健康保険の傷病手当金の支給条件|申請書の出し方と注意点、もらえないケースも解説
従業員が病気やケガで長期間会社を休む場合、健康保険の傷病手当金の対象となることがあります。適切に対応し、申請手続きをスムーズに進めるためには、傷病手当金の仕組みや申請方法について理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、健康保険の傷病手当金の支給条件について解説し、申請書の出し方や注意点、もらえないケースなども紹介します。健康保険の各種手続きを担当している方は、お役立てください。
健康保険の傷病手当金とは
「健康保険の傷病手当金」は、病気やケガで仕事を休まざるを得ない状況になった従業員とその家族の生活を支える目的の制度です。会社から支給される給与が十分でない場合に、傷病手当金制度が適用されます。
任意継続被保険者は原則として、傷病手当金の支給対象とはなりません。ただし、法律で定められた特別な要件を満たす場合は、例外的に支給される可能性があります。
雇用保険の傷病手当との違い
「健康保険の傷病手当金」は、健康保険に加入している被保険者が病気やケガで働けなくなった場合に受給できる手当金です。療養のために会社を休んでいる間、給与の一部に相当する額が支給されます。
一方「雇用保険の傷病手当」は、失業後にハローワークで求職申込み後、病気やケガで仕事ができない場合に受給できる手当です。
2つの手当は名称が類似していますが、それぞれ異なる制度に基づいています。
傷病手当金 | 傷病手当 | |
---|---|---|
根拠とする制度 | 健康保険 | 雇用保険 |
受給者の雇用状況 | 雇用中 | 失業中 |
注意点 | 両方同時に受けられない |
健康保険の傷病手当金と雇用保険の傷病手当の主な違いは、病気やケガをした時期にあります。現在の状況(雇用中で健康保険に加入しているか、失業中か)によって、受給できる手当金・手当が異なります。
また、法律上、同時に受け取ることができないと定められています。
従業員が健康保険の傷病手当金を受けられる条件
従業員が健康保険の傷病手当金を受けるには4つの条件があり、一つずつ解説します。
- 業務外を理由とする病気・ケガをして休業している
- 仕事に就けない
- 連続する3日間を含んで4日以上働けない
- 休業期間中に給与が支払われていない
業務外を理由とする病気・ケガをして休業している
健康保険の傷病手当金を受給できるのは、業務外の病気やケガで休業している場合です。職務中の事故や仕事が原因とみなされる病気は、労災保険の適用となります。
一方、仕事とは関係のない療養でも、美容整形のように病気ではないものは、傷病手当金の支給対象外です。
仕事に就けない
健康保険の傷病手当金を受け取れる対象は、病気やケガで仕事に就けない状況になった被保険者です。
ただし、治療中でも異動や業務内容の変更などで勤務を続けられる場合は、支給の対象にはなりません。勤務ができない状態か否かは、本人の職種や業務内容を踏まえて判定されます。
連続する3日間を含んで4日以上働けない
病気やケガで3日以上続けて休職した場合、4日目以降に健康保険の傷病手当金が支給されます。そのため、連続する3日間を含んで4日以上働けないことが条件です。
また、初めの3日間は待機期間として、支給額の計算には含まれない点に注意しましょう。
休業期間中に給与が支払われていない
健康保険の傷病手当金は、病気やケガによる休職中に、給与が支払われていないことが支給の条件です。ただし、給与が支給されていても傷病手当金の額より少ない場合は、その差額分が支給されます。
なお、任意継続被保険者の病気・ケガは対象外です。
健康保険の傷病手当金を受け取れないケース
健康保険の傷病手当金を受けられる条件とは反対に、受け取れないケースを4つ取り上げて解説します。
- 給与をもらっている
- 障害厚生年金もしくは障害手当金、老齢退職年金を受給している
- 労災保険の休業補償給付を受給している
- 出産手当金を受給している
給与をもらっている
健康保険の傷病手当金は、病気やケガで仕事を休み、給与が得られない場合の生活を支えるための制度です。休職中に給与をもらっている場合は、通常、傷病手当金は支給されません。
しかし、休業期間中の給与の日額が、傷病手当金の日額を下回るときは、その差額が支払われます。
障害厚生年金もしくは障害手当金、老齢退職年金を受給している
同じ病気やケガで障害厚生年金もしくは障害手当金、老齢退職年金を受け取っている場合、健康保険から傷病手当金は支給されないのが原則です。
ただし、障害厚生年金・老齢退職年金の1/360の金額が、傷病手当金の日額より少ないときは、差額分が支払われます。障害手当金を受けている場合は、傷病手当金の累計額が障害手当金の額に到達した日から傷病手当金の支給が開始されます。
労災保険の休業補償給付を受給している
業務以外の理由で病気やケガにより休職している場合でも、労災保険の休業補償給付を受けている期間は健康保険から傷病手当金は支給されません。休業補償給付の日額が、傷病手当金の日額より少ないケースは、その差額が支払われます。
出産手当金を受給している
健康保険から出産手当金を受給している間は、傷病手当金も一緒に受け取ることはできません。しかし、傷病手当金の額が出産手当金より多いケースでは、その差額分が支給されます。
健康保険の傷病手当金はいつから? 支給期間
健康保険から傷病手当金が支給される期間は、開始日から通算して1年6か月です。「通算して」とは、つまり1年6か月の支給期間中に、給与の支払いなどによって傷病手当金が支給されない期間も計算に含まれます。
ただし「通算して1年6か月」という支給期間は、2022年1月1日からの変更によるものです。2020年7月1日以前に支給が開始されたケースでは、従来通り、最長1年6か月の支給期間が適用されます。
健康保険の傷病手当金はいくら? 金額の出し方
傷病手当金の1日あたりの金額は、次の式で計算されます。
直近12か月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3 |
「標準報酬月額」は、月給を1〜50等級に分類したもので、主に健康保険料や厚生年金保険料の計算に用いられる金額です。
たとえば、直近12か月の標準報酬月額の平均額が30万円の場合、1日あたりの傷病手当金は、以下の通り円計算できます。
300,000÷30×2/3=6,667(円) |
加入期間が12か月に満たない場合
健康保険の加入期間が12か月に満たない場合は、次のいずれか低い方の計算結果を用います。
1 | 支給開始日の月より前の直近で連続する標準報酬月額の平均額 |
---|---|
2 | 全被保険者の標準報酬月額の平均額:30万円(支給開始日が平成31年4月1日以降の場合) |
金額が調整される場合
健康保険の傷病手当金の支給金額は、金額に応じて調整されることがあります。
具体的には以下のような場合に、差額が調整されます。
健康保険の傷病手当金が調整されるケース | |
---|---|
給与が支払われていた場合 | 支払われている給与の日額の方が少ない場合、その差額を支給 |
障害厚生年金・障害手当金を受けている場合 | 障害厚生年金の日額の方が少ない場合、その差額を支給 |
老齢退職年金を受けている場合 | 老齢退職年金額の日額の方が少ない場合、その差額を支給 |
労災保険から休業補償給付を受けていた場合 | 休業補償給付の日額の方が少ない場合、その差額を支給 |
出産手当金を同時に受けられる場合 | 傷病手当金の金額が出産手当金の金額よりも少ない場合、その差額を支給 |
健康保険の傷病手当金の申請方法
健康保険の傷病手当金を受け取るには、「傷病手当金支給申請書」を作成し、加入している健康保険団体に提出する必要があります。本記事では、協会けんぽの傷病手当金の申請方法について解説します。
参照:『健康保険傷病手当金支給申請書』 全国健康保険協会協会けんぽ
傷病手当金申請書を用意する
傷病手当金を申請する際に、必要な書類次の3つです。
- 被保険者記入用
- 事業主記入用
- 療養担当者記入用
それぞれ該当する人が記入します。
添付書類を用意する
健康保険の傷病手当金の申請には、添付書類も必要です。添付書類は、申請者や所属事業所の状況によって異なります。主なケースと必要書類は以下の通りです。
全員 |
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請求期間にかかる出勤簿と請求期間にかかる賃金台帳のコピー(初回の申請の際に必要) |
過去1年以内に事業所の変更や被保険者番号の変更があったとき |
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変更前の事業所情報と在籍期間を示す書類 |
障害厚生年金を受給していてマイナンバーでの情報照会を希望しないとき |
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年金証書または同等の書類のコピーと、直近の年金額を示す書類のコピー |
障害手当金を受給していてマイナンバーでの情報照会を希望しないとき |
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支給を証明する書類のコピー |
老齢退職年金を受給していてマイナンバーでの情報照会を希望しないとき |
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年金証書または同等の書類のコピーと、直近の年金額を示す書類のコピー |
労災保険から休業補償を受けているとき |
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支給決定通知書のコピー |
傷病の原因が第三者の行為(交通事故やけんかなど)によるとき |
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第三者行為による傷病届 |
被保険者が死亡し、相続人が申請するとき |
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被保険者との続柄を示す戸籍謄本など |
被保険者のマイナンバーを記載したとき |
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マイナンバーカードの両面コピー、またはマイナンバーが記載された住民票・住民票記載事項証明書と身元確認書類 |
健康保険の傷病手当金に関する注意点
最後に、健康保険の傷病手当金に関する注意点を5つ取り上げて解説します。
- 医師・事業主・本人の記載欄がある
- 従業員が退職しても支給される場合がある
- 支給申請は従業員本人でも事業所でもいい
- 申請期限内に処理する
- 傷病手当金が調整される場合を理解する
医師・事業主・本人の記載欄がある
健康保険の傷病手当金の申請に必要な書類には、本人が記入する部分だけではなく、医師や事業主が記載する欄も含まれています。そのため、ある程度の手間がかかる可能性があるでしょう。
ただし、事業主に申請を委任したい場合は、支給申請書の委任状欄に署名することで代理申請が可能です。
従業員が退職しても支給される場合がある
従業員が退職したあとも、退職日までに社会保険の加入期間が継続して1年以上あれば傷病手当金をもらい続けることができます。退職後も支給を受ける場合は、本人が社会保険事務所か健康保険組合に行って手続きをする必要があります。
支給申請は従業員本人でも事業所でもいい
健康保険の傷病手当金の支給申請は、従業員本人でも事業所でも行うことができます。
事業所が申請する場合、事業主は支給申請書の事業主記入用紙に、従業員の申請期間中の出勤日や給与支払日を記入します。1枚の用紙に収まらない場合は、事業主用紙をコピーして複数枚申請することも可能です。
一方、従業員本人が申請する場合は、支給申請書の被保険者用紙に記入し、受診している医療機関に療養担当者記入用紙への記入を依頼する必要があります。具体的な傷病名や必要な療養期間などを記載してもらいましょう。
申請期限内に処理する
健康保険の給付を受ける場合、権利の時効である2年の申請期限内に処理する必要があります。健康保険法第193条では、傷病手当金の時効の起算日について「労務不能であった日ごとにその翌日」と定めています。
傷病手当金が調整される場合を理解する
従業員が働けなくても社会保険料の本人負担分を支払わなければなりません。会社が従業員に代わって支払った健康保険料は、給与の一部とみなされ、傷病手当金が調整されることになります。受給額が減る場合もあるということを理解しておきましょう。
まとめ
健康保険の傷病手当金は、業務「外」の病気やケガで会社を休まざるを得ない従業員の生活を支える制度です。一定の支給要件を満たせば、療養のために休業している期間、給与の一部に相当する額が支給されます。
ただし、給与の支払いがある場合やほかの年金・手当を受給している場合など、傷病手当金が受けられないケースもあります。また、支給額が調整されることもあるので注意が必要です。
傷病手当金を受け取るには、医師・事業主・本人が記入する申請書と添付書類をそろえて、加入している健康保険団体(協会けんぽ・その他)に提出します。申請は従業員本人でも事業所でも行えますが、期限内に処理することが重要です。
従業員が病気やケガで休職を余儀なくされたら、傷病手当金の支給要件を確認し、適切に申請手続きを進めましょう。
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