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諭旨解雇とは|懲戒解雇との違い【何をした?】事例や退職金・失業保険の扱い、進め方と注意点

諭旨解雇とは|懲戒解雇との違い【何をした?】事例や退職金・失業保険の扱い、進め方と注意点

諭旨解雇とは従業員に対して退職勧告を行い、自主的な退職を促す懲戒処分の一種です。従業員に対する処分の中でも比較的重くて判断が難しく、裁判に発展した事例もあります。

諭旨解雇が認められる条件を正しく理解し、事実が認められるのであれば、会社として適切に判断しなければなりません。

本記事では、諭旨解雇とは何をした場合に判断されるのか、懲戒解雇との違いを踏まえて解説します。実務でお役立ていただけるように、諭旨解雇を進める場合の注意点や退職金と失業保険の取り扱いも紹介します。

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    諭旨解雇の意味・定義とは

    諭旨解雇は「ゆしかいこ」と読み、一般的に企業が従業員に対して退職を勧め、本人の意志で退職願を提出させる解雇の手続きを指します。

    会社の規則違反や不正行為など不適切な行動を行った場合に適用されるケースが多く「懲戒」処分の一つに位置づけられる重い措置です。

    諭旨解雇を検討する際は、違反行為の事実関係を正確に把握し、慎重な判断が求められます。

    諭旨解雇と諭旨免職との違い

    諭旨解雇と似ている言葉に「諭旨免職」があり、不適切な行動をとった職員に対して、退職を勧告するという点で両者は共通しています。

    しかし、諭旨免職は主に公務員、諭旨解雇は主に民間企業において用いられる言葉です。ほとんど同じ意味ですが、適用される対象が異なると理解しましょう。

    何をしたら諭旨解雇になるのか

    諭旨解雇が検討される具体的な違反行為には、どのようなものがあるのでしょうか。過去の事例を踏まえると、ハラスメントや窃盗といった法律に抵触する行為が理由として挙げられます。

    たとえば、教職員が学生の人格を傷つける発言をしたり、職場の備品を無断で持ち出して転売したりするケースが実際に諭旨解雇となりました。組織の秩序を大きく乱す行為、または犯罪行為に対して適用される措置であることが一つの基準といえるでしょう。

    ただし、関係者に多大な影響を及ぼすため、実際に諭旨解雇を決定する際は、各事案の特性を考慮しながら、個別に判断する必要があります。

    諭旨解雇が認められる条件

    諭旨解雇は、法律上では懲戒解雇と同様に扱われる重い処分です。適用するには厳しい条件が定められています。条件を整理すると以下の通りです。

    1. 就業規則で定められていること
    2. 就業規則が従業員に周知されていること
    3. 懲戒権や解雇権を濫用していないこと

    法律上の「懲戒」を適用するには、要件や該当する行為について就業規則に記載し、あらかじめ周知しなければなりません。

    また「懲戒」や「解雇」を行使するには、客観的かつ合理的な理由が必要であると労働契約法に定められています。社会通念を考慮して相当でなければ、権利の濫用とみなされ、無効となる可能性があると理解しましょう。

    【懲戒】
    第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様そのほかの事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

    引用:『労働契約法』e-Gov法令検索

    【解雇】
    第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

    引用:『労働契約法』e-Gov法令検索

    このように諭旨解雇には、法的な基準に沿った判断が必要です。

    諭旨解雇は懲戒解雇より寛大な処分

    諭旨解雇と懲戒解雇はどちらも「解雇」という重い処分ですが、処分の厳しさと解雇までのプロセスに違いがあります。

    懲戒解雇とは重大な違反や不正行為を理由に、従業員との雇用契約を即時に終了させる手続きです。諭旨解雇と懲戒解雇の違いを整理すると以下の通りです。

    諭旨解雇懲戒解雇
    情状酌量の余地ありなし
    退職金あることが多いほとんどない

    ポイントは「情状酌量の余地があるか否か」「退職金があるか否か」です。順番に解説します。

    諭旨解雇と懲戒解雇の違い1.情状酌量の余地

    諭旨解雇では、使用者が退職を勧告したあと、従業員が納得したうえで、みずから退職を選択します。一方、懲戒解雇は会社のルールを著しく乱した従業員に科される処分です。

    労働基準監督署長の認定を受けることで、予告をせずに即時に解雇できます。従業員に情状酌量の余地がないほど重大な責任があるケースがほとんどであるため、即時解雇が認められると理解しましょう。

    諭旨解雇と懲戒解雇の違い2.退職金の支給

    退職金の支給においても、諭旨解雇と懲戒解雇で違いが見られます。

    諭旨解雇は、自己都合による退職と見なされるため、一般的に退職金が全額支払われることが多くあります。一方、懲戒解雇された従業員に対しては、退職金が減額されるか、あるいは支給されないケースが多くあります。

    ただし法律上、退職金の支払い義務については明確な規定はなく、支払いの有無や額は企業の就業規則によって異なります。

    諭旨解雇以外の解雇や懲戒処分

    諭旨解雇のほかにも、企業が従業員に対して行う処分にはいくつかの種類があります。「懲戒」と「解雇」に分けて種類を紹介します。

    懲戒とは|6種類

    懲戒とは、規律違反や不適切な行動を行った際に、企業が従業員に対して加える制裁です。

    処分の重さ懲戒の種類処分の内容
    軽い戒告不正に対して厳重注意を行うこと
    譴責(けんせき)厳重注意をしたうえで始末書を提出させること
    減給給料から一定額差し引くこと
    出勤停止一定期間の出勤を停止して、賃金を支給しないこと
    降格役職を降格させること
    重い懲戒解雇従業員を強制的に解雇すること

    戒告

    戒告とは、従業員の過失や失態に対して、将来に向けて戒めを言い渡す懲戒処分のことです。口頭で注意します。

    譴責(けんせき)

    譴責(けんせき)とは、戒告と同様に過失や失態に対して戒める懲戒処分ですが、始末書の提出を求めます。

    減給

    減給とは、給料から一定の額を一方的に差し引く処分のことです。減給には上限があり、労働基準法第91条で要件が定められています。

    減給の上限
    ・1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超える
    ・総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない

    出勤停止

    出勤停止とは、一定期間、就労を禁止する処分です。出勤停止期間には法令による制限はありません。就業規則に規定がない限り、労働の提供がないため賃金は発生しません。

    降格

    降格とは役職を引き下げることです。給与等級の引き下げも降格に入ります。降格で等級が引き下げられることにともない、役職手当や基本給なども減給されます。

    懲戒解雇

    懲戒解雇とは、懲戒の中でもっとも重い処分です。犯罪行為や長期間の無断欠勤など、重大な就業規則に違反した従業員に対する制裁です。

    懲戒解雇は、労働基準監督署長の認定を受けることで、予告なしの即時解雇が可能です。

    懲戒解雇では退職金が支払われないケースが多くあります。ただし、その場合は就業規則にあらかじめ明記しておかなければなりません。

    解雇とは|3種類

    解雇とは、会社が一方的に従業員との契約を解除することです。解雇の種類は以下の3つです。

    解雇の種類処分内容
    普通解雇従業員の能力不足による解雇
    整理解雇業績悪化による解雇
    懲戒解雇会社の秩序を大幅に逸脱した行為を行った場合に適用される解雇

    普通解雇

    普通解雇は、従業員の能力不足や心身の故障などにより解雇する手法です。

    予告をして30日後に解雇できます。解雇予告をしなかった場合は、30日分以上の解雇予告手当の支給をしなければなりません。退職金がある会社では、社内規定に基づいて退職金が支払われます。

    整理解雇

    整理解雇は、業績悪化で人員削減をする場合に行う解雇です。会社の都合であるため従業員に対する制裁の意味はありません。

    また、整理解雇は会社が解雇を回避するために努力し、従業員に対して説明を行わないと実施できません。退職理由は会社都合と認められるため、自己都合退職よりも早期に失業保険が支給されます。

    懲戒解雇

    飲酒運転や横領など会社に大きな損害を与えたり、違法行為があったりした場合は、懲戒解雇に該当します。

    懲戒解雇は、労働基準監督署長の認定を受けることで即日解雇が可能であるため、予告の必要はありません。

    諭旨解雇の進め方

    慎重な判断が求められる諭旨解雇は、手続きも相応の手順に沿って進めなければなりません。判断を誤ると不当解雇と見なされ裁判に発展するケースもあるため、手続きも慎重に対応しましょう。

    1. 問題行動について調査する
    2. 懲戒の事由を検討する
    3. 弁明の機会を与える
    4. 処分を決定する
    5. 解雇の30日前までに懲戒処分通知書を交付する

    各ステップごとに順番に説明します。

    1.問題について調査する

    まずは、従業員が諭旨解雇の事由に該当する行為を実際に行ったか否かについて十分に調査します。

    基準があいまいだと「懲戒権の濫用」と見なされ、トラブルになったり解雇が無効とされたりする場合があります。

    就業規則で規定する解雇の理由として十分かどうか、慎重に判断しましょう。

    2.懲戒事由を検討する

    続いて懲戒事由を検討します。諭旨解雇に該当する理由について就業規則に記載がないと処分はできません。調査の結果をもとに、就業規則のどの部分に違反しているのかを判断して懲戒事由を明確にします。

    3.弁明の機会を与える

    「戒権の濫用」にならないためにも重要な手順として、対象の従業員と面談し、弁明の機会を設けることが大切です。従業員の話を聞いていないと、トラブルに発展した際に企業が不利になる可能性があります。面談内容は記録して証言を保管しましょう。

    4.処分を決定する

    調査結果と理由、従業員側の弁明を考慮して、事実誤認がないかを確認したうえで処分の内容を社内で協議します。

    諭旨解雇は、本来ならば懲戒解雇にしてもおかしくない事案に対して、本人の反省や働きぶりも考慮して処分を軽減する措置といえます。

    情状酌量があるかどうかを検討し、専門家の助言も得たうえで決定しましょう。

    5.解雇の30日前までに懲戒処分通知書を交付する

    協議の結果、諭旨解雇が決定したら、従業員に懲戒処分通知書を交付します。通知書には理由や解雇予定日を過不足なく記載しましょう。

    労働基準法第20条1項では、解雇の30日前までに予告することが定められています。あくまでも自主退職を促すのが諭旨解雇であるため、その後、従業員に退職届の提出を促します。

    諭旨解雇の注意点・ポイント

    諭旨解雇を行う際の注意点は以下の通りです。

    • 内容証明郵便や労働審判にはすぐに対応する
    • 情報漏えいの対策をする

    内容証明郵便や労働審判にはすぐに対応する

    諭旨解雇を受けた従業員が、不当解雇を主張して損害賠償などを請求する訴訟を起こすことがあります。内容証明郵便や労働審判への対応が遅れると、あとの訴訟で企業側が不利な立場に立たされるリスクが高まるため、迅速な行動が取れるように準備しておくとよいでしょう。

    情報漏えいの対策をする

    対象の従業員が退職したあとの二次被害を防ぐために、情報漏えいが起こらないように対策をしましょう。具体的には以下のような対策が考えられます。

    • 情報共有ツールの使用権限の停止
    • パソコンやスマートフォンなどの貸与機器の返却
    • 会社に関係する情報を個人のパソコンから消去

    諭旨解雇に関連する疑問

    最後に諭旨解雇に関連する実務対応や影響について、よくある疑問とその回答を紹介します。

    • 退職金は支給される?
    • 失業保険の扱いはどうなる?
    • 転職への影響はある?

    退職金は支給される?

    諭旨解雇は自己都合退職として扱われるため、通常の退職と同じように退職金が支給されるケースが多くあります。満額されるか減額されるかは、企業の方針により異なり、情状酌量の余地があるかどうかを考慮して社内で検討されるのが一般的です。

    失業保険の扱いはどうなる?

    諭旨解雇では、失業保険を申請する際に、通常の「自己都合による退職」と同様に処理されます。自己都合退職は、一定の待機期間が経過したあとに失業保険の支給が開始されます。

    転職への影響はある?

    前の会社を諭旨退職した転職希望者は、履歴書にその旨を記載する義務はありません。しかし、面接で退職理由を聞かれた際は正直に答えた方が、のちのトラブルを回避できるでしょう。

    理由を偽って入社した場合は、転職先の就業規則の記載内容によっては、懲戒処分の対象になる可能性も考えられます。

    諭旨解雇の判断は慎重に(まとめ)

    諭旨解雇とは会社が従業員に対して退職勧告を行い、退職届を提出させたうえで解雇する処分です。公務員の場合は諭旨免職といいます。

    懲戒解雇よりも情状酌量の余地が残されており、一定程度の退職金が支給されるケースが多くあります。

    諭旨解雇を検討する場合は問題行動を十分に調査して理由を明確にしましょう。不当解雇と訴えられないためにも、従業員に弁明の機会を与えることも重要です。就業規則に記載がなく、不明確な理由で諭旨解雇を通知してしまうと、裁判に発展する可能性もあるため、慎重に判断しましょう。