労働基準監督署に通報された会社はどうなる? 通報後の流れや対応時の注意点を解説

労働基準監督署に通報されると、「会社はどうなるのか」「どのような対応をすればよいか」と不安になる方もいるでしょう。
労基署への通報で、必ずしもすぐに処分されるわけではありません。通報後に焦らず落ち着いて、法的に正しい手順を踏むことで、最悪の事態は回避できます。
本記事では、労働基準監督署に通報されたあとの具体的な流れから、是正勧告や送検に至るケース、実際の対応策まで詳しく解説します。

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労働基準監督署に通報された会社はどうなる?
従業員が労働基準監督署へ通報すると、「申告監督」として調査が行われる可能性があります。ただし、通報があったからといって、必ず調査に入るわけではありません。
労働基準監督署が通報内容を確認し、法令違反の疑いが強く、重大と判断された場合にだけ調査が開始されます。
調査では、労働条件や職場環境の確認に加え、帳簿の提出や事業場への立ち入り検査などが行われます。違反が見つかれば、是正指導や是正勧告を受けることになるでしょう。
また、調査を拒んだり妨害したりすると、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。是正せずに放置するなど、悪質と判断されると、送検や企業名の公表も避けられません。
最終的には、会社や代表者が起訴され、有罪となる可能性もあります。こうした事態を防ぐためにも、日頃から労働時間・賃金・安全衛生の管理を法令に沿って行い、従業員が相談しやすい環境を整えることが大切です。
従業員に通報される例
従業員には、労働基準法第104条により、会社の法令違反を労働基準監督署に申告する権利が認められています。申告権は労働者を守るための制度であり、会社が通報を理由に不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。
実際に通報されやすいのは、次のような事例です。
- 残業代の未払い
- 長時間労働の強要
- 最低賃金を下回る賃金の支払い
- 有給休暇の取得を認めない対応
- 労働条件の明示が不十分
なかでも、36協定を締結しないまま時間外労働をさせたり、上限を超える残業を命じたりすると、従業員の不安や不満が高まり、通報につながるケースが少なくありません。
また、法令違反が発覚するきっかけは、従業員からの通報だけとは限りません。労働基準監督署が行う定期的な監督や、労働災害が発生した際の調査によって、問題が明らかになる場合もあります。

労働基準監督署に通報されたあとの流れ
労働基準監督署に通報されると、会社は一定の手続きを経て対応していくことになります。
通報から最終的な判断までの流れを把握しておけば、適切な対応が可能です。
労基署への通報後の基本的な流れは、次のような段階で進みます。
- 立ち入り調査の実施
- 文書による指導
- 改善内容の報告
- 必要に応じた再調査
各段階ですみやかな対応を心がけ、問題の長期化を防ぎましょう。
1.立ち入り調査(臨検)を受ける
労働基準監督署が通報内容を確認したうえで調査が必要と判断されると、会社への立ち入り調査が行われます。
調査は予告される場合と、抜き打ちで行われる場合があります。
事前の連絡がある場合は、例として以下のような書類を準備しなければなりません。
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 出勤簿・賃金台帳
- 労働者名簿
調査当日は、労働基準監督官が事情聴取や帳簿の確認、現場検証を実施します。 具体的には、次の点が確認されることが多くあるでしょう。
- 就業規則の整備・周知状況
- 労働条件が守られているか
- 勤怠管理や賃金計算の方法
- 残業代の支払い状況
- 健康診断の実施状況
労基調査を拒否・妨害した場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があります。誠実な対応を心がけましょう。
2.是正勧告など文書指導を受ける
立ち入り調査の結果、労働基準法違反や改善点が見つかった場合、労働基準監督署から文書による指導が行われます。
主に交付される書類は、次の3種類です。
| 文書 | 交付されるケース | 記載事項(例) |
| 是正勧告書 | 法令違反が認められる場合 | 違反事項 根拠となる条文 是正期日 |
| 指導票 | 違反とはいえないものの、改善が必要な場合 | 改善事項 |
| 使用停止等命令書 | 危険な機械設備の使用停止などを命じる場合 | 使用停止の機械 |
文書は後日、労働基準監督署に出頭して受け取るのが一般的です。受領時には署名や捺印を求められます。
3.是正・改善を報告する
是正勧告書や指導票を受けた場合は、指定された期日までに改善措置を講じ、 「是正報告書」または「改善報告書」を労働基準監督署に提出します。
報告書には、次を添付します。
- 実施した改善内容
- 是正が完了したことを示す資料
是正勧告日から提出期限までは、通常1か月程度しかありません。
未払い残業代の計算や就業規則の作成など、時間を要する対応は、期日に間に合わない場合もあります。
その際は、早めに労働基準監督署へ事情を相談しましょう。 正当な理由があれば、期限を延ばしてもらえる可能性があります。
必要な改善を行い、報告書を提出した段階で、多くは一区切りです。
4.報告内容に応じて再調査・送検される
提出された是正報告書の内容によっては、再度の調査(再監督)が行われることがあります。再監督が行われやすいのは、次のようなケースです。
- 報告書が期限内に提出されなかった
- 内容は提出されたが、実態の確認が必要と判断された
- 是正勧告書の受け取りに応じなかった
再監督の結果、改善が不十分と判断されたり、違反が悪質と認められたりすると、検察庁への送検対象です。
実際に送検された場合、刑事手続きに移行し、起訴され、有罪判決に至った例もあります。
是正対応は、企業の姿勢まで見られると理解しましょう。

労働基準監督署に通報されても意味ない?
従業員の立場からすると「通報しても意味がないのでは」と感じられることがあります。
労働基準監督署は、すべての通報について必ず調査するわけではないからです。証拠が不足している場合や、違反の程度が軽いと判断された場合は、すぐに動きません。
また、労働基準監督署は限られた人員と予算の中で業務を遂行しており、緊急性や重大性の高い案件から優先して対応せざるを得ない事情もあります。そのため、通報しても調査が始まらず、労働者からすると「通報しても無駄」と感じてしまうのです。
一方で、企業側にとっては通報が、「意味がない」ものではありません。
通報の事実は記録として残り、今回調査が入らなくても、同様の通報が重なれば、調査対象となる可能性は高まります。
労基署が動いていないから放っておくのは危険です。早い段階で制度や職場環境を見直していくことが、将来的なリスク回避につながります。
労働基準監督署に通報されたあとの企業対応
労働基準監督署に通報されたとしても、企業が適切に対応すれば、事態の回避は可能です。
重要なのは、焦って場当たり的に対応するのではなく、法令に沿って冷静に行動することです。
企業の対応姿勢は、その後の判断や処分の重さにも少なからず影響するでしょう。
協力的な態度で臨むと、労働基準監督署からの信頼を得やすくなり、問題の早期収束につながります。
一方で、非協力的な態度や不適切な言動は、事態を悪化させかねません。
通報後の企業対応で意識したいポイントは、次の4つです。
- 調査に協力する
- 資料・証拠を準備する
- 口頭での説明も準備する
- 是正勧告に対応する
調査に協力する
労働基準監督署の調査に対しては、誠実で協力的な姿勢で臨みましょう。調査を拒否・妨害した場合には罰則の対象となり、法的にも協力する義務があります。
現場では「余計なことは言わない」「最低限で済ませたい」と考えてしまいがちですが、消極的な態度はかえって印象を悪くし、再調査につながるリスクを高めます。
質問には、ていねいに正確に答え、事実と異なる説明は避けなければなりません。不明点はその場で無理に答えず、素直に「わからない」と答えましょう。後日確認して回答する旨を伝えることが適切です。
また、当日の担当者をあらかじめ決め、認識をそろえておくと、社内で連携して一貫した対応がとれます。
資料や証拠を準備する
労働基準監督署から調査の連絡を受けたら、指定された書類を確実に準備します。主に求められるのは、次の書類です。
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 労働者名簿
- 出勤簿、タイムカード
- 日報
- 賃金台帳
- 年次有給休暇管理簿
- 36協定
- 健康診断個人票 など
書類は最新の状態で整えておく必要があります。準備段階で不備が確認されたら、調査前に整備しておくことも可能ですが、改ざんは絶対に行ってはいけません。
準備不足は労働基準監督署の印象を悪くするため、指定された書類は必ず当日までに準備するよう心がけましょう。
万一、作成していない書類が発覚したら、当日は事実を正直に伝えます。虚偽の提出は、もとの違反よりも重い処分を招くおそれがあるからです。
書類に加えて、労働環境や設備の状況についても確認し、現場検証に備えましょう。

資料で説明しきれない主張も準備する
労働基準監督署の調査では、書類だけでは説明しきれない事情や背景について説明を求められることもあります。
とくに次のような複雑な事項は、口頭での補足が必要になる場面が少なくありません。
- 労働時間管理の方法
- 賃金計算の考え方
- 安全対策の実施状況
あわせて、これまでの改善に向けた取り組みや、今後の再発防止策についても整理しておくとよいでしょう。
労働基準監督官は、法令違反の事実確認だけでなく、企業の改善意欲や対応姿勢も評価するとされています。
問題の原因分析や、具体的な改善計画、すでに実施している改善措置も説明できるようにしておく準備をおすすめします。
是正勧告・改善指導には素直にしたがう
労働基準監督署から是正勧告や改善指導を受けた場合は、内容を確認したうえで、素直にしたがうことが重要です。
是正勧告は行政指導の一種で強制力はありません。しかし、対応しない場合には、結果として書類送検となり、罰せられる可能性もあります。
是正勧告書には、違反内容、根拠条文、是正期限が記載されています。期限内に改善措置を講じ、是正報告書を労働基準監督署に提出しなければなりません。
是正勧告日から報告書提出までは通常1か月程度しかなく、未払い残業代の精算や就業規則の整備などの多くは、対応が困難です。
期限内に合わない場合は、早めに相談すれば、事情に応じて期日の調整が認められることもあります。
誠実に対応する姿勢が、結果として企業の信頼につながります。
労働基準監督署に通報されないために日頃から必要な整備
労働基準監督署への通報を防ぐには、日頃から適切な労務管理体制の構築が重要です。
通報の多くは労働基準法違反に起因するため、法令遵守の徹底によって、通報リスクを下げられます。
企業が整備したい項目は多岐にわたりますが、まずは次のような基本から取り組みましょう。
- 就業規則の整備
- 労働条件の明示
- 時間外労働の管理
- 客観的な方法での労働時間管理
- 年次有給休暇管理簿の保管
- 法定三帳簿の更新
- 健康診断の実施
就業規則を整備する
労働基準監督署の調査では、就業規則が適切に作成・届出・周知されているかが確認されます。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成が義務づけられている重要な書類です。
労働時間、休日、休憩、賃金、退職などの「絶対的必要記載事項」を必ず含める必要があります。
また、退職手当や安全衛生に関する定めがある場合は、「相対的必要記載事項」として記載しなければなりません。
就業規則の作成後は、労働者の過半数代表者の意見を聴いたうえで、労働基準監督署へ届け出ます。
あわせて、全従業員への周知も欠かせません。周知が不十分な場合、就業規則の効力が認められないため注意が必要です。
法改正にあわせた定期的な見直しも重要です。適切に整備された就業規則は、労働条件を明確にし、労使間のトラブル防止に役立ちます。
労働条件通知書・雇用契約書を交付する
労働基準監督署の調査では、労働条件が適切に明示・交付されているかも必ず確認されます。
労働条件通知書は、雇用するすべての労働者に対して交付が義務づけられている書類です。
正社員、有期雇用、短時間労働者を問わず、雇い入れ時に必ず交付する必要があります。
主な記載事項は、次の内容が含まれます。
- 労働契約の期間
- 就業場所
- 業務内容
- 労働時間
- 休日
- 賃金 など
新卒採用の場合は内定までに、求人募集時にも労働条件の明示が求められます。
また、労働条件に変更があった場合は、すみやかに通知しなければなりません。有期雇用者の契約更新時も、内容が同一であっても再交付が必要です。
適切な交付により、認識の食い違いを防ぎ、あとのトラブルを避けられます。労働条件は書面交付が原則ですが、労働者が希望すればメールでの送付も可能です。
36協定を締結・更新する
労働基準監督署は、時間外・休日労働が、36協定に基づいて行われているかを重点的に確認します。
36協定は、時間外労働や休日労働をさせる場合に必ず締結しなければならない労使協定です。特別条項の有無により様式が分かれており、一般条項のみなら「様式第9号」、特別条項を設けるなら「様式第9号の2」を使用します。締結後は、労働基準監督署への届出が必要です。
36協定を締結して、はじめて時間外労働を命じられます。ただし、協定を結んでいても、時間外労働の上限は原則「月45時間・年360時間」までです。
上限を超えて残業させる場合は、特別条項付き36協定を締結し、より厳格な要件を満たす必要があります。
36協定の有効期間は最長1年のため、毎年忘れずに更新しましょう。勤怠管理システムを活用すれば、協定で定めた上限時間の管理も行いやすくなります。

客観的な方法で労働時間を管理する
労働基準監督署の調査では、「労働者が何時から何時まで働いていたか」労働時間の客観的な記録状況が確認されます。
2019年4月から始業・終業時刻の正確な記録が義務化されており、適切に管理していないと通報の対象です。
「客観的な記録」として認められているのは、次の4つの手段です。
- タイムカード
- ICカードリーダー
- パソコンのログイン・ログオフ記録
- 管理者による現認
重要なのは、1日の合計勤務時間ではなく、始業・終業時刻を日ごとに残すことです。
正確な労働時間の管理は、適正な賃金支払いの基礎となり、未払い残業代の防止にもつながります。勤怠管理システムを活用すれば、客観性と正確性が保てるでしょう。

年次有給休暇管理簿を適切に管理する
労働基準監督署は、有給休暇の取得状況を管理簿で適切に管理しているかを確認します。
年次有給休暇管理簿は、有給休暇の取得状況を記録する帳簿です。調査では、次のような基本事項が確認されるでしょう。
- 基準日
- 付与日数
- 取得日
- 残日数
2019年4月からは、年5日の有給休暇取得が義務化されており、管理簿による管理の重要性が高まっています。
管理簿の作成方法は、主に次の3種類があります。
| 手書き | 従業員ごとにテンプレートを用意して取得の都度記入 |
| エクセル | 計算式により残日数を自動管理 |
| 勤怠管理システム 有給管理システム(ソフト) | 申請・承認から管理簿の更新まで一元管理 |
管理簿は3年間の保存義務があるため、保管体制の整備も欠かせません。

法定三帳簿を更新しておく
労働基準監督署の調査では、法定三帳簿の整備状況が必ず確認されます。法定三帳簿とは、次の3つです。
| 労働者名簿 | 従業員の基本情報を記録 |
| 賃金台帳 | 賃金の支払い状況を記録 |
| 出勤簿 | 日々の労働時間を記録 |
いずれも労働基準法で作成・保存が義務づけられており、保存期間は5年間(当分の間は3年間)です。
調査時に記載漏れや虚偽記載が発覚すると、罰則の対象となるでしょう。たとえば、賃金台帳には、以下の項目を適正に記載しなければなりません。
- 労働日数
- 労働時間数
- 休日労働時間数
- 時間外労働時間数
- 深夜労働時間数
従業員数が少なければ、紙やエクセルでアナログ管理も可能ですが、管理人数が多いほど、勤怠管理システムを活用すると効率的です。
法定三帳簿の適切な管理は、労務管理の基本であり、法令遵守の証明になります。
健康診断を実施する
労働基準監督署は、定期健康診断の実施状況や記録の保存状況も確認します。
労働安全衛生法により、常時使用する労働者には定期健康診断の実施が義務づけられています。
- 一般健康診断:年1回以上
- 深夜業務従事者:6か月以内ごとに1回
結果は「健康診断個人票」として記録し、5年間保存しなければなりません。
健康診断は、従業員の健康管理だけでなく、企業の安全配慮義務に直接的に関係します。
実施していないと、50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
健診結果で従業員に異常が認められたら、医師の意見を聴いたうえで、就業制限や職場環境の改善に取り組まなければなりません。
適切な実施とフォローにより、従業員の健康保持と労働災害の防止につながり、労働基準監督署への通報リスクも減らせるでしょう。
まとめ
労働基準監督署に通報されても、すぐに処分や送検が決まるわけではありません。労基署は通報内容を精査し、違法性が高い案件に対して本格的な調査に乗り出します。
調査が入っても、その向き合い方によって、結果は大きく変わります。協力姿勢を示し、期限内の書類提出によって改善報告をすれば、送検や企業名の公表といった事態は避けられます。
ただし、実地調査が行われなくても、通報記録は残るため、放置するのは危険です。日頃から労働時間・賃金・安全衛生を法令に沿って整備し、トラブルを未然に防ぐ体制を整えましょう。
