扶養控除とは? 適用要件や控除額、年収の壁を解説
扶養控除とは、納税者に条件を満たす扶養親族がいる場合に受けられる所得控除です。扶養控除の適用を受けるためには、扶養親族の所得金額が特にポイントとなります。また、扶養控除は一定の親族を対象とする控除ですが、配偶者は対象ではありません。
扶養控除の内容を理解しながら、配偶者控除との違いも理解しておくことで、整理しやすくなるでしょう。
本記事では扶養控除について、内容や控除条件、控除額などをわかりやすく解説します。
扶養控除とは
扶養控除とは、控除対象となる親族がいる場合に一定の金額の所得控除が受けられる制度です。親族を扶養することによって重くなる納税者の税負担を軽減させる役割があります。扶養控除を適用すると、納税者の課税所得を減らせます。
税法上の扶養と社会保険上の扶養の違い
扶養される側の親族について、税法上では「扶養親族」、社会保険上では「被扶養者」と呼ばれています。税法上の扶養親族は、納税者によって養われている人が該当します。社会保険上の被扶養者は、社会保険における被保険者の家族として、さまざまな保障を受けられる状態にあります。
配偶者(特別)控除との違い
扶養控除と混同しやすい言葉に、配偶者控除が挙げられます。配偶者控除は、納税者に条件を満たす配偶者がいる場合に控除を受けられる制度のことです。扶養控除も配偶者控除も「身内」を扶養する納税者の税負担を軽くするための控除という点は同じです。対象者や具体的な控除要件が異なります。
扶養控除を適用するための条件
扶養控除の具体的な対象者は、以下の通りです。
- 納税者から6親等以内の血族または3親等以内の姻族、もしくは都道府県知事から養育委託を受けた里子や養護を委託された老人であること
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間合計所得が48万円(給与収入では103万円)以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与支給を受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者でないこと
- 控除を受ける年の12月31日時点で、年齢が16以上であること
生計を一にするという点も含まれているため、同居の有無などは問われません。そのため、納税者の親や親戚などが扶養親族に該当する場合もあります。
ただし、扶養親族に対して複数名で生活を支えているような状況の場合でも、扶養控除を適用できるのは1人のみです。扶養者複数名による扶養控除の重複申請はできませんのでご注意ください。
なお、非居住者である親族は原則として扶養控除の対象とはなりません。しかし、留学等の一定の要件を満たした場合には対象となります。
6親等内の血族または3親等内の姻族であること等
扶養控除の対象になるには、納税者や配偶者の親族であることが要件として挙げられます。
血族とは本人と血縁関係のある親族を指し、養子のような法定血族も含みます。姻族は配偶者と血縁関係にある親族です。
また、都道府県や市区町村から養育(養護)委託を受けた里子や老人なども扶養控除の対象になります。
同一生計であること
扶養控除では、納税者と扶養対象者が同一生計であることも要件としています。同居の有無は問われず、生活費の仕送りや療育費などを支払っている場合などが該当します。
合計所得金額が48万円以下であること
扶養控除では、扶養対象の所得が48万円(給与収入103万円)以下であることも要件のひとつです。
給与収入の場合、収入金額から給与所得控除額を差し引くため、103万円ー55万円で計算すると、48万円がボーダーラインとなるためです。
年金や保険金も所得に分類される
扶養控除における所得金額には、年金も雑所得として計算します。公的年金を受給した結果、扶養親族の合計所得金額が48万円を超えた場合、扶養控除を受けられなくなりますので、注意しましょう。
青色申告者の事業専従者給与を受けていない、もしくは白色申告者の事業専従者でないこと
扶養控除では、扶養親族が青色申告者の事業専従者として給与をもらっていたり、白色申告の事業専従者である場合は、扶養控除の対象からは外れてしまいます。親族の事業を手伝っているようなケースは注意しましょう。
年齢が16歳以上であること
扶養親族は、16歳以上でなければなりません。これは、15歳以下の子どもを扶養している場合は「児童手当」が支給されているため、扶養控除外となっているのです。
扶養控除の控除額は扶養親族の年齢で異なる
扶養控除における控除額は、扶養する親族の年齢によって決まります。ただし、70歳以上の扶養親族の場合は、納税者と同居の有無によって控除額が異なります。また、同居の判断については、病気療養のための長期入院等は同居に該当し、介護施設へ入居している場合は別居として扱われます。
年齢と控除額は以下の通りです。
区分 | 年齢 | 控除額 |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上18歳以下、23歳以上69歳以下 | 38万円 |
特定扶養親族 | 19〜23歳未満 | 63万円 |
老人扶養親族 | 70歳以上 | 別居:48万 同居:58万円 |
扶養控除を受ける方法
扶養控除を受けるためには、企業が行う年末調整か自分で行う確定申告による手続きが必要です。
年末調整で控除を受ける場合
年末調整で扶養控除を受ける場合は「給与所得者の扶養控除等申告書」に必要事項を記入し、提出します。不備やミスがなければそのまま会社側で手続きをしてくれます。
ただし、会社員であっても副業による収入が年20万円を超える場合や複数企業で働いているような場合は、別途年末調整が必要です。
確定申告で控除を受ける場合
扶養控除は確定申告でも手続きが行えます。第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に必要事項や計算した控除額を記入して申告します。
確定申告は、個人事業主などの事業収入がある方だけでなく、年末調整では対応できない控除を受けたい方や年末調整ができなかった会社員でも可能です。
税法上の扶養・社会保険の扶養と年収(金額)の関係
扶養控除は、所得要件があるため、扶養親族の所得に注意しなければなりません。いくらまでなら扶養控除が問題なく受けられるのでしょうか。扶養控除に関連する年収の壁について、解説します。
103万の壁
年収が103万円を超えると、所得税が課税されるようになるため、「年収103万の壁」と呼ばれています。
扶養親族の収入が103万円以内であれば、基礎控除48万円と給与所得控除55万円(合計103万円)の適用により課税所得がゼロとなるため、所得税は課されません。しかし、103万円を超える収入がある場合は、超過分が課税対象となり、所得税が発生することになります。
106万と130万の壁
一定以上の収入がある場合、自分で社会保険に加入することになり、毎月の保険料負担が発生します。養ってくれている人の扶養対象者として同じ社会保険に加入できれば、保険料負担はありません。その分かれ目を「106万の壁」や「130万の壁」と呼びます。
年収130万円を超えると、すべての人が社会保険上の扶養から外れ、自分で社会保険料に加入しなければなりません。
さらに、2022年10月からは特定適用事業所の要件が変更となり、これまでよりも多くの人が社会保険への加入が必要となっています。2024年10月からはさらに加入対象が拡大するため、注意が必要です。
年末調整で受けられるそのほかの控除
年末調整では、扶養控除以外にも、いくつかの控除が受けられます。種類によっては、扶養控除と混同しやすい内容のものもありますので、整理して確認しましょう。
種類 | 内容 | 控除額 |
---|---|---|
障害者控除 | 納税者もしくは控除対象配偶者等が所得税法上の障害者に該当する場合 | 27~75万円で、障害の程度や同居の有無などによって異なる |
勤労学生控除 | 納税者が所得税法上の勤労学生に該当する場合 | 27万円 |
寡婦控除 | 納税者が所得税法上の寡婦に該当する場合 | 27万円 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親として子どもを扶養している場合 | 35万円 |
配偶者控除 | 納税者に所得税法上の控除対象となる配偶者がいる場合で、配偶者の所得金額が年48万円以下の場合 | 13~48万円で、納税者本人と配偶者の所得額によって異なる |
配偶者特別控除 | 所得税法上における配偶者の所得金額が年48万円を超え、133万円以下、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下である場合 | 1~38万円で、納税者本人と配偶者の所得額によって異なる |
社会保険料控除 | 納税者やその配偶者等が負担する社会保険料を負担した(もしくは給与天引きされた)場合 | その年に支払った社会保険料の金額 |
小規模企業共済等掛金控除 | 納税者が小規模企業共済法に基づく掛金などを支払った場合 | その年に支払った小規模企業共済等掛金の金額 |
生命保険料控除 | 納税者が生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合 | 最大12万円 |
地震保険料控除 | 納税者が特定の損害保険契約などに関する地震保険料や掛金を支払った場合 | 最大5万円 |
基礎控除 | 納税者の合計所得金額が2,500万円以下の場合 | 最大48万円 |
住宅借入金等特別控除 | 住宅ローンなどを利用して新築や取得、リフォームを行った場合(2年目以降) | その年の年末時点におけるローン残高の0.7% |
税制改正による扶養控除の見直し
税制改正により、扶養控除の見直しが行われる予定です。2024年10月からは児童手当の所得制限が撤廃され、支給対象が高校生まで拡大されます。
このほか、控除に関するさまざまな改正が予定されており、扶養控除についても控除額が縮小されます。具体的には、児童手当の支給期間が18歳まで延長されることから、16歳以上の扶養控除額が38万円から25万円に縮小される見込みです。
扶養控除を含む税制改正の全容に注目が必要です。
まとめ
扶養控除とは、条件を満たす扶養親族がいる場合に受けられる所得控除です。扶養控除を適用させるためには、適用要件を正しく理解しておくことが大切です。
今後の税制改正において、扶養控除の見直しが予定されています。具体的には、扶養控除額の縮小が検討されており、納税者の負担増加が懸念されます。扶養控除は多くの世帯に影響を与える重要な制度であるため、政府による改正の動向を注視していく必要があります。