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社会保険の休業補償とは? 手続きや休業中の社会保険料も解説

社会保険の休業補償とは? 手続きや休業中の社会保険料も解説

社会保険上の休業補償とは、労働災害(業務災害)で損害を被った従業員の生活を補償するための制度で、社会保険のうちの労災保険が行います。従業員が休業補償を受けている間、社会保険料などの扱いはどうすればよいのでしょうか。

本記事では、社会保険における労災保険の休業補償等給付について解説します。要件や支給額、手続き方法、社会保険料の取り扱いもご紹介しますので、企業の人事労務担当者は参考にしてください。

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    休業補償とは

    休業補償には、企業が支給する「休業補償」と社会保険上の「休業補償等給付」があります。

    企業が責任を負う休業補償とは、労働災害によって従業員が怪我や病気にかかり、働けず賃金を受け取れない場合に、企業が平均賃金の6割を支給する災害補償です。企業は、労働者が業務によって怪我や病気になった場合は、その療養期間に平均賃金の60%を「休業補償」として支給しなければなりません。

    社会保険上の休業補償等給付とは、労災保険が、業務災害で働けない労働者の生活を補償するための制度です。業務災害が起きた場合、企業が休業補償の責任を負いますが、社会保険である労災保険に加入していれば、労災保険側が補償を行います。

    休業手当との違い

    休業手当とは、従業員に働く意思があるにもかかわらず、企業の都合で従業員が休業することになった場合に支給する手当のことです。休業手当の支払いは、労働基準法に定められており、条件等に該当していれば、企業側は従業員に休業手当を支払う義務があります。

    休業手当は、平均賃金の60%以上を支給します。企業は賃金として支給するため、通常の給与と同じように、所得税の対象になる点も特徴です。

    傷病手当との違い

    傷病手当とは、雇用保険の被保険者だった人が、失業後に病気やけがによって仕事に就けない場合に受給できる給付金です。被保険者だった人が失業中に働けない期間の生活費を保障する目的があります。

    傷病手当は、雇用保険における基本手当の要件を満たしたうえで、傷病手当の受給要件を満たす場合に支給されます。被保険者だった人が傷病手当を受給するためには、継続して15日以上、病気やけがで仕事に就けないことなどの要件を満たす必要があります。

    社会保険における休業補償の要件

    社会保険における休業補償を受給するためには、労災保険で定めた要件を満たす必要があります。具体的な受給要件は、以下の4点です。

    業務災害の負傷や疾病を療養中

    社会保険上の休業補償における1つめの要件は、「業務災害や通勤災害によって怪我や病気を療養中であること」です。仕事中や仕事のための通勤中に負った怪我や病気が対象になるということです。

    注意したいのが、企業が支給する休業補償では、業務災害のみを対象とし、通勤災害は対象外という点です。社会保険の労災保険では、業務災害も通勤災害も休業(補償)給付の対象としていますが、企業が支給する休業補償では業務災害のみを対象としているという点に違いがあるため、理解しておきましょう。

    療養中により労働できない状況

    社会保険上の休業補償における2つめの要件は、業務災害による怪我や病気のため、療養中で働けないことを条件としています。そのため、医師が就労可能とした場合や会社で働くことができるような場合は、休業補償の対象にはなりません。

    企業から賃金の支給を受けていない

    社会保険上の休業補償における3つめの要件は、怪我や病気のための療養によって働けず、企業側から賃金の支払いがされていないことです。従業員が、企業から通常の賃金が支払われていたり、有給休暇を取得したりした場合は、休業補償の対象外となります。

    災害発生から3日間の待期期間が経過

    社会保険上の休業補償における4つめの要件は、休業開始から4日目以降を対象としていることです。休業開始から3日間は待機期間であり、休業補償等給付の対象外としています。そのため、休業開始から3日目までは、労働基準法により企業側が休業補償を行う義務があります。

    参照:『休業(補償)等給付について』厚生労働省

    社会保険上における休業補償の手続き

    社会保険による休業補償を受けるためには、労働者側が申請手続きを行わなければなりません。具体的な手続きは、以下の手順で行います。

    1. 労働者側が申請書類を準備
    2. 労働者側が労働基準監督署長に書類を提出
    3. 労働基準監督署長が調査
    4. 労災認定と給付金の給付

    労働者側は、労災が起こったことを企業に報告します。企業側は、入手した申請書類に事業者として証明欄の記入を行いましょう。労働者は、怪我や病気で働けないことを証明するため、医師の診断書等も用意します。

    必要書類が揃ったら、労働基準監督署長に書類を提出します。一般的に、労働者は働けない状況のため、企業側が代わりに提出します。

    申請書類をもとに、労働基準監督署長による調査や判断が行われます。労災として認定されれば支給決定通知が届き、給付金が労働者の指定口座に振り込まれます。

    労災保険の休業補償は、賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。申請期限は発生日の翌日から2年です。この期限を過ぎてしまうと、労働者側は休業補償を受けられません。

    参照:『休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続』厚生労働省

    社会保険における休業補償の支給額

    社会保険上の休業補償では、休業補償等給付額と休業特別支給金の合計として、給与基礎日額(平均賃金相当額)の80%を支給します。具体的な計算式は以下の通りです。

    休業補償等給付=給与基礎日額の60%×休業日数

    休業特別支給金=給与基礎日額の20%×休業日数

    休業中に一部労働していた場合は、給付基礎日額から一部労働したことで支払われた賃金を差し引いた金額の80%で計算します。

    参照:『3-5 休業補償の計算方法を教えてください。』厚生労働省
    参照:『休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続』厚生労働省

    休業補償の待機期間

    社会保険における休業補償では、休業開始から4日目以降を対象としています。休業開始から3日間は待機期間となり、社会保険上の休業補償は支給されません。そのため、待機期間は、企業側が責任を負い、休業補償を行います。企業による休業補償では、労働基準法に基づき、平均賃金の60%を支給します。企業は、待機期間が休日に該当する場合も、休業補償を行わなければなりません。

    参照:『0207_休業から3日間の取扱い』公益財団法人労災保険情報センター
    参照:『労働基準法第76条』e-Gov法令検索

    休業補償期間における社会保険の扱い

    休業補償の期間中も、社会保険料は発生します。そのため、健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料は休業前と同様に発生するため、従業員も企業も保険料を支払わなければなりません。ただし、雇用保険料や労災保険料は、発生しません。これは、雇用保険料や労災保険料が労働の対価として支払う給与にかかる保険料であるためです。

    また、前年の所得に基づいて算出されている住民税は、休業中も発生するため、支払わなければなりません。

    参照:『休職中の保険料について』埼玉県

    休業補償期間の社会保険料の徴収

    休業補償期間中における社会保険料は、給与天引きができないため、一時的に企業側が立て替えた後に従業員から徴収し、住民税は、給与天引きから普通徴収に切り替えるのが一般的です。

    従業員は企業に立て替えてもらった分の社会保険料額を、会社の口座振込もしくは復帰後に給与天引きか現金で支払います。

    立て替えた分の社会保険料を徴収する際は、トラブルにもなりやすいため、あらかじめ企業側でルールや方法を定めておきましょう。企業がルールを設定する場合は、就業規則として規定します。就業規則に規定されていれば、内部統制の強化や適切でスムーズな労務手続きにもつながります。さまざまなリスクを避けるためにも、就業規則への明記を徹底しましょう。

    まとめ

    社会保険上の休業補償は、労災保険が、業務災害や通勤災害で怪我や病気を負った従業員に対して生活を補償する制度です。また、休業補償期間中も社会保険料は発生するため、企業の担当者は対応しなければなりません。そのため、あらかじめルールや運用方法などを明確化し、就業規則への明記をしておきましょう。

    企業では従業員の安全を確保できるよう、日頃から徹底した管理や対策が求められています。しかし、万が一業務災害が起きてしまった場合、企業側は損害を被った従業員へのフォローやサポートを忘れないようにしましょう。