社会保険の算定基礎届とは|書き方や提出方法、標準報酬月額の算出方法を解説
通勤や出張にかかる交通費は、企業から従業員に支給する場合が多いです。では、従業員に支給した交通費は、社会保険料の計算に含まれるのでしょうか。じつは、交通費は社会保険料だけでなく、税金の計算にも影響する場合があります。
そこで本記事では、交通費を従業員に支給している企業に向けて、社会保険料や所得税における交通費あるいは通勤手当の取り扱いについて解説します。社会保険料や税金の計算を担当している方は、ぜひ参考にしてください。
社会保険の算定基礎届とは
社会保険の算定基礎届について、概要および算定基礎の対象である従業員について解説します。
算定基礎届(定時決定)
算定基礎届(定時決定)とは、社会保険料を決める際の基準となる標準報酬月額が、実際に支払われた報酬と大きく乖離していないかどうかを見直すための届け出です。毎年1回、4月から6月の3か月間の報酬月額を算定基礎届により計算し、年金事務所に対して届け出を行う必要があります。
日本年金機構は、この算定基礎届をもとに、健康保険・厚生年金保険の算出に用いる標準報酬月額と実際の報酬が大きく乖離しないよう見直しを行い、社会保険料額を決定します。この調整により算出された標準報酬月額は、原則として9月から翌年8月までの社会保険料の算定に適用されます。
算定基礎の対象者
7月1日の時点において在職中であり、社会保険に加入しているすべての従業員と70歳以上の被用者が、算定基礎の対象者です。育児休業中・介護休業中・病気療養中の従業員も算定基礎の対象に含まれます。
ただし、以下の人は対象外です。
- 6月1日以降に社会保険に加入した人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月の随時改定で月額変更届を提出する人
- 8月、もしくは9月に随時改定を行う予定がある旨を申し出ている人
定時決定から社会保険料の決定までの流れスケジュール
定時決定から社会保険料額が決まるまでの流れは以下の通りです。
1.6月中旬頃から、所轄の年金事務所より郵送にて算定基礎届が届く
送付される算定基礎届には、5月中旬頃までに届け出を行った被保険者の情報(氏名や生年月日、および標準報酬月額等)が記載されています。前年の定時決定をe-Govを利用して行った場合には、算定基礎届の用紙は送付されないため、再度「e-Gov」を利用するか、日本年金機構のサイトから用紙をダウンロードしましょう。
2.7月1日から10日までに算定基礎届を所轄の年金事務所に提出する
算定基礎届に必要事項を記載したら、期限までに所轄の年金事務所に提出しましょう。郵送や窓口持参のほか「e-Gov」も利用できます。
3.7月中旬以降、標準報酬月額決定通知書が送付される
算定基礎届を提出し、受理されたら「標準報酬決定通知書」が郵送にて届きます。この通知書には、社会保険の被保険者である従業員の、その年の10月納付分以降の標準報酬月額が記載されています。この通知書をもって、10月納付分以降の社会保険料額が設定されます。
標準報酬月額を改定「月額変更届(随時改定)」とは
「月額変更届(随時改定)」とは、報酬が昇給などで2等級以上変わったときに提出する届け出です。年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額を変更することを「随時改定」といい、随時改定を行う場合は「月額変更届」を年金事務所や健康保険組合に提出する必要があります。
月額変更届の提出期日について、具体的な定めはありませんが、届け出が遅れてしまうと会社に請求される保険料額と預り金に差が生じてしまうので、なるべく早く提出しましょう。
参照:『随時改定の際、年間報酬の平均で算定するとき』日本年金機構
標準報酬月額の対象になる報酬とならない報酬
社会保険料額を決定するうえで重要なのが「標準報酬月額」です。すべての労働の対価が標準報酬月額に含まれるわけではなく、標準報酬月額の計算に含まれる報酬と含まれない報酬が存在します。そこで、標準報酬月額の対象になる報酬と対象にならない報酬についてそれぞれ解説します。
標準報酬月額の対象である報酬
標準報酬月額の計算に含まれる報酬には、賃金や手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対価として受け取るすべての報酬が含まれます。通勤定期券や食事、社宅など現物で支給されるものも報酬に含まれるため、注意が必要です。
参照:『標準報酬月額の対象となる報酬とは何ですか。』日本年金機構
標準報酬月額の対象とならない報酬
臨時で発生する報酬や、年3回以下で支給される賞与などは報酬に含まれません。たとえば見舞金や退職手当、出張旅費、慶弔費、傷病手当、休業補償給付、制服、作業着などが該当します。すべての報酬が標準月額の算定に含まれるわけではないため、しっかりと区別しましょう。
算定基礎届の提出期限と方法
算定基礎届は、提出期限までに事務センターまたは所轄の年金事務所に郵送もしくは窓口まで持参するか、電子媒体(CD・DVD)もしくは電子申請で提出します。電子媒体による提出は、届出書を指定のフォーマットで作成する必要があります。電子申請には「e-Gov」を使いましょう。
また提出期限は、毎年7月10日まで(10日が土日の場合は翌営業日)と定められています。提出期限を過ぎてしまうと、年金事務所から督促を受けるため、速やかに手続きを進めましょう。
算定基礎届の書き方とコツ
次に、算定基礎届の作成手順について、順を追って解説します。
1.「10 日数」に賃金支払基礎日数を記入
4月から6月までの期間のうち、報酬の支払い対象となった日数を記載します。
日数は、締日の翌日から1か月間を数えるため、給与の締日と支払日の関係により変動します。欠勤日がある場合は、欠勤控除として所定労働日数から欠勤日数を差し引いて調整します。
このとき、報酬の支払い対象となった日が17日以上である月が算定対象であり、報酬の支払い対象となった日が17日に満たない月は、算定対象月から除外されるため注意しましょう。
2.「11 通貨」「12 現物」「13合計」をそれぞれ記入
「11通貨」と「12現物支給された報酬」「13その合計」の欄をそれぞれ記入します。
「12現物支給された報酬」については、原則、時価換算したうえでその額を記載します。食事や住宅については、都道府県ごとに異なる「全国現物給与価額一覧表」を用いて換算した金額を記入します。この「全国現物給与価額一覧表」は毎年改定があるため、必ず最新のものを使用しましょう。
また、賃金支払基礎日数が17日に満たない月であっても、支給額と現金支給は記載する必要があるため注意が必要です。
参照:『全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)』日本年金機構
3.「14 総計額」に通貨と現物の合計額を記入
「14 総計額」の欄には、通貨と現物の支給総額を記入します。
この欄には、賃金支払基礎日数が17日に満たない月の報酬額は記載せず、17日以上である算定対象月の通貨および現物の支給総額を記載します。たとえば、5月の賃金支払基礎日数が16日である場合、4月と6月が算定対象月であるため、5月の報酬は含まずに4月と6月における支給総額を記入します。
4.「15 平均額」に総計額を算定対象月数で割った金額を記入
「15 平均額」には「14 総計額」を算定対象となった月の数で等分した金額を記入します。
算定対象月が3か月なら、総計額を3で割ります。賃金支払基礎日数が17日に満たない月があるなど、算定対象月が2か月であるなら総計額を2で割ります。端数がは切り捨てましょう。
たとえば、算定対象月が3か月で「14総計額」が790,000円である場合、790,000円÷3か月=263,333円(1円未満切り捨て)であり、平均額は263,333円です。算出された平均額から標準報酬月額が導き出されます。
参照:『算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和5年度)』日本年金機構
社会保険に必要な標準報酬月額の算出方法
標準報酬月額は、従業員の4月から6月までにおける報酬の平均額に対応する等級によって決められます。
標準月額報酬に対応する等級は、全国保険協会のホームページ上で公表されており、算定基礎届によって算定された標準報酬月額に対応する等級から、健康保険料および厚生年金保険料が確認できる仕組みです。
たとえば、東京都の企業で協会けんぽ加入で標準報酬が200,000円である場合、等級は17(厚生年金は14)であり、健康保険料は40歳未満であれば10,000円、40歳以上で介護保険の第2被保険者に該当すれば11,820円、厚生年金保険料は18,300円の支払いが必要です。
保険料額表は、都道府県ごとに異なるうえ毎年改定されるため、参照する際には最新のものを使用しましょう。
算定基礎届で知っておきたいポイント
算定基礎届を作成するうえで、担当者が押さえておきたいポイントについて解説します。
短時間就労者(パートなど)の場合
1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3以上であるパートタイム労働者などは、社会保険が適用されます。
このような短時間就労者(パートタイマーなど)は、算定対象の月が1か月でもある場合、備考欄の「7.パート」を丸印で囲んだうえで、賃金支払基礎日数が17日以上ある月を記入します。いずれの月も賃金支払基礎日数が17日に満たないなら、15日以上17日未満の月の報酬総額の平均額を基準として標準報酬月額が決められます。
特定適用事業所における短時間労働者の場合は、賃金支払基礎日数が11日以上ある月を算定対象とし、この月の報酬総額の平均額をもって標準報酬月額が算出されます。
年間平均で算出する場合
業務の性質上、繁忙期などにより4月から6月の標準報酬月額に2等級以上の差が例年発生する場合は「年間平均」で算出します。前年の7月から当年の6月における報酬の平均額を記載し、備考欄の「8. 年間平均」を選択します。このとき「事業主の申立書」と「被保険者の同意」の提出が必要です。
算定基礎届の作成前に知っておきたい注意点
算定基礎届を作成する前に、担当者が押さえておきたい注意点を2つご紹介します。
給与が翌月払いは基礎日数の数え方に注意
給与の支給が、翌月払いなら基礎日数の数え方に注意が必要です。4月に給与支払いが行われる例をもとに確認しましょう。
給与の締め日と支払い日のパターン | 賃金支払基礎日数 |
---|---|
給与末日締め・当月末日支払い | 30日 |
給与25日締め・当月末日支払い | 31日(3月26日~4月25日) |
給与末日締め・翌月10日支払い | 31日(3月1日~3月31日) |
休業手当が支給された場合に注意
7月1日時点で一時帰休の状況が解消していないなら、通常の給与を受けた月もあわせて報酬月額を算出し「9. その他」欄に「◯月から一時帰休」と記入します。
7月1日時点で一時帰休の状況が解消しているなら、休業手当を含まない月のみを対象とし「9. その他」欄に「◯月◯日 一時帰休解決」などと記入します。
まとめ
算定基礎届は、毎年手続きが必要で、ミスが発生すると従業員の手取り額にも影響します。日頃から従業員の情報管理を適切に行い、期日前に慌てないように準備しておきましょう。
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