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アウティングの意味とは|カミングアウトとの違いと問題点、訴訟事件、法律を解説

アウティングの意味とは|カミングアウトとの違いと問題点、訴訟事件、法律を解説

アウティングとは、人の性的指向や性自認である「SOGI(ソジ)」をほかの人に暴露することを指します。過去にはアウティングをきっかけに訴訟へ発展した事例があり、罪に問われる恐れもある危険な行為です。

本記事では、アウティングの意味や概要を詳しく解説します。企業への影響や対応策、防止策についても触れるので、企業の経営者・マネジメント層をはじめ、人事担当者は参考にしてください。

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    アウティングの意味とは

    アウティングとは、他人のセクシュアリティを勝手に第三者へ言いふらす行為を指す言葉です。英語の「outing」を語源とし、本来は、他人の秘密を許可なく暴露すること全般を意味します。

    日本では、第三者のSOGI(性自認・性的指向)をLGBTQ+当事者の許可を得ず他人に言いふらしたり、SNSなどに書き込んで暴露したりすることを指す際に使われます。2015年、一橋大学の大学院生がアウティングをされたあとに自死した事件がきっかけとなり、世間から注目を集めました。

    当事者が公にしていないセクシュアリティを暴露するアウティングは、プライバシーの侵害になるとともに精神的苦痛を与える行為であり、決して許されるものではありません。

    参考:『同性愛暴露され院生転落死 親が一橋大提訴』日本経済新聞

    アウティングとカミングアウトの違い

    アウティングと似た言葉にカミングアウトがあります。

    アウティングとは、当事者の了解を得ずにSOGI(性的指向や性自認)を暴露する行為です。

    一方、カミングアウトは、これまで誰にも打ち明けていない自分の秘密を第三者に伝える行為を意味します。英語の「Come out of the closet(クローゼットから出ていく)」が語源です。LGBTQ+から見ると、カミングアウトは自分のセクシュアリティを第三者に打ち明けることです。

    つまり、LGBTQ+の当事者がみずから公表するのがカミングアウト、当事者ではない第三者が暴露するのがアウティングです。

    アウティングは違法? ハラスメント?

    アウティングはハラスメントに該当し、違法行為と見なされる恐れがあります。ここでは、アウティングが違法となるリスクについて詳しく解説しましょう。

    根拠となる法律

    2023年現在、アウティングそのものを規制する法律は存在しません。しかし、アウティングは明らかなハラスメント行為にあたると考えられます。

    『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、パワハラ防止法)』や『令和2年厚生労働省告示5号』において、以下の通り「精神的な攻撃」の例に挙げられているためです。

    労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

    引用:『令和2年厚生労働省告示第5号』厚生労働省

    パワハラ防止法は、2019年の雇用対策法改正をきっかけに明確化されました。同時に性的指向・性自認に関連した差別的な言動(SOGIハラスメント)やアウティングの防止も、パワハラ対策の一環として、企業に義務づけられたのです。

    参照:『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』e-Gov法令検索

    問われる可能性がある罪

    アウティングによって問われる恐れがある罪は、以下の通りです。

    • 名誉毀損罪
    • 侮辱罪
    • 強要罪
    • 恐喝罪

    たとえば、アウティングによって当事者のプライバシーを侵害し名誉毀損罪に問われた場合、3年以下の懲役か禁錮(きんこ)、もしくは50万円以下の罰金が科せられます。

    第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する

    引用:『刑法(明治四十年法律第四十五号)』e-Gov法令検索

    アウティングの訴訟事件・事例|労災認定される?

    アウティングに関する事件や訴訟問題は全国で発生しています。ここでは、具体的な訴訟の事例を詳しく解説しましょう。

    一橋大学

    2015年に発生した『一橋大学アウティング事件』は、同大学院の学生Aさんが、同級生の学生Bさんに告白した内容を同級生に暴露され、自死した事件です。

    Aさんの遺族は、Bさんと大学側を相手に損害賠償を求める裁判を起こしましたが、自死を予見できなかったとして一審・二審ともに棄却されています。

    しかし、東京地裁はアウティングについて「人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為」と、国内で初めて違法性に言及して話題を集めました。

    東京都の保険代理店

    東京都豊島区の保険代理店勤務20代のAさんが、上司のアウティングにより精神疾患を発症し、労災認定された事例です。国内初のアウティングを発端とする労災認定として、注目を集めました。

    アウティングが明らかなパワハラ・人権侵害であると公的に認められ、補償の対象になり得ることが示されたのです。

    大阪府の医療法人

    大阪府吹田市の病院に勤務する看護助手のAさんが、性別変更の事実を本人の同意なく明かされてしまった事例です。2019年、Aさんは同僚から差別的な行為を受けたとして、病院に対して慰謝料など、1,200万円の損害賠償を求めて提訴しました。

    2022年に、病院側が上司の発言の一部について謝罪し、解決金を支払うことで和解しています。

    アウティングの問題点【何が悪いのか?】

    アウティングの問題点は、大きく分けて次の3つです。

    • 人格権やプライバシー権を侵害する
    • 差別の助長やハラスメントにつながる
    • 被害者は精神的苦痛を強いられる

    アウティングが起こってしまう原因として、性的マイノリティに対する差別や偏見が大きく関係していると考えられています。

    LGBTQ+の当事者からカミングアウトをされた人は、本人に確認し、自分以外の伝えてもよい範囲を把握することが大切です。

    アウティングによる企業への影響

    従業員のアウティング行為を放置すると、企業にも多大な影響を及ぼす可能性があります。想定される主な影響やリスクは以下の3点です。

    • 法的責任を問われる
    • 損害賠償を請求される
    • 企業イメージが悪くなる

    法的責任を問われる

    2023年時点で、アウティング自体に法的責任を問われるような法律上のペナルティは存在しません。しかし、企業として責任を問われる可能性も否定できません。

    たとえば、アウティングをした加害者を雇用した使用者責任や、従業員の生命・身体などの安全確保措置を怠った安全配慮義務違反などが考えられます。実際、民事上の損害賠償責任が問われる事例も起こり始めています。

    損害賠償を請求される

    従業員がアウティング被害を受けた従業員から、企業が損害賠償を請求される事例が増えています。アウティングは法的にもプライバシーの侵害にあたる深刻な問題です。企業には、アウティングを含むハラスメントへの予防措置を講じる姿勢が求められています。

    企業イメージが悪くなる

    アウティング発生時の対応によっては、企業のイメージダウンに直結します。実態がテレビやインターネットで報道・拡散されると、社会から信頼を失い、顧客離れや株価の下落にもつながる可能性もあります。

    ハラスメントが起こる働きづらい企業だと認識されてしまうと、今いる従業員の離職も免れません。離職率が高まるとともに優秀な人材の確保も難しくなるでしょう。

    アウティング発生時の対応と防止策

    企業内でアウティング被害が発生が判明した場合、初動対応が重要です。発生時の対応手順を紹介します。

    1.被害者へのヒアリング

    アウティングによる被害が発覚したら、まずは関係者へのヒアリングを実施します。

    先に被害者から話を聞くことで、具体的な事実を特定しやすくなります。聞き取った内容は、議事録やメモなどで証拠として残しておきましょう。

    被害者へのヒアリング内容
    ・いつ発生したか(具体的な日時)
    ・どのような状況で発生したか
    ・加害者とアウティングの相手

    2.加害者へのヒアリング

    被害者からの聞き取りを踏まえて、加害者に対するヒアリングを実施します。

    両者の意見に食い違いがあったり、意見が合わなかったりする場合は、第三者にも聞き取りを行ってください。ただし、不用意に情報を拡散させないように、ヒアリングの範囲は必要最小限にとどめましょう。

    3.対応の決定

    アウティングの事実が認められた場合、企業は以下のような対応を取ります。

    対象者処分・対応
    被害者配置転換
    加害者配置転換・懲戒処分・注意指導
    第三者ヒアリング内容を口外しないように伝える

    被害者に対しては、本人が望むのであれば、意向に沿って配置転換を実施します。加害者には、アウティングの悪質性によって処分を検討します。被害者と加害者で双方の同意があれば、謝罪の場を設けるのも一つの方法です。

    アウティングの防止策

    アウティングを防止するための対策を紹介します。

    加害者への措置と対応手順の明文化

    アウティングの加害者である従業員への措置を事前に決めておくことが大切です。処分を就業規則などで明示し、社内全体に周知すること自体が抑止力になります。

    マニュアルの整備

    アウティングが許されない行為であることを、前もって社内方針として示しましょう。専用のマニュアルを作成する際は、厚生労働省の『職場におけるハラスメント対策マニュアル』を参考にしてください。

    参考:『職場におけるハラスメント対策マニュアル』厚生労働省

    研修

    ハラスメントやLGBTQ+に関する研修の機会を設けることも防止策の一つです。

    アウティングが人権侵害であることや、どのような行為が該当するのか、正しい知識を伝えます。研修会や勉強会で定期的に発信し続けることで、社内の認識を深められるでしょう。

    個人情報に関するルールづくり

    従業員の個人情報を共有しなければならない場合のルールも策定する必要もあります。

    アウティングの問題点は、本人の同意が得られていないのに第三者が暴露してしまうことです。本人が納得していれば、のちの問題には発展しにくいです。経営者や管理者も含めて、個人情報の取り扱い範囲や必要性について徹底したルールのもと運用しましょう。

    アウティングの問題点を理解して働きやすい職場環境を整備

    職場でアウティングが行われると、従業員がうつ病や精神疾患を発症したり、退職したりする影響があります。最悪の場合、関係者の命にかかわる事件に発展するリスクも否定できません。法的責任を問われる前に、組織として対応手順を明文化しておくことをおすすめします。