NPO法人の設立で助成金はいくらもらえるのか|設立手順から資金獲得方法まで詳しく解説
大規模な自然災害などをきっかけに、国内でも注目されているNPO法人。活動のサポートや、NPO法人を設立する際の費用などの負担を減らすために、さまざまな助成金が用意されています。しかし、NPO法人の活動内容によってもらえる助成金は異なります。適切な助成金制度に応募する必要があります。本記事では、NPO法人の概要や設立の手順、もらえる助成金制度について解説します。「もらえる助成金を知りたい」などと悩まれている担当者は、ぜひ参考にしてください。
NPOとは
NPOとは「非営利活動(Non-Profit Organization)」のことです。株式会社とは違い、事業活動で得た収益は社会貢献活動に充てられます。また、行政サービスや民間企業がなかなか参入しないような領域でのサポートが多いことも特徴といえるでしょう。たとえば、ボランティア活動です。自然保護や環境保全などのボランティア活動には、NPOもかかわっているケースがあります。ほかにも、子どもの健全育成やまちづくりなどがNPOの活動領域として挙げられるでしょう。
参考:『特定非営利活動(NPO法人)制度の概要』内閣府NPOホームページ
NPOの種類
NPOは、次の3種類あります。
- NPO団体
- NPO法人
- 認定NPO法人
それぞれ解説します。
NPO団体
「NPO団体」とは、社会貢献を軸に活動する団体のことです。NPO団体は、法的には代表者を中心とする「個人の集まり」と見られます。したがって、法人名義での登記や口座開設、物件の契約などはできません。しかしNPO団体は、法人設立の手続きが不要で結成できるメリットがあります。
NPO法人
NPO法人とは、営利目的を持たずに社会活動に貢献する組織のことです。正式には「特定非営利活動法人(以下、NPO法人)」と呼称します。法人を設立するには行政に認定される必要があります。NPO法人の認証申請には手間がかかるものの、設立すれば組織としての社会的信頼性を得られるでしょう。実際、税制で優遇措置を受けられることもあります。
認定NPO法人
認定NPO法人とは、客観的な基準において、高い公益性を持っていることを認定された法人。活動を支援するために、税制の優遇措置として設けられた制度です。また同時期に、設立から5年以内のNPO法人を対象とする「仮認定NPO法人制度(現在は特例認定NPO法人制度)」も導入されました。いずれも、通常のNPO法人よりも申請要件は厳しくなりますが、その分税制のメリットも大きくなります。
NPO法人の設立要件について
NPO法人の設立要件は、次の項目に該当することです。
- 営利を目的としないこと
- 社員の資格の得喪に関して、不当な条件を与えないこと
- 役員において、報酬を受ける者の数が役員総数の3分の1以下であること
- 宗教活動や政治活動を主な目的としないこと
- 特定の公職者(候補者を含む)または、政党を推薦や支持、反対することを目的としないこと
- 暴力団でないこと
- 暴力団もしくは、その構成員などの傘下の団体でないこと
- 10 人以上の社員を有すること
- 3人以上の理事と1人以上の監事を置くこと
上記に該当していれば、原則、設立を認める必要があります。したがって、要件さえ満たしていればNPO法人は設立できるということです。
NPO法人設立のメリット
NPO法人設立のメリットは、次の4つです。
- 設立費用が優遇される
- 税金が優遇される
- 社会的信用につながる
- 公的機関と連携して事業を行いやすい
それぞれ解説します。
設立費用が優遇される
NPO法人では、会社設立に必要な登録免許税や手数料などがかかりません。一方で株式会社や合同会社など、営利を目的とした団体が会社を設立するには、6万円以上の登録免許税がかかります。さらに、株式会社では定款認証手数料や印紙税なども必要です。定款認証手数料は資本金により異なりますが、3〜5万円が一般的でしょう。また、定款に課税される印紙税は、4万円です。NPO法人を設立する際にこれらの費用は発生しないため、コストをおさえて組織を結成できるでしょう。
税金が優遇される
NPO法人は「特定非営利活動」の範囲内における事業所得や寄付金に、法人税はかかりません。特定非営利活動とは「まちづくりの発展を推進する活動」や「情報化社会の発展を推進する活動」などを指します。
社会的信用につながる
NPO法人を設立するには「営利を目的としないこと」や「10人以上の社員を有すること」などの審査を通過する必要があります。審査要件は厳しいため、設立後は、社会的信用が高まる傾向にあります。
公的機関と連携して事業を行いやすい
主に福祉関連では、公的機関がNPO法人に事業を委託することがあります。公的機関と事業連携できることは、大きな事業にかかわれるチャンスです。NPO法人として活動領域を広げることは、組織を大きくすることにもつながるでしょう。
NPO法人設立のデメリット
NPO法人設立のデメリットは次の3つです。
- 事業報告書を作成する義務がある
- 設立後も監督される
- 解散時に法人の残余財産が残らない
それぞれ解説します。
事業報告書を作成する義務がある
NPO法人は、毎事業年度初めから3か月以内に、前年度の事業報告書などを作成して提出し、いつでも開示できるように備える必要があります。提出が必要な書類は、次の通りです。
- 事業報告書等提出書
- 事業報告書
- 活動計算書
- 貸借対照表
- 財産目録
- 年間役員名簿
- 前事業年度末日における社員のうち、10人以上の名簿
3年以上、事業報告書を提出していない期間が続くと、NPO法人の認証を取り消される可能性があるため、注意しましょう。
設立後も監督される
NPO法人は設立後も「営利を目的としないこと」など認証の基準をクリアし続けなければなりません。NPO法人の設立にはメリットもありますが、組織活動を維持し続けるには、厳しいルールを守り通す必要があるのです。
解散時に法人の残余財産が残らない
NPO法人を解散する場合、残余財産は合議権を有した会員や構成員には分配できません。残余財産は、定款で定めた帰属すべき者(特定非営利活動法人や国、地方公共団体、公益財団法人など)へ帰属する必要があるからです。しかし残余財産は、債権・債務の精算後であれば、役員や従業員の退職金にも充てられます。そのため、多くのNPO法人が、退職金を支払うことで残余財産が残らない結果となっているのです。
NPO法人を設立するときの費用
NPO法人を設立するときの費用を、次の2つの観点から解説します。
- 自分でNPO法人を設立する場合
- 行政書士に依頼してNPO法人を設立する場合
それぞれ解説します。
自分でNPO法人を設立する場合
自分で手続きを行う場合であれば、ほとんど無料でNPO法人の設立ができます。とはいえ、実際には少なからず費用が掛かってしまいます。費用の内訳は、印鑑の作成費用や交通費、通信費などです。交通費や通信費を節約すれば、NPO法人の設立に必要な費用を1〜2万円程度にまで抑えることも十分に可能でしょう。NPO法人は定款の認証にかかる費用や法人設立登記の費用がかからないため、安価に設立できます。
行政書士に依頼してNPO法人を設立する場合
行政書士に依頼してNPO法人を設立する費用は、20〜30万円程度が相場です。なかには、NPO法人のビジョンや目的によって、無償で行政書士がサポートしてくれるケースがあります。一般的に費用は発生しますが、NPO法人の設立に必要な手続きを内部で行う必要がなくなる点を考慮すれば、行政書士への依頼を前向きに検討するのも一案でしょう。
NPO法人の設立までにかかる期間
書類作成から設立登記まで合わせると、NPO法人の設立にかかる期間は4か月前後です。まず、申請後2週間は、法定の縦覧期間があります。縦覧期間とは、申請書類などを公開して一般の人々が内容を確認できるようにする期間です。縦覧期間中に、近隣住民や関係者はNPO法人の設立内容を確認し、異議がある場合には、地方自治体に対して異議を申し立てることができます。そのあと、行政庁での審査が開始されます。審査が認証されるまでの期間は、縦覧期間が終了してから原則2か月以内です。書類作成や登記など、NPO法人の設立に必要な手続きをすべて含めると4か月ほどかかるでしょう。
NPO法人の設立手順
NPO法人の設立手順は、次の通りです。
- 定款の作成
- 都道府県や市区町村での認証手続き
- 審査通過
- 法務局でNPO法人の設立登記手続き
- 設立登記完了届出書などを提出
それぞれ解説します。
1.定款の作成
NPO法人を設立する場合、まずは定款を作成する必要があります。定款とは、法人の組織や活動についての根本規則を定めた書類です。したがって、NPO法人の設立後は、定款にのっとって活動する必要があります。
なお、約款には次の3つの事項を記載する必要があります。
- 絶対的記載事項
- 相対的記載事項
- 任意的記載事項
2.都道府県や市区町村での認証手続き
作成した定款は、都道府県や市区町村などの所轄庁で、提出による認証手続きを実施します。認証手続きに必要な書類は次の通りです。
- 定款
- 役員の就任承諾書および誓約書の謄本
- 役員名簿(役員の氏名や住所、報酬有無を記載したもの)
- 役員の住所が記載された書類
- 従業員のうち10人以上の住所が記載された書類
- 設立要件を満たしていることを証明する書類
- 設立趣旨書
- 設立の意思決定を証明する議事録の謄本
- 設立当初の事業年度および翌事業年度の事業計画書
- 設立当初の事業年度および翌事業年度の活動予算書
3.審査通過
認証手続き完了後は、定款や事業計画書など、提出した書類の一部(役員名簿については役員の住所または居所の記載を除いたもの)が2週間にわたり、公衆の縦覧へ提供されます。審査結果は、縦覧期間から、2か月以内に書面で通知されます。審査に通過すれば設立登記の手続きが可能です。なお、NPO法人の設立要件を満たしていれば、基本的に審査は通過するでしょう。
4.法務局でNPO法人の設立登記手続き
認証完了後、2週間以内に法務局でNPO法人の設立登記手続きを行います。手続きに必要な書類は、次の通りです。
- 設立登記申請書
- 登記すべき事項が記載された書類
- 印鑑(改印)届書
- 認証書
- 定款
- 代表者の「理事及び代表理事への就任承諾書」
- 代表者個人の印鑑証明書
- 設立総会議事録(定款の中に、法人所在地を「市町村」までしか記載していない場合に必要)
- 委任状(法人の役員または職員以外が申請する場合に必要)
- 法人代表者印と代表者個人の実印
なお認証完了後、半年以内に必要書類を法務局に提出しない場合、設立が無効になる可能性があるため注意しましょう。
5.設立登記完了届出書などを提出
法人設立後は、次の書類を所轄庁へ提出します。
- 設立登記完了届出書
- 登記事項証明書(原本、コピー)
- 設立当初の財産目録
以上でNPO法人の設立手続きは完了です。
NPO法人設立の際の注意点
NPO法人設立の際の注意点は、次の3つです。
- 法律で定められた分野以外だと法人化できない
- 10人以上の従業員と3人以上の理事・1人以上の監事が必要
- 情報公開や透明性が求められる
それぞれ解説します。
法律で決められた分野以外だと法人化できない
法律で決められた活動分野でしか、NPO法人は設立できません。NPO法人として活動できる分野は次の通りです。
- 保健や医療、福祉の増進をはかる活動
- 社会教育の推進をはかる活動
- まちづくりの推進活動
- 観光の振興をはかる活動
- 農山漁村または中山間地域の振興をはかる活動
- 学術、文化、芸術またはスポーツの活性化をはかる活動
- 環境の保全をはかる活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護または平和の推進をはかる活動
- 国際協力活動
- 男女共同参画社会の形成を促進する活動
- 子どもの健全育成活動
- 情報化社会の発展を促す活動
- 科学技術の振興活動
- 経済活動を促す活動
- 職業スキルの開発または雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護をはかる活動
- 前各号に掲げる活動を行う団体の運営または活動に関する連絡、助言または援助の活動
- 前各号に掲げる活動に準ずる活動として、都道府県または指定都市の条例で定める活動
参考:『特定非営利活動(NPO法人)制度の概要』内閣府NPOホームページ
なお、NPO法人は約款に則り活動する必要があるため、特定非営利活動の範囲内で活動領域を変更する際は、再度認証手続きが必要です。
10人以上の従業員と3人以上の理事・1人以上の幹事が必要
NPO法人の設立要件の一つは「活動の趣旨に賛同する10人以上の社員が存在すること」です。このうち、役員として「3人以上の理事」「1人以上の監事」の設置が必要です。要件を満たしていない場合、法人ではなく、NPO団体として活動することになります。
情報公開や透明性が求められる
NPO法人は事業報告書や活動計算書類などを、年度ごとに所轄の都道府県庁や市役所などに提出する義務があります。加えて、財産目録や役員名簿、従業員名簿などの情報公開が義務づけられています。NPO法人として組織を運営していくためには、必要書類の提出や情報公開などを漏れなく実行できる体制を整えておきましょう。
NPO法人が対象となる助成金には何があるのか
NPO法人が対象となる助成金は、次の2つです。
- CANPANプロジェクト
- 助成財団センター
それぞれ解説します。
CANPANプロジェクト
CANPANプロジェクトは、日本財団と特定非営利活動法人CANPANセンターが運営しています。NPO団体だけでなく、民間や企業の活動促進など、幅広く支援を行っています。インターネットを使った情報提供およびコミュニケーションを支援する事業で、日本国内の公益活動の活性化に寄与することを目的に設立されました。
助成財団センター
助成財団センターは、助成金を支給する事業および表彰する事業を行っている財団法人などを支援する公益財団法人です。対象とする法人の助成金に関する情報データを公表しています。助成金を探している方は、助成団体センターのホームページを定期的にチェックしておきましょう。
NPO法人設立で助成金はいくらもらえるのか
NPO法人の設立でもらえる次の5つの助成金をご紹介します。
- ドコモ市民活動団体助成事業
- アウトドア自然保護基金プログラム
- 地域芸術文化活動応援助成
- HTM基金
- 未来の介護基金
それぞれ解説します。
ドコモ市民活動団体助成事業
ドコモ市民活動団体助成事業の実施団体は、モバイルコミュニケーションファンドです。もらえる助成金は、次の活動ごとに異なります。
子どもの健全な育成を支援する活動 | 1団体あたり上限70万円 |
---|---|
生物多様性の保全を推進する活動 | 1団体あたり上限70万円 |
経済的困難を抱える子どもを支援する活動 | 1団体あたり上限100万円 |
参考:『募集要項:2023年度 ドコモ市民活動団体助成事業』NPO法人モバイル・コミュニケーション・ファンド
アウトドア自然保護基金プログラム
アウトドア自然保護基金プログラムの実施団体は、コンサーベーション・アライアンス・ジャパンです。森の中にある木々や河川の支流、絶滅の危機にある野生の動植物の保護を目的としています。1件あたりの上限額は50万円で、継続して助成金を受け取れる期間は、原則3年間です。なお、本助成金の対象となる活動に、科学的な調査やテレビなどのプロジェクトを取り入れると、助成金の対象外になるため注意しましょう。
参考:『助成・支援』一般社団法人コンサベーション・アライアンス・ジャパン
地域芸術文化活動応援助成
地域芸術文化活動応援助成の実施団体は、アーツカウンシル東京です。誰もが地域の芸術文化に触れて参加できるような環境をつくりだし、地域の活性化や地域振興を目指しています。都内の各地域の文化の醸成・発展を促進する芸術文化活動や文化資源などを未来に向けて継承し、その魅力を地域内外に広く発信する取り組みを支援しています。1件あたりの上限額は、 200万円および助成対象経費の2分の1以内です。
参考:『地域芸術文化活動応援助成 2023年度 助成プログラムの概要一覧』アーツカウンシル東京
HTM基金
HTM基金の実施団体は、公益推進協会です。健康で幸せな人々の暮らしを守るため、障がいや病気を抱える人々とその家族のサポート活動をしている団体を支援しています。1件あたりの上限額は、30万円です。
未来の介護基金
未来の介護基金の実施団体は、日本フィランソロピック財団です。既存の介護保険制度の範囲に捉われることなく、高齢者が活気に満ちて暮らすための理想の介護・自立支援を模索し実現する活動を支援しています。1件あたりの上限額は、 300万円です。
参考:『第1回「未来の介護基金」助成先募集開始(2023/3/1~4/14)』公益財団法人日本フィランソロピック財団
NPO法人のそのほかの資金調達の方法とは?
NPO法人の資金調達の方法には、ほかに次の4つあります。
- 会費
- 寄付金
- 補助金
- 受託事業収入
それぞれ解説します。
会費
ほとんどのNPO法人は会員制度を設けているため、会員は年会費を支払うことが多いでしょう。NPO法人によって年会費は異なりますが、正会員の場合では、1口1万円、準会員の場合では1口5,000円程度賭されています。NPO法人は、会員から継続的に支払われる年会費が安定した収入源となるのです。
寄付金
NPO法人の活動内容に対し、賛同した個人や企業から寄付金が支払われることもあります。寄付金の集め方はさまざまですが、近年ではクラウドファンディングやSNSなども活用されているようです。
補助金
補助金とは、NPO法人に特定の事業を任す対価としての支援金を指します。補助金にはさまざまな種類があります。たとえば「環境保全補助金」や「社会福祉補助金 」などです。補助金は公的機関や地方自治体などが提供しており、実施団体や制度の種類により支給される額は異なります。たとえば、大阪府が実施している環境保全補助金の場合、1件あたりの上限は35万円です。
受託事業収入
受託事業収入とは、行政や企業から委託される事業についてくる資金を指します。たとえば、イベントや物品の制作販売、サービス提供料金などで得た収入などです。事業内容や収益により受託事業収入の額は異なります。
まとめ
NPO法人がもらえる助成金には「ドコモ市民活動団体助成事業」「HTM基金」などがあります。ドコモ市民活動団体助成事業でもらえる上限額は、活動内容により異なりますが100万円です。HTM基金の上限額は、30万円です。また助成金のほかにも、寄付金や補助金などで資金を調達する方法もあります。NPO法人の資金調達方法はさまざまなため、所属しているNPO法人の活動内容に適した助成金や補助金に申請しましょう。
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