生活保護と会社の社会保険は併用される|理由と会社側が気をつけること

生活保護を受けている従業員が入社・復職したとき、社会保険の扱いはどうなるのでしょうか。
生活保護と会社の社会保険は状況により併用され、要件を満たすのであれば、社会保険の加入手続きは会社の実務として必要です。
本記事では、生活保護と社会保険の併用について、人事労務担当者が確認したいポイントと、トラブルを避ける対応方法を解説します。
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目次[表示]
生活保護を受けている人も会社の社会保険に加入できる理由
生活保護と社会保険は、それぞれ異なる目的がある独立した社会保障制度です。そのため、生活保護を受けていても、法的に併用が認められ、条件を満たせば社会保険に加入できます。
生活保護の受給と社会保険の加入は、制度上なんら矛盾するものではありません。
生活保護は最低限度の生活を保障する制度です。雇用の有無に関係なく、収入が少ないために、最低生活費に届かない場合は、不足分が支給されます。
一方、社会保険は病気・ケガ・出産・老後などのリスクに備える制度として位置づけられています。一定の条件を満たした従業員を社会保険に加入させることは、事業主の義務です。
つまり、生活保護は生活の不足を補い、社会保険は働く人の生活上のリスクに備えるものです。両者は相互に排除し合うものではなく、むしろ労働者の生活安定のために補完的に機能するよう設計されています。
企業で働く生活保護受給者も、加入要件を満たすなら社会保険の手続きが必要です。結果として将来的な自立につながるでしょう。

国民健康保険、後期高齢者医療制度には加入できない
生活保護と社会保険の併用はできる一方、加入できる医療保険は区別されています。
国民健康保険と後期高齢者医療制度には加入できません。両者は会社に雇用されている人向けの被用者保険ではないからです。
生活保護受給者は税金や保険料の支払いが原則として免除されます。しかし国民健康保険に加入すると保険料の支払い義務が発生してしまいます。
たとえ住民税が非課税であっても一定の国民健康保険料がかかるため、生活保護制度との整合性が取れなくなってしまうのです。
後期高齢者医療制度についても同様の理由です。75歳以上で生活保護を受けている人は、医療扶助により医療費が全額給付されるため、別で保険に加入する必要がありません。
被用者保険である健康保険は、保険料に相当する額が生活保護費に反映(加算や控除による調整)されるため、実質的な負担なく加入が可能なケースが一般的です。制度として矛盾せず、生活保護と併用しながら加入できます。
参照:『国民健康保険の加入・脱退について』厚生労働省
参照:『医療扶助のオンライン資格確認』厚生労働省
生活保護と社会保険の基本知識
生活保護制度と社会保険制度は、どちらも国民の生活を支える重要な社会保障制度ですが、それぞれ異なる目的と仕組みを持っています。
生活保護は、最低限度の生活を保障する「最後のセーフティネット」として機能し、社会保険は、労働者の生活リスクに備える「予防的な保障制度」として位置づけられています。
生活保護制度とは何か
生活保護制度は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するための社会保障です。
生活保護法に基づき、経済的に困難な人へ生活費や医療などを支援します。国が責任を負い、理由や身分に関係なく平等に保護が行われます。
自立を支える制度でもあり、努力のうえで足りない部分を補う制度です。
生活保護は8つの扶助に分かれています。
- 生活扶助(食費・被服費・光熱費など)
- 住宅扶助(家賃・地代など)
- 教育扶助(義務教育費用)
- 医療扶助(治療費)
- 介護扶助(介護サービス費用)
- 出産扶助(分娩費用)
- 生業扶助(就学費用・技能習得費用)
- 葬祭扶助(葬儀費用)
医療扶助は、病気やケガの治療のために医療機関にかかる費用を全額負担する制度です。生活保護法の指定を受けた医療機関でのみ受診が可能で、原則として自己負担はありません。
生活保護制度の利用には申請が必要です。福祉事務所での相談から始まり、申請書類の提出、調査・審査を経て原則14日以内、最長でも30日以内に、結果が通知されます。
生活保護の要否は世帯単位で判定され、最低生活費と世帯収入を比較して、不足分が保護費として支給される仕組みです。
参照:『日本国憲法第二十五条』e-Gov法令検索
参照:『生活保護法』e-Gov法令検索
社会保険制度とは何か
社会保険制度は国民が病気やケガ、出産や死亡、老齢や障害、失業など生活の困難をもたらす事態に遭遇した場合に、一定の給付を行い生活の安定をはかることを目的とした強制加入の保険制度です。
政府や公的機関が管理監督者となって運営されており、会社員や公務員、所定の条件を満たすアルバイト・パートタイム労働者などが被保険者となります。
社会保険には5つの種類があります。
| 健康保険 | 業務外の病気やケガに対する医療保険 |
| 厚生年金保険 | 老齢・障害・遺族に対する年金保険 |
| 介護保険 | 40歳以上が対象となる介護サービスの保険 |
| 雇用保険 | 失業時の生活保障と再就職支援の保険 |
| 労災保険 | 業務上の災害に対する保険 |
狭義の社会保険は、健康保険・厚生年金・介護保険の3つを指し、雇用保険と労災保険は労働保険として区別されます。
健康保険・厚生年金・介護保険の保険料は企業と従業員の折半、雇用保険は企業負担がやや大きく、労災保険は企業が全額負担します。
一定の勤務条件を満たせば、雇用形態に関係なく加入させることが企業の義務です。
参考:『社会保険加入のメリットや手取りの額の変化について』厚生労働省

生活保護と社会保険の関係
生活保護の医療扶助と健康保険の給付は併用される仕組みとなっており、制度の重複は矛盾ではなく、むしろ労働者の生活安定のために設計された補完的な関係です。
会社の健康保険では通常3割の自己負担が発生しますが、生活保護を受けている人は、自己負担分が医療扶助によって免除されるため、実質的に医療費の負担はありません。
社会保険の被保険者である限り、保険証は発行され、保険料も給与控除の対象です。また、厚生年金の被保険者は国民年金第2号被保険者となるため、個別に国民年金の保険料を支払う必要はありません。
社会保険料の支払い・控除について
生活保護受給者が社会保険に加入している場合でも、健康保険料や厚生年金保険料の支払い義務は通常どおり発生します。健康保険の加入条件を満たした方は保険料が発生し、給与から控除されることになります。
生活保護制度では勤労控除という仕組みがあり、就労にともなう必要経費として社会保険料などが控除対象です。保険料を支払った分については生活保護費の計算において考慮されるため、実質的に負担が軽減されています。
企業の給与計算担当者は、生活保護受給者であっても通常どおり社会保険料を控除し、適切に納付手続きを行う必要があります。生活保護受給の有無にかかわらず、社会保険の加入ルールに沿って処理することが重要です。
保険証について
社会保険に加入している生活保護受給者には、通常どおり被保険者証が発行されていましたが、現在は健康保険証の新規発行は終了しています。健康保険証はマイナンバーカードを活用したマイナ保険証への移行が進められており、生活保護受給者についても同様です。期限切れの健康保険証は、2026年4月以降は完全に使えなくなります。
また、生活保護受給者がマイナンバーカードを医療券・調剤券として利用できるシステムが導入されました。医療機関を受診する際は、マイナンバーカードを提示すれば、健康保険の資格確認と医療扶助の資格確認の両方が可能です。
生活保護受給者の社会保険に関する注意点
生活保護を受けている従業員が社会保険に加入する場合、会社と本人の双方でおさえておきたいポイントがあります。
まず生活保護では「収入が変わったら福祉事務所に申告する」義務があります。社会保険への加入や、給与額・勤務日数の増減があったときは、本人が福祉事務所へ報告しなければなりません。
企業の担当者としても、雇用条件や収入の変動が生活保護の支給額や継続に影響する可能性があることを理解しておきましょう。
収入が増えれば支給額が減ったり、転職後の収入で生活が成り立つようになれば生活保護が終了したりするケースも考えられます。
生活保護受給の申告義務や保護廃止の可能性は、従業員本人だけでなく企業も把握しておきたいポイントです。
生活保護制度の前提を踏まえたうえで、必要に応じて従業員へ案内し、適切な労務管理を行いましょう。
まとめ|生活保護を受けている人も社会保険の資格手続きが必要
生活保護受給者であっても、社会保険の適用条件を満たす従業員は、本人の意思に関係なく企業の法的義務として資格取得手続きを行う必要があります。
社会保険の適用拡大により、社会保険に加入しながら生活保護を受けている従業員もいます。
生活保護と社会保険は目的が異なるため、併用は制度上問題ありません。本人は、収入や加入状況を福祉事務所へ申告しなければなりません。
会社への所属と社会保険への加入は、生活保護受給者にとって経済的な自立への一歩です。
企業としては、従業員の自立支援という前向きな視点を持ちながら、適切な労務管理をすることが求められているでしょう。
