2023年雇用保険料率引き上げのタイミングは? 引き上げの理由や事業別保険料率など紹介
雇用保険料率は、企業が雇用保険料を算出する際に用いる保険料区分です。雇用保険料率は一定ではなく、直近では2023年4月に引き上げが行われました。しかし、企業としてどのような対応をとるべきか、わからない人も多いのではないでしょうか。
そこで当記事では、雇用保険料率の概要や雇用保険料率が引き上げられた理由、引き上げにともない企業が対応すべき内容などを網羅的に解説します。企業で雇用保険料の計算を担当する人事・労務、経理の方は、ぜひ当記事の内容をお役立てください。
※当記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。


【2023年4月以降】雇用保険料率が引き上げられるタイミング
雇用保険料率は一定ではなく、定期的に改定されています。ただし、毎年変更されるわけではなく、現状維持の年もあれば、引き上げられたり、引き下げられたりする年もあります。たとえば、2022年4月には、事業主負担分の雇用保険料率が0.5/1,000ずつ増加しました。さらに、同年10月には事業主負担が再び引き上げられるとともに、従業員が負担する分の保険料率もアップしています。
雇用保険料の引き上げは2023年4月1日にも行われており、最新の雇用保険料率を的確に把握しておく必要があります。なお、引き上げ後の保険料率は、2024年3月31まで継続される予定です。(※2023年4月時点の情報です)
参考:『令和4年度雇用保険料率のご案内』厚生労働省
参考:『令和5年度雇用保険料率のご案内』厚生労働省
事業別に見る雇用保険料率の引き上げ状況
企業の事業内容によって、雇用保険料率は異なります。一般事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業の3つに分けて解説するので、該当する保険料率をご確認ください。(※2023年4月時点の情報です)
1.一般事業が負担する雇用保険料率の推移
労働者負担 | 事業主負担 | 合算した 保険料率 | ||
---|---|---|---|---|
失業等給付・ 育児休業給付 の保険料率 | 雇用保険二事業 の保険料率 | |||
2022年10月1日~ 2023年3月31日 | 5/1,000 | 5/1,000 | 3.5/1,000 | 13.5/1,000 |
2023年4月1日~ 2024年3月31日 | 6/1.000 | 6/1,000 | 3.5/1000 | 15.5/1,000 |
労働者負担率が1/1,000上昇するとともに、失業等給付・育児休業給付における事業主負担の保険料率も1/1,000アップしています。
2.農林水産・清酒製造の事業が負担する雇用保険料率の推移
労働者負担 | 事業主負担 | 合算した 保険料率 | ||
---|---|---|---|---|
失業等給付・ 育児休業給付 の保険料率 | 雇用保険二事業 の保険料率 | |||
2022年10月1日~ 2023年3月31日 | 6/1,000 | 6/1,000 | 3.5/1,000 | 15.5/1,000 |
2023年4月1日~ 2024年3月31日 | 7/1,000 | 7/1,000 | 3.5/1,000 | 17.5/1,000 |
一般事業と同じく、労働者負担と、失業等給付・育児休業給付の保険料率における事業主負担が1/1,000ずつアップしています。
3.建設の事業が負担する雇用保険料率の推移
労働者負担 | 事業主負担 | 合算した 保険料率 | ||
---|---|---|---|---|
失業等給付・ 育児休業給付 の保険料率 | 雇用保険二事業 の保険料率 | |||
2022年10月1日~ 2023年3月31日 | 6/1,000 | 6/1,000 | 4.5/1,000 | 16.5/1,000 |
2023年4月1日~ 2024年3月31日 | 7/1,000 | 7/1,000 | 4.5/1,000 | 18.5/1,000 |
建設事業も同様に、雇用保険二事業の保険料率における事業主負担は変更なし。労働者負担と、失業等給付・育児休業給付の保険料率における事業主負担が1/1.000ずつ引き上げられています。建設事業は3区分の中で保険料率が最も高く、20/1,000に迫る勢いです。
雇用保険料率の引き上げで企業が見直すべきこと
雇用保険料率の引き上げにともない、企業が見直すべきことを解説します。
1.給与にかかる雇用保険料の計算
給与にかかる雇用保険料は「給与×雇用保険料」で計算します。つまり、雇用保険料率が改定されるということは、雇用保険料の計算に用いる数値が変わるということです。たとえば、一般事業に従事するAさんの給与が20万円だった場合を考えてみましょう。2023年4月以降において、給与にかかる雇用保険料率の計算式は次の通りです。
Aさんの負担分 | 20万円×6/1,000(0.6%)=1,200円 |
---|---|
事業主の負担分 | 20万円×9.5/1,000(0.95%)※=1,900円 |
※失業等給付・育児休業給付の保険料率と雇用保険二事業の保険料率を合算したもの
2.賞与にかかる雇用保険料の計算
雇用保険料の算定では、給与だけでなく賞与も計算に入れます。賞与にかかる雇用保険の計算式は「賞与×雇用保険料率」です。給与と同様に、賞与にかかる保険料率を算出する際も、最新の雇用保険料率で計算する必要があります。たとえば、一般事業に従事するAさんの賞与が40万円だった場合を考えてみましょう。2023年4月以降、賞与にかかる雇用保険料率は次のとおり計算されます。
Aさんの負担分 | 40万円×6/1,000(0.6%)=2,400円 |
---|---|
事業主の負担分 | 40万円×9.5/1,000(0.95)※=3,800円 |
※失業等給付・育児休業給付の保険料率と雇用保険二事業の保険料率を合算したもの
3.労働保険の年度更新時の計算
労働保険とは、雇用保険と労災保険の総称です。労働保険の保険料は「毎年4月1日から翌年3月31日まで」を一単位として計算されます。労働保険の年度更新の手続きは毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要がありますが、その時点ではまだ1年間の給与総額が決定していないため、正確な雇用保険料を計算することができません。
そこで、労働保険の年度更新における手続きでは、まず新年度の概算保険料を納付し、年度末に過不足分を精算するという仕組みが採用されています。このとき、新年度の概算保険料は「引き上げ後の雇用保険料率」で計算するため、年度更新の担当者は注意が必要です。
雇用保険料率の引き上げで給料の計算方法を変えるタイミング
雇用保険料率が改定された場合、新しい保険料率が適用されはじめるのは「4月1日以降に支払い義務が確定した賃金」です。つまり、新しい保険料率を適用するか否かは、給与締め日が4月1日より前か後かで判断できます。よって、4月支払い分に対して適用される雇用保険料率は、以下のように考えられます。
締め日・支払い日 | 適用される雇用保険料率 |
---|---|
当月締め・当月払い | 新しい保険料率 |
月末締め・翌月払い | 従来の保険料率 |
たとえば、4月20日締め、4月末払いの場合は、4月1日以降に締め日が設定されているため新しい保険料率を用います。一方、3月31日締め、4月20日払いの場合は支払いの確定タイミングが3月中なので、計算に使用するのは従来の保険料率です。給与計算ツールなどを使っている場合も、正しい保険料率が反映されているかどうか確認しましょう。
雇用保険料率が引き上げられた2つの理由
そもそも雇用保険制度の目的は「雇用の安定」と「就職の促進」にあります。つまり、雇用保険の枠組みに含まれる助成金・給付金などの申請が増えると財源が不足し、雇用保険料率が引き上げられるという仕組みなのです。
1.雇用調整助成金の申請が増えたため
2020年以降は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、店舗を休業としたり、営業時間を短縮したりと、事業活動の縮小を余儀なくされる事業主が相次ぎました。
そこで、政府は新型コロナウイルス感染症の影響によって雇用調整(休業)を実施する事業主に対し、雇用調整助成金の特例措置を設けました。通常の雇用調整助成金の受給要件を大幅に緩和したことで、より多くの事業主に支援が行き届く仕組みを整えたのです。
その結果、雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金の支給決定件数は、2022年6月10日時点で約659万件にも上りました。このように、新型コロナウイルス感染症の影響で雇用調整助成金の申請件数が増えたことが、雇用保険料率の引き上げにつながっています。(※2023年4月時点の情報です)
2.雇用保険の申請が増えたため
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、多くの失業者を生みました。その結果、雇用保険の失業手当の申請件数は大幅に増加しています。厚生労働省が公表した資料『雇用保険制度の現状について』からも、2020年の基本手当の受給者実人員は前年比22.8%アップと、コロナ禍をきっかけに大きく増えていることがわかります。
受給者実人員 | 前年度比 | |
---|---|---|
平成23年度 | 624,953 | △4.4 |
平成24年度 | 576,277 | △7.8 |
平成25年度 | 526,858 | △8.6 |
平成26年度 | 467,052 | △11.4 |
平成27年度 | 435,563 | △6.7 |
平成28年度 | 400,746 | △8.0 |
平成29年度 | 378,344 | △5.6 |
平成30年度 | 374,762 | △0.9 |
令和元年度 | 387,224 | 3.3 |
令和2年度 | 475,700 | 22.8 |
令和3年度 | 434,296 | △8.7 |
雇用保険料率の引き上げにより懸念される問題
雇用保険料率の引き上げは、事業主・従業員双方にとって大きな負担となるでしょう。なかには雇用保険料の負担を軽減するため、正規雇用の割合を減らす企業も現れるだろうと予測されています。
正社員数を減らすデメリット
雇用保険の財源が減少すると、それだけ雇用保険料率がアップする可能性があります。企業が正規雇用を避ける傾向が進むと、どのような結果がもたらされるでしょうか。雇用保険の対象者が減ることで、国が回収できる雇用保険料が減少し、ますます雇用保険料率が引き上げられる恐れがあります。
また、非正規雇用の割合が増えると「積極的な人材育成が困難」「人材の流出が進む」といったリスクが高まります。企業が正規雇用を削減する際は、デメリットを含めて慎重に検討しましょう。
改定後の保険料率の適用タイミングを知り、雇用保険料を正しく計算
雇用保険料率は一定ではなく、毎年見直しが行われています。特に、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響により雇用保険の財源が減少した結果、雇用保険料率の引き上げが続いています。今後も改定される可能性があるため、最新の保険料率と、適用されるタイミングをおさえることが大切です。
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