雇用保険のメリットとは? 加入義務や条件も解説
業種や事業所の規模にかかわらず、従業員が加入条件を満たしている場合は雇用保険への加入義務があります。また、雇用保険への加入は、従業員だけでなく企業側にもさまざまなメリットがあるのです。
本記事では、企業が雇用保険に加入するメリットや加入義務、条件などについて詳しく解説します。
雇用保険の概要
雇用保険とは、労働者が雇用されている期間において発生した失業や病気・出産による休業などの際に、一定の給付を受けられる社会保険制度です。
企業における雇用保険とは
雇用保険は厚生労働省が管轄する保険制度であり、企業が従業員を雇用する際には原則として雇用保険への加入が義務付けられ、強制的に適用されます。
一般的に、雇用保険への加入は従業員だけにメリットがあると考えられがちですが、実は、雇用保険に加入することは企業側にもさまざまなメリットがもたらされるのです。
雇用保険の目的
雇用保険の目的は大きく分けて次の2つです。
- 労働者の生活および雇用の安定
- 失業した労働者に対する就職の促進や支援
具体的には、就職活動の支援や職業訓練の機会を提供することをはじめ、生活や雇用の安定、そして就職の促進のために失業給付や育児休業給付を支給することなどが挙げられます。
雇用保険の加入義務
雇用保険の加入条件を満たす従業員が1人でも在籍していれば、企業は雇用保険に加入しなければなりません。該当する従業員を雇用保険の被保険者としてハローワークに届け出る必要があります。
雇用保険の加入義務は法律で定められており、届け出の怠りや虚偽の届け出を行うと罰則が科されることもあります。具体的には、雇用保険の届け出を怠った場合や届け出の内容に虚偽があった場合には、雇用保険法第83条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。
したがって、企業は雇用保険の加入義務に注意し、適切な手続きを行うことが重要です。正確な情報の提供と適切な届け出は、雇用保険制度の適切な運用に貢献し、法的なトラブルや罰則の回避にもつながります。
雇用保険の加入条件
次の条件のいずれにも該当する場合は、雇用保険の被保険者に該当します。
1.31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること | 期間の定めがなく雇用される場合 |
---|---|
雇用期間が31日以上である場合 | |
雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めの明示がない場合 | |
雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 | |
2.1週間の所定労働時間が20時間以上であること |
参考:『雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!』厚生労働省
雇用保険の加入条件の一つは、労働者が31日以上引き続き雇用されることが見込まれる場合です。つまり、一時的な雇用ではなく、一定期間以上の雇用が見込まれる場合に加入の対象となります。
もう一つの加入条件は、労働者の1週間の所定労働時間が20時間以上であることです。所定労働時間とは、労働契約やルールに基づいて決められる労働時間であり、週20時間以上の労働時間を有する労働者が加入対象となります。
雇用保険の適用外となる労働者
雇用保険の適用外となる労働者については、以下のような要件があります。
雇用保険の被保険者とならない者(適用除外) | |
---|---|
1 | 1週間の所定労働時間が20時間未満である者 |
2 | 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者 |
3 | 季節的に雇用される者 |
4 | 学生または生徒 |
5 | 船員であって、特定漁船以外の漁船に乗り組むために雇用される者 |
6 | 国や都道府県、市区町村などの事業に雇用される者のうち、離職した場合にほかの法令や条例、規則などに基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、雇用保険の求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められる者 |
上記の条件を満たす労働者は、雇用保険の適用外です。企業や労働者は適用基準を正確に把握し、雇用保険の適用対象に該当するかを適切に判断しなければなりません。
雇用保険の適用外となる労働者は、企業が独自に提供する福利厚生などの対象外となることが多いようです。雇用保険の給付を受けられない場合、失業や妊娠・出産などの際に一定の補償や支援が受けられなくなるため、適用対象には注意しましょう。
企業が雇用保険に加入するメリット
企業が雇用保険に加入するメリットには、主に次の3つが挙げられます。
- さまざまな給付金を受給できる
- 人材確保につながる
- 社会的な信頼を得られる
それぞれのメリットを解説しながら、2023年4月時点で実施されている給付金や補助金制度についてご紹介します。
さまざまな給付金を受給できる
雇用保険に加入すると、さまざまな給付金制度が適用されます。2023年4月現在の情報をもとに、対象となる給付金について解説します。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症などの影響によって事業活動の縮小を余儀なくされた場合に適用される制度です。雇用の維持をはかるための休業、教育訓練、出向に要した費用の一部を助成します。
判定基準の初日が2023年3月31日以前の場合は新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例が適用され、判定基準の初日が2023年4月1日以降の場合は通常の雇用調整助成金が適用されます。
経済上の理由による事業活動の縮小にともなう雇用維持を支援するため、休業手当などの一部を助成するのが特徴です。
参考:『雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例)』厚生労働省
参考:『雇用調整助成金』厚生労働省
労働移動支援助成金(再就職支援コース)
労働移動支援助成金(再就職支援コース)は、労働者の再就職を支援するための制度です。次の3つの条件を満たすことで助成金が支給されます。
- 労働者の再就職を支援する
- 求職活動のための休暇を付与する
- 再就職のための訓練を教育訓練施設などに委託して実施する
労働移動支援助成金(再就職支援コース)の主な目的は労働者の再就職支援ですが、実際に関連する取り組みを行った事業主に対して助成金が支給されます。
労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)は、離職後3か月以内の労働者を雇用期間の期限なしで雇用することを条件に支給される助成金制度です。再就職援助計画などを策定し、対象者を雇用し続ける場合に助成金が支給されます。
参考:『労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)』厚生労働省
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、ハローワークや職業紹介事業者から紹介された求職者を一定期間試行雇用した場合に支給される助成金制度です。
対象者には、ハローワークなどによる職業紹介日前2年以内に離職を2回以上繰り返している人や、日雇い労働者などが含まれます。求職者との相性や能力評価を目的とした試用期間を対象として、事業主に対し助成金が支給されます。
参考:『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)』厚生労働省
人材確保につながる
雇用保険に加入することで、企業や事業主だけでなく、従業員も各種給付金を受け取れます。優秀な人材の労働力を確保するためにも、福利厚生を充実させることはとても重要です。2023年4月時点で適用となる代表的な給付金制度について解説します。
育児休業給付金
育児休業給付金は、従業員が育児休業を取得し、子を養育するために一定期間仕事を休んだ際に支給される給付金制度です。
原則、従業員が1歳に達するまでの子を養育するために育児休業を取得し、所定の要件を満たすことで、一定期間にわたって給付金が支給されます。
育児休業給付金は、従業員が休業中に給与を受け取れない期間を一部補填し、経済的な負担を軽減することを目的としたものです。具体的な給付金の額や支給期間は、従業員の所得や休業期間の長さなどによって異なります。
介護休業給付金
介護休業給付金とは、配偶者や父母、子などの家族を介護するための休業を取得した被保険者が対象の給付金制度です。従業員が介護休業を取得し、一定の要件を満たすと給付金が支給されます。同じ対象家族については、93日を限度に3回まで支給されるのが特徴です。
高年齢継続雇用給付金
高年齢継続雇用給付金とは、日本の労働者が一定の年齢に達したあとも働き続けることを支援するための制度です。具体的には、65歳まで働き続ける従業員に対して、雇用者が支払う給与の一部を補助する形で支給されます。
具体的な条件は次の通りです。
- 60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に減額される場合
- 支給される雇用保険の被保険者であった期間が5年以上で、60~65歳の一般被保険者が対象
ただし、2020年度の通常国会で、この給付金は段階的に縮小、最終的に廃止されることが決定しました。2025年4月以降、以下のように給付額が引き下げられます。
現行 | 2025年4月以降 | |||
---|---|---|---|---|
給付率 | 賃金の原則15% | 賃金の原則10% | ||
賃金と給付額の合計が60歳時の賃金に対して | 70.15〜75% | 給付額は逓減(ていげん) | 70.4〜75% | 給付額は逓減(ていげん) |
75%以上 | 支給なし | 75%以上 | 支給なし |
社会的な信頼を得られる
雇用保険に加入している企業は、従業員にとって働きやすい職場環境を提供していると認識されるため、社会的な信頼を得られるでしょう。
雇用保険の制度によって、従業員は失業時や妊娠出産時などに一定の給付を受けられるので安心して働けて、それが従業員のエンゲージメントを高めることにもつながります。
さらに、求職者にとっても雇用保険に加入している企業は魅力的な選択肢となるでしょう。雇用保険への加入は、企業が社会的な責任を果たし、従業員と求職者に対して安心感を提供する重要な手段となるのです。
雇用保険加入手続きの流れ
雇用保険の加入義務や条件を理解できたところで、雇用保険の加入手続きの流れを見ていきましょう。
1人目の雇用保険の場合
従業員を初めて雇用する際、雇用する従業員が雇用保険の適用対象である場合は、ハローワークに対して次の2つの書類を提出する必要があります。
- 事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
ハローワークから発行された雇用保険被保険者証を従業員に交付すれば手続きが完了です。
追加雇用による保険加入の場合
従業員を追加で雇用し、新たな従業員が雇用保険に加入する場合、事業主はあらためてハローワークに対して雇用保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。提出後にハローワークから発行される雇用保険被保険者証を従業員に交付してください。
従業員の雇用が終了した場合
雇用保険被保険者である従業員の離職などによって雇用が終了したら、事業主はハローワークに次の2種類の書類を提出しましょう。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
離職証明書の発行は、次の2つのケースにおいて必要です。
- 退職者が希望する場合
- 退職者が59歳以上の場合
発行した離職証明書に記載されている離職理由によって、離職者の失業手当給付日数が決まります。
雇用保険の手続きは電子申請可
雇用保険の加入手続きは、ハローワークの窓口で書類を提出する方法に加えて、インターネットによる電子申請でも行えます。雇用保険の加入時に必要な申請、保険料納付の申告なども電子申請で手続き可能です。
電子申請のメリット |
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24時間・365日いつでも申請できるオフィスはもちろん、自宅からも申請できるチェック機能を利用すれば、記入ミスを防げる時間やコストの削減につながる |
電子申請は、デジタル庁が運営する行政サービスの『e-Gov(イーガブ)』から手続きできます。ただし、e-Gov(イーガブ)を利用する際は電子署名が必要で、あらかじめ電子証明書を入手する必要があります。
電子証明書を発行している機関については、厚生労働省のホームページをご確認ください。
雇用保険の加入を怠らずに受け取れる助成金がないか確認を
雇用保険への加入は、従業員のみにメリットがもたらされると捉えられがちですが、実は事業主にとってもさまざまなメリットがあるとわかりました。
雇用保険は従業員にとって重要な権利の一つで、事業主にとっての義務でもあります。
事業主が雇用保険への加入を怠ると、従業員の失業給付だけでなく、さまざまな助成金の受給資格を失う可能性があります。労働者の権利を守り、より安定した労働環境を確保するためにも、必要に応じて雇用保険に加入しましょう。
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