マミートラックとは? 意味や原因、対策をわかりやすく解説

マミートラックとは、女性が子育てによってキャリアのコースから外れてしまう状態のことです。女性が社会で働く際、仕事と子育ての両立が難しいケースがあり、出世が困難になるケースがあります。

企業は、女性が仕事と子育てのどちらも妥協せずに行えるような働きやすい環境整備が必要です。本記事では、マミートラックの意味をわかりやすく解説し、原因や対策をご紹介します。女性の活躍推進や働きやすい環境を整備したいと考える企業の経営層や人事担当者は、ぜひ参考にしてください。

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    マミートラックとは

    マミートラックは、英語の「Mommy(母)」と「Track(陸上競技におけるコース)」を掛け合わせた言葉です。女性従業員が、出産や育児をきっかけに、出世コースから外れたり、キャリアが狭まるような状況に陥る状態を指します。

    マミートラックに陥っている女性社員は、スキルや経験を活かして活躍するような働き方がなかなかできません。企業が育児中の女性を重要な業務やプロジェクトから外すことで、育児中の女性従業員は、結果的に昇進や昇格などの出世ができなくなってしまうのです。

    日本政府では、「女性版骨太の方針」や「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」を立ち上げるなどして女性の活躍を推進していますが、一般的には浸透していないのが現状です。

    参照:『女性活躍・男女共同参画の重点方針2024 (女性版骨太の方針2024) 』内閣府 男女共同参画局
    参照:『女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム』厚生労働省

    マミートラックの語源

    マミートラックという言葉は、アメリカで誕生しました。1988年、NPOカタリスト初代代表フェリス・シュワルツ氏が、キャリアと家庭の両立を望む女性従業員に対して、働きやすい環境整備を提案したことから始まります。このような働き方に「マミートラック」という名前が付けられました。その後、企業が働く母親をサポートするというポジティブな意味合いで用いられるようになりました。

    しかし近年では、「マミートラック」という言葉が持つ印象が変わってきており、女性が育児をしていると仕事の出世はできないネガティブな意味合いが強くなっています。

    参照:『マミー・トラック|日本女性学習財団|キーワード・用語解説』公益財団法人 日本女性学習財団

    マミートラックの原因

    マミートラックに陥る原因にはどのような点が考えられるのでしょうか。具体的な原因を解説します。

    制度の不足

    マミートラックの主な要因として、職場における母親支援制度の不足が指摘されています。出産後も仕事と育児を両立できるような環境が十分に整備されていないのが現状です。たとえば、フレックスタイム制や時短勤務など、一般的なフルタイム出勤ではなく、限られた時間を活かして勤務できます。

    また、働く場所を選ばないテレワークもそのひとつです。オフィスへの通勤時間をなくして、空いた時間を業務に充てられるため、裁ける業務量も増えます。状況に応じて有給休暇の当日申請を認める制度なども魅力的でしょう。

    こうした制度が整っていない状況下では、欠勤や遅刻、早退が増えてしまい、人事評価に悪い影響が及びます。その結果、子育てをする女性の昇格や昇進が難しくなり、出世コースからは遠ざかってしまうのです。

    会社全体の理解不足

    マミートラックの原因は、企業全体としての理解不足も挙げられます。たとえば、「女性は出産すると仕事はできない」、「育児をしながら仕事で成果は出しにくい」、「子どもがいる従業員は、責任の重い仕事は任せられない」など、偏見がマミートラックを生み出すのです。企業としてこのような考え方が浸透していると、本人が希望していないにもかかわらず、配置転換が行われたり、働く母親は重要な業務を与えてもらえなかったりします。

    コミュニケーション不足

    マミートラックの一因として、人事部門や管理職が従業員本人との対話やコミュニケーションを適切に行っていないケースも指摘されています。本人はキャリアを磨きたいという希望があるにもかかわらず、人事担当者や上司に伝える機会がない状況なども考えられます。

    人事担当者や上司は、育児をしながら働く従業員とのコミュニケーションも定期的に行い、仕事の展望をヒアリングして把握しましょう。コミュニケーションが不足すると、本人の希望と異なる方向で話が進んでしまいます。

    長時間労働を前提とした環境

    マミートラックの原因となる働き方は、長時間労働です。一部の企業では、早朝から深夜に及ぶような過度な労働時間が通常とみなされる企業文化が存在しています。このような組織では、長時間労働が慣習化され、従業員に対して暗黙の期待となっているのです。このような企業では、母親は時間に制約があり長時間労働ができないため、人事評価が下がります。

    マミートラックの弊害や問題点

    マミートラックによって企業にはどのような弊害が起こるのでしょうか。具体的な問題点をご紹介します。

    キャリア形成への支障

    マミートラックは、従業員の成長を妨げることになり、キャリア形成に支障が生じます。企業が母親である従業員に重要な業務やポジションを任せられないため成長する機会が少なくなります。その結果、人事評価などにも悪い影響が生じ、出世コースからも外れててしまうことも珍しくありません。本来優秀な人材であったにもかかわらず、マミートラックによって重要な業務や出世コースから外れてしまうことは、企業にとっても大きな損失です。

    モチベーション低下

    マミートラックは、女性従業員のモチベーションを低下させます。マミートラックに陥っている女性従業員はもちろん、結婚や出産を迎えていない女性従業員にとっても、キャリア形成が難しくなることで将来性を感じられなくなるからです。モチベーションが低下すると、業務パフォーマンスの低下や成果が出しにくくなり、最終的には離職にもつながりかねません。

    企業イメージの低下

    マミートラックは、企業イメージの低下につながり、優秀な人材が集まりにくくなる要因です。とくに女性は、「就職後、妊娠や育児の段階に入ると、職場での活躍の機会が制限される」と感じてしまいます。

    また、マミートラックによる企業イメージの低下は、人材獲得の面だけでなく、顧客の購買行動や取引先との関係性にも悪い影響が生じる恐れがあります。女性活躍のサポートをしていない企業としてのイメージがついてしまうことは、社外からの評価も悪くなってしまうのです。

    早期離職

    マミートラックは、人材の早期離職にもつながります。たとえば新卒採用で入社した若手社員が、マミートラックに陥る先輩社員を目の当たりにした場合、「いつか自分もこうなるかもしれない」と危機感を感じます。ライフステージに関係なく、女性の活躍を推進する企業がほかにあった場合、人材は他社へ流れてしまうでしょう。

    マミートラックへの対策

     マミートラックは、人材のモチベーションを低下させ、離職にもつながる深刻な人事課題です。企業は、今いる人材の流出防止と今後優秀な人材を獲得するためにも、マミートラックの対策が求められています。そこで具体的にマミートラックに有効な対策を紹介します。

    アンケートなどで現状調査

    マミートラックの対策として、まず社内調査を行うのがおすすめです。従業員がマミートラックについてどう感じているのか、どのようなケースでマミートラックが生じていると感じるのかなどを調査してみましょう。企業が一方的に想像・判断するのではなく、従業員の声に耳を傾けることで、新しい気付きがあるはずです。

    職場の理解を深める

    マミートラックに陥らないためには、企業全体で多様な働き方に対する理解を深めることが大切です。女性の出産や育児について理解を促すことはもちろん、さまざまな意見を大切にするためにも、研修会や意見交換会などを実施してみるのも効果的です。

    制度見直しと再設計

    マミートラックに陥らないために、社内制度の見直しや再設計を行いましょう。育児休業や時短勤務だけでなく、働く場所や時間帯を柔軟にすることも大切です。近年では、公平性の観点から、産休や育休を取得する従業員によって、業務負担が重くなる周囲のメンバーなどに配慮する企業も出てきています。政府も、2024年から「両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)」を施行しました。

    参照:『両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)』厚生労働省

    人事評価制度の見直し

    マミートラックを防ぐためには、出産や子育てが人事評価に与えないような制度設計が重要です。たとえば、勤務時間や勤務場所などの働き方によって評価が変わることのないようにしなければなりません。

    また、社内全体として成果とキャリアアップを連動させるなど、成果を軸にした人事評価制度を整えるための見直しが必要です。企業は、すべての従業員に対して、成果に基づいた人事評価を徹底することで、従業員からの納得感を得られるでしょう。

    女性のコミュニティを形成

    マミートラックの対策として、女性従業員専用のコミュニティを形成することも有効です。子育ての経験の有無にかかわらず、対話や交流の機会が提供されれば、育児に関する知見や情報を入手し、不安を軽減できます。企業は定期的に交流できる機会を設けましょう。

    面談や1on1の実施

    マミートラックは、企業と本人のコミュニケーション不足によっても深刻化します。企業は育児中の従業員に対して一方的な思い込みによって判断しているかもしれません。従業員本人の思いや今後のキャリアプランなどをヒアリングし、どのような働き方をしていきたいか、じっくり話し合う機会を定期的に設けましょう。

    マミートラックへの対策を行う企業事例

    マミートラックの防止を含め、女性の活躍をサポートする企業の取り組み事例を紹介します。女性の活躍を推進したい企業は、ぜひ参考にしてください。

    大塚製薬株式会社

    大塚製薬株式会社は、ダイバーシティの概念がなかった1980年代から、人材の多様性を尊重してきました。女性の活躍推進をめぐっては、以下のような取り組みを行っています。

    女性MRの積極的な採用

    当初は、業界全体の傾向として定着率の低さなどから女性MRは少ない傾向にありました。

    大塚製薬では、多様な人材が仕事と家庭を両立できるための施策を実施した結果、1996年には男女採用者数が同数となるなど、段階的に女性MRが増加しました。

    子育て中も働ける職場づくり

    子育てをしながらも働き続ける職場づくりのため、大塚製薬株式会社では以下のような施策を実施しました。

    • 「Otsuka Women’s Workshop」や各種フォーラム開催でキャリア継続の意識づけ
    • 両立支援制度の拡充と周知で、働き方や制度・環境を整備
    • 管理職層に対するダイバーシティへの理解促進を行い、意識改革や成果に基づく人事評価を実施
    • 長時間労働の抑制として、チームでフォローし合う体制や業務のメリハリを強化

    女性リーダーの育成

    女性リーダーを育成するための環境も整備しています。たとえば、女性メンバーで行う勉強会や本人の能力や成果をもとに、女性をリーダー職に積極的に登用しています。その結果、管理職に占める女性の割合は7.7%、役員に占める割合は13.0%となり、年齢や性別にかかわらず、優秀な従業員を登用できました。

    参照:『ダイバーシティ&インクルージョン | 従業員と共に | S(社会) | サステナビリティ 』小林製薬株式会社

    キューピー株式会社

    キューピー株式会社では、女性の活躍が当たり前になる企業への変革に挑戦しています。とくに特徴的な取り組みを以下で紹介します。

    女性従業員への情報提供

    女性のライフステージとして産前産後休業や育児休業に関する情報を提供することで、気軽に制度内容や申請方法を確認できる仕組みを整えました。個人単位ではなく、事業所や部門ごとにこうした制度の周知を行うことで、知る機会を増やしています。

    両立支援制度の充実

    結婚や子育てをしながら継続して働くために、転居を伴わない総合職制度や配偶者異動制度、フレックス制度、独自の育児休業制度などを導入しています。出産から職場復帰のサポートも行い、ライフステージがキャリア形成に不利に働かないような制度を整備しています。

    男性従業員向けの取り組み

    出産や育児を行う女性従業員向けだけでなく、男性従業員に向けてもさまざまな取り組みを行っています。家族と過ごす時間を大切にしてほしいという考えから、男性従業員を対象にした離乳食教室や、過去には料理教室を開催していました。また、男性でも育児休業申請を取得するための仕組みを整えています。

    参照:『女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例』厚生労働省

    参照:『多様な人材の活躍 | サステナビリティ 』キューピー株式会社

    まとめ

    マミートラックは、女性がキャリアと子育てを両立しようとする際に、昇進や昇格の機会が制限されるような、キャリア形成に支障が生じる状態です。

    マミートラックは、企業が優秀な人材のスキルや経験を活かせなくなったり、企業イメージの低下にもつながったりするため、よい影響はありません。

    マミートラックを防止するための対策を改めて検討し、女性の活躍をサポートできるような体制づくりを強化していきましょう。