年末調整をしないとどうなる? 罰則や忘れた場合の対応と想定リスクを解説
毎年実施する年末調整は雇用主の義務であり、年末調整をしなければ従業員に多大な負担が発生することもあります。さらに、年末調整は所得税法で義務として定められているため、行わなければ会社に罰則が生じる恐れもあるのです。
本記事では、年末調整の義務から罰則や従業員にかかる負担などを解説します。年末調整担当者の方はぜひ参考にしてください。
雇用主には年末調整の義務がある
年末調整は従業員を雇う雇用主の義務ですが、そもそも年末調整とはどのような手続きなのか、なぜする必要があるのか解説します。
年末調整とは
毎年会社で行う年末調整とは、払い過ぎた税金を従業員に還付したり、不足している税金を納付したりする手続きです。会社に勤めている従業員の場合、毎月の給与から所得税・健康保険保険料・厚生年金保険料などが天引きされていますが、これは会社が本人に代わって納めています。
しかし、毎月の給与から天引きされる税額はあくまでも総支給額から概算額を差し引いた概算のため、正しい税額ではありません。そこで、正しい税額で納税するために1年の所得額が確定した時点で年末調整を行い、本来支払うべき税金の差額分の還付や納付を行います。
年末調整で適用される控除の種類
給与には所得税が課税されますが、申告することで総所得額から控除を受けることが可能です。控除されることで税額が減少するので、以下に該当する場合は申請した方が節税になります。
- 基礎控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 扶養控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 社会保険料控除
- 障害者控除
- ひとり親控除、寡婦控除
- 勤労学生控除
年末調整は所得税法により定められている
雇用主が年末調整を行うことは、所得税法第190条により義務とされています。雇用主が年末調整を行わなかった場合は脱税とみなされることもあり「1年以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金」などの罰則を受ける可能性もあるのです。
また、年末調整をしなかった場合、所得税法に違反するだけではありません。従業員が税金の還付を受けられなくなったり、確定申告をする必要が発生したりするなど、従業員へ迷惑がかかります。
社会的信用を著しく失うことにもなるため、従業員を雇う雇用主は確実に年末調整を実施しなければなりません。
年末調整しないとどうなるのか?
雇用主が年末調整をしなかった場合は、従業員の不利益につながるだけでなく、従業員からの信頼を失うことにもなりかねません。
- 控除の申告ができない
- 税金の過払い
- 従業員個人が確定申告することになる
- 還付金が受けられない
控除の申告ができない
従業員は年末調整をすることにより、控除を受けることができます。
しかし、雇用主が年末調整の義務があるのにもかかわらず、適切に年末調整を行わないないと控除を受けることはできません。つまり、控除を受けられないと総所得額が高くなってしまうため、支払う納税額が高くなり従業員が損をしてしまうということです。
税金の過払い
年末調整は徴収し過ぎていた税金を従業員に還付したり、不足していた税金を納付したりする手続きです。もしも会社が年末調整を適切に行わなかった場合は、従業員は税金を払い過ぎた状態になり損をしてしまいます。
また、年末調整は税金を還付するだけでなく、総所得額を算出するため、翌年の住民税の金額が本来よりも高くなることも考えられるでしょう。
従業員個人が確定申告することになる
雇用主が年末調整を怠った場合は、従業員本人が確定申告をする必要があります。副業をしている従業員や医療控除を受けている従業員なら確定申告の経験があるかもしれませんが、ほとんどの従業員は確定申告の経験がありません。
確定申告はすべての作業を自分で行わなければならないため、確定申告をしたことのない従業員は多大な時間と労力を要するでしょう。結果として、従業員に迷惑をかけることになり、会社への信頼を損なう可能性があります。
還付金が受けられない
従業員に代わって会社が納税する仕組みを源泉徴収制度といい、毎月の給与から所得税や保険料が天引きされているのはこの制度によるものです。しかし、毎月の源泉徴収額はあくまでも概算のため、本来の所得税よりも多く差し引かれているケースがほとんどといえます。
したがって、雇用主が適切に年末調整をしなければ、従業員は払い過ぎた税金の還付を受けることができません。受け取れるはずの還付金が受け取れないと、従業員に多大な損害を与えてしまうことになります。
従業員からの信頼がなくなる
雇用主が年末調整を怠れば、従業員が個人で確定申告をしなければなりません。確定申告は経験のない従業員にとっては大きな負担となるため、従業員の中には会社への信頼を失ってしまう者もいるでしょう。
また、雇用主が年末調整をしないということは、モラルやコンプライアンスへの意識が欠如しているとみなされるかもしれません。このような会社の姿勢は従業員のモチベーションを低下させる恐れもあり、従業員の退職を招く可能性もあるのです。
年末調整をしないことで受ける罰則
年末調整を適切に行わないと、所得税法で定められた罰則が科される恐れがあります。年末調整をしないことで、どのようなデメリットを受けるのかみていきましょう。
- 脱税とみなされるケースがある
- 資産を差し押さえられる
- 期限に間に合わないと延滞税が発生する
脱税とみなされるケースがある
雇用主には年末調整を行う義務があります。故意に年末調整をしなかった場合は脱税とみなされ、所得税法で定められた以下の罰則が科されるケースもあるので注意が必要です。
年末調整をしていなかったことが発覚した場合は「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」、悪質とみなされた場合は「10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金」が科せられます。
資産を差し押さえられる
年末調整を行わず税金を滞納すれば、税務署から税金の未納が指摘され督促状が届くことがあります。さらに、督促状を放置すれば資産を差し押さえられ、運転資金が回らなくなる事態に発展するおそれもあるのです。
このようなケースでは年末調整を適切に行わなかったばかりに、社会的信用や従業員からの信頼を失い、倒産に至るケースもみられます。
期限に間に合わないと延滞税が発生する
年末調整をしなかったことで発生する従業員への不利益は、税金の過払いだけではありません。従業員のなかには年末調整で納めるべき税金が不足しているケースもまれにあり、納付期限に間に合わなければ延滞税が発生することもあります。
年末調整を期限内にしていたのに税金が不足していた場合は、すぐに修正申告をしましょう。税務署から指摘を受けると、過少申告加算税が課税される恐れもあります。
なお、年末調整で不足した税を徴収する場合は、翌年の1月10日が納付期限です。この期限に間に合わないと翌日から7.3%の延滞税が発生し、2か月以上過ぎてしまうと延滞税の税率は2倍の14.6%まで上がります。
参考:『延滞税について』国税庁
年末調整をしなくてもよいケース
年末調整は所得税法で定められた義務ではありますが、以下のいずれかに該当するケースは年末調整をする必要はありません。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない
- 所得税の源泉徴収がない
- 年間2,000万円を超える給与所得がある
- 災害減免法が適用されている
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない
従業員のなかには何度催促しても、年末調整に必要な「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してくれない人もいるかもしれません。
会社に給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出しない従業員は年末調整の対象から外れるため、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出しているほかの会社か、個人で確定申告しなければならない旨を伝えてください。その際には、所得のある人が税金の申告をしないと所得税法違反になることもあわせて伝えておきましょう。
注意点として、会社側は給与を支払う全従業員に、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出してもらうことが義務付けられています。
提出しない従業員がいると会社はペナルティを受けることがあるので、リスクを減らすために対象従業員へメールを送ったり、書面に署名させたりすることが望ましいでしょう。
所得税の源泉徴収がない
その年のすべての収入を合計して年収が103万円以下で、なおかつ所得税の源泉徴収をしていない場合は年末調整する必要はありません。なぜなら、所得税は年収が103万円を超えた時点で課税されるため、所得税の源泉徴収がなければ払い過ぎた税金の還付も追加徴収も必要ないからです。
ただし、例外として年収103万円以下でも自社で所得税の源泉徴収をしていた場合は、年末調整をする必要があります。本来であれば年収103万円は所得税の納税が不要な年収のため、源泉徴収した税を返金するという意味合いで年末調整をしなければなりません。
年間2,000万円を超える給与所得がある
年間の給与が2,000万円を超える従業員は、年末調整の対象外です。該当する従業員は年末調整ではなく、個人で確定申告することが所得税法で定められています。誤って該当従業員の年末調整をしないよう注意し、確定申告するよう伝えましょう。
なお、年間2,000万円を超える給与所得がある人は確定申告する必要がありますが、所得税が還付される場合の確定申告は任意です。
災害減免法が適用されている
台風や地震などの災害により経済的ダメージを受けた従業員には、災害減免法の猶予が適用されるケースがあります。
災害減免法とは、自然災害などにより資産の2分の1以上が損失した場合、その年の所得税が軽減される制度のです。該当する従業員には災害減免法に基づく所得税の猶予期間が設定されるため、年末調整を実施しなくても企業に罰則はありません。
年末調整の期限や必要な書類
年末調整に不備があると、やり直しが必要になり期限に間に合わなくなる恐れがあります。年末調整の期限や、必要な書類の種類を把握しておきましょう。
- 年末調整の期限
- 年末調整に必要な書類
年末調整の期限
年末調整の期限は、翌年の1月31日までです。年末調整の対象となる給与は該当年度の1月1日〜12月31日までであるため、期限までは約1か月あります。
しかし、決して余裕のあるスケジュールではなく、提出期限までに年末調整書類を提出してもやり直しが発生することもあるでしょう。そのため、多くの会社では11月頃から源泉徴収票の回収を始めるなど、余裕をもって年末調整を終わらせる動きが見られます。
年末調整に必要な書類
年末調整に必要な書類は、以下の4つがあります。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 住宅借入金等特別控除申告書
以上の書類のなかでも、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は年末調整するうえで必須の書類です。そのほか3つの書類に関しては、該当する場合に限り提出してもらいます。
従業員全員から書類を回収するには時間がかかるため、年末調整担当者は早い時期から従業員に必要な書類について周知を徹底しておくとよいでしょう。
年末調整を忘れた場合の対処方法
年末調整は所得税法により、雇用主の義務とされています。しかし、万が一に年末調整を忘れてしまった場合は、年末調整のやり直しや従業員に確定申告してもらうなどして、すみやかに対処しなければなりません。
- 年末調整をやり直す
- 従業員に確定申告してもらう
- 還付申告制度を利用する
年末調整をやり直す
会社が年末調整を忘れた場合は、まずは会社に年末調整のやり直しを申し出ましょう。年末調整の期限である1月31日以前であれば、再調整としてやり直すことができます。
ただしほかに所得があり、年末調整の書類をすでに会社が税務署や市区町村に提出している場合、やり直しは難しいかもしれません。その際は、従業員が自分で確定申告をする必要があります。
従業員に確定申告してもらう
会社が期限までに年末調整を行えなかった場合は、従業員が個人で確定申告しましょう。
各種控除を証明できる書類と会社から発行される源泉徴収票があれば、年末調整で控除されるすべての控除が適用できます。難しい手続きではないので、早めに準備しておけば簡単に手続きできるでしょう。
なお、令和5年度分の確定申告は、令和6年2月16日から3月15日までが期限です。年末調整の期限よりも3か月ほど猶予はありますが、余裕をもって準備を進めていきましょう。
還付申告制度を利用する
所得税の還付を目的に確定申告をするなら、還付申告制度の利用を検討してみましょう。還付申告制度とは、予定納税や源泉徴収された所得税が、本来納めるべき金額より多かった場合に、確定申告することで還付を受けられる制度です。
還付申告制度は該当年度の翌年1月1日から5年間適用されるので、年末調整や確定申告を忘れてしまった方でも利用することができます。たとえば、年度の途中で退職してしまった従業員は、年末調整を受けずに所得税を納め過ぎている可能性があるので、還付申告制度を利用できます。
参考:『還付申告』国税庁
年末調整の効率化
年末調整の手続きは煩雑なうえ、会社にとって繁忙期の負担になりかねません。また、年末調整の不備で期限に間に合わなかったり、うっかり手続きを忘れてしまったりすると従業員の負担にもなります。
そこで、年末調整の効率化に役立つのが、2020年からはじまった年末調整の電子化対応です。年末調整のすべての手続きを電子化で完結できるわけではありませんが、これまでのアナログの年末調整業務と比較すれば、大幅に効率化をはかることができるでしょう。
年末調整の手続きが簡素化されれば会社の負担が減り、手続きミスや遅延などの問題解決にもつながります。
まとめ
年末調整は払い過ぎた所得税を還付したり、不足していた分を納付するための手続きです。
年末調整をすることは所得税法により雇用主の義務とされているため、年末調整をしない、もしくは忘れることがあれば罰則が科される恐れもあります。従業員に多大な迷惑や不利益を与えることにもなりかねないので、忘れずに年末調整を行いましょう。
万が一、年末調整が期限内に終わらなかったり忘れてしまったりした場合は、従業員に確定申告するよう早めにアナウンスする必要があります。ただし、従業員のなかには年末調整をしなくてよい人もいるため、年末調整の対象となる条件を把握して確実に年末調整を実施することが大切です。
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