配偶者控除は廃止される? 議論や動向、懸念点も解説

配偶者控除は廃止される? 議論や動向、懸念点も解説

税制改正により、配偶者控除の見直しや配偶者控除廃止の動向に注目が集まっています。配偶者控除や配偶者特別控除は、配偶者がいる納税者の税負担を軽くする所得控除です。

配偶者控除が廃止になると、納税者の税負担に影響が生じます。パートやアルバイトとして働く配偶者がいる従業員は、不安も大きいでしょう。

本記事では、配偶者控除の廃止に関する動向を解説します。配偶者控除廃止が行われた場合のメリットとデメリットも紹介しますので、参考にしてください。

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    配偶者控除と配偶者特別控除とは

    配偶者控除と配偶者特別控除の内容を簡単に紹介します。それぞれの内容と違いを整理してみましょう。

    配偶者控除とは

    配偶者控除とは、納税者に一定の条件を満たす配偶者がいる場合に受けられる所得控除のことです。配偶者控除の申請は、年末調整か確定申告によって行います。

    配偶者控除の適用条件はいくつかあり、とくに注意しなければならないのが所得条件です。配偶者控除の場合、納税者本人の所得は1,000万円以内、配偶者の所得は48万円以内でなければなりません。

    納税者の所得金額控除額(一般の控除対象配偶者)控除額(老人控除対象配偶者)
    900万円以下38万円48万円
    900万円超~950万円以下26万円32万円
    950万円超~1,000万円以下13万円16万円

    また、配偶者控除の対象には「一般控除対象配偶者」と70歳以上の「老人控除対象者」があります。上記の表のように、同じ年収であっても、老人控除対象者が配偶者の場合、控除額が大きくなる特徴があります。

    配偶者特別控除とは

    配偶者特別控除とは、配偶者控除の所得条件である48万円を超える所得がある配偶者でも適用される控除です。

    配偶者特別控除にもいくつかの適用条件が定められており、具体的には「配偶者の所得金額が合計48万円を超えて133万円以下の場合」などが挙げられます。配偶者特別控除の場合も、納税者本人の所得は1,000万円以内であることが求められます。

    配偶者の所得金額納税者の所得金額900万円以下納税者の所得金額950万円超950万円以下納税者の所得金額950万円超1,000万円以下
    48万円超95万円以下38万円26万円13万円
    95万円超100万円以下36万円24万円12万円
    100万円超105万円以下31万円21万円11万円
    105万円超110万円以下26万円18万円9万円
    110万円超115万円以下21万円14万円7万円
    115万円超120万円以下16万円11万円6万円
    120万円超125万円以下11万円8万円4万円
    125万円超130万円以下6万円4万円2万円
    130万円超133万円以下3万円2万円1万円

    参照:『No.1191 配偶者控除』国税庁
    参照:『No.1195 配偶者特別控除』国税庁

    配偶者控除の課題

    配偶者控除が見直されたり廃止案が注目されたりするのはどのような理由からなのでしょうか。

    • 共働き世帯の税負担が重くなる
    • 二重控除の問題
    • 所得調整の問題

    共働き世帯の税負担が重くなる

    配偶者控除では、適用条件に配偶者の所得条件があります。そのため、専業主婦(夫)やパートタイム労働者など、夫婦どちらかが主な収入を得て、もう一方を養うという「片働き世帯」に税負担の軽減が見込まれる制度です。

    このような場合、働かないほうが税負担が軽いという認識になりかねず、労働にネガティブな気持ちを抱かせる原因にもなってしまいます。

    二重控除の問題

    配偶者控除では、配偶者に基礎控除が適用されます。そのうえで納税者も配偶者控除を受けるとなると、二重控除となり、共働き世帯と比較した際の公平性に欠けるという問題があります。

    所得調整の問題

    配偶者控除は、配偶者の所得金額に条件を定めています。このような所得条件に応じて、配偶者が労働時間や収入調整を行うことも少なくなくありません。女性の労働機会の減少や社会進出にも影響があるとして、問題視されています。

    配偶者控除が廃止される可能性はある?

    配偶者控除は、2018年の税制改正によって大幅な見直しが行われました。さらに今後、廃止される可能性もあるとして注目されています。具体的な配偶者控除の廃止は決まっていませんが、これまでの税制改正による変更点や今後の動向にも注意しましょう。

    2018年の税制改正による配偶者控除の変更点

    2018年に行われた税制改正では、配偶者控除に関する変更点がありました。具体的な変更点を確認してみましょう。

    • 配偶者控除と配偶者特別控除における控除額改正
    • 扶養親族数の算定方法の変更
    • 給与所得者が記入する申告書の様式変更

    配偶者控除と配偶者特別控除における控除額改正

    控除額の改正では、配偶者控除の控除額が見直され、納税者の所得金額は合計1,000万円が上限となりました。

    また、配偶者特別控除においても控除額の変更と所得要件が38万円超123万円以下に引き上げられました。合計所得金額については、2020年分以降さらに48万円超133万円以下へと変更されています。

    扶養親族数の算定方法の変更

    扶養親族等の数え方について、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合、扶養親族等の数に1人加えて計算することになりました。さらに、同一生計配偶者が障がい者の場合、扶養親族等の数に1人加えて計算できるようになった点もポイントです。

    給与所得者が記入する申告書の様式変更

    年末調整における納税者が使用する申告書様式が「給与所得者の配偶者特別控除申告書」から「給与所得者の配偶者控除申告書」に変更されました。

    様式については、以下の申告書も変更されています。

    • 給与所得者の扶養控除等申告書
    • 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
    • 従たる給与についての扶養控除等申告書

    参照:『配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて』国税庁

    配偶者控除をめぐる議論

    配偶者控除をめぐっては、廃止だけでなく基礎控除の拡充や夫婦向けの控除の新設、子育て支援拡充などが議論されています。

    基礎控除の拡充では、夫婦が基礎控除を受けたうえで、どちらか一方で控除しきれない部分を相手に移転して所得控除するという移転的基礎控除という案が挙げられます。

    夫婦控除の新設に関しては、夫婦世帯を対象にした所得控除で、夫婦の収入を併せて所得控除を行うという案です。

    こうした案に加えて、子育て支援策を充実させるという点も検討されていますが、子どものいない家庭の負担増にもつながるという課題もあります。

    2025年の年金改革で扶養対象の縮小や廃止の可能性も?

    2025年は、年金改革の年として、社会保険における扶養の対象がさらに縮小される可能性があると考えられています。

    すでに、社会保険における適用範囲の拡大は進んでいます。2022年10月以降、従業員数101名以上の会社で働くパートやアルバイトについても、従業員数501名以上の企業と同様に社会保険への加入義務が生じる年収が106万円に変更となりました。

    さらに2024年10月以降、従業員51名以上の会社でも、同様の加入義務が適用されることになっています。

    参照:『ガイドブック「従業員数100人以下の事業主のみなさまへ」(事業主用)』厚生労働省

    また、2023年10月より「年収の壁・支援強化パッケージ」という支援策が始まっています。これは企業側が、年収106万円の壁を超えて働く従業員の手取り額を増やせるような取り組みをした場合、労働者1人あたり最大50万円の助成金が支給されるという制度です。

    2年間限定の制度であるため、2025年の年金改革を踏まえて実施していることが考えられます。

    参照:『年収の壁・支援強化パッケージ』厚生労働省

    社会保険に関しては「106万円の壁」や「130万円の壁」と呼ばれる一定額を基準とする年収の壁が存在します。社会保険適用範囲の拡大により、扶養内に抑えて働くことを希望する人が増加することが予想されます。

    また、扶養控除の対象から外れる人が増える可能性もあるでしょう。このように、年金や社会保険の制度改正によって、扶養控除の対象から外れる人が増えれば、配偶者控除や配偶者特別控除の廃止も現実的になるかもしれません。

    社会保険の「106万円の壁」や「130万円の壁」は、配偶者の扶養に入っているパートタイムやアルバイトなどの短時間勤務者が、年収106万円または130万円を超える場合は扶養から外れなければならなくなるという問題です。

    しかし、繁忙期の残業等により一時的に収入が増加した場合は、そのことを事業主が証明することにより、2年間を限度として引き続き扶養に入れるという施策が「年収の壁・支援強化パッケージ」で取られています。

    配偶者控除が廃止されるメリット

    配偶者控除が廃止された場合に、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的なメリットを解説します。

    • 共働きと片働きの不公平感を解消できる
    • 収入調整の是正と世帯収入の増加につながる
    • 女性の社会進出を促進できる

    共働きと片働きの不公平感を解消できる

    配偶者控除は、片働き世帯における税負担の軽減に効果がある制度です。

    しかし、夫婦どちらも正社員の場合や配偶者控除の所得条件を超える場合は、配偶者控除を適用できず、不公平感を抱きやすいという問題があります。

    また、基礎控除と配偶者控除による二重控除も不公平感につながっています。配偶者控除を廃止すれば、こうした共働き世帯が感じやすい不公平感を解消できるでしょう。

    収入調整の是正と世帯収入の増加につながる

    配偶者控除の所得条件を満たすために、収入額や労働時間を調整するケースも少なくありません。配偶者控除を廃止することで、このような収入調整も解消されるため、社会全体として世帯収入が増加しやすくなります。

    女性の社会進出を促進できる

    配偶者控除の廃止によって、配偶者も収入調整をせずに働けるようになります。配偶者が外に出て働く時間が増えれば、女性の社会進出にもつながり、社会全体のメリットにもなるでしょう。

    配偶者控除が廃止されるデメリット

    配偶者控除が廃止された場合には、デメリットもあります。とくに注目されているのが子育て世帯への影響と少子化です。

    配偶者控除が廃止された場合、子育て世帯の負担が重くなるという問題があります。配偶者控除によって税負担が軽減されていた子育て世帯にとっては、廃止されることで、控除が受けられなくなり、税負担が増えます。税負担が増えれば、家計への影響も生じるため、子育て費用の捻出にも影響が出てくるでしょう。

    また、控除の減少による税負担の増加によって、子どもを養うことが難しくなることが考えられます。さらに、女性の社会進出が進むことから、少子化を助長する懸念点も存在します。子育て世帯の負担増や少子化の影響にも目を向け、子育て支援策の強化も検討しなければなりません。

    まとめ

    これまでの税制改正によって、配偶者控除の見直しや配偶者控除廃止に関する議論が行われてきました。配偶者控除には、税負担が軽くなる世帯がいるというメリットがある一方で、共働き世帯が抱く不公平感や収入調整が行われるといった問題もあります。

    配偶者控除廃止に関する議論は、さまざま様々な観点から慎重に行われており、今後、配偶者控除の適用条件が厳格化されたり、廃止されたりする可能性もあるでしょう。

    企業の担当者は、配偶者控除や配偶者特別控除について正しく理解したうえで、今後の動向に注目し、廃止決定や変更点があった場合でもスムーズに対応できるようにしておきましょう。

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