労働保険料とは【計算方法と例】注意点と申告・納付方法まで解説

労働保険料とは【計算方法と例】注意点と申告・納付方法まで解説

「労働保険料」とは、企業が従業員のために支払う労災保険料と雇用保険料の合計のことです。従業員を雇用する際、企業は通常、労働保険に加入する必要があります。

本記事では、労働保険料の計算方法を例を交えて解説し、注意点や申告・納付方法なども紹介します。

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    労働保険料とは【種類】

    労働保険料は、2つの保険料から構成されています。1つは従業員の業務上や通勤中の事故や疾病に対応する労災保険料、もう1つは失業時や育児休業時等のサポートを提供する雇用保険料です。

    労働保険への加入はほとんどの事業主の義務となっており、従業員を雇用している場合、勤務形態にかかわらず原則として保険料を納付しなくてはいけません。

    労働保険料に含まれる2つの保険料を中心に解説します。

    参照:『労働保険とはこのような制度です』厚生労働省

    労災保険料とは

    「労災保険料」は、労災保険(労働者災害補償保険)の運営のために事業主が負担する掛け金です。

    労災保険は、職場での事故や仕事に関連する病気、さらには通勤中の不慮の出来事まで幅広くカバーする制度です。

    従業員の雇用形態にかかわらず適用される点が特徴で、フルタイムの正社員からパートタイム労働者まで、すべての従業員が対象となります。

    雇用保険料とは

    「雇用保険料」とは、雇用保険制度の運営のために従業員と事業主が負担する掛け金です。

    雇用保険は、労働者が予期せぬ失業や雇用継続の困難に直面した際に、経済的支援を提供するための保険です。

    雇用保険料率は、事業の種類によって変動します。具体的には、一般事業と農林水産・清酒製造業、建設業の3つに分類され、それぞれに適した料率が設定されています。

    特別加入の保険料とは

    通常、労災保険は雇用されている従業員を対象としていますが、事業主や自営業者も保護を受けられる「特別加入制度」という仕組みがあります。

    特別加入制度は、現場作業に従事する事業主などがみずから加入できます。

    特別加入制度には対象者によって3つの区分があり、中小企業の事業主向け、個人事業主や一人親方向け、海外派遣者向けに分けられます。

    それぞれの区分に応じた保険料が第1種~第3種特別加入保険料として設定されており、保険料率は事業の種類によって異なるのが特徴です。

    具体的な保険料率は、業種ごとのリスクを反映しながら厚生労働省が定めています。

    参照:『労働保険料の種類・申告と納付について』厚生労働省福岡労働局

    印紙保険料とは

    「印紙保険料」は、短期的な雇用形態である日雇労働者を対象とした特殊な保険料です。

    印紙保険料制度では、事業主が日雇労働者に賃金を支払うたびに、保険料の納付が必要となります。

    日々の給与額に応じて3つの等級に分けられており、もっとも高い区分は日給11,300円以上の第1級で、中間の区分は8,200円以上11,300円未満の第2級、もっとも低い区分は8,200円未満の第3級です。

    納付方法には、専用の手帳に保険印紙を貼って消印する方法と、特別な機械で納付印を押す方法の2種類があります。

    事業主は、印紙保険料を通常の保険料とあわせて納付しなくてはなりません。

    参照:『第14章 日雇労働被保険者の給付について』厚生労働省

    一般拠出金とは

    「一般拠出金」は、労働保険料とは異なりますが、労働保険料と一緒に処理される費用です。

    事業主が1年間に全従業員に支払った給与総額に対して、業種にかかわらず、0.02/1000を掛けて算出し、全額事業主負担です。

    一般拠出金制度は、過去にアスベストによる健康被害を受けた方々を支援する目的があります。アスベストは以前、建築材料などで広く使用されていましたが、健康への悪影響が明らかになったあとも、長期にわたって症状があらわれない人もいます。

    一般拠出金制度により、被害者へ補償を行っています。

    労働保険料の計算に必要|保険料率と負担割合

    労働保険料の計算に必要となる保険料率と負担割合について、労災保険料・雇用保険料それぞれで解説します。

    労災保険料は誰が払う?負担割合は?

    労災保険料は、事業主が全額負担します。職場の安全確保が事業主の責任であるという考えに基づいているためです。

    労災保険料率は、賃金総額の2.5/1000から88/1000まで、事業の種類によって決められています。

    参照:『令和6年度の労災保険率について』厚生労働省

    雇用保険料は誰が払う?負担割合は?

    雇用保険料は、事業主と従業員の双方が負担する仕組みです。ただし、健康保険や厚生年金保険とは異なり、雇用保険料の負担割合は折半ではありません。

    業種によって保険料率が変わり、一般の事業と農林水産業・清酒製造業、建設業の3つに分類されます。

    2023年4月以降、一般の事業では総保険料率15.5%のうち、会社が0.95%、従業員が0.6%を負担します。

    農林水産業・清酒製造業では総率1.75%で会社10.5%、従業員0.7%、建設業では総率1.85%で会社1.15%、従業員0.7%となっています。

    いずれの場合も会社の負担率が高く設定されており、従業員の負担は業種に応じて0.6%から0.7%の範囲内です。

    保険料は通常、給与から天引きされ、会社が従業員分と自社負担分を合わせて納付します。ただし、保険料率は経済状況により変更される可能性があるため、最新情報の確認が重要です。

    参照:『令和6年度の雇用保険料率について』厚生労働省

    労働保険料の計算方法

    労働保険料の計算は、労災保険と雇用保険の2つを組み合わせて行います。

    すべての従業員が雇用保険に加入している場合、給与総額に一定の保険料率を掛けて求めます。

    保険料率は、労災保険と雇用保険それぞれを足したものです。具体的な計算式は以下の通りです。

    労働保険料 = 賃金総額 × 労働保険料率 (労災保険率+雇用保険率)

    全体の給与支払額に対して2つの保険料率の合計を適用することで、納付すべき労働保険料の総額が決まります。

    ただしパート・アルバイトや学生など、雇用保険に加入しない従業員がいる場合、全従業員の賃金総額と雇用保険加入者の賃金総額に差が生じます。

    そのため、労災保険料と雇用保険料を別々に計算する必要があり、具体的な計算式は以下の通りです。

    労働保険料 = 賃金総額 × 労災保険率 + 雇用保険の被保険者の賃金総額 × 雇用保険率

    賃金総額の求め方

    労働保険料の計算基準となる「賃金総額」は、企業が従業員に支払う労働対価の合計額です。基本給や賞与はもちろん、通勤手当(非課税部分も含む)や残業代、その他各種手当が含まれます。

    ただし賃金総額は、従業員の労働に直接関連する支払いを中心に構成され、それ以外の特別な事由による支給は含まれません。

    賃金に含まれる手当など

    賃金に含まれる手当の項目は、以下の通りです。

    • 給与(正社員やパート、日雇い労働者などすべての業務形態を含む)
    • 賞与(ボーナス)
    • 通勤手当(非課税部分も対象)
    • 有給休暇中の給与
    • 時間外労働や深夜勤務の手当
    • 住居手当や当直手当
    • 社会保険料の従業員負担分
    • 条件が明確な前払い退職金

    以上の手当などは、賃金総額に含めます。

    賃金に含まれない手当など

    賃金に含まれない手当の項目は、以下の通りです。

    • 取締役や監査役などへの役員報酬
    • 慶弔金や災害見舞金など特別な事由による支給
    • 退職時の退職金や退職前の一時金
    • 出張経費や宿泊費用の精算
    • 休業や傷病に対する補償金
    • 企業が全額負担する従業員向け生命保険料

    以上の手当などは、労働の直接的対価とはみなされず、賃金総額から除外されます。

    労働保険料の計算例

    労働保険料の計算例を2つの例を取り上げて解説します。

    • 例1.食品製造業、賃金総額300万円
    • 例2.建設事業、賃金総額400万円


    参照:『労働保険料の計算例』厚生労働省大阪労働局
    参照:『令和6年度の労災保険率について』厚生労働省
    参照:『労災保険率表(令和6年4月1日施行)』 厚生労働省
    参照:『令和6年度の雇用保険料について』  厚生労働省

    例1.食品製造業、賃金総額300万円

    食品製造業を営んでおり、1年間に従業員に支払う賃金見込み金額が300万円(月23万×12か月+賞与24万円)の場合で計算してみましょう。

    労災保険率表では、食品製造業は業種番号41に該当し、労災保険率は5.5/1000です。また、雇用保険料は15.5/1,000です。

    労働保険料は以下のように計算します。

    賃金総額×労働保険料率(労災保険率+雇用保険率)=労働保険料
    3,000,000×(5.5/1000+15.5/1000)=63,000円

    例2.建設事業、賃金総額400万円

    建設事業を営んでおり、1年間に従業員に支払う賃金見込み金額が400万円(月30万×12か月+賞与40万円)の場合で計算してみましょう。

    労災保険率表では、建設事業は業種番号35に該当し、労災保険率は9.5/1000です。また、雇用保険料は18.5/1,000です。

    労働保険料は以下のように計算します。

    賃金総額×労働保険料率(労災保険率+雇用保険率)=労働保険料
    4,000,000×(9.5/1000+18.5/1000)=112,000円

    端数処理の方法

    雇用保険料の従業員負担分を計算する際、端数処理が必要です。

    給与から控除する場合、50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げます。現金で支払う際は、50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げが基本です。

    ただし、ルールは絶対的ではなく、企業と従業員間の慣習や合意にしたがうこともできます。たとえば、従来からの切り捨て方式を継続するなど、柔軟な対応が可能です。

    参照:『労働保険料の計算方法』厚生労働省兵庫労働局

    労働保険料を計算する際の注意点・ポイント

    労働保険料を計算する際の注意点・ポイントを6つ取り上げて解説します。

    • 保険料率の改定を注視する
    • 事業ごとに保険料率を計算する
    • 出向者・派遣社員・海外勤務者の扱いに注意する
    • 賃金総額を正しく算出する
    • 年度更新の仕組みを理解する
    • 賃金総額が予定からかけ離れる場合は早期に申告する

    保険料率の改定を注視する

    労働保険料の計算に必要な労災保険・雇用保険の料率は定期的に見直されます。

    労災保険の場合、見直しは業界全体の状況を反映し、通常3年ごとに行われます。料率が改定されることが多いため、注意を払う必要があるでしょう。

    また、労災保険では料率だけでなく、特定業種の労務費率も変更される可能性があります。

    事業ごとに保険料率を計算する

    通常、1つの事業に対して1つの保険料率が適用されますが、多角的な事業展開をしている企業では主要な業務内容に基づいた保険料率が決定されます。

    ただし、労災保険法における事業分類は、他の労働関連法規とは異なる基準を用いることがあるため、一般的な業種区分との違いに注意が必要です。

    また、複数の労災保険番号を持つ企業の場合、それぞれの事業内容を個別に見て、適切な保険料率を適用して計算します。

    出向者・派遣社員・海外勤務者の扱いに注意する

    従業員の勤務形態が多様化するなか、特に労災保険の適用には細心の注意が必要です。

    出向社員の労災保険は、出向先での加入が原則です。

    ただし、給与支払いと実際の勤務先が異なる場合は、正確な賃金額の把握が重要です。出向元から受け取る「出向料」には諸経費が含まれることがあるため、実際の賃金額を確認しなくてはいけません。

    派遣社員については、派遣元企業が労災保険に加入し、保険料を納付します。しかし、適用される保険率は、派遣先での主な業務内容に基づいて決定されます。

    特に複数の派遣先や業務に従事する場合は、主要な作業実態を考慮して、適切な保険料率を選択することが重要です。

    また海外勤務者も、勤務形態や現地での業務内容に応じて、適切な労災保険の適用を検討する必要があります。

    賃金総額を正しく算出する

    労働保険料の正確な計算には、賃金総額の正しい算出が欠かせません。

    すべての給与項目が、労災保険の対象となるわけではないという点に注意しましょう。基本給や賞与、各種手当の中から、労災保険料算出の対象となる項目を適切に選ぶ必要があります。

    また正社員だけでなく、アルバイトやパートタイム労働者の賃金も含めて計算します。雇用形態や給与体系の変更があったら、算出方法を見直すことも大切です。

    年度更新の仕組みを理解する

    労働保険料の計算では、年度更新の仕組みを理解しておくことも重要です。

    労働保険料は、前年度に見積もった概算保険料と、実際の賃金に基づく確定保険料の差額を精算して納付します。そのため、年度更新時は最新の保険料率の確認が必要です。

    また、雇用形態や給与体系の変化も考慮に入れましょう。当年の賃金が未確定の場合は予測値を使用しますが、前年度の半分から2倍の範囲内なら前年度の数字をそのまま利用できます。

    賃金総額が予定からかけ離れる場合は早期に申告する

    労働保険料の計算において、賃金総額の算出では、対象となる給与項目を正確に識別し、アルバイトやパートタイム労働者も含めて給与を計算します。

    ただし、事業の変動などによって、実際の賃金総額が予測から大きく外れる場合は、すみやかに申告する必要があります。

    労働保険料の計算実務の流れ【申告・納付の方法】

    労働保険料の計算において実務の流れを順番に紹介します。

    1. 前年申告分と確定分の過不足を調整
    2. 今年度の概算保険料を算出
    3. 指定期間に保険料の納付と申告

    1.前年申告分と確定分の過不足を調整

    労働保険料は年度ごとに予想される賃金をもとに計算され、6月初めから7月上旬の間に前払いする仕組みです。そのため、前年に申告した労働保険料の予想額と、実際に確定した金額との間の差異を調整する必要があります。

    2.今年度の概算保険料を算出

    次に、4月から翌3月までの予想賃金をもとにして、今年度の概算保険料を計算します。

    ただし例外として、前年度と比較して大きな変動がない場合、今年度の見込みが前年の半分から2倍の範囲内であれば、前年の確定額をそのまま使用できます。

    3.指定期間に保険料の納付と申告

    概算の労働保険料の計算が終わったら、次は手続きです。

    毎年6月初旬から7月上旬にかけて、必要な書類を提出し、労働保険料を納付します。主な書類は、その年度の予想賃金総額を記載した申告書です。書類を保険料とともに、所轄の労働局または労働基準監督署、金融機関などに提出します。

    手続きや支払いを怠ると罰則的な措置が取られる可能性があるため、注意が必要です。期限を守るよう心がけましょう。

    まとめ

    労働保険料は、労災保険料と雇用保険料から構成されています。計算方法は、賃金総額に保険料率を掛けるのが基本ですが、業種や雇用形態によって細かな違いがあります。

    また、年度ごとの更新や端数処理、特殊な雇用形態への対応など、注意したい点も多く、正確な計算と適切な納付のためには、最新の保険料率の確認や賃金総額の正確な把握が欠かせません。

    企業は毎年6月から7月にかけて申告と納付を行う必要があり、手続きを怠ると罰則の対象となる可能性もあります。企業の法令遵守のためにも、労働保険料の適切な管理が必要です。

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