。
スキルトランスファーは、単なる業務の引き継ぎではなく、長年の経験から得た感覚なども引き継ぎの対象としているので、人材育成の観点からも大きなメリットがあるといえます。
業務の生産性が高まる
スキルトランスファーを進めると、社内でノウハウが整理され、誰でも必要なときに取り出せるようになります。複数人で連携して効率的に業務を進められるようになるので、生産性が高まります。
反対に社内でノウハウが整理されていないと、業務が属人化し、特定の人しか担当できない仕事が出てきます。ベテランの従業員が退職したことで知見が途絶えてしまうという問題も起こるでしょう。
業務の生産性を高めるためにも、スキルトランスファーを進めて社内のノウハウを整理することが重要といえます。
顧客との関係性が守られる
スキルトランスファーは、顧客からの信頼性を維持することにもつながります。
従業員の異動や退職で担当者が変更になったとき、適切に業務が引き継がれていなかったり、後任の能力が足りていなかったりすると、顧客の信頼を損ねてしまうかもしれません。あまりにも社内の混乱が深刻だと、契約を打ち切って他社に乗り換えられてしまう可能性もゼロではないでしょう。
スキルトランスファーでは、顧客との取引や担当業務の内容、やり取りをするうえでの心構えなども引き継がれます。担当者が変わっても相手に不安を感じさせることなく、信頼関係を守れるでしょう。
スキルトランスファーの5つの進め方
スキルトランスファーの方法には、5つの進め方があります。5種類の意味や方法について解説していきます。
連続移転
連続移転とは、ある業務から得たノウハウを同様の業務で活かせるようにする方法です。
たとえば担当者が変わるとき、後任に業務内容や注意点を引き継いだり、同じ部署の先輩が後輩を教育したりすることです。ほかにも、部署の同僚がお互いに情報を交換したり、新人が得た気づきを上司が参考にするのも連続移転です。
連続移転を進めるにはチーム内で定期的なミーティングを実施するなど、情報共有の場をつくるといいでしょう。
近接移転
近接移転とは、ある業務から得たノウハウを別の業務や組織で活かせるようにする方法です。
たとえば、カスタマーサポートが業務効率化のために使っているツールを、営業でも活用するなどが挙げられます。ノウハウをそのまま伝える連続移転とは異なり、共通点を見つけたり、知見を再整理したりしなければ、別の業務にも活かすことはできません。
近接移転を進めるには、全社で情報共有ができるツールを導入したり、チームを超えて部門間でも連携し、ミーティングを実施するといいでしょう。
遠隔移転
遠隔移転とは、言語化が難しいノウハウをほかの従業員でも活かせるようにする方法です。
連続移転や近接移転と少し似ていますが、異なるのは伝える内容です。定型的な業務やマニュアル業務を引き継ぐのが、連続移転や近接移転に対して、感覚的な内容や暗黙知を対象とするのが遠隔移転です。
テキストで伝えるのは難しいため、実際に手を動かして見せたり、ミーティングを実施して話し合ったりする機会を用意するといいでしょう。
専門知移転
専門知移転とは、ある業務に関する専門的なノウハウを、ほかの従業員も使えるようにする方法です。
専門知移転を進められると、組織全体の効率的なスキルアップが見込めます。会社として従業員にどんな専門知識を習得させるべきかを検討し、その分野について豊富な知見を持った従業員に、勉強会や講習などを実施してもらうといいでしょう。
習得の難易度が高い場合もあるので、質疑応答や一緒に実践する場を用意することも重要といえます。
戦略移転
戦略移転とは、専門知移転よりも活用頻度の低いノウハウを共有する方法です。このようなノウハウは非常に属人化しやすく、知見を持った数少ない従業員の退職などで簡単に途絶えてしまう可能性があります。また、活用の機会が限定されているため、引き継ぎの優先度を下げられやすいです。
戦略移転によるスキルトランスファーによって、ノウハウが消滅してしまわないように会社として意識的に守っていかなければなりません。
スキルトランスファーを進めるポイント
スキルトランスファーの具体的な進め方とポイントを5つご紹介します。
全社に方針を共有する
スキルトランスファーを進めていくには、まず企業として方針を決めて全社に共有しましょう。現場の判断に任せると、目の前の業務が優先されて後回しになったり、内容や進め方にバラつきが出たりすることが多いです。部門を超えた情報共有が進めやすいように、会社全体で進めていくほうが効率的でしょう。
対象範囲を決める
どのノウハウを誰から誰に引き継ぐか、スキルトランスファーの対象範囲を決めましょう。すべてのノウハウをまとめて共有しようとするのは非現実的といえます。優先的に引き継ぎたいスキルやノウハウは、以下のような観点で検討するといいでしょう。
- 生産性の向上につながりそうか
- 簡単に引き継げそうか
- 広い範囲で活かせそうか
- 特定の従業員が辞めたら途絶えてしまいそうか
推進担当者を任命する
スキルトランスファーを進めるうえで欠かせないのは、特定の業務について豊富な知見を持っており、ほかの人に教えるスキルも備えている従業員です。誰にでもできるわけではありません。企業として、スキルトランスファーを推進する担当者を任命するほうが効率的でしょう。また、推進担当者に任命した従業員に研修受講させて、他人に教えるスキルを伸ばしてもらうことも必要です。
情報共有しやすい環境をつくる
担当者を決めても、すべて従業員に任せるだけではスキルトランスファーは進みません。情報共有を簡単にするツールの導入や、チームや部門内で定期的なミーティングの開催など、環境を整備することも重要です。従業員のコミュニケーションが増えて、ノウハウが社内に蓄積・共有されるようになれば、自然とスキルトランスファーが進むでしょう。
従業員の精神面をサポートする
スキルトランスファーで注意したいのは、従業員のメンタルケアです。ノウハウを教える側も教わる側も、お互いに心理的な抵抗を感じている場合があるからです。具体的には「身につけたスキルを簡単に他人に渡したくない」「わざわざ指導や講習を受けるのが面倒」などの気持ちからくるものです。
スキルトランスファーでは、物理的な環境を整えるだけでは不十分でしょう。他人にノウハウを伝えると組織の生産性向上が見込めることを伝えたり、協力してくれた従業員を評価したりするなど、心理的な抵抗に配慮する取り組みも必要です。
スキルトランスファーを助けるツール
最後にスキルトランスファーを進めるうえで、役に立つツールを4つご紹介します。
- チャットツール
- 社内Wikiツール
- オンライストレージツール
- タレントマネジメントシステム
チャットツール
チャットツールを導入すると、従業員が気軽にコミュニケーションをとりやすくなり、部門やチームを超えた情報共有が盛んになります。またチャットツールで共有された情報はテキストとして残るので、口頭のみでコミュニケーションをとるよりも、ノウハウが社内に蓄積されやすくなるでしょう。
社内Wikiツール
社内Wikiツールを導入すると、ノウハウを体系化して残せるようになります。引き継ぎたい内容が記録に残っていなかったり、整理されていなかったりすると、上手に活用することができません。社内Wikiという形式でノウハウをまとめて、いつでも誰でも取り出せるようにしておくと便利でしょう。
オンラインストレージツール
オンラインストレージツールは、クラウド上にファイルを保存して共有できるサービスのことです。ノウハウを引き継ぐには、テキストではなくPDFやExcelなどの形式で共有したほうがいい場合もあります。しかし、各自のPCにデータが置かれていたり、紙に印刷して保存されていたりすると、取り出しにくいだけでなく紛失などのミスも起こりかねません。ファイルをクラウド上にまとめて共有しておけば、そのような問題を防げるでしょう。
タレントマネジメントシステム
タレントマネジメントシステムシステムは、社内の人材データを集約して一元管理し、評価や人材配置などの人事施策に活用するツールです。スキルトランスファーを進める第一歩として、従業員一人ひとりがどのようなスキルを持っているのかを把握する必要があります。タレントマネジメントシステムを活用すれば、従業員の能力や資格が一目でわかり、引き継ぐべきノウハウや担当者を検討しやすくなるでしょう。
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まとめ
スキルトランスファーとは、社内に蓄積した知識や技術を従業員に引き継いでいくこと。単なる業務の引き継ぎだけでなく、仕事での心構えなどの感覚的な内容も引き継ぎの対象です。
スキルトランスファーを進めると業務の属人化を防ぐことができ、生産性の向上や従業員のスキルアップなど、さまざまなメリットが生まれるでしょう。引き継ぎのポイントは、会社としての方針や担当者を決めて、情報共有しやすい環境を整備することといえます。
本記事で紹介したツールなどを参考にして、スキルトランスファーに全社的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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