社会保険の等級とは? 標準報酬月額や保険料の計算方法も解説
社会保険は、5種類の公的保険制度の総称で、国民の生活を保障する役割があります。
社会保険のほとんどは、企業と労働者で保険料を負担します。健康保険や厚生年金保険の社会保険料の計算は、従業員の賃金を等級別に設定した標準報酬月額に各種保険料率を乗じて計算します。
本記事では、社会保険の等級を中心に解説し、社会保険の種類や役割、保険料の計算方法や標準報酬月額と等級の仕組みについても紹介します。企業の経営層や経理担当者、人事担当者は、ぜひ参考にしてください。
社会保険における等級とは?
社会保険における等級とは、保険料を決定するうえで報酬の金額に応じて決まるものです。
各種保険料は、保険料率や従業員の報酬によって異なります。そこで、保険料の計算を行いやすくするために、報酬額を範囲ごとに区切ったものを「等級」と呼びます。
健康保険や介護保険は全50等級(第1等級から第50等級)、厚生年金保険は全32等級(第1等級から第32等級)に分類され、従業員の給与から毎月控除される保険料は、等級に応じて金額が決められています。
社会保険の等級は、従業員の各種手当を含めた賃金によって決まります。等級ごとに設定された報酬額を「標準報酬月額」と呼び、標準報酬月額(等級)に保険料率を乗じることで、各種保険料の控除額(本人から控除するのは2分の1)を算出できます。
また、標準報酬月額が低いほど等級も小さく、標準報酬月額が高いほど等級が大きくなるという仕組みです。
等級が改訂された場合は、社会保険料も変わります。
そもそも社会保険とは?
社会保険とは、要件を満たす労働者の加入が義務づけられている保険制度の総称です。社会保険には、老齢や病気、ケガなどに備えて、国民の生活を保障する役割があります。
社会保険は以下の5種類の保険で構成されています。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労働者災害補償保険
社会保険の種類
社会保険には、5種類の保険があります。それぞれ狭義では、以下のように分類されます。
社会保険 (狭義) | ・健康保険 ・厚生年金保険 ・介護保険 |
---|---|
労働保険 | ・労災保険 ・雇用保険 |
それぞれの保険で目的や加入条件、保険料が異なります。5種類の保険の概要を確認してみましょう。
健康保険
健康保険とは、企業に加入義務がある公的な医療保険制度です。
健康保険に加入する会社員や一定の条件を満たす非正規雇用社員を「被保険者」と呼びます。健康保険は、病気やケガなどの事故に備えられる保険で、被保険者だけでなく、その配偶者や三親等以内の親族も被扶養者として、保障を受けられる点が特徴です。
被保険者が支払う保険料は等級(全50等級)によって段階的に定められています。
健康保険には、健康保険組合と全国健康保険協会(協会けんぽ)、共済組合など、複数の種類があります。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、日本の社会保障制度における公的な年金制度の一つで、70歳まで加入できます。
企業と労働者が保険料を負担し、労働者が65歳以上になると、年金として受け取れる仕組みです。加入者が支払う厚生年金保険料は、等級(全32等級)によって段階的に定められています。
厚生年金は将来的な保障があるだけでなく、万が一、障がいを負ったり死亡したりした場合でも、一定のルールのもと、年金や一時金を受け取ることができます。
介護保険
介護保険とは、高齢者の医療を支える公的な保険制度で、40歳以上になると強制的に加入義務があります。被保険者が支払う保険料は等級(全50等級)によって段階的に定められています。
被保険者は、要介護度(介護等級)に応じて1割~3割負担で介護サービスを受けられます。高齢化社会が進む日本において、安心して介護を受けられる仕組みを整えるための保険といえるでしょう。
参照:『公的介護保険で受けられるサービスの内容は?|リスクに備えるための生活設計|ひと目でわかる生活設計情報』公益財団法人生命保険文化センター
雇用保険
雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定、再就職支援を目的とした公的な保険制度です。
労働者が失業したときなどに、必要な給付や育児・介護で休業する場合の保障を行うなど、労働者が安心して生活するための保険です。
労働者災害補償保険(労災保険)
労災保険とは、業務中や通勤中におけるケガや病気などに対して必要な保険給付を行うとともに、被災した労働者の社会復帰を支援する保険制度です。
治療中や休業中の補償だけでなく、後遺症が残った際や死亡した際に遺族への補償も行っています。企業は、労働者を1人でも雇用する場合に加入が義務付けられていて、保険料の負担はすべて企業が行う点が特徴的です。
2024年10月から社会保険の加入条件が拡大
社会保険は、段階的に加入対象となる条件を拡大してきました。2024年10月以降は、従業員数51人以上の企業で働くパートやアルバイトも、社会保険の適用対象とされます。
従業員数の数え方は、フルタイムの従業員と、週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数の合計(現在の厚生年金保険の適用対象者)です。
新たな加入対象者になる要件は、従業員数51人以上の企業において、以下すべてに当てはまるパートやアルバイトです。
□ | 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満 |
---|---|
□ | 所定内賃金が月額8.8万円以上(基本給および諸手当) |
□ | 2か月を超える雇用見込み |
□ | 学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象) |
標準報酬月額とは?
社会保険の計算でも必要な「標準報酬月額」とは、従業員の給与などの平均額を等級に分類したものです。各種保険によって標準報酬月額の等級の範囲は異なり、健康保険料と介護保険料は1〜50等級、厚生年金保険料は1〜32等級に分類されます。
社会保険料が決まる時期
社会保険料は、原則として毎年9月に変更されます。
標準報酬月額は、毎年4〜6月の賃金を基本にして決まり、原則として1年間は同じ金額で保険料を計算します。
ただし、固定的な賃金に変動があり、その月から3か月分の賃金の平均額を当てはめた等級が2等級以上変動するような場合は、見直しのために「随時改定」が必要です。随時改定の手続きは、日本年金機構に指定の書類を提出して行います。
標準報酬月額を算定する際の報酬の対象項目
標準報酬月額や等級を算定するうえで重要なのが、手当や賞与などが含まれる範囲です。標準報酬月額の対象か判断する目安は、労働の対価として支払われた手当であるかどうかです。
基本給のほかに、標準報酬月額の対象とされる手当の例を紹介します。
- 残業手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 子ども・家族手当 など
反対に、原則として標準報酬月額に含まれない手当の例は、以下の通りです。
- 出張費
- 賞与
- 退職手当
- 見舞金 など
標準報酬月額に含まれない手当は、定期的に支給されない手当が該当します。また、社会保険における等級は、所得税や住民税を控除する前の総報酬額が基本となり、算定されます。
このように、等級ごとに定められた報酬額を「標準報酬月額」といいます。等級から規定された標準報酬月額によって毎月の保険料が決まるという点を理解しておきましょう。
社会保険料の計算方法
労災保険以外の4種類の社会保険は、企業と労働者の双方が保険料を負担します。保険料は、報酬額に応じた等級で決まります。それぞれの保険料の計算方法を紹介します。
健康保険料の計算方法
企業と労働者がそれぞれ負担する健康保険料の計算式は、以下の通りです。等級ごとに標準報酬月額が定められています。健康保険の場合は全50等級あり、第1等級(58,000円)から第50等級(1,390,000円)です。
健康保険料=(標準報酬月額×健康保険料率)÷2 |
健康保険料は、企業と従業員で折半されるため、健康保険料を2で割ります。
健康保険の種類には、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合など、いくつかの種類があり、等級で定めた標準報酬月額に応じて保険料が変動します。
また、保険事業者によって保険料率が異なり、協会けんぽの場合は都道府県ごとに設定されていて、健康保険組合は各組合の規約に定められています。企業と従業員の負担割合も健康保険組合によっては折半でない場合があります。
計算の例として、標準報酬月額30万円(第22等級)、神奈川県(保険料率10.02%)で協会けんぽに加入している場合を紹介します。
(300,000×0.1002)÷2=15,030(円) |
このように標準報酬月額に保険料率を乗じ、企業と労働者がそれぞれ負担する健康保険料を求めます。
参照:『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』全国健康保険協会
厚生年金保険の計算方法
厚生年金保険料率は18.3%で固定されているため、等級で規定された標準報酬月額に乗じて計算します。厚生年金の等級は全32等級あり、第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)です。
健康保険料と同様に、企業と労働者が保険料の1/2ずつを負担するため、最後に2で割ります。
厚生年金保険料=(標準報酬月額×18.3%)÷2 |
標準報酬月額が30万円(第19等級)の場合、厚生年金保険料は以下の通りです。
(300,000×0.183)÷2=27,450(円) |
参照:『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』全国健康保険協会
介護保険料の計算方法
介護保険料も、等級ごとの標準報酬月額に介護保険料率を乗じます。介護保険における等級は全50等級(第1等級から第50等級)です。介護保険料率は健康保険組合によって異なり、毎年見直しされています。
介護保険料=(標準報酬月額×介護保険料率)÷2 |
たとえば、協会けんぽにおける令和6年度の介護保険料率では、標準報酬月額(第22等級)が30万円の場合、介護保険料は以下の通り算出できます。
(300,000×0.016)÷2=2,400(円) |
社会保険料を算出する際の注意点
社会保険料を計算する際の注意点を紹介します。
- 社会保険料率は変動する場合もある
- 育休・産休中は社会保険料が免除される
- 4~6月の残業時間で社会保険料が変わる
社会保険料率は変動する場合もある
社会保険料率は、等級(標準報酬月額)によって決まるため、給与などに増減があれば等級が変わり、社会保険料にも影響します。特に昇給や昇進などによって、給与に大きな変化があった場合は社会保険料も変わるため、注意しましょう。
育休・産休中は社会保険料が免除される
育児休業や介護休業を取得している場合、条件を満たすことで従業員・企業ともに健康保険や厚生年金保険の社会保険料が発生しません。社会保険料の免除は、育児休業等の取得促進や、経済的負担を軽減することが目的です。
保険料の免除は、自動で行われるのではなく、従業員からの申し出により、企業が手続きを行う必要があります。現在では、保険料が免除になっても納めたものとして扱われるため、将来受け取る年金額等には影響はありません。
休業予定がわかっている場合は、従業員に申し出を促して早めに対応しましょう。
4~6月の残業時間で社会保険料が変わる
社会保険料は、毎年4〜6月の賃金をもとに決定します。そのため、過度に4〜6月に時間外労働をしたりすると、支給される給与が増え等級も変わるため、保険料が高くなってしまいます。基本的に保険料は決定から1年間変わらないため、注意しましょう。
なお、4月~6月の賃金をもとに決定することが著しく不当な場合は、年間報酬の平均で算定することもできます。
まとめ
社会保険における等級とは、保険料を決定するうえで報酬の金額に応じて決まるものです。
健康保険は全50等級、厚生年金保険は全32等級に分類されており、従業員の給与から毎月控除される保険料は、この等級に応じて金額が決められています。
社会保険料は、従業員の賃金を等級別に設定した標準報酬月額に各種保険料率を乗じて計算します。
保険料率は保険種類や地域によって異なる場合があるほか、標準報酬月額に対する等級によっても異なるため、保険料が決定する仕組みを理解し、正しく計算しましょう。