扶養控除等(異動)申告書とは? 書き方や注意点をわかりやすく解説
扶養控除等(異動)申告書(以下、異動控除等申告書)とは、会社員が年末調整の際に企業に提出する書類の一つです。年末調整では、さまざまな種類の書類があるため、扶養控除等申告書がどのような書類かわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。人事労務担当者も、年末調整では多くの書類を扱うため、それぞれの書類の役割や正しい書き方を正しく把握しておきたいところです。
そこで本記事では、扶養控除等申告書の概要を解説します。書類の書き方や注意点もご紹介しますので、年末調整を担当する人事労務担当者や年末調整を受ける会社員は参考にしてください。
扶養控除等(異動)申告書とは
扶養控除等申告書とは、給与所得者が、年末調整の際に提出する書類です。給与所得者は、この書類を、扶養控除等の所得控除や年末調整を受けるために提出する必要があります。
扶養控除等申告書を提出しないと、年末調整を受けることができなくなりますので、個人で確定申告をしなければなりません。
扶養控除等申告書の正式名称は「異動控除等(異動)申告書)」です。また、書類の様式には、右上に丸で囲まれた「扶」という文字が記載されているため「マル扶」と呼ばれることもあります。
扶養控除等(異動)申告書を提出する対象者
扶養控除等申告書を提出する対象者は、給与所得者であるため、会社員だけでなくアルバイト・パートなどの非正規雇用の従業員も含まれます。
書類の名称に「扶養」という言葉が入っているため、扶養する人がいる場合のみ提出と認識している人もいますが、扶養者の有無に関係なく、年末調整を受ける人は全員提出しなければなりません。
扶養控除等(異動)申告書の提出時期
扶養控除等申告書を提出するタイミングは、その年の最初に給与支給を受ける日の前日までとしていますが、一般的には年末調整時期に提出します。ただし、新たに就職した場合などは、入社後初めての給与が支払われる前日までに提出する必要があるという点を覚えておきましょう。
企業は、従業員が提出した扶養控除等申告書をもとに、正確な所得税額を計算し、源泉徴収の還付や追加徴収を行います。また、扶養控除等申告書は当年分と翌年分を提出します。翌年分の扶養控除等申告書は、企業が翌年1月以降に従業員の給与から毎月源泉徴収する所得税の計算に必要ということも理解しておきましょう。
参照:『A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告』国税庁
扶養控除等(異動)申告書を提出しない場合
扶養控除等申告書は、年末調整を受けるすべての給与所得者が提出する書類です。扶養控除等の控除額を確認し、正しい所得税を計算する必要があるからです。扶養控除等申告書を提出しないと、課税区分によって所得税が割高になってしまうため、企業側は従業員へ周知をしましょう。
扶養控除等申告書で行える控除
扶養控除等申告書は、所得控除を申告できる書類です。具体的にどのような所得控除を申告できるのか、解説します。
- 源泉控除対象配偶者
- 扶養控除
- その他の控除
源泉控除対象配偶者
扶養控除等申告書では、以下の要件を満たす場合、源泉控除対象配偶者の申告ができます。
- 申告者の所得金額が900万円以下
- 申告者と生計を一にしていること
- 配偶者の合計所得金額が95万円以下
- 配偶者が青色事業専従者として給与の支払いをうけていないことまたは白色申告専従者でない
参照:『専門用語集』国税庁
上記の条件を満たす場合に、給与所得者は、源泉控除対象配偶者の申告が行えます。控除額は38万円から48万円と、大きな金額になるため、節税効果があります。
また、源泉控除対象配偶者の申告をする多くの人は、配偶者(特別)控除も対象となります。配偶者(特別)控除を受けるためには「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という書類を提出しなければなりません。
参照:『No.1191 配偶者控除』国税庁
参照:『No.1195 配偶者特別控除』国税庁
扶養控除
扶養控除等申告書では、扶養控除の申告も行えます。扶養控除とは、給与所得者が親族を扶養している場合に受けられる所得控除です。居住者の場合であれば、以下の条件を満たす場合に適用できます。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等以内の姻族)もしくは都道府県知事から養育を委託された児童や市町村長から養護を委託された老人
- 納税者と生計を一にしている
- 年間の合計所得金額が48万円(給与収入の場合は103万円)以下
- 青色申告の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いをうけていないもしくは白色申告者の事業専従者でない
- 控除を受ける年の12月31日時点で16歳以上
扶養控除は、以下の表のように、扶養する親族の年齢等によって38万円から63万円の控除額が設定されています。
区分 | 年齢 | 控除額 |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上18歳以下、16以上69歳以下 | 38万円 |
特定扶養親族 | 19歳〜23歳未満 | 63万円 |
老人扶養親族 | 70歳以上 | 同居:48万別居:58万円 |
その他の控除
扶養控除等申告書では、以下の控除も申告できます。
控除種類 | 条件 | 所得税の控除額 |
---|---|---|
障害者控除 | 納税者もしくは控除対象配偶者等が所得税法上の障害者に該当する場合 | 27万円~75万円で、障害の程度や同居の有無などによって異なる |
勤労学生控除 | 納税者が所得税法上の勤労学生に該当する場合 | 27万円 |
寡婦控除 | 納税者が所得税法上の寡婦(夫)に該当する場合(ひとり親控除の条件に該当しないこと) | 27万円 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親として子どもを扶養している場合 | 35万円 |
詳しい条件は、国税庁のホームページに定義されているので、確認しましょう。とくに、障害者控除は障がいの程度等によって該当する区分から控除額が異なります。また、障害者控除と勤労学生控除は所得税控除だけでなく住民税でも控除を受けられるため、理解しておきましょう。
参照:『No.1160 障害者控除』国税庁
参照:『No.1175 勤労学生控除』国税庁
参照:『No.1170 寡婦控除』国税庁
参照:『No.1171 ひとり親控除』国税庁
扶養控除等申告書の書き方
参照:『令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』国税庁より加工・一部抜粋
扶養控除等申告書の書き方についてご紹介します。それぞれの項目に沿ってわかりやすく解説しますので、記入や確認の際にお役立てください。
- 基本情報
- 源泉控除対象配偶者の情報
- 控除対象扶養親族の情報
- 障害者、勤労学生、寡婦、ひとり親の欄
- 他の所得者が控除を受ける扶養親族等
- 住民税に関する事項
(1)基本情報
年末調整を申告する給与所得者本人の基本情報を記入します。記入内容は、以下の通りです。
- 氏名
- 生年月日
- 世帯主の氏名
- 本人と世帯主の続柄
- 個人番号
- 住所又は居所
- 配偶者の有無
- 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
(2)源泉控除対象配偶者の情報
源泉控除対象の配偶者がいる場合に、記入します。記入する内容は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
配偶者氏名 | 配偶者の氏名を記載 |
配偶者の個人番号 | 配偶者の個人番号を記載※記載不要の場合は企業から従業員に周知 |
配偶者の当年中の所得見積額 | 配偶者の収入から経費を差し引いた金額を記入※給与所得のみの場合は、給与所得控除額を引いた金額 |
非居住者の確認 | 配偶者が非居住者に該当する場合に〇を記入※別途書類提出が必要 |
配偶者の住所や居所 | 給与所得者本人と同じ場合は同上と記載 |
異動月日及び事由 | 当年中に異動があった場合は記入 |
(3)控除対象扶養親族の情報
扶養控除の対象となる親族がいる場合に記載します。16歳未満の子どもや配偶者は含まれませんのでご注意ください。記入する内容は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
扶養親族の氏名 | 控除対象となる扶養親族の氏名を記入 |
扶養親族の個人番号 | 控除対象となる扶養親族の個人番号を記入 |
あなたとの続柄 | 給与所得者本人との続柄を記入 |
扶養親族の生年月日 | 控除対象となる扶養親族の生年月日を記入 |
扶養親族の種類 | 扶養控除で該当する区分をチェック |
扶養親族の当年中の所得見積額 | 扶養対象となる親族における所得の見積金額を記入※給与所得のみの場合は、給与所得控除額を引いた金額 |
当年度の所得の見積金額 | 当年度における扶養親族の所得金額を記入 |
非居住者の確認 | 非居住者の親族について記入※国内に住所を持たず、1年以上国内に住んでいない状況 |
生計を一にする事実 | 非居住者へ1年間に送金した金額を記入 |
扶養親族の住所または居所 | 給与所得者本人と同じ場合は同上と記載 |
異動月日及び事由 | 当年中に異動があった場合は記入 |
障害者扶養欄
障害者扶養の欄は、給与所得者本人か配偶者、扶養親族に障害者がいる場合に記入します。
控除対象者の当てはまる区分にチェックをつけます。対象が親族の場合、当てはまる扶養親族の人数を記入します。16歳未満の場合も人数に含めるのでご注意ください。
(4)障害者、勤労学生、寡婦、ひとり親の欄
その他の控除欄について記入します。対象となるのは、以下の通りです。
- 障害者欄
- 勤労学生欄
- 寡婦欄
- ひとり親欄
障害者欄
障害者の区分について、該当する箇所に記入します。対象者が扶養親族である場合は、16歳未満である場合も含め、チェックを付けたうえで人数も記入しましょう。「障害者または勤労学生の内容」には、対象者の氏名や交付された手帳の種類と交付年月日、障害等級を記入します。
勤労学生欄
勤労学生欄は、給与所得者本人が勤労学生の要件を満たす場合に記入します。
勤労学生の欄にチェックを入れ「障害者⼜は勤労学⽣の内容」欄に、学校名と⼊学年⽉⽇、その年の所得に関する情報を記入しましょう。また、勤労学生であることの証明として、学生証などのコピーを添付しなければなりません。
寡婦欄・ひとり親
寡婦やひとり親は、どちらか該当する方にチェックを付けます。寡婦とひとり親はどちらか一方しか該当しませんので、ご注意ください。とくに、婚姻歴がない女性(いわゆる未婚の母)の場合は、寡婦ではなくひとり親に該当しますので正しく理解しましょう。
寡婦の要件は、以下の通りです。
- 「ひとり親」に該当しない
- 離婚後に婚姻しておらず、所得金額500万円以下で扶養親族がいる
- 夫と死別した後に婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない一定の人で所得金額500万円以下
※婚姻はしていないが事実婚が認められる場合は対象外となる
ひとり親の要件は以下の通りです。
- その人と事実上婚姻関係と認められる一定の人がいない
- 生計を一にする子どもがいる(その年の所得が48万円以下で他の人の配偶者や扶養親族になっていない)
- 合計所得金額が500万円以下
参照:『No.1170 寡婦控除』国税庁
参照:『No.1171 ひとり親控除』国税庁
(5)他の所得者が控除を受ける扶養親族等
同一世帯に所得者が2人以上いる場合、扶養親族等をどの所得者で控除申請しても問題ありません。2人以上の所得者が同じ人(扶養親族等)を重複して申告することはできませんので、注意しましょう。
(6)住民税に関する事項
住民税に関する事項欄には、以下に該当する場合のみ記入します。
- 当年末時点で16歳未満の扶養親族がいる場合
- 退職手当を受け取った配偶者や扶養親族がいる場合(退職所得を除く所得の見積額が133万円以下の場合に限る)
- 寡婦またはひとり親に該当する場合(退職手当等の支払を受ける扶養親族を有する場合に限る)※チェックのみ
この欄は、所得控除ではなく住民税控除に関する内容を確認するためにあります。所得税の控除はできなくても、上記に該当する場合には住民税が控除される可能性がありますので、漏れなく記入しましょう。
扶養控除等申告書のポイント
扶養控除等申告書のポイントをご紹介します。書類を提出する給与所得者本人が記入ミスや漏れがないように確認するだけでなく、企業の担当者も、ポイントを意識し従業員から提出された書類に目を通しましょう。
- 年末調整時に必要
- 扶養控除などの条件を理解
- 扶養親族について給与所得控除額を引いた金額を記載
- 状況に応じて控除額が変わる
年末調整時に必要
扶養控除等申告書は、年末調整を受けるすべての給与所得者が必ず提出しなければならない書類です。給与所得者がこの書類を提出しないと、源泉徴収税額の還付があった場合も受けられません。還付金を受け取るためには、翌年の確定申告が必要になります。また、扶養控除等を受けるためにも必要で、提出しないと本来受けられる控除が受けられず、所得税が高くなってしまいます。
扶養控除などの条件を理解
年末調整を受ける給与所得者で、配偶者控除や扶養控除等を申告する場合は、あらかじめ控除要件を確認しておきましょう。要件を満たしていなければ控除を受けられず、想定よりも所得税が高くなります。また、対象者の年齢や状況などの区分によっても控除額は異なります。給与所得者は、控除のための要件を理解し、どれくらいの控除を受けられるのか確認しておくとよいでしょう。
扶養親族について給与所得控除額を引いた金額を記載
配偶者控除や扶養控除を申告する場合、配偶者や扶養対象者に給与収入があれば給与所得控除額である55万円を引いた金額を記入します。その金額が48万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除を受けられるようになっています。配偶者特別控除については、48万円を超えて133万円以下であれば控除を受けられます。
状況に応じて控除額が変わる
扶養控除等を受ける場合、対象者の年齢や状況によって控除額が変わる点に注意が必要です。たとえば扶養控除の場合は扶養する親族の年齢によって、障害者控除の場合は障がいの程度によって区分され、該当する区分によって控除額が異なります。
まとめ
扶養控除等申告書は、年末調整を受けたり、親族に関する控除を受けたりするために必要な書類です。企業の正社員だけでなく、アルバイトやパートであっても、給与所得を得ている場合には原則提出することになりますので、覚えておきましょう。
また、各種控除が適用されれば、給与所得者にとって大幅な節税効果があります。書類に記入漏れやミスのないよう注意しましょう。
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